ふふん、そっか皆でお花見かぁ。
そりゃあなんとも楽しみじゃあないか。眠っている人も紫も一緒に、あの咲かなかった桜の下でお花見。きっとそれは素敵なことなんだろう。
春を集めたから咲かない桜が咲いた。花より団子と言う言葉もあるけれど、できることなら何方も戴きたい。私はそう思うのです
咲かない桜と言うのも風流ではあるけれど、やっぱり咲いていた方が良いよね。
紫だってあの桜のことを……
『貴女のことだし忘れちゃうかもしれないけれど、よく聞いて浅葱。もしも、あの咲かない桜を幽々子が咲かそうとしていたら、絶対に止めさせるのよ。あの桜の下には幽々子の身体が封印してあるの。だから、あの桜が満開になってしまったら、幽々子は消えてしまう。それは貴女だって嫌でしょ?』
…………ヤバい。
そうだ。そうだった。やっと、漸く思い出せた。ダメじゃん! あの桜咲いちゃダメじゃん!!
もしあの桜が満開になってしまったら、封印が解けてしまったら幽々子が――消える。
それはダメだ。そんなの全然素敵なことじゃない。
「や、止めさせないとだ」
桜はもう九分咲きくらいになっている。こりゃあマズイぞ。
早く幽々子に伝え……あれ?
いや、ちょっと待って確か――
『そしてそのことを、幽々子に言ってはダメよ? 無理矢理封印したはずのものが解かれてしまうかもしれないから』
……ああ、困った。これは困ったぞ。
ダメだ幽々子に伝えることもできない。どうしよう、どうすれば良いんだ?
「あら、漸くこっちの世界へ戻ってきたのね」
気がつくと隣に幽々子がいた。
ちょっと驚いたけれど、今は驚いている場合じゃない。それよりもしなければいけないことがあるのだから。
「え、えとね、幽々子。私はね、寝ているんだから、その……起こさない方が良いんじゃないかなぁって思うんだ。ほら、やっぱり寝ている時は自分で起きるまで寝ていたいでしょ?」
もうどんな理由でも良いから止めさせないと。時間はもうあまりない。
「ふふっ、確かにそうだけど他の人が楽しんでいるのに、一人だけ寝ていたのじゃあ可哀想だもの。それなら起こしてあげた方が私は良いと思うのよ。浅葱もそう思うでしょ?」
「うん、そうだね!」
そうじゃねーだろ。私のばかやろー。
んもう、勢いだけで喋っちゃって……この馬鹿者が。この大馬鹿者がっ。
「楽しみねぇ。どんな人が眠っているのかしら?」
鏡持って来ようか? たぶんその鏡に映った人が眠っているよ。
それに幽々子じゃ絶対にその人と会うことは……ああ、もうどうしよう。
もう……もう食べちゃおうかな。今集まっている春を私が食べちゃえば、あの桜は咲かなくなる。
でも、それをしてしまうと――この世界から春が消える。
それは流石にマズイか……でも、このままじゃ幽々子が消えてしまう。桜はもう少しで満開。時間はもうほとんど残されていない。幽々子がもう直ぐ消えてしまう。
うん……仕方無いか。
親しい友人とこの世の春。何方選ぶのか。そんなの決まっているもの。そりゃあできることなら何方も戴きたい。けれどもそんなには上手くはいかないのだ。
できるだけ頑張ってみるけれど、私は不器用だからもしかしたら、この世界から春が消えてしまうかもしれない。できるだけ小さく食べてみるけれど、上手くいかないかもしれない。上手くいかなければ春が消える。
でも良いんだ。大切な人が消えるよりは――よっぽどマシだもの。
座っていた縁側から、ふわりと飛んで九分咲きとまでなってしまった桜の下へ。
「浅葱? 何をするの?」
ごめんね、幽々子。理由は言えないけれど、この桜を咲かすことだけは止めないといけないんだ。だって私は、春よりも幽々子の方が好きだもの。
それじゃあ――
「見つけたっ! 浅葱、大丈夫? 意地悪されてない? 怪我は?」
春を食べようとしたら霊夢の声が聞こえて、いきなり抱きしめられた。
お、おぅ? な、何事ですか? そしてどうして霊夢が此処に? あと、もうちょっと優しく抱きしめてくれた方が私は嬉しいな。
「ああ、もう。だから神社でおとなしくしててって言ったのに……ダメでしょ? 勝手にフラフラと出て行ったら。そうねぇ、今度から首輪でも……」
あらぁ? そんなこと言われたかな。記憶にないのだけど。あと霊夢さん? 首輪ってどう言うことですか? 私は畜生じゃあないんだけど……
「……貴女ね、張ってあった結界を破ったのは。妖夢が来ていないと言うことは……はぁ、まだまだ半人前ってことかしら」
「私の浅葱を泣かせたのはあんた?」
うん? ちょ、ちょっと待って霊夢。別に私は霊夢のものじゃあないよ? そりゃあ一緒に暮らしてはいるけれど……やっぱり霊夢って私のこと畜生だと思ってない?
「ふふっ、あの子を見るとどうしても弄りたくなってしまうのよ。貴女もそうでしょ?」
笑いながら何言ってんだろこの人。私はそれが困るんだけどなぁ……やめてほしいんだけどなぁ……
「確かにそうだし、浅葱の泣き顔を見るのも好きよ。でも、その泣き顔は私が泣かしたものでないとダメ。それ以外は許さない」
……とんでもない発言を聞いてしまった。
私の周りはいつだって敵だらけだ。非情すぎる現実に涙が溢れ落ちそうになる。霊夢怖いよ、霊夢。
私は別に悪いことしてないと思うんだけどなぁ……
「……歪んだ愛情ね」
「あんただってそうでしょ? 歪みきっているもの」
そして、どうしてこうなったのかわからないけれど、何故か二人が戦い始めた。
私に関係する話のはずなのに、私は置いてけぼり。蚊帳の外。でも、それが寂しいとは感じなかった。もう私のことは放っておいて欲しい。
二人が勝手に戦い始めちゃったから、私はどうして良いのかわからなくなって、仕方無しにまた縁側に戻ることとした。
……とんでもない世界になっちゃったなぁ。
「ふぅ……やっと終わった」
「……貴女、異常なほどに強いわね」
レミリアの時もそうだったけれど、やっぱり霊夢は強い。
幽々子が言っていたように、異常なほど。霊夢だって人間のはずなのに、すごいね。昔じゃこんなの考えられないもん。
「結局、貴女は何をしに来たのよ?」
「最初は春を返してもらおうと思っていたけれど、浅葱の泣く声が聞こえたからそれを取り返しに来たの。それじゃ浅葱は返してもらうわよ」
えっ、なんだろう。それはすごく怖いのだけど……
って、そうだ! そんな場合じゃないのだ。桜が、あの桜が咲いてしまう。
今はどれくらい……
――反魂蝶-九分咲-
そんな誰かの声がしたと思ったら、満開になりかけの桜から視界を埋める弾幕が放たれた。
それはまるで桜吹雪。けれどもそれは、何処か悲しく見えた。
「ねぇ、これどう言うことよ? どうしてただの桜が? 私だって霊力はほとんど残ってないのに……これはちょっとキツいわね」
会話には参加できないし、私はこの早すぎる展開に全くついていけない。
どうしてあの桜が急に暴れだしたんだろうか。
「ねぇ、幽々子。何が起きているの?」
「私にも良くわからないけれど……たぶん、あの桜は咲けなかったのだと思うの。さらに中途半端に封印が解けてしまって……そう言うことじゃないかしら」
ん~……さっぱりわからん。
幽々子の言葉は難しいしなぁ。仕方無いね。
よくわからないけど……つまりあの桜は思うように咲くことができなかったから、仕方無く暴れているってことなのかな? きっと寝ているところを無理矢理起こされたから、怒ってしまったんだろう。
うん、確かに桜吹雪みたいで綺麗に見えはするけれど――
「汚れているね、君も」
やっぱりそれは悲しく見えてしまう。きっと君だって、汚れているなりに綺麗になろうとはしているんだろう。それがわかるから余計に悲しく見えてしまう。でもね、汚れてしまったものを綺麗にするのは大変なんだ。
霊夢も一生懸命避けているけれど、どうにも大変そうだ。このままじゃちょっとマズイかも。
「ねぇ、幽々子」
「ええ、流石に私ももう諦めたわ。はぁ、ホント上手くはいってくれないものね。……あとはお願い浅葱」
うん、任された。
もう難しく考える必要はないもの。君の出す八つ当たりのような弾幕。必死に取り繕ってはいるけれど、その汚れた弾幕。それを全部食べるだけ。
加減はいらない。いくら食べても春が消えるわけじゃないから。私が食べるのは君の汚れだけ。君が必死に春を留まらせようとしている汚れを食べるだけ。
ああ、そうだ。やっと思い出せた。私は春を返してもらえないか、お願いをしに来たんだ。なんでそんなことも忘れちゃうんだろうね。
うん、もうお願いなんて言わない。
一歩二歩とちょっとずつあの暴れている桜へ近づく。
「ちょっ、浅葱! 危ないからまだ隠れて……」
返してもらうよ。皆の春を。
花も団子も、両方戴こう。
ごめんね、勝手に起こしちゃって。せめてこれからは、安らかに眠ってくださいな。
それじゃあ――
「いただきます」
とりあえず食べちゃえばなんとかなります
そろそろ異変も終わりらしいですし、ほのぼのな空気に戻ってくれそうですね