夢の続きは幻想郷で【完結】   作:puc119

19 / 29
拾捌話

 

 

「ね、ねぇ霊夢? その手に持っている物は何だい?」

 

 

 冬が終わり暖かくなりました。

 雪は消え、地面は久しぶりに白の化粧を落としてくれた。寒さに耐え、じっと我慢していた桜たちも一斉にその花を開き、この世界へ新しい色を加えてくれている。

 もうすっかり春ですね。

 

 

「何って……え~とほら、アレだ。浅葱のために作った装飾品よ」

 

 

 待ちに待ったこの季節。さよなら冬。次に会うのがいつになるのかはわからないけれど、ゆっくり休んでくださいな。

 久しぶり春。きっと君とは直ぐお別れになってしまうだろうけれど、ゆっくりしていってね。

 

 

「……ソレ首輪にしか見えない」

 

 

 明日は皆でお花見だ。

 きっと前みたく、沢山の人が訪れて皆で桜を見るのだろう。薄桃色づいたソレは私の心を掴んで放さない。それは皆だって同じなはず。

 そんな素敵ものに見蕩れながら、お酒を飲んで美味しい料理に舌鼓。花が開けば会話が咲く。きっとそれはいつの時代だって同じことだと思うんだ。

 

 

「い、いや、違うわよ? 決して首輪なんかじゃなくてね。えと……ほら浅葱の首が寒そうだったから、温めてあげようかと」

 

 

 人と花と料理とお酒と。

 春の宴会は素敵なものが沢山だ。

 

 そんな素敵なものたちのことを考えれば、やっぱり私の口からは嬉しそうな音が溢れた。

 仕方無いね。楽しみなのだから。

 

 

「……じゃあ、もう一つの手に持っているその紐は?」

 

 

 明日は皆で宴会。楽しみな楽しみな宴会。

 そんな楽しそうなことを考えてしまえば、いつもの私なら確実に違う世界へ旅立っていたはず。そうだと言うのに、今回はこの世界へ留まり続けている。

 だって、旅立っている場合じゃなくなったのだ。

 

 

「ああ、これはこの首輪に繋げようかと思って」

「やっぱり首輪じゃんか!」

 

 

 いつもの縁側へ寝転がり、全身で春の日差しを受けていた時だった。暖かい季節になってくれたねぇ、としみじみ感じていた時だった。

 ぴりりとなんだか嫌な予感がして、ちょっと億劫ではあったけれど顔を上げた。

 

 そして其処には、右手に何かの皮で作られた首輪、左手に長く丈夫そうな紐を持った霊夢が立っていた。今まで見たことがないくらいの本当に良い笑顔だった。

 突然の出来事に、最初は何が起きようとしているのかなんてわからなかったけれど、私にしては珍しく直ぐに理解することができた。こりゃあ素敵じゃないぞ、と。

 

 

「あっ、違うの。えと首輪じゃなくて――」

 

 

 私は騙されやすい性格らしいけれども、流石にこれには騙されない。あれは首輪で、あの紐はそれに付けるためのものだ。それはマズいのです。だって私は畜生なんかじゃあないもの。

 

 私じゃ霊夢に抵抗なんてできやしない。

 だから決めたのだ。うむ、逃げよう、って。

 

 速く動くのは好きじゃない私だけども、今回ばかりはちょっとだけ頑張ってぽてぽて逃げることにした。私の自由のために。

 

 でもね、ダメでした。霊夢さんって超速いの。

 

 逃げようとした私の腕を掴まれ、そのまま縁側へ押し倒されました。ああ、困った。これは困ったぞ。抵抗する力なんてない私には、こうなってしまったらもうどう仕様も無い。もうできることは一つしかないもの。

 

「ふふっ、捕まえた」

 

 なんで霊夢はそんなに良い笑顔なの?

 そんな良い笑顔の霊夢の顔もぼやけ始めた。私の二つの目にはじわりじわりと水滴が貯まって、もう直ぐにでもそれは溢れ始める。仕方無いね。貯めることなんてほとんどできないもの。

 

「大丈夫よ。怖がる必要なんてないから……ね?」

 

 泣きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「なぁ、霊夢」

「うん? なによ魔理沙」

 

 終わらない冬がいつの間にか終わった。近所に住む人形使いを伸して、さて上でも目指そうかと思っていたら急に暖かな風が吹き、春が訪れた。

 詳しくはわからないが、どうやら今回の異変も霊夢と浅葱が解決してしまったらしい。つまり、私はまた先を越されてしまった。

 

 まぁ、そんな終わってしまったことはもう良いのだ。異変の後は宴会。こんなにも綺麗な桜が咲いているのだから、騒がなきゃあもったいない。人間も人外も合わせて皆で騒ぎまくる。それが宴会ってものだろう。

 そんな騒がしい宴会なはずなのに、ボーっとただただ満開となった桜を見つめている奴が一人いた。ソイツはこの異変を解決した主役の一人で、誰よりもこう言う騒がしいことが好きな奴なはず。

 そうだと言うのに、ソイツは一人でボーっと桜を見つめていた。

 

「どうして浅葱は元気がないんだ?」

「さぁ? う~ん、少し意地悪し過ぎたかしら。でも、ああでもしないとまた危ない所へ……」

 

 ……ああ、うん。なんとなくわかった気がする。たぶん霊夢のせいだろう。何をしたのかわからないけれど、やめてあげろよ。そのうちアイツ逃げ出すぞ。

 っと、アレはなんだ? 見覚えはないけどれ。

 

「浅葱って首にあんな首輪みたいな物を付けていたか?」

「昨日私が付けてあげたのよ。浅葱は泣いて嫌がったけど。でも良いの、そんな浅葱も可愛いから」

 

 鬼か。

 ホントに逃げ出すぞ。ああ、そのための首輪か。どうせただの首輪じゃないのだろう。完全に逃げ道を潰されている。

 

 なんだかなぁ、確かに浅葱は面白い奴ではあるけれど、霊夢が此処まで入れ込んでしまうことが良くわからない。私も浅葱と一緒に生活してみればわかるだろうか?

 

 さて、せっかくの楽しい宴会だと言うのに、あんな調子の奴がいては少々寂しい。いつもの調子に戻ってくれないかねぇ。

 

 それにしても――

 

「浅葱も落ち込むことがあるんだな」

「そうね。いつもなら直ぐにあの笑顔をしてくれるのだけど……どうしてかしら?」

 

 どう考えても首輪のせいだろ。外してあげれば良いのに。

 はぁ、仕方無い。此処は魔理沙さんが浅葱のために頑張ってみようじゃないか。

 

 

 

「よぉ、どうしたんだ? 元気ないみたいだけど」

 

 浅葱の所へまで行き声をかける。

 なんとかいつもの調子に戻ってはくれないだろうか。

 

「おおー、魔理沙じゃあないか。おっすおっす」

 

 いつも浅葱のセリフ。けれどもいつもと比べ、やはり元気がないように見える。首輪を付けられたことがよっぽどショックだったんだろうな……ペット扱いされるの嫌がってたし。

 

「おう、魔理沙だぜ。んで、浅葱はどうしたんだ?」

「今日はねぇ。宴会なんだ。だから色々な人が集まっているんだよ」

 

 ……うん、知ってる。てか、色々な人を集めたの私だし。

 

 浅葱は独特なテンポで話す。それにイラつくことはないけれど、どうにも此方の調子を崩される。

 

「それでね、私は桜を見ていたんだ。やっぱり桜は咲いていた方が綺麗だねぇ」

「そりゃあ、そうだろ。でも今は宴会なんだ。一人で咲いた桜を見ているだけじゃあつまらないぜ?」

 

 それに浅葱は此処に住んでいるのだから、桜なんていつでも見られるだろうに。けれども宴会を楽しむことができるのは今だけだ。それを楽しまないんじゃあもったいない。

 

 

「ううん。一人でじゃあないよ? 楽しくお喋りしたり、一緒にお酒を飲んだりしていたもの」

 

 

 あら? いやどう見ても浅葱は一人だったが……何を言っているんだろうか。

 ん~……浅葱は何を言っているのかわからないことが多い奴だしなぁ。今回もそういうことなのかな。それに私が勘違いしていただけで、浅葱も楽しんでいたのか? でも落ち込んでいたように見えたんだよなぁ。

 

「良くわからんが……まぁ、もう少し騒がしい方へ行こうぜ。料理だってなくなっちゃうしさ」

「おおー、そりゃあマズい。早く行かねば」

 

 そう言ってから浅葱はぽてぽてと境内の中心へ走っていった。

 なんだったんだ?

 

 う~ん、良くわからないけれど、浅葱も元気っぽそうだし良しとしよう。

 

 

 

 この時の私は気づくことができなかったけれど、どうやら次の異変兆候は既に見え始めていたらしい。

 桜と酒の香りに紛れた一つの香り。薄く薄く広がっていたそれに気づいていたのは浅葱だけだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。