「しきふーいーくー」
茹だる夏を越え、色めく秋を過ごし、はたと気づいたら随分と寒い季節になってしまった。
吐き出す息は全てが全て白へと変わり、雪によって地面もまた白へと変わる。ああ、今日もまた雪が降り積もっるわね。はぁ……これじゃあ雪掻きをしないといけない。
「くーふーいーしき」
どうせ神社に参拝客は訪れないだろうけれど、それでも一応私は巫女なのだから雪掻きをする必要がある。とはいえ、面倒だなぁ。
全く、どうして雪なんてものが降るのかしら? 雨なら地面の下へ消えていってくれるけれども、アイツらはしつこく地面の上へ残り続ける。
「しきそくぜーくー」
雪が降ったところで喜んでいるのは浅葱くらいだ。今日もまた雪ダルマを作っているし……昨日も作っていたけれど、飽きないのかしら?
浅葱みたく私はこんな寒い外で元気に燥ぎ回ることはできず、今は炬燵へ入ってのんびりとお茶を飲んでいるところ。
ああ、今日もお茶が美味しい。
「な、なぁ、霊夢」
「なによ?」
そして当たり前のようにいる魔理沙。
こら、暴れるな。この炬燵だって広くはないのだから、もう少しおとなしくしていなさい。
「なんで浅葱は般若心経を唱えながら雪ダルマを作っているんだ? あれって新しい宗教か何かか?」
そんなの私は知らないわよ。
それに元々、浅葱は変な奴だし今更そんなことをしても気にはならない。
開けた障子の先にはせっせと雪ダルマを作る浅葱の姿。其処から流れ込む空気はやはり冷たい。
「くーそくぜーしき」
放っておくと何を仕出かすかわかったものじゃないから、一応浅葱の様子は見ている。それにそろそろ手が冷たいとか言って騒ぎ出すか、頭を大きくし過ぎて胴体に乗っけられないとか言って騒ぎ出すだろう。
「何だか良くわからんが、アイツも元気な奴だなぁ」
「ホント、浅葱は何を考えているのかしらね?」
もう数ヶ月も一緒にいるけれど、浅葱のことはわからないことだらけだ。見た目はただの人間の女の子。でも、その体質は睡眠も食事も必要としない。それでいてお酒は好きと言う、何がなんだかわからない存在。
「ぎゃーていぎゃーてい」
人間でも妖怪でも神でも妖精でもない。じゃあ浅葱は何なのかしら?
「それにしても、まさかあの霊夢と一緒に暮らす奴が現れるとは思わなかったぜ」
うん? どう言う意味かしら。なんとなく私の悪口を言っているようにも聞こえるけど。
「はーらーぎゃーてい」
浅葱は食事がいらないから、一緒に生活をしていてもお金的な負担は一切ない。それに掃除なんかの家事も手伝ってくれるしなかなかに有り難い存在だ。
目を離すと直ぐに何処かへ行ってしまうのは問題だけど。
「お前は他人になんて興味を持たない奴だと思っていたんだけど、違ったんだな」
なんて言って魔理沙は笑った。
……どうだろうか。確かに私は、他人のことをあまり気にしない人間かもしれない。それでも浅葱のことは気に入った。面倒な奴を気に入っちゃったなぁとは思うけれど、別にそれが悪いとも思ってはいない。それだけのこと。
「はらそーぎゃーてい」
それに浅葱は見ていて飽きないし。
浅葱は何かあると直ぐに泣きそうになるけれど、その後また直ぐに笑う。そんな浅葱の笑顔は……まぁ、アレよ。癒される。
「浅葱はペットみたいなものなのよ」
「……そんなこと言うとまたアイツ怒るぞ」
そう言えば、以前そんなことを言ったらぽっぽこと怒ったこともあったっけ。でも大丈夫、怒った浅葱も面白い。それに泣いた浅葱だって嫌いじゃない。
私と浅葱が本当はどんな関係なのかわからない。
「ぼーじーそわかー」
けれども、まぁ、こんな良くわからない関係は意外と気に入っている。
「はんにゃーしんぎ、うぉお! 頭がっ、ダルマさんの頭がっ!」
ふふっ、ほらまた騒ぎ出した。
二つに割れてしまった頭をせっせと直そうとする浅葱。でも浅葱の力だと彼処まで大きくなった雪玉を持ち上げることはできないだろう。どうしてもっと考えて作らないのかしら?
湯呑を持ってから、ずずりと最後の一口を楽しむ。
うむ、今日もお茶が美味しい。
そして湯呑を置き、もう一度浅葱を見た時だった。
「っつーー!」
「うわっ、いきなりどうしたんだよ?」
勢い良く立ち上がったせいで、台の上に置いていた湯呑が倒れた。中身が何も入っていなかったのは幸いだ。
「あっ、いえ……何でもないわ」
だって……
「あうぅ、なんだコレは重いぞ。霊夢ー、魔理沙ー。頭を乗っけるから手伝って」
「ああ、今行くからちょっと待ってろ。ってコラ、下手にいじるとまた壊れ……ああ、もう。言わんこっちゃない」
だってあの時、ふと浅葱を見た瞬間。まるで、この真っ白な世界へ浅葱が消えていってしまうように見えたから……
それは、私の気のせい……よね?
――――――――――
何かを考えると言うことが苦手な私ではあるけれど――夜。それも冬の夜となってしまえば話は別だ。
昼間アレだけ降っていたのにも関わらず、雪は未だに止んでいない。君も元気だねぇ。まぁ、君はこの季節にしか現れることができないから、きっと張り切っているんだろう。
降り積もった雪は音を飲み込んでしまう。そのせいで、ただでさえ静かな夜がいっそう静かになってしまった。
霊夢は寝てしまったし、この季節は夜の話し相手となっていた紫も寝てしまっている。つまりこの真っ暗で真っ白な世界には私しかいない。
「一人かぁ」
そんな独り言と一緒に吐き出された空気は直ぐに白く変わり、消えていった。
一人ぽっちの世界。そんなんだから、うだうだと何かを考えてしまう。何かをちゃんと考えるほど頭は良くないのに、何かを考えてしまう。
凍てつくような寒さ。
痛いほどの静けさ。
冬はいつだってそうだ。明るい間はまだ良いけれど、夜になると途端に寂しくなる。そんななんとも悲しい季節。
腰掛けていた縁側から、裸足のまま雪の上へ降りてみる。
「……冷たい」
仕方無いね。だって雪だもの。もしかしたら暖かい雪もあるかもしれないけれど、私が出会った雪は皆冷たかった。
なんとなしに上を見上げると、深々と降る雪が顔に当たった。やっぱり冷たい。吐き出した息も白く変わってしまい、真っ黒な世界に少しだけ白色を増やしてくれたけれども、その白色も直ぐに消えてしまった。
「冷たいね」
寒さが身に染みて身体が凍える。
だから少しだけ感覚を減らして、あまり冷たくないようにした。
これをすると、自分がまるで生き物じゃないみたいに思えるから、できるだけしないようにはしている。けれども仕方無いね。冷たかったんだもの。
私には感覚がない。だから本当は、痛いとか暑いとか寒いとか感じるなんてことはない。だって私はただの穢れだもの。でもそれじゃあちょっと寂しいから、感覚があるようにした。痛いとか暑いとか寒いとか思うようにした。きっとそっちの方が楽しいから。
流石に慣れてはきたけれど、本当なら私は体だってない。意識をして一生懸命固めていないと私の体は穢れた霧へと変わる。
視覚だって、嗅覚だって、聴覚だって、味覚だってなかった。最初からあったのは穢れた想いだけ。神や綺麗好きなアイツらの真似をして少しづつ形を作って、漸く私ができた。自分で言うのもアレだけど、私はそんななんとも変な存在だ。
はてさて、今度の私はどれくらい起きていられるのかなぁ。
今は良い世界になったから毎日が楽しい。だからできるだけ起きていたいとは思うけれど、私の意思とは関係なしにいきなり寝てしまうから、やっぱりわからない。
「せめて一年くらいは起きていたいなぁ」
春になれば暖かくなってきっと桜も咲いてくれる。
桜が咲けば宴会だってあるはずだ。そうすればわいわいと皆で楽しむことができる。
うむうむ、それは楽しみじゃあないか。
だから、もう少しだけ起きていてくれませんか? せっかく起きたんだもの、精一杯楽しみたいのだ。
「でもなぁ」
けれども、そんなお花見の前に問題が一つ。
上を見上げる。
雪が顔に当たる。
冷たくはない。
「この冬はちょっと長そうだぞ」
春が待ち遠しい季節になりました。
もうそろそろ夏になると言うのに、冬のお話を書いていると何だか変な気持ちになります
かなりすっ飛ばしましたが、漸く春雪異変っぽいです
はてさて、どうやって進めましょうか