夢の続きは幻想郷で【完結】   作:puc119

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廿参話

 

 

 突然のできごとだった。浅葱が消えた。目の前から、一瞬で。

 

 さっきまで浅葱がいた場所に残っているのは、私があげたあの首輪だけ。

 

 なに? 何が起きたの?

 

 いくら集中してみても、浅葱の気配は全く感じられない。消える直前に浅葱は攫われると、見えなくなると言っていた。つまり、それは誰かが私の浅葱を攫っていったと言うこと。

 

 ――安心して。

 

 確かそんなことも言っていたと思う。

 安心……ねぇ。

 

 けれどもそんなこと、そんなことが……

 

 

「できるわけないでしょうがっ!」

 

 

 ああ、もう。どうして浅葱はいつも危ないことに巻き込まれるのよ。

 誰が浅葱を攫っていったのかわからない。けれども、誰かが攫っていったことは確か。博麗神社で、博麗の巫女の目の前で堂々と。舐められているようでそれが気に食わない。これは私に売られた喧嘩。

 妖怪だろうが、人間だろうが、神だろうが絶対に見つけ出してやる。

 

「今晩は。博麗の巫女」

 

 自分の勘を信じて飛び立とうとした時だった。そんな声を一人の妖怪からかけられた。ソイツは邪魔の時に居て、邪魔な時に居ないそんな奴。

 

「……紫。もしかして、あんたが浅葱を攫ったの?」

 

 いつも胡散臭い笑いをして、突然現れる。そんな紫は確かに怪しい。

 

「いえ、私ではないわよ。まぁ、そんなことより少し私とお話をしない?」

 

 ……滅茶苦茶怪しい。それに話なんかをしている場合でもない。紫が犯人なのかどうかはわからないけれど、怪しい奴はとりあえず倒す。いつだってそうしてきた。これからもそうやっていく。

 

 御札を取り出し、力を込める。

 

「ああ、浅葱なら大丈夫よ」

「……なんであんたが知っているのよ」

「だって浅葱に何かをできる奴なんていないもの」

 

 どう言う意味? 何かをできるって……

 でも今回はもう攫われている。何かが起きてしまっている。

 

「それに、浅葱が言ったのでしょ? 安心してって。そう言ったのだったら、それを信じてあげなさい。一方的に押し付けることだけじゃダメだもの」

 

 むぅ。一方的に……か。でもそんなことを言われても、浅葱のことが心配で仕方が無い。だってあの子は直ぐに泣いてしまうから。それにこの消えない妖気。良い予感なんて全くしない。

 

「……じゃあ、どうすれば良いのよ?」

「二日後にある宴会まで我慢しなさいな。あの言葉を信じてあげても良いんじゃない?」

 

 浅葱のことを信じる、か。そう言えば、今までは私から押し付けるばかりだった気もする。でも、留守番してるって言っておきながら、何処かへ行っちゃったりしたことがあったのよね。だから私はあの首輪をつけたのだけど……

 あれ? やっぱり信じちゃダメじゃない? いや、でも信じる、か……う~ん、モヤモヤがなくならない。

 

「はぁ、わかったわよ。此処で待ってる。それで良いんでしょ?」

「ええ、それが素敵なことだと思うわ」

 

 正直、不安だらけだ。

 けれども、もう一度浅葱の言葉を信じてみようと思う。

 

 

 

「……ねぇ、霊夢。浅葱は素敵な人だから貴女が気に入るのもわかるわ。でもね――」

 

 ぽそりぽそりと紫が言葉を落としだした。

 浅葱のことねぇ……

 

「わかってるわよ。消えちゃうんでしょ。アイツ」

 

 そんなことくらい、私だってわかってる。あの冬の日に感じたあの感覚は、きっと間違いなんかじゃないのだから。真っ白な雪の中に溶け込み、そのまま消えてしまうんじゃないかってあの時は思った。

 ただの勘違いであってほしい。でも、きっとそうじゃない。それくらいのことはわかる。

 

「聞いていたの?」

「聞いてなんかないわよ。でも、浅葱とずっと一緒に居られるはずがないもの」

 

 ああ、なんだ。やっぱり浅葱は消えちゃうのか。

 そっか。そうだよね……

 

 私には、浅葱がいつ消えてしまうのかなんてわからない。

 

 けれども、だからこそ――浅葱と一緒に居られるこの短い時間を大切にしたい。

 

 そう言うものでしょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「え、えと、その浅葱?」

「ん~? どうしたの?」

 

 私は攫われてしまいました。こりゃあ大変だー。

 

 ふふっ、な~んてね。

 

 どうして攫われたのかは良くわからないけれど、でもまぁ、きっと色々な意味があるのだろう。

 

「攫っておいた私が言うのもおかしいけど、もうちょっとこう……攫われた人っぽくはしないの?」

 

 そんなこと言われても、攫われるなんて初めてのことだからどうして良いのかがわからないのだ。だから私はいつものようにくたりと横になっているところ。

 今、私がいるのは博麗神社の屋根の上。くたりと横になると、ごつごつとした瓦が身体にあたってちょっと痛い。でも私は我慢します。だって私は攫われてしまったのだから。

 

「そうだなぁ……。じゃあ萃香、私はどうすれば良いと思う?」

「う~ん、そう聞かれると私もわからない」

 

 そっかぁ、萃香でもわからないのかぁ。じゃあ仕方無いね。

 

 私がさっきまでいた場所を見てみると、霊夢と紫が何かを喋っていた。霊夢のことだから、私が消えたら暴れちゃうんじゃないかとも思ったけれど、どうやら暴れてはいないみたい。うむ、良いことだ。

 私も心配しなくて良いよ。とは言ったもののやっぱり不安だった。でも、どうやら大丈夫っぽい。もしかしたら紫が何か言ってくれたのかな?

 

「浅葱もお酒飲むかい?」

「おおー、いただくよ」

 

 うむうむ、次の宴会までまだまだ時間はあるし、ゆっくり楽しむとしよう。

 

 萃香のおかげで、霊夢から私たちの姿は見えていないはず。でも、それもいつまで続くのかな? 確かに霊夢はまだまだ子供だ。けれど、霊夢は強いしなぁ。きっと萃香だって見つけちゃうだろう。

 

「そう言えばさ、どうして萃香は私を攫ったの?」

「んー? そりゃあ私は鬼だから攫わなきゃマズイだろう?」

 

 何言ってんだろ。意味わかんない。

 う~ん、でも確かに鬼は人間をよく攫うし、そう言うことなのかな?

 

「私以外の奴じゃあマズかったの? ほら、霊夢とか」

「ああ、博麗の巫女か。やってみようとはしたんだけどさ。何故かできなかったんだよ。それで仕方無く浅葱を攫った」

 

 あらぁ、そうなのか。どうしてだろうね?

 ちびちびと萃香のお酒を飲みながら、霊夢を見てみる。あの子は不思議な子だ。もしかしたら何かしらの特殊な力とかがあるのかもね。

 

「それにしても、博麗の巫女も情けないじゃあないか。こんなに近くにいるのに、私の存在に気づかないなんてさ」

 

 そりゃあ、だって萃香が薄くなっているのだから仕方無い。この宴会を開かせているのが萃香だって気づいているのは、紫と幽々子くらいだもの。レミリアもおしいけれど、“鬼”の存在を知らないから、やっぱり萃香のことには気づかない。

 

「気づいて欲しいの?」

「えっ? いや、そうじゃないけど……ほらやりがいがないだろう?」

 

 ふふっ、君は寂しがり屋だもんねぇ。本当は気づいてもらいたいんだろう。だから私を攫ったりしたのかな? 皆から忘れられちゃったら寂しいもの。あの鬼たちが地上へ戻ってくるとは思えないけれどさ。

 

 うむうむ、やっぱり此処は大人な私がこの寂しがり屋のために一肌脱ごうじゃないか。

 まぁ、できることなんて話相手くらいしかないんだけど。

 

「浅葱はいつ会っても変わらないねぇ」

 

 そりゃあそう言う存在だもの。私は変わらないさ。

 

 でもねぇ、皆は変わるんだ。

 君が思っている以上に人間は強くなったんだよ? 確かに霊夢はまだまだ子供。だから情けないと思うところもあるかもしれない。でもね、あの子はすごいよ。きっと萃香を止めることができるのは、霊夢だけだろう。そんなあの子を君だって気に入ると思うんだ。

 

 もう一度、霊夢の方へ視線を向けると、目が合った気がした。

 まぁ、気のせいなんだけどさ。

 

 紫に向かって手をぶんぶん振ると、そっと右手を挙げて私のぶんぶんに返事をしてくれた。うむ、満足。

 

 

 さてさて、頼んだよ博麗の巫女。この寂しがり屋の子鬼をどうか救ってあげてくださいな。

 

 






どうにもほのぼの成分が不足気味
増やしていきたいものです

では、次話でお会いしましょう
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