茹だるような暑さに飽き飽きして、フラフラと出かけてみた。
迷いの竹林なんて呼ばれている此処に普通、人は訪れない。何処までも変わらず、ただただ竹ばかりが景色。さらに厄介なことに竹の成長は早く、場所を覚えることなんてできやしない。
それでも、まぁ、流石に私は覚えたけど。
だってもう、数百年も此処に住んでいるのだし。
けれども、他の奴らは違う。此処は、一度入り込んでしまえばなかなか出ることのできない場所。だから此処に人なんていない。そう思っていた。
「あらぁ? 初めて見る顔じゃあないか。君は此処に住んでいる人かい?」
そんな声をかけられた。
この竹林には私以外に住んでいる奴もいる。いるにはいるが……ソイツは見たことがなかった。誰だろう、コイツは。それに何をしにこんな場所へ?
「……ああ、そうだよ。此処に住んでいるんだ」
「おおー、そうだったんだ。でも此処は竹ばっかりだね。そんな場所で君は飽きないの?」
正直に言うと飽きている。
飽きてはいるけれど、人が訪れないこの場所は私にとって心地良い。それに此処にはアイツがいるし。
「いや、別に飽きてはいないけど……それより、お前は何をやっているんだ?」
「ん~? 私かい?」
ソイツの第一印象は変な奴。
だって――
「うん。えと、どうしてお前は埋まっているんだ?」
たぶん、あのいたずら好きの兎が仕掛けた落とし穴だろうけど、それへ見事に嵌っていた。
ホント、なにやってんだろ。
「それがねぇ。私もどうしてこうなっちゃったのかなぁ。って思っていたんだ」
……ああ、そうかい。そりゃあ大変だな。
しまったなぁ。なんだか面倒な奴と出会ってしまった。
その落とし穴に肩下まで嵌り、完全に動けなくなっている奴の見た目はただの少女だった。妖力を感じないし、たぶん人間だろう。まぁ、霊力だって感じないけどさ。
助けてあげた方が良いよなぁ。
この場所でもたまに妖怪は現れる。そんな妖怪にとって、コイツは格好の獲物。だってコイツ動けなそうだし。
「あー、出られそうか?」
「ん~……此処は同じ景色ばっかりだからなぁ。ちょっと大変かも」
いや、この竹林からって意味じゃなくてだな。その落とし穴からって意味なんだけど……
てか、それくらいわかってよ。
「そうじゃなくて、お前が嵌っているその穴から出られるかってこと」
「おお、そう言うことだったのか。ちょっと待ってね。やってみるから」
そう言ってソイツは、うんしょえいしょ。言って手をバタバタさせた。ああ、ダメだこりゃ。絶対出られないわ。
変な奴だなぁ。
「どう? 出られそう?」
「まぁまぁ、慌てなさんな。この浅葱さんにかかれば、穴の一つや二つくらい余裕ってものだよ。ふふん、私の力を見せてあげようじゃあないか」
どうやらソイツの名前は浅葱と言うらしい。
そしてその自信は何処から湧いた。明らかに詰んでいると言うのに。
「ん~……ん~? うん? ちょ、ちょっと困ったぞ」
「どうした?」
「あのね、困ったことにこの穴から出られないんだ」
うん、でしょうね。
ああ、漸く自分の状況がわかってくれたか。もし私が此処に来なかったら、浅葱はどうなっていたんだろうな。まぁ、流石に一人でも気づくか。普通なら落とし穴へ落ちた時に気づくものだけど。
「まぁ、そうだろうな。其処までしっかり埋まっていちゃ出られんだろ。助けようか?」
「そうなんだよねぇ。こりゃあ困ったぞ」
いや、話聞けよ。助けてやるって。
そして浅葱はまた手を使ってバタバタやり始めた。なんだかなぁ……どうにも調子が狂う。
暫くの間バタバタしていたが、諦めたのかその手を止め、くたりと浅葱は前へ倒れた。
私はその間、ただただその様子を見ていた。
「もう、どうとでもしてください……」
どうやら完全に諦めたらしい。
いや、頑張れって。
「えっと、だな。だから助けようか?」
「うん? 誰がだい?」
顔を上げ、浅葱が聞いた。
私がに決まっているでしょうが、他に人なんていないし。
「私がだよ」
「なんと、もしかして君が助けてくれるのかい? そりゃあ嬉しいよ。ふふっ、君は優しい人だね」
曇り一つない純粋な笑顔。素直すぎる言葉。
汚れた私にそれはちょっと眩しかった。こう言うのは苦手だ。
浅葱の両手を持ち、上へ引き上げる。すると予想以上に軽く穴から引き出すことができた。これなら自力でも出られたんじゃないか?
「おおー、やっと、やっと出ることができたぞ。ありがとう。やっぱり君は優しい人じゃあないか」
そう言ってまたあの純粋な笑顔を向けられた。
私のような奴が優しい人、か。そんな存在じゃないんだけどな……
「……それより、お前はこんな場所で何をやっていたんだ?」
筍が取れるような季節でもないし、此処へ来る理由がわからなかった。此処は面白い場所じゃない。力のない奴なら特に。
「私はね。あの子たちを探しに来たんだ。でもねぇ、これがなかなか見つからなくて困っちゃったよ」
「あの子たち?」
何のことを言っているんだ? もしかしてアイツらのことか? いやでも、アイツらが此処に住んでいると知っているのはおかしいしそれは違うか。
じゃあ、何のことだ?
「約束したんだ。また会おうって。でもねぇ、私にはあの子たちがわからないから、ぽてぽてと探しているところ。君はあの子たちが誰なのか知っているかい?」
「いや、私にもわからないな」
そもそもヒントが全くないのだし、わかりようがない。
それに浅葱の言葉が足りないせいで、何を言いたいのかすらもわからない。
「う~ん、まぁそうだよね。じゃあ私は探しに行くよ」
そう言って浅葱は私に手を振ってから、ぽてぽてと歩き出した。
ああ、こら待て。そっちに行くとまた落とし穴が……
「おおぅ? な、なんだこれは? 落ちた。落ちたぞ」
んもう、言わんこっちゃない。どうして学習しない。
はぁ……ホント面倒な奴と出会っちゃったなぁ。
――――――――
こうね、ずぼっといきました。
歩いていたら急にずぼっといったんだ。
せっかく優しい人から助けてもらえたのに、また落ちてしまった。
落ちたのだから私は上がらないといけないけど、しまったなぁ。さっきは助けてもらえたけど、今度は助けてもらえないかもしれない。だから私は自分の力で出る必要があるけれど……
「うおー、全く動かない」
こりゃあ、困ったぞ。
二つある手を一生懸命動かしてはみたけれど、私の身体はなかなか上がってくれない。
う~ん、これは気合を入れないとちょっと厳しい。
でもなぁ、どうやって気合を入れようか。
そうやって、うんうんと考えていたら、さっきの優しい人がまた私を助けてくれた。
わぁ、ありがとう。二回も助けてくれるなんて、君は本当に素敵な人じゃあないか。
「此処はな、そう言う落とし穴とかがいっぱいあるからもう少し気をつけてだな……」
そっかぁ、此処は穴がいっぱいあるのか。それはあんまり素敵なことじゃない。
でも私はあの子たちを探さないといけないのだ。だって約束したもの。また会おうって。はてさて、これは困ったぞ。
「とりあえず人里まで送ってやるから、違う場所を探してみな。たぶん此処にあの子たちはいないと思うし」
う~ん、やっぱりそうなのかなぁ。
約束した人も、もう少し教えてくれれば良かったのにね。私は頭が良い方じゃあないから、難しいことを言われるとちょっと困っちゃう。
あの子たちは人里にいるのかなぁ? でもあの人、妖怪だったしいない気がする。ただ、とりあえずこの竹林からは出たいなぁ。竹ばかりじゃあ飽きちゃうもの。
「うん、じゃあお願いするよ」
「はいよ。ほら、ついてきな」
うむうむ、やっぱり素敵な人だ。そう言う人は私も好きだよ。
ただ、君はアイツらと同じ匂いが少しだけするんだね。綺麗好きなアイツらと同じ匂いが。でも君は一人ぽっちだけど大丈夫?
私も死にはしないけど、直ぐに寝ちゃうからなぁ。一緒に居てあげることはできなそうだ。
――――――――
「ほら、着いたぞ。今度は危ないことをしないようにな」
「私も気を付けてはいるんだけどねぇ。どうにも上手くはいかないのだ」
気を付けているようには見えなかったが……まぁ、うん、アレだ。頑張れ。
「さて、それじゃあ私は帰るよ。お前も気をつけて帰りな」
はぁ、随分と強烈な奴と出会ってしまった。疲れはしたけれど、まぁ、暇は潰せたのだし良しとするか。
「うん、今日はありがとね。君のおかげで何度も助かったよ」
そう言って浅葱はまた笑った。
悪い気分ではないけれど、私みたいな奴がこんな純粋な笑顔を向けられても良いのかと、少し不安になる。
……ホント、素直になれない性格だよ。
また会おうね。なんて言ってぶんぶんと手を振ってくれる浅葱に軽く手を挙げて返事をする。
ああ、また会えたら良いな。
なんて私らしくもないことを少しだけ思いながら。
「またね。不老不死の素敵な人」
えっ?
今、私のこと不老不死って言ったか?
慌てて後ろを振り返える。
其処には無邪気に笑い、ぶんぶんと手を浅葱の姿。
ん~……気のせいかな。
浅葱、か。
結局、最初から最後まで変な奴だった。
けれども、まぁ、悪い奴じゃなさそうだ。
さて、なんだか今日は気分も良いし、アイツを殺しにでも行こうかね。
色々なキャラを書いてみたいとは思っています
思っているだけじゃダメっぽいです
もう少し日常編を続けます
では、次話でお会いしましょう