夢の続きは幻想郷で【完結】   作:puc119

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廿話

 

 

「浅葱ー、あんたもお茶飲む?」

 

 あれだけ見事に咲いていた桜も一斉に散ってしまい、今はもう青い葉しか残っていない。

 冬が長かったせいで、やっぱり今回の春は短かった。それは少し寂しいことであるけれど、私になりに今回の春は充分楽しめたと思うから良しとしよう。

 博麗神社では何度もお花見をした。幽々子や紫とも一緒にお花見ができた。うん、それだけできたのなら充分だ。

 

「飲むよー」

 

 春が終わった。そうなると次に来る季節は夏となる。つまり、またあの暑い季節がやって来る。

 けれどもそんな暑い季節の前に、梅雨ってのがあって今回もどうやら梅雨はあるらしい。梅雨。それはしとしと、しとしとと雨の降り続ける季節。

 

 寒くもなく、暑くもない過ごしやすい季節。そんなこの季節は雨音に耳を傾けながら、のんびりのんびりと過ごすのだ。

 いつもの縁側へ、いつものようにくたりと横になってしとしとと降り続ける雨の観察。雨音は何処か心地良く、なんとものんびりしてしまう。でも仕方無いね。そう言う季節だもの。

 

「最近はずうっと雨ね……」

 

 くたりと横になっていた私の隣に霊夢が座った。

 またわしわしされるんだろうなぁ。とは思ったけれど、まぁ、別に嫌いではないからそれくらいは受け入れようじゃあないか。私は心が広いのだ。

 

「霊夢は雨嫌いなの?」

「嫌いってわけじゃないけど、雨が降っていると洗濯物ができないでしょ? 境内の掃除をしなくて良いから楽ではあるけれど」

 

 雨が降っていても境内の掃除はしないといけないんじゃないかなぁ。でも霊夢は物臭だしね。

 それにしても、そっか。雨が降っていては洗濯物ができないよね。だって乾いてくれないもの。むしろ雨のせいで余計に服が濡れちゃう。

 

 服かぁ……そう言えば、私も霊夢と同じ服を着てみようと思ったことがあった。私が霊夢と同じ服を着たいと言ったら霊夢は喜んでくれたけれど、私と霊夢じゃ大きさは違うし、晒しの巻き方もわからないから諦めた。

 

「はい、お茶」

 

 ありがとう。

 のそのそと起き上がり、霊夢からいただいたお茶をずずりと啜る。熱いし渋い。でもそれが美味しい。

 お茶を啜りながら、のんびりと空から落ちてくる雨を眺める。君はよく降るねぇ。そんなに降っていたら大変じゃあないかい?

 

 はてさて、今日は何をして過ごそうか。このままのんびりしているのも悪くはないのだけど、それは昨日やってしまった。博麗神社に人が訪れるとも思えないし……

 う~ん、何処かへ出かけてみようかな。せっかく雨が降っているのだ。何か変わったことだってあるはず。

 

「霊夢。私はお出かけしてくるよ」

「うん? 何処へ行くの?」

 

 何処へかぁ。それは決めていないんだよね。また紅魔館へ行っても良いけれど、この時間はレミリアもフランドールも寝てしまっている。それじゃあ少々つまらない。幽々子の所へも行ったばかりだし……

 

 ふむ、今は梅雨か。梅雨と言えば――

 

「ん~……紫陽花を探しに行ってくるよ」

 

 今の季節ならきっと綺麗に咲いてくれているはず。雨と紫陽花なんとも風流じゃあないか。

 

「わかったけど、危ないことはしちゃダメよ?」

「うん、できるだけ頑張ってみる」

 

 頭をわしわしされながら霊夢にいつものことを言われた。

 危ないことは私も嫌いだ。でも、どう仕様も無い時もあるのだ。私は頑張っているんだけどなぁ。

 

「それじゃあ――行ってくるね」

 

 紫陽花、咲いていてくれると良いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「あらぁ、君は一人ぽっちなんだね。寂しくはないの?」

 

 博麗神社を出発し、地面へできた水溜りを踏み遊びながらぽてぽて歩くこと数時間。山の始まりのような場所に、ぽつねんと咲く紫陽花を見つけることができた。

 

 淡い薄青色の萼。私の名前は浅葱だから君と同じ色だ。そんなことが少しだけ嬉しかった。

 

 未だに振り続ける雨。それらによってできた水滴が紫陽花へくっつき、いくつもの粒を作る。きっと君は雨が好きなんだろう。だから毎年この梅雨の時期に咲く。私も雨は嫌いじゃあないけれど、君ほど好きではないかなぁ。

 

 

「別に寂しくはないそうよ」

 

 

 そんな声が急に後ろから聞こえた。超びっくりした。本当にやめてください。

 あのね、声をかけるときはね。

 

『はいじゃあ、今から声をかけますよー』

 

 とか言ってもらわ……ああ、ダメだ。結局いきなり声をかけられることになる。

 

「一人なのに寂しくないの?」

「この子はそう言っているわ。だってその子は今までずっと一人で生きてきたんだもの」

 

 そっかぁ、君は一人でも寂しくないのか。でも私は一人じゃ寂しくなってしまう。私もずっと一人で生きて来ていれば、一人でも寂しくなかったのかな。

 きっと君は強いんだね。でもそれは、やっぱり悲しい気がする。

 

 後ろを振り返り声をかけてきた奴を確認。其処には癖のある緑色の髪に傘を差した人がいた。

 あら? この人は見覚えがある気がするぞ。ん~……何処であったんだったかなぁ。

 

「随分と久しぶりね。それで貴女はこんな雨の中、傘も差さずに何をやっているのかしら?」

「私はね、紫陽花を探しに来たんだ。だって梅雨と言ったら紫陽花だから」

 

 傘を差してしまったらせっかくの雨を遮ってしまうもの。それじゃあもったいない。だから私は傘を差さないで雨を楽しむ。

 そして見つかったのが一人ぽっちのこの紫陽花。うむうむ、こんな雨の中咲く紫陽花はやはり綺麗じゃあないか。

 

「えと、それで……君は?」

 

 さてさて、今問題なのはこの目の前にいるのが誰かと言うことだ。彼方は私のことを知っているらしいけれど、私は彼方のことを忘れてしまっている。

 

「あら、もしかして私のこと覚えていないの?」

「うん、忘れちゃった」

 

 ちょっと意地張ってみようかとも思ったけれど、どうせすぐバレちゃうしやめておいた。はてさて、君は誰だい? 顔は覚えているのだから、それなりにお話したこともあると思うんだけどなぁ。

 

「そう、もう忘れてしまったのね……」

 

 下を向かれてしまった。

 ああ、ごめんね、ごめんね。私は記憶力が残念だからどうしても忘れてしまうんだ。できるだけ覚えていようとは思うんだけど、一度寝てしまうと色々なことが頭の中から消えてしまう。

 

「えと、えとでもね、名前を教えてくれれば思い出すんじゃないかなぁって思うんだ」

 

 もしかしたら、それでも思い出さないかもしれないけれど、思い出すかもしれない。だから君の名前を教えて欲しいな。

 

「いえ、今はやめておくわ。そうね、夏になってあの子たちが咲く時期にまた会いましょう。その時に教えてあげる」

 

 あらぁ、今は教えてくれないのか。あの子たちってのがどの子たちなのかわからないけれど、夏になったら教えてくれるんだね。

 そかそか、じゃあその時にまた聞くことにするよ。

 

 それまで起きていられるのかわからないけど。

 

「うん、じゃあまた会おうね」

「ええ、また会いましょう」

 

 そう言って緑髪の人は行ってしまった。

 う~ん、誰だったんだろうか。まぁ、夏になったら教えてくれるみたいだし、此処は良しとしよう。また会うその日が楽しみだ。

 

 そして気付けば私も一人ぽっちになった。

 やっぱり一人ぽっちはちょっと寂しい。私はこの紫陽花みたいに強くはないから。

 

「う~ん、そろそろ帰ろうかな」

 

 紫陽花も見ることができたし、誰だか思い出せはしなかったけれども素敵な出会いもあった。それだけあれば充分だろう。

 じゃあね、一人ぽっちの紫陽花。私は帰ることにするよ。

 

 そして紫陽花に別れを告げ帰ろうとしたとき、赤い花がちらりと見えた。

 

「おおー、躑躅も咲いているじゃあないか」

 

 紫陽花ばかりに気を取られていたせいで、全く気づかなかった。そして、よくよく見れば百合や都忘れなんかも咲いている。

 そっか、一人ぽっちと思っていたけれど、君は一人じゃあなかったんだね。確かに君の仲間はいない。でもこれだけいれば君だって寂しくはないだろう。

 

 やっぱり君は私と似ているね。私もさ、周りに仲間は誰もいないんだ。始めから一人だった。でも、色々な人が居てくれたら寂しくはなかったよ。自分の仲間はいなくとも、それだけ居てくれれば充分だもんね。

 

 

「あっ、見つけた。もう、傘を差していなからびしょ濡れじゃない。ほら、そろそろ帰るわよ浅葱」

 

 

 紫陽花が一人じゃあないとわかって、そんなことが嬉しくなっていたら、霊夢の声が聞こえた。そう言えば、毎回毎回どうして霊夢は私の居場所がわかるんだろう? 私だって自分が何処に居るのかわかっていないのに。

 う~ん、まぁ考えてもわからないか。

 

 さてさて、そろそろ帰るとしようかな。

 

 せっかくの雨を楽しみながら、のんびりと。

 

 






梅雨っぽいお話を書こうとしたらこうなりました
なんだかよくわからないお話でしたね

さてさて、ネタが尽きてしまったのでそろそろ異変を始めてもらうとします

これが最後の異変とならなければ良いですが、どうなることやら……
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