出会いは突然に訪れるもの。
だから、別れだって突然に訪れる。
私は永い時を越えて生きてきた。だからそんな突然の出会いや別れは何度も経験してきた。何度も何度も。
そんな突然のできごとに理不尽さを感じないでもなかったけれど、仕様が無いって自分の中で割り切ることにした。だってそうとでもしなければ、いつかおかしくなってしまうから。
そりゃあ私だって別れなんて訪れては欲しくはないけれど、アイツらは私の言うことを聞いてくれないから、やっぱり突然訪れる。そう言う急に訪れるものはやっぱり嫌いだ。
慣れることなんてない。
でも、私にはどうすることもできない。
だから今回の別れだって仕様が無いことなんだ。
――――――――
「暑い……」
「暑いねぇ」
萃香と一緒に二人していつもの縁側へくたりと横になる。
ひんやりとした縁側の床は気持ちよく、火照った私の体を冷やしてくれる。それでも、次第にひんやりはなくなってしまうから、もそもそと移動をしてまたひんやりとした場所を探す。
ホント、嫌になっちゃうくらい暑いね。
「それにしても……どうして当たり前のように萃香がいるのよ」
ずずりといつものようにお茶を啜りながら霊夢が言った。
君はよくこんな暑い日に熱いお茶を飲めるね。私は紫がくれたあの冷たい麦茶を飲みたいよ。
「なんだよぉ。私がいちゃあダメなのかい?」
寝転がり、お酒を飲みながら言葉を落とす萃香。
私ももう少し涼しくなってきたらもらおうかな。今は暑いから遠慮したいところ。
「はぁ、ダメって言ってもどうせ聞かないでしょうが」
霊夢はそう文句のような言葉を落としたけれど、別に萃香のことを嫌っているようには見えなかった。霊夢も寂しがり屋だからなぁ。きっと誰かがいてくれるのは嬉しいのだろう。
私はいつか寝てしまうから、その時は萃香にお願いしよう。
頼んだぞ、萃香。
私は萃香が居てくれた方が嬉しい。賑やかなくらいが好きなのです。
だから博麗神社も好きだ。此処は多くの人が訪れるからいつもいつも賑やかだもの。ちょっと昔はそんなことなかったらしいけどさ。
近くで蝉の鳴く声が響く。
みんみん、じーじーとちょっと喧しい。
でもそれは夏の音。
ああ、そっか。もう一年以上も私は起きているのか。
私にしては随分と頑張っている方だと思う。ずうっと昔は長い間起きていることができたけれど、どんどんとその時間は短くなっている。
けれど仕方が無いね。そればかりはどう仕様も無いのだから。それに私が寝ると言うことは……
う~ん、後どれくらい起きていられるのかなぁ。
そう言えば、夏にまた会おうと約束した妖怪の人とまだ会えていないや。
映姫が言うには夏を探して見ると良いと言っていたけれど、夏と言えばなんだろうか? 霊夢や萃香ならわかるかなぁ。
せっかく約束をしたんだもの、やっぱり会いに行きたいよね。
「ねぇ、霊夢」
「うん? どうしたの?」
――夏と言えばなんだと思う?
そう私は聞こうとした。
でも、どうしてなのやら私の口から音は出てくれやしなかった。
はふはふと空気は出てくれるけれども、その空気を揺らす波が出てくれない。
ああ、そっか。
もう時間なんだね。
遠くで蝉の鳴く声が静かに響いた。
その声はもう喧しくない。
う~ん、君はいつだて突然訪れるねぇ。
『はい、じゃあそろそろ時間ですよー』
とか言ってくれても良いのに。
そうすれば、いくらビッがりな私でも、ああ、もう時間なのかぁ。ってわかるもの。
まぁ、わかったところでどう仕様も無いことだってわかってはいるけれど。
「浅葱?」
それにしてもこりゃあ、困ったぞ。
だって、これで私が寝てしまえばもう霊夢と会うことはできない。私の寝る時間は人間にとってあまりに長すぎる。
だから霊夢だけじゃなく、魔理沙や咲夜とだってもう会えない。
それは悲しいなぁ。
何度も何度も経験してきたことだけど、やっぱり悲しい。
せめてお別れの言葉だけでも伝えようとしてみたけれど、やっぱり私の口から音は出てくれなかった。
「ど――た―よ。浅―?」
目蓋がちょっとずつ、ちょっとずつ重くなってきた。
薄れ始めた視界の先に、心配そうな顔をする霊夢と、悲しそうな顔をする萃香が見える。
う~ん、できれば一人静かに眠りにつきたかったなぁ。だって私はそう言う顔が好きじゃあないから。笑ってくれれば良いけれど、私が寝てしまう時に見る君たちの顔はいつだって笑顔なんかじゃあなかった。
それがどうにも苦手だった。
「ちょ――!――!!」
アレだけ五月蝿かった蝉の声は――もう聞こえない。
この世界は私が思っていた以上に素敵なものだったから、やりたいことがまだまだ沢山残っている。でもそれはもう終わり。
手、動かない。
足、動かない。
痛いところなんてないけれど、五体不満足。素敵なことじゃあない。
手足に力が入らない。声も出ない。音も聞こえない。景色も見えない。
それでも私はもう少しだけ頑張らないといけない。
直ぐに泣いてしまう私だけども、今回ばかりは泣かないようにしなければいけない。
大丈夫だって安心させてあげられるよう。笑わなきゃあいけないんだ。
それくらいしか私にはできないから。
笑わなきゃいけない。
でも私の身体は笑おうとしてくれなかった。
ふふん、それくらいはわかっていたさ。そんな私には慣れているから。
だから気合を入れてみる。そうすれば私の身体が動いてくれるかもしれないから。
ちょっとで良いんだ。ちょっとだけ動いてちょっとだけ笑ってくれれば良いんだ。
霊夢には沢山お世話になったから、返しきれないほどお世話になったから頑張って笑ってみる。君と出会えて良かったって私は心の底から思うことができる。
自分のためじゃあなく、こんな私を好いてくれた霊夢のために気合を入れる。
――力が湧いた気がした。
ふふん、騙されたな。
こうなれば私が勝ったも同然だ。誰に勝ったんだ? とか聞かれるとちょっと困っちゃうけれど、私は勝ったのだ。
少しだけ頑張ってみる。
少しだけ息を吸い込んでみる。
――そして私は最後の言葉を落とした。
「ありがとう霊夢。素敵な君と出会えて私は幸せだったよ」
視界は既に真っ暗だけど、ああ、良かった。声が出てくれた。
ふふっ。私は今、ちゃんと笑えているだろうか?
ゆっくりと身体の沈んでいく感覚がした。
もう少し起きていたかったけれど、私はもう充分楽しめました。だから良しとするのだ。
ホント、素敵な世界になったねぇ。
できれば次に私が起きた時も素敵な世界だったから嬉しいな。
そんなことを思いながら私は夢の世界へ旅立った。
読了、お疲れ様でした
これでこの作品は終わりにする予定です
モヤモヤ、フワフワしたまま完結です
たまにはこんな作品も良いかもしれません
あとがきは長くなりそうですので活動報告へ書かせていただきます