冬が終わらない。
私の知っている世界ならもう桜も咲き、色鮮やかな世界となっているはずなのに、相変わらず真っ白な世界は続いている。
赤い世界の次は白い世界。でも私は普通の世界が好きなんだけどなぁ。
流石にこうも毎日雪が降っていては飽きてしまう。雪ダルマだってカマクラだって沢山作った。作ったそれらは未だ残っているけれど、別に何かを感じると言うこともない。どうせ降り続ける雪に埋もれて消えていくのだ。最初のうちは楽しかったけれども、今ではあまり楽しくない。
だから最近はもう雪で遊ぶことも止め、日がな縁側へ座ってただただ降り続ける雪を眺めている。でもそれは、ちっとも面白くない。
「う~ん、流石にこれはおかしいわね」
「なにが?」
やだなぁ、長くなるだろうとは思っていたけれど、此処まで長くなるとは思わなかった。春は皆のものなのにね。一人のものじゃないのにね。
私は早く皆でお花見をしたいのだ。
「今年は冬が長すぎるのよ。いつもなら桜だってもう満開なはず。それなのにまだ雪が降っているのはおかしい。やっぱり異変なのかしら?」
そうだよねぇ。やっぱり霊夢だって皆でお花見したいよね。
それなのに冬が終わらないから見る花なんてありゃしない。困ったものです。冬の間は皆引き籠もりがちになってしまうし、紫も寝ている。そんな、なんとも退屈な季節だ。
「よしっ、決めた」
「なにを?」
それにしても誰が皆の春を取っちゃったんだろうか。一人で楽しむより、皆で楽しんだ方が絶対楽しいのに……
はぁ、今年の春は短くなりそうだ。それは少し寂しいな。
「ちょっとこの終わらない冬を終わらせてくるわ。ああ、浅葱は危ないから良い子にお留守番してなさいよ?」
「うん、わかった」
終わらない冬かぁ。冬だって嫌いじゃないけれど、こうも続いてしまったら嫌いになっちゃう。それも寂しいなぁ。
「……ホントにわかった? 異変中は危ないから、勝手にフラフラと何処かへ行っちゃダメよ? 人に誘われたからってホイホイついて行っちゃうのもダメよ?」
「うん、わかった」
「不安だなぁ……」
正直、霊夢との会話は全く頭に入っていなかった。だって春を取ってしまった人のことが気になったんだもの。仕方無いね。
「それじゃあ行ってくるけど、ちゃんと! おとなしく! 良い子で! 待っていなさいよ?」
「うん、行ってらっしゃーい」
そう言って、霊夢は何処かへ飛び立っていった。
霊夢は寒いのが苦手と言っていたけれど、それならもう少し暖かい格好をすれば良いのにね。なんでいつも腋を出しているんだろう。今度、私もあの服を着させてもらおうかな。
「う~ん」
さて、私はどうしようか。どうしてなのか、霊夢も居なくなっちゃったからやっぱり暇だ。
雪はまだまだ止みそうにない。そんなだから冬だって終わってくれやしない。
「お願いすれば返してくれるかなぁ」
冬はもういいや。充分過ぎるくらい楽しんだもの。それなら次は春を楽しみたいじゃあないか。
うん、だからお願いをしに行こう。断られたらやっぱり困っちゃうけれど、もしかしたら返してくれるかもしれないから。
「さて、それじゃ行こうかな」
冬の香りばかりで、春の香りはほとんどしない。
でも、微かにその香りは私の所まで届いている。幻想郷なんて言われているこの世界中の春を集めているから、春を留めることができず少しだけ漏れてきている。
その香りの元は――
「上かぁ」
上を見上げてもあるのは分厚い雲とはらはらと落ちる雪ばかり。つまり、春があるのはもっと上だ。
だから私は、その真っ白な世界目掛けて飛んだ。
――――――――――
幻想郷にある春はほとんど集めてしまったし、これからどうしようか。幽々子様の命令で集めてはいたものの、これ以上集めることは難しそうだ。
もう少しで西行妖も満開なるとは思うんだけどなぁ。
幽々子様曰く、西行妖が満開になれば封印されていた誰かが眠りから覚めるらしい。封印されていたのだからそのままにしておいた方が良い気もするけれど、命令されてしまったのだから仕方無い。私は全力でその命令をやるだけだ。
う~ん、仕方無い。こうなったら人から集めるしかないわよね。あと少し、あと少しだけで良いはずだし。
はぁ、それじゃあ行くとしよう。
「おおー、此処は下と違って凄く暖かいんだね」
そして春を集めに行こうとしたら、一人の少女が何故か居た。えと……誰?
結界だって張ってあったはずなのに、どうして此処に人がいる? それも力だって全然なさそうな奴が。
此処、冥界なんだけどなぁ……普通の人間が来られる場所じゃないんだけどなぁ……それなのにどうやって来たんだろう。
「あらぁ、桜も咲いているじゃあないか。うむ、此処でお花見をするのも悪くないかも」
そりゃあ此処には春が溢れているのだし、桜だって咲く。それでも西行妖が満開になるのには少し足りない。
「貴女は何をしに此処へ?」
満開になった桜を見て嬉しくなっていたのか、燥ぎ回っていたそれに声をかける。ちょうど良いしこの子からも春を戴こうかな。
「うん? ああ、私は春を返してもらえないかお願いをしに来たんだよ」
そう言ってその子は無邪気に笑った。
お願いをしにって……う~ん、この子から春を奪うのはちょっと罪悪感が……
「君は?」
「私は魂魄妖夢。ただの半人半霊よ」
「ん~……半人半霊?」
うん、半分人間で半分幽霊。
「えっ……も、もしかして君はオ、オバケかい?」
いや、オバケではないと思うけど……でもまぁ、似たようなものなのかな。
それにしても、急にビクビクし始めちゃったね。なんだろう、オバケが怖いのかな? 私もそう言う類は好きじゃないから気持ちはわからないでもない。
「うん、まぁ、半分オバケね」
「うわっ、うわぁ……ほ、本当に?」
なにこの子。面白い。
そんなこの子の反応が面白かったから、ついつい揶揄いたくなってしまって、普段の私では絶対にやらないようなことをしてしまった。
うん、きっとストレスとか溜まっていたんだろう。
「わぁっ!」
両手を挙げてそう言ってみた。
すごく後悔した。なにやってんだろ私……
「うわぁ!? だ、だからこう言うの嫌いなんだよぉ……」
そんな私の反応が怖かったのか、その子は両手で頭を抱えしゃがみこんでしまった。
いや、ごめん。つい。
でも、なんだろうか。この子を見ていると、こう……私の内側からゾクゾクしたものが……
も、もう少しくらい揶揄っても大丈夫だよね? あんまりやると泣いちゃうかもしれない。てか、今にも泣きそうだ。でも、この子を泣かせてみるというのもまた……
「妖夢ー。さっきから騒がしいけど何をやっているのよ。って、あら? 貴女は……」
さて、次は何をしてやろうかと思っていたら幽々子様が来てしまった。マズい、もしかして見られていた? もし見られていたら絶対にまた弄られる。
「あらあら、珍しい人が訪れて来たわね。ふふっ、でもちょうど良かったわ。ほら起きて。もう大丈夫だから」
おや? もしかして幽々子様はこの子のことを知っているの? それはちょっとマズイぞ。かなり失礼なことをしてしまったのだし。
「……わぁっ! ってやらない?」
「やらないわよ」
「ホントに?」
「ええ、本当よ」
相変わらず両手で頭を抱えしゃがみこんだまま、その子は幽々子様と会話をした。よっぽど怖かったんだろう。むぅ、流石に申し訳なくなる。ちゃんと謝る必要がありそうだ。
しゃがんでいたその子は漸く安心してくれたのか、幽々子様と会話をしてゆっくりと立ち上がってくれた。
「わぁっ!」
そして、その子が立ち上がった瞬間幽々子様が言った。
ついにその子は泣き始めた。それを見て幽々子様は笑っていた。
鬼ですか、あんた。
いや、まぁ私が言えたことじゃないけれど。
しかし、この子は本当に何者なんだろうか?
どうやら春雪異変の始まりだそうです
ゆっくりのんびりと続けていきます