夢の続きは幻想郷で【完結】   作:puc119

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捌話

 

 

 楽しかった宴会から数日ほど。

 今だあの時の興奮は抜けておらず、どうにもそわそわした何かが私の頭の中をぽてぽてと歩き回っていた。仕方無いね。楽しかったんだから。

 

 季節は夏真っ盛り。青々とした葉々の作られる木陰が嬉しい季節となった。

 暗い暗いあのじめじめした場所にいた時は、アレだけ恋しかった太陽光も今ばかりは恨めしい。

 

 

「暑いなぁ」

 

 

 そんなことを言ったところで仕様も無いが、やっぱり私の口からはそんな言葉がぽそりと落ちた。

 真上に昇った太陽は全てを平等に照らし続ける。そんなに頑張らなくても良いじゃないかなんて思うけれども、アイツは融通が効かないから仕様が無い。

 風でも吹かぬものかと期待はするが、そんなに上手くはいってくれないらしく今日は風のないひたすらに暑い日だった。

 

 

「暑いねぇ……」

 

 

 夏。それは暑い季節。けれども一番涼しい季節でもある。

 う~ん、水浴びでもしようかしら。でも、水浴びができる場所なんて知らないしなぁ……

 

 ホント、困っちゃうね。

 

「あんた、毎日うちにいるけれど暇なの?」

 

 縁側に寝転がり、木の床の冷たさの有り難みを全身で感じていると、ずずりとお茶を飲みながら霊夢がそんなことを聞いてきた。

 あの宴会が終わってからは毎日この神社にいる。レミリアから紅魔館に遊びへ来いとは言われたものの、よくよく考えれば紅魔館の場所がわからなかった。遮二無二歩き回るのも悪くはないけれど、こんな炎天下の中を歩く気にはなれない。暑いもんね。仕方無いね。

 だから紅魔館に行くのは、もう少し涼しくなってからにしようと決めた。だって赤色って見ているだけで暑くなりそうだもの。

 

「嫌だった?」

 

 嫌だって言われたらちょっと困っちゃう。博麗神社の縁側は冷たくて気持ちが良いのだ。日がなこうして、冷たい床を求めて這いずり回るのが私の最近の日課だ。

 

「別に嫌じゃないけど……」

 

 そりゃあ良かった。他に行く当てなどもないから、此処以外何処へ行けば良いのかわからない。できることなら紅魔館の近くにあったあの湖で、ゆらゆらと浮いていたいけれど、やっぱり私にはその場所がわからなかった。

 

「そっかぁ、それなら私はもう少し此処にいるよ」

 

 さてさてこの床も冷たくなくなってきたし、違う場所へ移ろうか。

 そして、ずりずりもそもそと違う場所へ行こうとしたら、霊夢に頭をわしわしと乱暴に撫でられた。何をする。

 

 少しだけ顔を顰め、霊夢を睨んで無言の抗議をしてはみたが、相変わらず霊夢はわしわしを続けた。

 最近、霊夢はこうやって私の頭をわしわしする。悪い気分ではないけれど、急にわしわしするものだから、やっぱり私はびっくりしてしまって、どうにも苦手だった。

 どうしてわしわしするのか霊夢に聞いても――

 

「なんとなくよ、なんとなく」

 

 としか答えてくれない。もう一度言おう、嫌な気分ではない。でもちょっと暑いかな。

 

 茹だる様な暑さのせいで抵抗する気にもなれず、そうやってひたすら霊夢にわしわしされ続けた。もしかして霊夢、私のことを畜生か何かと勘違いしてない? 私はそんな可愛らしい存在じゃあないんだけどなぁ……

 

 ああ、また今日もこうやって終わっていく。

 

 ボーっとした頭で、何処か嬉しそうに私の頭をわしわしする霊夢を見てそんなことを思った。

 

 

 

 

「こんにちは博麗の巫女」

 

 そんな声が聞こえると、私の頭をわしわしする霊夢の手が止まった。

 それは何処かで聞き覚えのある声な気もしたけれど、私はこの暑さに負けてしまっていたので、顔を上に上げることができず変わらず床へペトリと顔を付けていた。

 ああ、冷たくて気持ちが良い。

 

「あんたは確か……」

 

 そんな霊夢の声。

 誰だろうか? 此処数日はずっと博麗神社で過ごしているけれど、訪れたのは魔理沙だけだった。でも魔理沙の声じゃなかったよなぁ。

 

「楽しんでいるところ悪いけれど、其処で寝ているのをちょっと借りても良いかしら?」

 

 あら? それってもしかして私のことかい?

 しかし、借りるだなんてまた物みたいに扱ってくれるじゃあないか。もし今が暑くなければ文句の一つでも言いたいところだ。まぁ、私の心の中でだけどさ。

 

「それは別に良いけど……もしかして、あんたが浅葱の言っていた知り合いなの?」

「それはわからないわ。けれども、知り合いであることは確かね」

 

 あらぁ? 私の知り合いですと? ちょっと切ないことではあるけれど、私に知り合いは少ない。だって知り合いができたとしても、私が寝ている間にほとんどの知り合いが消えてしまったのだから。

 そんな私の知り合いとは誰だろうか。

 

 暑さに負けていた私ではあるけれど、それでもなんとか顔を上げ、件の知り合いらしき人へ顔を向ける。

 

 そして、其処には――

 

 

「数日ぶりね。どう? 私と少しお話でも」

 

 

 いつもの日傘を差し、長い金髪を揺らしながらあの妖怪が立っていた。

 

 

「おおー、紫じゃあないか。久しぶり」

 

 なんとか声を出す。

 でも、其処で私は疲れてしまってまた顔を下げた。暑いなぁ……

 

 紫とお話するのも良いけれど、今は涼んでいたい気分。ゆっくりしよう。

 

 

「はぁ、相変わらずね貴女は……それじゃあちょっと借りるわよ」

 

 

 そんな紫の声が届くと何か嫌な予感がした。

 こう……わぁっ! ってやられるのに近い予感が……

 

 

 そして、私はいつものように何かへ飲み込まれた。

 

 

 これ、嫌い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 飲み込まれ、吐き出された先は何処かの部屋の中だった。

 部屋の中かぁ。暑そうだなぁ。とは思ったものの、どうしてなのやら暑くはない。はて、何故だろうか?

 

「ようこそ私の家へいらっしゃい。今は……浅葱だったかしら?」

 

 紫の声。

 なるほど、此処は紫の家だったか。暑くなく過ごしやすそうな良い部屋だね。なんとも素敵じゃないか。でも、あの飲み込む奴はちょっとやめて欲しい。びっくりしちゃうから。

 

「うん、そうだよ。素敵な名前でしょ?」

「ふふっ、素敵な名前ね」

 

 そう言って紫はくるくると笑った。

 ふふん、そりゃあ素敵名前だろう。なんと言っても私がつけた名前なのだから。

 

 そうやって少しばかり胸を張ると、ぶおぉと風が私に当たった。なにごとだ!?

 

 風が吹いてきたと思われる方を向くと、其処には丸い顔を左右に振りながらぶおぉ、ぶおぉと風を吐き出し続ける奴がいた。

 な、なんですか、君? なんなんですかコレ?

 

「ゆ、紫。アレはなに?」

「扇風機よ。風を出してくれる素敵な道具」

 

 私の質問にくすくすと笑いながら紫は答えた。“せんぷうき”……かぁ。

 風を出してくれるとはなんとも素敵な奴ではあるけれど、こんな物私は見たことがないから、やっぱりちょっと怖かった。

 しかしどうしてこれは動いているのだろうか? 紫が動かしてもいるわけではなさそうだが。

 

「どうして、アレは動いているの?」

「う~ん、そうねぇ……電気の力かしら」

 

 はて、でんき? ん~……うん?

 

 でんき?

 

 

「雷の仲間みたいなものよ」

 

 

 なるほど、“でんき”とは雷の仲間か。

 しかし、困った。私は雷が苦手なのだ。だってアイツいきなりピカッとなってドカーンとなるじゃないか。

 

『はい、じゃあ今からピカッとなってドカーンと言いますよー」

 

 とか言ってくれれば良いが、アイツはそんなことを言わずいきなりピカッとなってドカーンと言う。マジ容赦無い。雷怖いよ、雷。

 

 紫の家の中を見渡すと私の知らないものばかりで、それは何? あれは何? と紫には沢山聞いた。けれども、ほとんどの物が“でんき”で動くらしいので、私は好きになれそうになかった。

 

 物を冷やすことのできる“れいぞうこ”だけは、許してやろうとも思わなくもなかったが。冷たい麦茶は美味しかったなぁ……

 

 

 

 

 そうやって何をするでもなく、のんびり紫と話をしていたせいか、気付けば既に時刻は夕時となっていた。

 あらぁ、時が進むのは早いねぇ。

 

「そろそろお別れの時間ね」

「うん、紫ともお話できたし楽しかったよ」

 

 紫は良い奴だ。

 たまにいじわるする時もあるけれど、ほとんどの時は優しい。だから私はほとんどの紫は好きだ。

 

「ふふっ、それは良かったわ。それじゃあまた会いましょ。私の大切な人」

 

 うん、また会おうね。

 

 あっ、でもあのいきなり飲み込む奴はちょっとやめて……ああ、ダメだこりゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 飲み込まれ、吐き出された先は博麗神社だった。

 太陽は西の空へと沈み始め、世界がまた赤く染まっていた。

 

 

「あら、お帰りって……どうしたのよ? 矢鱈に不機嫌そうだけど」

 

 

 ……やっぱり紫はいじわるだ。

 

 でも今日は紫ともお話ができたのだし、良い日だったんじゃないかなぁなんて思うのです。

 

 






少しずつ色々なキャラを書いていきたいものです

それにこう言う何もない日の方が、この作品には合っているかもしれませんね

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