夢の続きは幻想郷で【完結】   作:puc119

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玖話

 

 

 茹だる様な暑さが和らぎ始め、涼しさを感じる有り難みが減ってきてしまった今日この頃。相変わらず私は博麗神社でのんびりと過ごしていた。

 たまに紫が現れて一緒にお酒を飲んだりもしたけれど、随分とゆっくりと時間が流れているように思える。季節は立秋を過ぎ、処暑もそろそろ終わる頃なんじゃないかなぁ。

 それほどにあの暑さは和らいでくれた。

 

 昼も夜も関係なく私は博麗神社の縁側へくたりと横になり、ころころと転がりながらその日その日を過ごしている。ほとんどの昼間はそんな私の隣に霊夢が居て、ずずりとお茶を啜り、私の頭をわしわしする。最初のうちはわしわしに抵抗してみようと思わないでもなかったけれど、まぁ、別に良いかな。なんて思ってしまい、思う存分わしわしされている。

 

 しかしながら、今日はそんな霊夢がいない。人里からのお願いで妖怪退治に出かけたようだ。

 と、なってしまうと、私は一人ぽっちになってしまう。そのうち霊夢も帰ってくるだろうから、待っていても良いのだけど……

 どうにもそぞろ神に狂わされてしまったようで、心が落ち着かない。うむうむ、そうだと言うのなら道祖神の招きにあってみるのも吝かじゃあない。その先にはきっと素敵な何かが待っているのだ。

 

 はて、ぽてぽてと歩きだそうと決めたは良いけれど、何処へ行こうかしら? う~ん……せっかくの機会なのだし此処はやはりレミリアの所が無難なのかな?

 相変わらず私はレミリアの家の場所がわからない。それでもぽてぽてと歩いていればきっと辿り着くことはできるはず。

 

 そんな確証もない理由を持って、私はぽてぽてと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 人を食べることで生き存える妖怪は沢山いる。そうでもない妖怪もいるけれど、人間を食べちゃう奴は沢山いるのだ。

 人と妖怪。それは切って切り離せぬ関係。ただし、妖怪側にとってはだけどさ。

 

 つまり妖怪にとって人間は自分たちを生かすための存在。けれどもそれは人間にとっては違うこと。妖怪は人を食べなければいけない。人間は妖怪を食べる必要はない。

 そんななんとも複雑で今にも壊れそうな関係。

 

 だから私は妖怪が人間を食べようが、それほど気にはしない。私を食べようとされるとちょっと困っちゃうけれど、人間を食べるのは仕方が無いことなのだ。

 

 

「あらぁ」

 

 

 人間と妖怪の関係は、そうやってずっと続いてきた。

 けれども遠い未来の先は……どうなるのかなぁ。

 

 

「君は食べられちゃったんだね」

 

 

 博麗神社から出発し、何も考えずにぽてぽてと歩き続けること数時間。いつか見たあの葉見ず花見ずが多くいる場所へ辿り着いた。むぅ、また此処へ来ちゃったのかぁ。私が来たかったのは此処じゃないんだけどなぁ。

 正直なところこの場所はどうにも苦手なのだ。どうしてか無性に悲しくなるから。

 

 そして、そんな悲しくなる場所には――既に事切れた人間が一人。

 

 畜生だって人間を食べる奴はいる。けれどもこれは妖怪にやられたものだろう。そんな匂いがするもの。

 食べられてしまってからそれほど時間は経っていなそうだけど、流石に仏へと変わってしまっていることは間違いない。

 

 

「君はどんな人だったの?」

 

 

 答えが返ってくるのかわからなかったけれど、一応聞いてみた。

 だって、もしかしたら――

 

『おぅ、周りの奴らからは明るい奴だって言われていたよ』

 

 とか答えが返ってくるかもしれない。

 答えが返ってきたら私はきっとびっくりしちゃうけれど、聞かないことにはわからない。

 

 しかし予想通り、答えは返ってこなかった。

 仕方無いね。君はもう帰ってくることはできないのだから。事切れるとはそう言うことなのだから。

 

 

「でもなぁ」

 

 

 それでもこんな悲しい場所で土へと還ってしまったら、きっと君の御霊だって悲しくなってしまう。それは少々寂しいじゃあないか。どうせならもう少し違う場所へ還りたいよね。

 

 

 うむ、それじゃあ君のためにも私が頑張ってみようか。

 

 

 君がどんな人だったのか私にはわからない。

 

 それでも――

 

 

「いただきます」

 

 

 どうか今ばかりはゆっくり眠ってくださいな。

 

 

 

 

「おや? 随分と珍しいやつがいるじゃあないか。此処はお前さんの様な奴が来る場所じゃないよ?」

 

 

 名も知らぬ一人の人間を喰べ終わり、けほっと一息ついているとそんな声をかけられた。周りに声をかけてくる奴なんていないと思っていたものだから、やっぱり私はびっくりしてしまって変な声が出た。

 

 変な声を出してしまった後、恐る恐る声をかけてきた奴の方を向くと、其処には大きな鎌を持った赤髪の少女がいた。

 そんな大きな鎌を持っていたものだから、やっぱり私はびっくりして今度は身体が固まった。

 だって鎌は怖いもの仕方が無いね。

 

「あと……えと……き、君は?」

 

 わたわたとしながらも、固まった体を動かしてなんとか声を出す。何この人。超怖い。

 

 

「私かい? 私は渡しだよ」

 

 

 なるほど、わたしでしたか。

 

 

 ……わたし?

 

 君はわたしなの?

 

 

「おおー、そうなのか。私も私なんだよ」

 

 良くわからなかったけれど、君はわたしで私も私だ。

 

 

 ……うん?

 

 

 何かおかしいぞ。

 

 

「あ~……そう言うことじゃなくて、だ。あたいは渡しなんだよ」

 

 なるほど、あたいがわたしか。

 

 

 ……うん?

 

 

「でも私は私だよ?」

「そりゃあそうだ。お前さんはお前さんなのだから」

 

 ますます混乱してくる私の頭。ぐるぐるとわたしが回る。

 私は私だけど、君は“あたい”で“わたし”らしい。でもやっぱり私は私だから、君とは違うみたい。ん~……よくわからないや。

 

「君は何をやっているの?」

「三途の川で船を漕ぎ、死者たちを運んでいるのさ。今さっきだって妖怪に喰われてしまった奴を運んだところだよ」

 

 あら、立派なお仕事じゃあないか。

 私は船を漕いだことなんてないから、きっとそれは私にはできないことだ。私には何かを消すことしかできない。だからそんなことをできる君が少し羨ましかった。

 

 

「落ちた木の葉は勝手に土へと還る。それなら堕ちた死者たちだって、勝手に彼岸へ帰ってくれても良いと思わないかい?」

「それってできるの?」

「いんや、できないよ。私が渡さなければ死者は留まることしかできない」

 

 あらぁ、そうなのか。

 もし死者たちが自分の力で三途の川を渡ることができれば、きっと君は死者たちを運ばなくても良くなるのだろう。

 

 けれどもそれは、なんとも寂しい話じゃないか。

 

「私は死ぬことはないからわからないけれどさ。きっとそれは寂しいことだと思うんだ。だからあの悲しい川を渡る時くらいは、君が一緒にいてあげた方が良いんじゃないかなぁ」

 

 一人ぽっちは寂しいもの。

 

「ふふっ、わかっているさそのくらい。でもねぇ、あたいだって運ぶのが疲れてしまう時があるだろう?」

「その時は休めば良い。君は“わたし”なのだから。私も私でのんびりとしているもの。君ばかりが急ぐ必要なんてないんじゃない?」

 

 私がそう言うと、くすくすと“わたし”は笑った。

 何が楽しかったのかはわからないけれど、笑っているようだからたぶん良いことがあったんだろう。

 

「急げと言われたことはあるけれど、急がなくて良いって言われたのは初めてだよ。さて、お前さんはそろそろ帰りな。あまり此処でのんびりしていると、怖ーい閻魔様が怒りに来るからさ」

 

 そりゃあマズい。

 怒られるのは嫌いなのだ。どうして怒られるのかわからないけれど、やっぱり此処はぽてぽてと逃げさせていただこう。

 

「それじゃ、またね」

「ああ、また」

 

 結局“わたし”が誰なのかはわからなかったけれど、悪い気分じゃあなかった。

 

 そんな言い訳をしながら、彼岸まではまだ時間があるのにも関わらず、咲き始めた葉見ず花見ずの間を必死にぽてぽてと歩いた。

 

 せっかちさんも増えてきたねぇ。私は私でゆっくりさせていただきたいです。

 

 

 

 葉見ず花見ずたちを抜け、さらに歩を進めてからはたと気付いた。

 

 そう言えば、博麗神社って何処にあるんだろう?

 

 





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