待つことは別に嫌いじゃない。今までだって待つことは何度もあったから。
とは言っても、せっかく待ったのに相手が現れないと言うのは嫌いだ。だってそれじゃあ待っていた意味がないもん。でも、今回は大丈夫。相手はいてくれるのだから。
そんなことが少しだけ嬉しかった。
はぁ、それにしてもホントに赤いねぇ。真っ赤だよ。いつからこの世界は赤くなっちゃったのかなぁ。もしかしたら私が起きた日からかもしれないし、私が寝てしまった日からかもしれない。
けれども、それは私にはわからない。寝ていたもんね。仕方無いね。
「貴女は何と言う名前なのですか?」
うん? 名前?
ああ、私の名前か。
「ん~……ちょっと待ってね。今考えるから」
「えっ? 考える?」
名前、名前かぁ……そう言えばなんて呼ばれていたかな。
一番しっくりくる名前は“穢れ”だけど、それはちょっとやだなぁ。もっとカッコイイ名前や可愛らしい名前が良い。
はてさて、こりゃあ困っちゃうね。
「う~ん……ああ、そうだ。君はなんて言う名前なのかな?」
一緒に太極拳までやった仲だと言うのに、名前を聞いていなかったね。記憶力の残念な私だから忘れちゃうかもしれないけれど、起きているうちくらいは覚えていられると思う。
たぶん……
「私は紅美鈴です。今はこの紅魔館で門番をやらせていただいております」
あら素敵な名前ですね。いいなぁ、私もそんな素敵な名前が良い。
そかそか、この建物は紅魔館って言うのか。そっちはちょっと怖い名前だね。
う~ん、名前どうしよう。
何か名前を思いつく手助けになるものはないかと、周りを見回してはみたが、やっぱり世界は赤いっきりで何の手助けにもならなかった。
赤色はちょっと強いから嫌なんだよなぁ。かと言って緑じゃ味気ないし……それなら青? いや、確かに青色は好きだけどそれはやめておこう。私は変態じゃないのだから。
う~ん……よしっ、決めたぞ。
「ふふん、私の名前を発表しよう」
「えっ、あ、はい。どうぞ」
「浅葱。それを私の名前にするよ。緑より青く、青より淡いそんな色。どう?」
「はい、素敵な名前だと思いますよ」
そう言って美鈴は可愛らしく笑った。
ふふん、そうでしょう。そうでしょう。何せ私が考えた名前なのだから、素敵でないはずがない。
浅葱、浅葱……ふふっ、良い響きじゃあないか。うむ、今回の名前はこれにしよう。寝てしまったら忘れてしまうかもしれないけれど、覚えていたらまたこの名前にしよう。それほどに気に入ったのだ。
素敵な名前が決まり嬉しくなってしまったのか、それからのことはよく覚えていない。美鈴といくらかの会話をしたとは思うけれど、どんな話をしたのかなぁ。
まぁ、仕方無いね。嬉しかったんだもの。
「さて浅葱さん。そろそろお嬢様も起きたと思いますよ」
だから私がはっきりと覚えているのは、そんな言葉くらいだった。
ふと、周りを見ると確かに暗くなっている。ありゃあ、こんなに時間が経っていたのかぁ。むぅ、時が流れるのは早いものだねぇ。私みたいなのんびり者じゃあ追いつけやしない。
「そかそか、もうそんな時間だったんだね。うん、それじゃあ私はちょっと行ってくるよ」
素敵な名前が決まったことで、正直赤い霧のことは頭から消えかかっていたけれど、そうだそうだ。私はこの赤いのを止めてもらうために来たんだ。なんてなんとか思い出すことができた。だから美鈴には感謝です。
「はい、わかりました。それで、ですね……今日はちょっと騒がしくなると思いますので、どうかお気を付けてください」
うん? 騒がしくなるの? ふふん、でも大丈夫さ。私は騒がしいのも好きなのだ。お祭りとか素敵だよね。うむうむ、そりゃあなんとも楽しみだ。
きっと、お嬢様はお祭りが好きなのだろう。ふふっ、可愛らしい人じゃあないか。その人も美鈴みたく優しい人なら嬉しいなぁ。
美鈴と別れの挨拶を交わし、騒がしさに胸を膨らませ私は赤い建物の中へ入っていった。
――――――――
「わーっ、ごめん。ごめんなさい。ちょ、ちょっと待ってね。直ぐに行くから。ちょっと通りかかっただけだから」
こりゃあ、困ったぞ。
なんでかは全くわからないけれど、恐ろしい数の妖精に襲われてしまった。意味がわからない。
確かに、私は騒がしいのは好きだ。好きなんだけど……こう言うのじゃないんだよなぁ。
うきうき気分で赤い建物の中へ入り、うおーでけー。とか思いながらぽてぽてと歩いていたら急に襲われた。
建物は外も赤かったように、中も真っ赤でやっぱり目には優しくない。でも、そんなことは良いのだ。今は小さな問題。とにかく今は、襲いかかってくる妖精たちから逃げないと。
目の色を変え一対一など糞喰らえとでも言わんばかりに、人海戦術を用いて物量でのゴリ押し。仲間の妖弾を受け消えていく妖精ですらいる始末。
とんでもない所へ来ちゃったなぁ。
妖精などと言えば可愛らしいけれども、血走った目をして集団で襲いかかってくる様など恐怖でしかない。妖精怖いよ、妖精。
そもそも、どうしてこの妖精たちはこんなにも気性が荒いのだ? 彼らは自然そのものなはず。確かに多少のいたずらをすることはあるが、此処まで過激ないたずらは知らない。てか、これもういたずらとか言うレベルじゃないよね。
う~ん、やっぱりあの赤い霧が原因なのかな? 自然に影響されやすい彼らだ。其処に不自然な力が加わってしまえば、彼らも何かしらの影響を受けるのだろう。
さてさて、考え事をしている場合じゃないのだ。とは言ってもなぁ……どうすれば良いんだろう。
わーわー叫びながら一生懸命妖精たちから逃げている時だった。ぶっとい光の柱が私のすぐ上駆け抜けていった。
なに? 何事ですか? うわーん、さっきから何なのさ此処。
光の柱へ飲み込まれていった妖精たちは皆消滅。まぁ、でも直ぐに復活するだろう。妖精だし。
「おや、また新しい顔じゃないか。お前も此処の住民なのか?」
声をかけられた。
この理不尽な現実に半泣きになりながら其方の方を向くと、其処には箒に跨り白黒の服を来た少女が浮いていた。
「ううん、私は違うよ。この赤い霧を止めてもらおうと来ただけ」
ふむ、どうやらこの少女はこの建物の住民ではないらしい。う~ん、じゃあ何をしに来たのだろうか?
大きな黒い帽子、白色のエプロン。金色の髪。そして、箒。
これらからわかること。思い当たることは――
「ははーん、さては君、掃除をしに来たな?」
「いや、違うけど……」
違ったらしい。
う~ん、そうなると本当に何をしに来たのかわからない。
「んじゃあ、君は何をしに来たのさ?」
「私もお前と同じよう、この赤い霧を止めに来たんだよ」
あら、あらあら。そうでしたか。なんと、そんなことがあるのか。
そりゃあ、なんとも嬉しいね。
「おおー、そりゃあ凄い。私もこの赤い霧を止めてもらいたくて来たんだよ!」
「いや、うん。それはさっき聞いたぜ?」
――変わった奴だなぁ。
そんな声が聞こえた。
う~ん、どうだろうか。私は変わらない奴だと思うけれど……皆は変わっていっても私だけは変わらないのだ。
「お前。名前は?」
はい、よくぞ聞いてくれました。
それを待っていたんです。
ふふん、聞かれたのなら仕方無い。私の名前を教えてあげよう。この素晴らしい名前を君に刻み込んであげよう。
大きく息を吸い、気合を入れる。
「私の名前は「はぁ、貴方たちね。侵入者と言うのは。まったく……掃除が進まないじゃない」
わた、私の名前は……
浅葱って言います……
良い名前だと思うんだけどなぁ。
はてさて、何だか急に人が増えてきちゃったね。