「ごちそうさまでした」
色鮮やかな弾幕を食べ終わり、いつもの言葉を落とす。決して美味しいものではなかったけれど、食べた物には感謝をしないといけない。まぁ、感謝と言うより陳謝の念の方が近い気もするけどさ。
そして私が食べ終わった時、あの桜についていた花びらが一斉に散った。それはさっきみたいな嘘っぱちの桜吹雪じゃなく、本物の桜吹雪。
花びらへ変わった春が桜から放たれ、解放される。きっとこれでこの世界にも春が戻ってくれるはず。
全ての花びらを落とし、またいつもの姿に戻ってしまった君。咲かない桜が綺麗かどうか。そんなこと私にはわからない。
けれども、汚れた花をつけるより――
「今の君の方がよっぽど素敵だよ」
だからゆっくりと眠ってくださいな。別に咲かない桜があったって良いじゃあないか。必死に汚れを隠すことだって大切だけど、私たちはそれと向き合わなきゃいけないんだ。だから汚れた姿を隠そうともせず、堂々としている君の方が素敵だと私は思うんだ。
それはきっと穢れ者の小唄。でも良いんだ。そうでもしないと私たちはやってられないもん。虎は死して皮を溜め、人は死して名を残す。じゃあ私たちの後には何が残るのだろうか。
ねぇ、君はどう思う?
「お疲れ様、浅葱。どう? 美味しかった?」
「ん~美味しくはなかったかな。でも良いんだ。素敵ではなかったけれど綺麗ではあったから」
うむうむ、これで皆の春も戻ってきたようだし、良いじゃあないか。ちょっと危ないこともあったけど、終わりが良ければ全て良いのだ。きっと下の世界だってもう直ぐ桜が咲き始める。皆でお花見楽しみだね。
「こらっ、ダメでしょ浅葱。危ないことしちゃ」
「あいたぁ」
いつのも姿へ戻ってしまったあの咲かない桜を見ていたら、ぺしりと霊夢に頭を叩かれた。何をしますか。
そんな霊夢の様子は珍しく疲れているようにも見えた。君も頑張ってたもんね。もう少し早くあの桜が暴れてくれれば良かったんだけどなぁ。仕方無いね。
「大丈夫だよ。私は死なないから」
「またそんなこと言って……そう言うことじゃないの」
そう言うことじゃないの? ん~……じゃあどう言うことだろうか。私にはやっぱり良くわからない。
でも、まぁ終わっちゃったことだしそれは良いのだ。前を向いて歩こうじゃあないか。
「これで漸くお花見ができるね!」
「ふふっ、ええそうね」
そう言って霊夢はくすくすと笑った。うむ、やっぱり君は笑っていた方が素敵だよ。さっきみたいな怖い霊夢は素敵じゃあない。てか、身の危険しか感じない。どうかそのままの君でいてね。
はてさて、お花見は何処でやるのかな? 霊夢曰く博麗神社の桜は綺麗と言っていたし、やっぱり神社だろうか。今年の春はきっと短い。だから急がないとだね。
「忘れていたけれど、これでこの異変も解決したのよね……だからあんた、ちゃんと宴会を開きなさいよ? お酒や料理も用意して」
「ふふっ、わかっているわよ。二日後の夜に開かせてもらうわ。場所は……神社で良いのよね?」
此処の桜も綺麗だけど、もう見ちゃったしなぁ。それならまだ桜を見ていない神社でお花見したいよね。きっと前みたく素敵な宴会となってくれるはず。
レミリアたちや紫も来てくれるかなぁ。
「さて、それじゃあ帰りましょうか。浅葱、行くわよ」
あ~……ん~……そっかぁ、霊夢と帰るのかぁ。
「どうしたのよ?」
いや、だってさっき霊夢、色々言っていたじゃん。私の泣き顔が好きとか、首輪が、とか……別に霊夢のことは嫌いになってはいないけれど、ちょっとそう言うのは困るかなぁって思うのです。
意地悪されるのは好きじゃあないもの。意地悪されたら私は直ぐに泣いてしまうから。
「……私に意地悪しない?」
「するわけないでしょ」
「でも霊夢、私を泣かせてその泣き顔が好きとか言ってたじゃん。ちょっとそれは困るかなぁって思うんだ」
そりゃあ私だって博麗神社でお花見して宴会をしたいけれども、なんか霊夢怖い。意地悪されたら私じゃどう仕様も無いし。
「えっ? いや、あ、アレはほら。違うのよ。別にそんないつも浅葱を泣かそうとか思っているわけじゃなくてね。大丈夫、大丈夫よ」
急に慌てだした霊夢。こりゃあ怪しいぞ。
それによくよく考えれば、別に私は博麗神社にいる意味はないんだよね。あの神社の空気が好きだから過ごしていたけれど、そこまで拘る必要だってない。
「ふふっ、それならうちで暮らしてみる?」
幽々子がぽそりと提案してくれた。
おおー、それは悪くないかもしれない。意地悪されることもあるけれど幽々子のことは好きだし、此処の空気も嫌いじゃあない。
「それはダメ!」
いきなり霊夢が叫んだ。そしてそのまま抱きしめられた。
滅茶苦茶びっくりした。驚いちゃうのでやめてください。
でもなんでダメなんだろう? 確かに幽々子には意地悪されたけれど、普段の幽々子は良い人だよ?
ん~……良くわからないけれど、霊夢がそこまで言うのなら、今まで通り神社で生活しようかな。あの縁側に座ってのんびりすることにしよう。
「う~ん、幽々子には悪いけれど、今まで通り神社で生活することにするよ」
「そう……それは残念ね。でも暇な時はいつでもいらっしゃい。せっかく貴女が起きてくれたんだもの。今度紫と一緒にお酒でも飲みましょ?」
うむ、そりゃあ良い。もう春になったのだから紫だってそろそろ起きてくれるはず。そしたら三人で楽しくしようじゃあないか。
「うん、近いうちにまた来るよ」
「ええ、待っているわ」
これでまた楽しみが一つ増えてくれた。
楽しみがあるって言うのは、凄く素敵なことだと私は思うんだ。だってそれがあるだけで、もう少し頑張ってみようと思えるから。
私と幽々子と紫の三人で仲良く宴会。そんな楽しげな未来のことを考えると、嬉しそうな声はやっぱり私の口から溢れてくれた。仕方無いね。楽しみだもの。
「それじゃ、またね幽々子」
「ええ、また。私の大切な人」
ようやっと、長い長い冬は終わってくれたみたいです。
良い季節になったねぇ。
――――――――――
『どうして君はそんなに悲しそうな顔をしているんだい?』
『記憶が無いのよ。自分がどんな人物で、どんな性格で、どんなことをしてきたのかわからないの。どんなに明るく振舞っても、まるで自分じゃないみたいで、不安で、不安で、そんなものに押し潰されそうで……』
白玉楼から飛び立ち、小さくなってしまった二つの影。
西行妖を咲かすことはできず、眠っている人を起こすこともできなかったけれど、今日は良い出会いがあった。それは懐かしく、大切な人との再会。それが嬉しくないはずはない。
そんな大切な人と、もう少しで一緒に生活することもできそうであったけれど……あの巫女のせいでそれも失敗に終わった。う~ん、やっぱり上手くはいかないものねぇ。
きっとあの子が紫の言っていた博麗の巫女とやらだろう。人間にしては異常なほどの実力。もう少しドライな性格と聞いてはいたけれど……どうやらそうではないらしい。
まぁ、ようは――まだまだ子どもってことかしら。
『ん~……うん? 良くわからないけれど、その“不安”ってのに押し潰されちゃあマズイの?』
『えっ、それはそうでしょ? だって押し潰されてしまったら、自分が自分じゃなくなってしまうように思える……のかな? えと、それよりも貴女は誰?』
浅葱に入れ込んでしまうのはわからないでもない。それほどに浅葱は魅力的な人なのだから。けれどもあの巫女は人間で、浅葱はそうじゃない。浅葱はまた眠ってしまうだろう。それも残酷なほど突然に。いつだってそうだった。眠ってしまった浅葱は決して起きてはくれない。それどころか眠った浅葱の身体は霧となって消えてしまう。
それは仕方の無いことで、どう仕様も無いこと。だから浅葱が眠ってしまったら私たちは彼女が起きるまで待つしかできないのだ。寿命の長い私たちならそれができる。
しかし、人間ではそれができない。あの子はそれに耐えることができるかしら? そんな不安があった。
いつ来るのかわからない別れ。けれどもそれは必ず訪れる。それも早ければ次の瞬間に。遅くとも数年後には。
ホント――上手くはいかないものね。
『私かい? 今は起きたばっかしだしなぁ……ふふん、私も記憶がないのだ。うん、君と一緒だね!』
『いや、誇らしげに言うことではないわよ? 貴女……変わっているわね』
そんないつ訪れるのかわからない別れ。だからできるだけ私は彼女と一緒に居たい。その残酷なほど少ない時間を大切にしたい。
『いんや、私は変わらないよ。いつまでも経ってもずうーっと同じだもの。そんな私のことよりもさ、君のことを教えて欲しいな。君はなんて言う名前なの?』
『……西行寺幽々子よ』
初めて浅葱と会った時のことを思い出す。
ふふっ、本当にいつまで経っても浅葱は変わらないわね。
『おおー、素敵な名前じゃあないか。私には“不安”だとか難しいことはわからないけれど、君にはそんな素敵な名前があるのだし、きっと大丈夫だよ。ふふん、私が保証してあげようじゃあないか』
『ふふっ、貴方に保証されてもねぇ』
変わらない人ではあるけれど、やっぱり浅葱は変わっている。
そんな浅葱に私は救われた。きっと貴女は気づいていないだろうけれど、貴女の言葉に、行動に、私は救われた。だから貴女のことも救ってあげたいのだけど……
『なんだぁ、素敵な顔もできるじゃあないか。うむうむ、君にはそっちの方が似合って……あいたぁ。んもう、何故叩く。びっくりするでしょうが。私は――』
さてさて、そろそろ妖夢を起こしに行ってあげましょうか。宴会は二日後。のんびりしている時間はあまりないのだし。
ふふっ宴会、楽しみね。
ちょっとだけ過去のお話を入れてみました
きっと色々とあったのでしょう
とりあえずこれで春雪異変は終わりにする予定です
やたらと登場人物が少なくなってしまいました
ちょっとだけ反省
さてさて、次は宴会でしょうか?