「ん……」
俺は重い瞼をゆっくり開き、小さく開いた目で見えてきたのは見覚えがある天井。
ラステイションの教会の天井だ。
この部屋は俺と兄貴が泊まっている部屋だ。
俺はゆっくりと体を起こすと、何故ラステイションの教会に戻ってきているのかを思い出す。
「あぁ……そういや意識を失って。そうか……兄貴たちが連れてきたのか」
俺はアーテルに負けたという事なのか。
強かったな……。
すると、扉が開き、それに反応して、扉の方を見る。
「あ、浩平。起きたんだ」
「ユニ……」
入ってきたのはユニだった。
手にはバケツとタオルがある。
「介護……してくれていたのか?」
「え?いや……ま、まぁ、そうね。あの時助けてもらった借りがあるから、それのお返しよ!」
「……ありがとよ」
「なっ!?珍しく素直じゃない?もしかして、頭でもやられた?それとも、闇を目覚めさせられたから!?」
「いや、人をなんだと思ってんだ」
あんまり素直じゃなくて悪かったな。
俺は人を騙す戦い方もするから、日常でもしちまうだけだろうが。
いや、それと素直は関係ねぇか……って、ちょっと待て。
ユニは今、何つった?
闇……と言ったか?
「オイ、ユニ。闇ってどういう事だ?アーテルが言ってた事だよな?俺の中に眠る闇……それが目覚めたのか?」
「お、覚えてないの?」
「いや、これっぽっちも。首を絞められて、気絶してからの記憶がねぇよ。気絶してたからな」
「ルプスの事も?」
「ルプス……?まさか、『狼座』が襲撃を!?」
「ホントに覚えてないの……?」
まさか、俺が気絶している間に黒星座が襲撃を仕掛けてくるとは。
だが、あそこにはアーテルだけでなく、元幹部の兄貴だっているし、女神であるノワールとユニもいる。
撃退できたというわけだろうか。
「撃退できたと見ていいのか?それとも倒したのか?」
「浩平……。その……」
「ん?どうした?まさか、何かあったのか!?」
「違う……。ううん、何でもない」
「そうか。なら、ノワールと兄貴の元に行くか」
「うん、こっちよ」
ユニは何処か困った様な顔をしていたが、すぐに元の表情へと戻り、微笑みながら頷いてくれる。
まるで俺に何かを隠している様な。
俺とユニは歩きながら、ノワールと兄貴がいる場所を目指す。
「……なぁ、ユニ」
「何よ……」
「何か、俺に隠してねぇか?闇の部分といい、ルプスの事といい……何か隠してるだろ?」
「何も隠してないわよ……」
「嘘だね。俺に隠し事ができるとでも思ってんのか?敵に嘘つく男が仲間の嘘見抜けないとでも?」
「……知らない方がいいときもあるのよ」
「ん?」
今、何て言った?
ユニがなんていったのかまったく聞こえなかった。
「なぁ、ユニ。今、なんて」
「浩平が知らなくてもいいことよ」
「……」
ユニはそれだけを言うと、歩き続ける。
俺もその後を追う様に歩くが、その間は沈黙が支配した。
何故だろうか……ユニとはいつもこういう溝ができている様な気がする。
兄貴が騙した時も、ユニとはこういう感じではないが、溝ができていた。
その溝はまた深くなった様な気がした……。
埋まりかけていたのがまた掘られた様な感じだ。
その沈黙のまま、兄貴とノワールがいる部屋へと来る。
中に入ると、二人は俺に気付き、近づいてくる。
「浩平、もういいのか?」
「元気になったみたいね」
「アハハ、俺の回復力をナメんなよ?」
俺は苦笑いを浮かべながら言うと、ユニを見る。
ユニの目からは何か迷いを感じる。
「……なぁ、兄貴、ノワール」
「どうした?」
「俺が気絶してから何があったんだ?ルプスとか、闇の部分とか」
「あら?ユニから何も聞いてないの?」
「聞いちゃいねぇよ……。何があった?」
「どうして話してないの?ユニ?」
「……」
ノワールがユニを見て聞くが、ユニは顔を俯かせて黙ったままである。
何かある……俺が知らない方がいいと思えるほどの何かが。
それを見た兄貴は微笑み、俺を見てくる。
「その内わかるだろうさ」
「……隠すってのか?」
「そう思ってもらって構わない。ユニはお前の事を思って、言わないんだ」
「……そうかい。真実を教えないと。なら、アーテルを探せばいい。それでわかるんだ」
「そうはいかない。もう次の国へ移動しよう?」
「なぜだ?」
「……知らない方がいいときもある。お前はその事実を受け止める事は出来ない」
「兄貴……」
何で誰も話そうとしないんだよ。
俺はノワールを見るが、ノワールはどうしようかと考えている。
ノワールに聞くのはやめておこう。
「……そうかい。そんじゃ、それでいいよ」
「浩平……貴方は」
「いいよ、ノワール。知る時が来た時に知ればいい」
「そうだね~!なんなら、俺が教えてしんぜよう!」
「あぁ、お前でも……秀司!?」
何気に構わないと言おうとしたが、そこにいたのは秀司だった。
コイツ、神出鬼没にもほどがあるだろうが。
秀司は相変わらずニコニコしながら、俺を見てくる。
「『表裏』の『アーテル』と出会ったと聞いて、俺が来たのだぁ!」
「うるせぇ」
「グフッ!?」
秀司がキメポーズみたいなのを取りながら言うので顔面を踏みつけてやる。
秀司は顔を撫でながらも、変わらずニコニコしている。
「いやぁ、それにしても浩平にそんな真実があったとは思わなかったよ。全てを知っているつもりだったけど、ルーフスほどじゃなかったという事か」
「ルーフス……アイツはなんでも知っているのか?」
「あぁ、知っているさ。俺以上にさ。アイツに知らない事なんてないさ。全ての事を知る者さ」
ルーフス……本当にアイツは何者なんだ。
秀司以上に謎が多い男だ……。
それに付き従うウィオラ、アーテル……。
「全て、どこかで聞き覚えがある名前なんだけど……なんで、思い出せない?」
「どこかで出会っているのか?」
「違う……。名前じゃない……。偽名と言っていた。つまり、何かが元?」
俺がその言葉を知っているハズなのに、思い出せない。
まるで、その名前がアイツ等の意味を表しているかの様に。
いや、今はそれよりもだ。
「教えてくれるのか?」
「君が望むなら、教えてしんぜよう!」
「なら」
「待って!秀司さん!なんで、知らなくてもいい事を教えようとするの?きっと、それを知ったら浩平は……悲しむ。闇の部分を知ったら、何が起きるのか」
「まず、認識した事により、闇との接触、ため込んだ分の闇が浩平に一気に流れ込む。常人ならもうただの人形になった廃人だ。よくても、寝たきりかな~」
ユニの言葉に秀司は知っている事を話すと、周りは驚愕する。
ため込んだ分の闇……とは何だ?
「そ、それを知っていて、浩平に教えるの!?」
「遅かれ早かれ、知る事になるさ。ルーフスの仲間は四人いるんだよ。ウィオラとアーテルは姿を現しただろ?残りの二人の内、一人の力によって知る事になる」
ノワールは秀司に叫ぶが、秀司は変わらずニコニコとしながら答える。
その笑みが……逆に不気味さを与えるのだ。
「だからさ、浩平。どうする?今、知るか。後で知るか……。遅かれ早かれ、知る事になる真実をさ。君はその覚悟があるかい?」
「あるよ……。もう俺は辛いのにも慣れた。だから、教えてくれよ。俺の真実を」
「りょうか~い」
秀司はニヤッと笑うと、俺の頭に手を当てる。
その瞬間、まるで封じられていた記憶が……いや、俺が気絶していた時の記憶がよみがえる。
そう……意識はなかったが、俺は動いていた。
光によって封じられた闇が意思を持ち始めて、それが表に出て、暴れた時の事を。
それと同時にその闇……いや、『狼座』が受け止めていた闇の感情が流れてくる。
「うぐぅ!?」
「さぁ、どうなる?守護者の先駆者なのか、破壊者の先駆者なのか……どっちに傾く?」
「浩平!秀司さん!なんで!」
「これは浩平が望んだ事だよ。浩平には……頑張ってもらわないと」
「お前、秀司……!」
兄貴は秀司を睨みつけるが、秀司は動じない。
頭が流れてくる感情の整理をしようとするが、追いつかない。
『オイ、コイツ……』
『あぁ、人間じゃねぇよ。目が血みたいに紅いぞ』
何で……そんな化け物を見る様な目で俺を見る。
目の色が違うだけで……なんで。
『オイ、見たかよ。あの子……車道に飛び出した子供を庇ってトラックに轢かれたのにピンピンしてやがる』
『むしろ、トラックが少しへっこんでないか?」
『人間かよ……』
『早くこっちに来なさい……!』
助けても……化け物を見る様な目で見られた。
鬼だ、忌み子だなんだも言われた。
堂々とは言われてない……。
だけど、俺は聴覚、嗅覚、視力だって人間以上だった。
だからこそ、小言だって聞こえてきた。
『化け物だ……!銃持って取り囲んだのに、全員殺しやがった!』
『拳で人を貫けるなんて……』
人の領域から出ているなんて知っていた。
だからこそ、化け物と呼ばれるのだって、本当はわかっていた。
そんな風に化け物と蔑まれるのが……当たり前だった。
「化け物と……呼ぶな……!」
「浩平?どうしたのよ!?」
「浩平の過去……。それは差別というものによる辛い過去さ」
秀司はニコニコしながら言うと、ノワールとユニは驚き、淳平はビクッと反応する。
「浩平……というより、浩平の血筋は代々、血の様に紅い瞳を持って生まれてくるんだよ。人にはありえない事さ。そして、人とは自分と違うものを忌み嫌う」
「だからこそ、俺たちの血筋は少ない……。辛くて、自殺するのがほとんどだからな」
「淳平さんも経験が?」
「……ないよ。だけど、俺も黒星座にならずにいたら、きっとそうだったろう。それを浩平は一人で受け止め続けた。だからこそ、ため込んだ闇はかなりのものなんだと思う」
「そんな!それじゃ、浩平は!」
ノワールとユニは浩平の方を見る。
浩平の目からは涙が浮かび上がっており、聞きたくないという感じで耳を抑えており、首を横に何度も振っている。
相手が言っている事を一生懸命否定している様で。
そして、言わないでくれという様にと言っている様で。
「何で……俺がこんな目に遭わないといけねぇんだよ……!俺が何をしたっていうんだよ!」
「だからこそ、浩平は一時期、心が死んだ。裏世界に足を入れて、荒れに荒れたのさ。その手が血で染まろうとね」
「秀司……お前はどこまで浩平の事を」
「全て……とは言い難いけど、どういった人生を送ってきたかは知っているよ」
「もういいじゃないですか!浩平を解放してあげてください!」
ユニは見ているのがつらくなったのか、秀司に叫ぶ。
だが、秀司は相変わらずニコニコしており、浩平を見る。
「無理だね。狼座の事を認識してしまった今、もう止める事は出来ないのさ」
「そんな……」
「だからこそ、興味あるじゃん。浩平が破壊者となるのかどうかがさ。殺戮を繰り返す兵器となるのか」
「お前!人をなんだと!」
「そうでもしないと、浩平も『奴』に勝てず、死ぬんだからさ」
「秀司……貴方はまさか、貴方なりに何か考えて?」
「さぁ、どうでしょうね?」
ノワールは秀司の言葉に反応して聞いてみるが、秀司は相変わらずニコニコした顔でその質問をごまかす。
相変わらず飄々としていて、よくわからない。
「まぁ、浩平なら大丈夫だよ」
秀司がそういって、浩平を見ると、浩平の苦しそうな呻き声が聞こえなくなる。
それに反応して、三人は浩平を見る。
『浩平、遊ぼうぜ!』
『浩平君、なんで逃げるのかな?酷いよ!?』
「……亮、ほのか」
『ほっとけと言われても、ほっとけねぇなぁ!お人よしと呼ばれても構わんぞ!』
『浩平君、もう苦しまなくてもいいんだよ。孤独でいなくてもいいんだよ。私達がいるから』
「……あぁ」
浩平の涙が止まり、目を閉じると、浩平から闇が溢れ出す。
それにノワールたちは驚き、それによって起きた突風に耐えており、秀司はニコニコしながらそれを見る。
そして、闇は再び浩平の中へと戻っていき、全ての闇が戻ると、浩平はゆっくりと目を開く。
「狼座……お前も俺なんだ」
「受け入れたね……。あっぱれ、浩平!」
俺は秀司の声に反応して見ると、俺は微笑む。
ノワールたちも安堵の息を吐くと同時に俺の目を見て、驚いた様な顔をしている。
「どうしたよ?三人とも。驚いた顔をしてよ」
「浩平、瞳の瞳孔が……」
「それがどうしたんだよ?」
「縦になってる……!」
「にゃにぃ!?」
俺はそれに反応して、鏡がないか辺りを見渡すと、秀司が手鏡を差し出してきた。
コイツ……どこから出した?
いや、混沌を操る様な奴に疑問をぶつけても無駄か。
俺はすぐさま、秀司からもらった手鏡で見てみると、確かに瞳の瞳孔が縦になっていた。
「マジで……?」
「ん~、完全に馴染んでないみたいだね。ルプス状態がまだ瞳にしか出てないや。これは残りの二人に会うしかないね!」
「え?何これ?俺、最終的にはどうなんの?」
「それはもちろん、なった時のお楽しみさ!」
「死ね!」
「だが、かわす!」
秀司が親指を立てながら言ったのを見て、イラッと来たから飛び蹴りを放つ。
だが、かわされてしまい、翼を出すと、外へと飛び立つ。
「フハハハ!また会おう!さらばだァァァ!」
「待てやコラァァァァァ!俺、とうとう人間じゃなくなるのォォォォォ!?」
「大丈夫!意識すれば、元に戻るよ!力を抑える感じで!」
え?ホント?
俺は試しに力を抑える様なイメージをしてから、手鏡を見てみる。
瞳の瞳孔は元に戻っていた。
よかった……とうとう、狼になっちまうのかと思ったわ。
「その、浩平……」
「ん?」
俺は呼ばれて振り返ると、そこにはユニがいて、モジモジとしている。
「ゴメン……。浩平の事なのに、知らなくてもいいって」
「いいよ。お前は何も悪くねぇよ。俺を思ってなんだろ?気にするな」
「だけど……」
「本人が気にするなって言ってんだから、気にしなくていいっつうの。それとも何か?悪い奴とでも言ってほしいのか?」
「そういうわけじゃないわよ!」
「そうだろ?ハイ、というわけで終わり!兄貴も気にしなくていいから」
「……あぁ」
俺は護られていたんだな。
ルプス……お前の力、使いこなしてみせるぜ。
俺は手をギュッと握りしめると、空を見て微笑むのだった。
どうも、風狼龍です。
今回はシリアスにしてみたが、いかがでしたか。
楽しめたのなら幸いです。
それではまた次回。