夢の続きは幻想郷で【完結】   作:puc119

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弐話

 

 

 この霧に、赤色を加えていると思われる人物の住む建物を見つけた。うん、見つけたのは良いんだけど……

 

 どうにも、あと一歩が踏み出せない。

 だって、こんな立派な建物へ入るのは怖いじゃあないか。そりゃあ、私だってこの赤い霧を止めてもらいたいけれど、怖いものは怖いのだ。もしかしたら優しい人かもしれないが、実は怖い人かもしれない。

 

 

「う~ん、どうしよう」

 

 

 どうにかして、また気合を入れなければいけない。先程は上手く自分を騙すことができたけれど、今度は失敗してしまう気がする。二度も上手くはいかないのだ。

 

 どうしたものかと上を見上げれば赤い月。

 

 ああ、そうか。今は夜なのか。

 それはちょっとマズい。普通の人は夜寝てしまう。この建物の中の人が普通じゃなければ起きているかもしれないが、その可能性は低そうだ。そんな寝ている所へ私が訪れてしまったら、怒られるかもしれない。

 

 

「それは嫌だなぁ」

 

 

 うむ、それは嫌だ。常識的考えて、訪れるのなら昼間に訪れるのが普通だろう。夜に訪れるのは泥棒とかそう言う類だ。私は泥棒じゃないから、やっぱり昼間にしよう。

 それに私はお願いをする立場。それなのに、夜になんて訪れたらきっと怒られる。

 

 うむ、うむ、仕方無い。昼間になるまで待つとしよう。

 

 そんな言い訳ができたため、やっぱり私はほっとした。

 

 

 

 

 

 

 

 沈んでいく赤い月を見ながら、何を考えるでもなくボーっとしてみる。湖から少し離れた所へ座り、ボーっとしてみる。

 早く沈んでくれないかなぁ。なんて思うけれど、ゆっくりしていっても良いんだよ? とも思ってしまう。だって、月が沈んでしまえば陽が昇ってしまう。陽が昇ったら私はあの建物の中へ行かなければいけない。

 

 う~ん、難しい問題だ。

 そもそも私は、あんな大陸にあるような建物は見たことがない。だから、もしかしたらあの建物の中の人は大陸の人かもしれないね。この国も変わってきたんだなぁ。

 

 でも、それで良いんだ。普通は変わるものだから。変わらないのは私だけで充分だ。

 

 

 

 

 私の起きた時間が遅かったおかげか、予想以上に夜は早く明けてしまった。東の空からは太陽が顔を出し始めている。や、久しぶりだね。

 

 

「霧、晴れてくれなかったなぁ」

 

 

 陽は昇り始めたと言うのに、相変わらず世界は赤のまま。明るい日差しのせいで、赤い霧はさらに目立つようになった。確かに明るくはなったけれど、これはこれで不気味だ。

 本当ならポカポカとした日差しを全身で受けたい。けれども、あの赤い霧がそれを邪魔してしまった。んもう、君邪魔だよ?

 

 さてさて、陽は昇ったんだ。だから私も行かなければいけない。

 

 どうにも気は進まなかった。でも、動かなきゃ何も始まらないのだから、少しだけ頑張ってみることにした。

 

 霧、晴れてくれないかなぁ。

 

 

 

 赤い建物は周りをぐるりと壁で覆われているらしく、まずはその壁の内側へ行く必要があった。立派な建物だもの、そりゃあ壁くらいはあるよね。

 

 壁伝いにぽてぽて歩いていると、門らしきものを発見。う~む、立派な門だ。

 門があると言うことは、やっぱり門番がいるもの。そしてこの建物も例に漏れず、門番らしき人物がその門の前に立っていた。

 私としては、できるだけ人と会いたくはなかったけれど仕方が無い。我慢、我慢。

 

 門番の人の容姿は、あの大陸にいる華人が着るような緑色の服に、長く赤い髪。そして頭にも緑色の帽子を被った少女だった。赤と緑。補色ってやつなのかな。

 

 それにしても困った。残念ながら私は大陸の言葉を話すことはできない。ほとんどの時間、この島国にいたもんね。仕方無いね。

 とは、言うものの私としてはこの赤い霧を止めていただきたいのだ。身振り手振りでなんとかやるしかないだろう。

 

 

 怪しまれないよう、できる限り柔らかな笑顔を作って門番さんへ近づく。

 

 そして、こう……なんとか私を建物中へ入れてくれないかを伝えるため、一生懸命手足を動かした。

 

 そうやってぶんぶんと手を振り、一生懸命伝えようとはしてみたが、門番さんは口をポカンと開け私を見ていた。どうやら私の思いは伝わってくれなかったらしい。むぅ、言語の壁はこんなにも厚いのか。

 

 はて、困った。どうすれば良いのか全くわからない。

 手足を動かすのを止めて、一度考えてみる。けれども、良い考えなどは浮かばなかった。困っちゃうね。

 

 

「え、えと……それは新しい太極拳か何かですか?」

 

 

 言葉通じるんかい!

 

 もう……この馬鹿者が! いや、どう考えても馬鹿者は私だけど、これは私も怒って良いと思う。ただただ私が勘違いしただけだけど、流石に私は怒って良いと思う。

 

 ――この馬鹿者が!

 

 そう心の中で叫んだ。

 ちょっとだけスッキリした。

 

 んもう、随分と恥ずかしいことをしてしまったじゃないか。それもこれも、きっとこの赤い霧がいけないんだ。私もちょっといけなかった気もするけれど、この赤い霧が悪い。そう思うことにした。

 

 

「えと、その……太極拳はもっとこう、ゆっくりと大きく動かした方が良いですよ?」

 

 

 いやいや、違うのです。私はただ言葉の代わりに手足を動かしていただけで、決して太極拳をやろうとしていたわけではないのです。そりゃあ健康に気を使いたい年齢ではあるけれど、別に太極拳で健康になろうとかではですね。

 

 しかし、其処は口下手な私の性格が影響し――

 

 

「あの……良ければ教えましょうか?」

 

「あっ、はい。お願いします」

 

 お願いしてしまった。

 

 この馬鹿者が!

 

 また心の中で叫んではみたけれど、今度はあんまりスッキリしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「うん、なかなか良い動きでしたよ」

 

 一通り太極拳をやり終えて、良い笑顔の門番さん。

 私はどんな顔をして良いのかわからなかった。笑えば良いのかな?

 

 門番さんから太極拳を教えてもらっている間――私なにやってんだろ……。なんて思わなくもなかったが、きっと考えれば落ち込むだけだから無心になって手足をゆっくりと動かした。

 きっとあの時の私なら悟りだって開けていたはずだ。いや、まぁ、それは流石にないけどさ。

 

「そう言えば、貴女はどんな用事があるのですか?」

 

 ああ、やっとこの話題だ。

 ホント、何をやっていたんだろうね……

 

「この赤い霧がさ、ちょっと怖かったから止めてもらえないかなぁ。って思ってお願いしに来たんだ」

 

 うむ、うむ。そうだ。そうなのだ。私の目的は最初からそれだけなのだ。太極拳は面白かったけれど、それよりも大切なことがあるはずなのだ。

 

「なるほど、そうでしたか。とは言え、それは困りましたね。私じゃ止めることはできないし、止めることのできるお嬢様も今は寝ているだろうし……」

 

 あらまぁ、そうなの?

 そりゃあ、間が悪い。そのお嬢様がどんな人なのかはわからないけれど、そっか今は寝ているのかぁ。

 

「夜になったら起きてくれそう?」

「はい、夜はお嬢様の支配する時間ですし」

 

 むぅ、なんだか怖い響き。でも、夜を支配するってどう言う意味だろう? 私は頭の良い方ではないから、難しいことはよくわからないです。

 

 う~ん、困っちゃったな。これじゃあ建物中へ入っても意味がないし……

 まぁ、夜になるまで待てばいっか。

 

「うんうん、了解。それじゃあ私も夜まで待つとするよ」

 

 そんな言葉を落としてから、門番さんの立っている隣へ腰掛けた。

 お嬢様かぁ……どんな人なんだろうなぁ。

 

「えっ? 此処で待っているのですか?」

「ああ、そうか。邪魔だよね。ごめんごめん。それじゃあまた夜に来るとするよ」

 

 そりゃあ、そうだ。門番さんはお仕事中なのだ。そんな時に私が隣で座っていたら邪魔だろう。

 

「あっ、そう言うことではなくて、紅魔館の……う~ん、ま、いっか。いえ、大丈夫ですよ。此処で待っていても」

 

 あら、そうなのですか? そりゃあ良いことだ。うむ、この門番さんは優しくて良い人だ。私はそんな君が好きだよ。

 

 そして門番さんの許可も得て、私は赤い世界で待つことにした。

 

 

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