「おっ? もしかして終わり? ふふん、どうやら私の勝ちのようだね」
けふっと一息。
あの綺麗な弾幕が、まさかこんなにも続くとは思っていなかった。けれどもその弾幕も終わりこうして私は立っていられるのだから、私は勝ったということ。
また勝ってしまったか、敗北を知りたいぜ。
ふふっ、な~んてね。
「……ずるい」
むすっとした顔から言葉が落ちた。
そんなことを言われても私は速く動くことが好きじゃないから、ああして食べるしかなかったのだ。
ごちそうさまでした。
「どうしてか目も見えないし、貴女は……浅葱は何者なの?」
「私は私だよ。君たちのように綺麗じゃなく……汚れ穢れたもの。それよりも君の名前は?」
私のことなどどうでも良いのだ。
どうせまた寝てしまうのだから。
それよりも君のその素敵な名前を教えて欲しいな。その後は月明かりの下を二人でぽてぽて歩くのだ。
「……フランドール。フランドール・スカーレットよ」
おお、フランドールって言うのか。横文字の類は苦手だから、その名前にどんな意味が込められているのかわからないけれど、きっと素敵な理由があるのだろう。
フランドール、フランドール……ちょっと長いけれど、うむ素敵な響きじゃあないか。
さて。
さてさて。
ちょっとずるかったけれども、この遊びには私が勝ったのだ。それなら私のお願いを聞いてもらっても良いんじゃないかな。
「ねぇ、フランドール」
「なあに?」
「私と一緒に外へ行こう」
さっきは私が君のお願いを聞いたのだ。今度はきっと私の番。断られたらやっぱりちょっと困っちゃうけどさ。
「……外には何があるの?」
ん~……何がって言われても、ちょっと困っちゃう。
でも、外の世界は――
「この部屋にはない全てのものがあるよ」
明るい光、青い空、白い雲、輝く月、瞬く星々、そよめく風、揺れる草花。それらは全て、この暗い暗い部屋の中にはないもの。この世界はちょっと広いから、私が知らないものも沢山ある。だから毎日が発見で毎日が冒険だ。わくわくするね。
「そっかぁ、それなら私も外へ行ってみようかな。でも、私は一人で外へは行っちゃダメなの」
「それなら大丈夫。私が一緒に行ってあげるよ」
「……浅葱じゃちょっと心配」
あ、やっぱり? 私もそうなんじゃないかなぁ。って薄々思っていたんだ。
でも、私は君と一緒に歩きたいんだけどなぁ……やっぱりそれは難しいのかな。
ん~……それなら仕方無い。
「じゃあ、とりあえずこの紅魔館の中を探索しよう」
知ってた? この建物ってすごく大きんだよ。これだけ大きいのだから素敵なものだって沢山あるはず。
「まぁ、それくらいなら」
うむうむ、とりあえずは私もそれで満足しよう。いつか君と一緒に外の世界を歩くことを夢見ながら、今のところは我慢しよう。
フランドールの左手を私の右手で捕まえる。繋いだ右手と左手。それだけで、何処までも行ける気がした。
「あっ、浅葱様。お怪我などはされて……えっ? えと、妹様が? あの、どう言う状況でしょうか?」
フランドールと一緒に部屋の外へ出ると咲夜がいた。もしかしてずっと待っていてくれたのかなぁ? それなら悪いことをしちゃった。でも私は待っているだなんて聞いていなかったし、仕方無いね。
「フランドールと一緒に紅魔館の中を探索することになったんだ」
この建物中は広いからねぇ、何があるのか考えるだけでわくわくしてくる。
「探索、ですか……よくわかりませんが、今日は妹様も御一緒にお食事を取られますか?」
「ん~……それって浅葱も来るの?」
お食事? 何それ、そんな素敵なお誘い私は聞いていないぞ。ずるい、私も皆とお食事をしたい。
それにしても、この咲夜の話し方は慣れない。どうにもむずむずするじゃあないか。
「そう言えばまだ聞いていませんでしたね。浅葱様はどうされますか?」
「私も参加して良いの?」
「はい、是非どうぞ。お嬢様も喜びますし」
なんと、そうなのですか。
それなら――
「よろしくお願いします」
ふふん、こりゃあ楽しみだ。
皆でお食事。それはなんて素敵なことだろうか。
そんなすぐ先の素敵な未来のことを考えてしまったせいか、やっぱり私は嬉しくなってしまって別の世界へ旅立った。仕方無いね。嬉しかったんだもの。
――――――――――
浅葱が食卓に着くそうだから、私も久しぶりに食事へ参加してみることにした。こうやって皆で食事をするのは何年振りだろう。
どうにも私の心は不安定で、どうしても皆と一緒にいるのは気が進まなかった。
けれども浅葱が居てくれると聞き、進まなかった気が少しだけ進んでくれた。
浅葱は不思議な奴だ。悪い奴ではないと思うけれど、何を考えているのかわからないし。
私の能力を使えば例え生き物じゃない奴だって壊すことができる。目を握りつぶせば簡単に壊れる。でも浅葱にはその目がなかった。
私の部屋で放った弾幕も悉く消され、私は負けた。なんでこんな何も考えていない奴がって思ったけれど、たぶん浅葱は壊れかけている私よりもずっと……なんとなくそんな気がする。
だからなのか、浅葱と一緒に居ると安心できる。浅葱は不安な奴だけど、私は安心できる。
浅葱はちょっとバカだ。咲夜から食事に誘われてしまっただけで舞い上がり、言葉は届かなくなった。でも、そんな純粋さが羨ましかった。私も浅葱と一緒にいれば変わることができるのかなぁ……変わることができれば嬉しいなぁ。
「え、えと、咲夜? 私には全くわからないのだけど、これは何かしら?」
久しぶりに見たお姉様の姿。他の姉妹同士がどんな関係なのか私にはわからないけれど、私とお姉様の仲はそれほど良くはない。
でも悪くもないんじゃないかなぁ。なんて思う。
「はい、手前からスモークサーモンと夏野菜のテリーヌ。唐柿の冷静スープ。黒胡椒を振りかけたローストビーフ。お飲み物はB型の血液です」
「料理のことじゃねーよ」
その浅葱はと言うと、目の前に用意された料理に目を輝かせている。単純だね、貴女は。
美味しそうに料理を頬張るその様など、見ている此方も嬉しくなる。
浅葱は明るい。すごく明るい。だからそのせいで、貴女の持つ闇が全く見えない。私もそうやって生きることができたらなぁ。
「とりあえずフランがいるのは良いのよ。家族だから」
ああ、なんだ。お姉様も私のことは家族だと思っていてくれていたんだ。卑屈なこの性格のせいか、そうは思われていないんじゃないかって思っていた。
そっか、そっか……家族、か。
うん、これは悪い気持ちじゃない。
「でも、どうして浅葱がいるのよ? いや、確かに私は誘ったし来てくれたのは嬉しいけど」
「わーっ、この料理も美味しいね!」
「おい、話聞けよ。仕舞いにゃ泣くぞ」
騒がしい食事の時間。きっといつもならこんなにも五月蝿くなることはないはず。
こうも五月蝿くなる原因なんて一つしかない。
「変な奴」
お姉様にペシペシと頭を叩かれている浅葱を見て、そんな独り言が溢れ落ちた。
一緒に外へ行こう、か。
外に出ようだなんて全く考えていなかったけれど、浅葱と一緒ならそれも悪くはないかもって、私にしては珍しいことを思った。
浅葱曰く、外の世界には私の知らないものが沢山あるらしい。少しだけ興味はあるかも。そして、そんな外の世界を歩くとき、貴女が隣に居てくれたら……
うん、いつかそんな日が来れば良いね。
どうやら私にも大切にしたい人ができたっぽいです。