結果として俺は授業に遅れ、ドアの前で待ち構えていた平塚先生からの鉄拳制裁を受けた。ドアの前で待ち構えているって・・・っべー、あの人どんだけ俺の事好きなんだよ・・・こぇぇよ!あと怖い
理由を聞く前の平塚先生は怒り半分、心配半分って表情だった。一応体調を崩してたとかそういった理由も浮かんだのかもしれない。いや、今思うと怒りは8割位だったかな?顔は笑顔だが全く笑ってなかったし眉もひくつかせてたしな・・・平塚先生激オコじゃん
理由を聞かれた俺は『人生に迷ってました』と素直に答えたのだが、答えた瞬間く俺のボディーに衝撃が走る。
撃滅のセカンドブリット炸裂である。
おっかしいな・・・俺は何一つおかしな事は言ってないのにな。俺は人生の迷い子なのにな。
制裁が終わりやや痛む腹を摩りながら自分の席に向かう。途中戸塚の近くを通ったら戸塚はやや小声で『八幡大丈夫?』と心配そうに聞いてきた。
戸塚は優しいなぁ!戸塚こそ、この汚れきった世界を浄化するために顕現した天使に間違いないね!
そんな天使(戸塚)に大丈夫だと言う意味も込めて頷くとホッと息を吐き天使は優しく微笑み返してくれた。
戸塚マジ天使!と戸塚の笑顔を忘れぬように脳裏に刻み込ながら席に戻り戸塚の偉大さについて考えている間にいつのまにか授業は終わっていた。
つつがなく6限、HRを終えて今は放課後。
いそいそと帰り支度しているといつも通りのガヤガヤと騒々しい教室の中でも一際賑やかな声が聞こえてきた。
葉山・三浦を中心としたいつものグループである。
「っつーか、今日部活ないとかガチでテンション上がるわ~!」
金髪の髪をかきあげながら戸部がいう。
いやいや・・・戸部、お前のテンションはいつも高いと思うぞ?更に上がっちゃうの?やだ、それ迷惑なんだけど?
「それな」
「こういう日もたまには良いよな~」
と賛同したのは大和と大岡だ。
「戸部っち達部活ないんだ?」
「三人とも部活が休みなんて珍しいね」
戸部達の話に由比ヶ浜と海老名さんも加わる。
「あれだべ?陸上部とソフトボール部が大会近くて 今日ガチで部活やっから俺等の使うスペースねーわー的な?」
大会の近い陸上部とソフトボール部が気合いを入れて練習したいから各部活動と交渉した結果今日はグラウンドを優先的かつ広く使う事が決まったらしい。グラウンドは特別広くはないから結果として休みになる部活がある。今回割を食ったのはサッカー部、ラグビー部、野球部らしい。
以上が戸部の話の要約である。ってなんで俺戸部の通訳してんだろうな・・・マジ勘弁だぞ
「っつーか、俺達今日部活ないべ?ってな訳で久々に皆でどっか行かね?どうよ?」
いつもの軽い調子で戸部が皆に提案する。
リア充には部活がなかったら真っすぐ家に帰るって発想はないのか?俺ならウキウキしながら真っすぐ家に帰っちゃうよ?
「あーしはいいけど・・・みんなはどーなん?」
金髪の髪をくるくる弄りながら三浦が皆を見回す。
皆を見回してはいるが視線の中心は心なしか葉山に向いている。
葉山は三浦の視線に気づいたのか
「俺も今日は用事もないし行けるよ。あまり遅い時間にならなければ大丈夫だ」
といつもの柔和な笑みを浮かべ答える。葉山の答えを聞いた三浦はやや頬を赤く染め満足そうに笑みを浮かべながら携帯を弄り始める。
なんだろうか、三浦を見ていると微笑ましくなってきたぞ?心がポカポカしちゃうよ。
大和と大岡も葉山と同様の返答をする。
「隼人達は行けんのね。海老名と結衣はどーなん?」
「私も行けるよ~。予定もないし・・・それに愚腐腐」
と三浦からの問い掛けを受け賛同の意を述べながらも何やら不吉いや、腐吉な笑みを浮かべる海老名さん。相変わらず腐っていらしっしゃる。いったい何を想像したんですかね・・・
「海老名、なんだか良くわかんないけど擬態しろし!」
ペシッと海老名さんの頭を軽くはたき、突っ込みを入れた後三浦はそんな海老名さんを見て苦笑している由比ヶ浜をちらりと見る。
「後は結衣だけど、これそ?」
「ごめん、優美子。私は部活あるから・・・今日は無理、かな?」
「そっか、残念だけどしょうがないか・・・」
「あっ、でも!」
さてさて、彼等の話をいつまでも聞いている必要もないわけで、俺は席を立ち教室を後にした。
「あーし・・・じゃん?」
「ヒキ・・・・と・・君が・・・組んず・・・BL ・・・腐腐腐」
「擬・・・し!」
「優美子冴えてるわ!マジぱねぇわ!ヤバいべ、それ!」
教室を離れて特別棟に向かって歩き始めるが彼等の声は聞こえてくる。
あいつらうっせーな、主に戸部と戸部とあと戸部。
あと、海老名さんは腐吉過ぎますよ?『ヒキ』ってもしかしなくても俺だよな?『君と・・・組んず』って誰と組んずほぐれつしちゃうの?戸塚以外お断りだよ?俺・・・
組んずって・・・BLって・・・腐腐腐って・・・海老名さん、擬態しろし!
しかし、だ。あいつらうっせーなと思うものの三浦にしろ戸部にしろ海老名さんにしろ彼等は彼等の日常を謳歌しているに過ぎない。戸部はいつも通りうるさかったし、海老名さんは相変わらず腐っていた。 葉山の柔和な笑みもいつもと代わり映えしていなかった・・・彼等はいつもとなんら変わっていない。そう、彼等の日常に変化はない。
日常というのはそうそう大きく変化はしないものだ。
『この中に宇宙人、未来人・・・』等と後ろの奴が自己紹介しだしたり、地球外生命体に
『魔法少女になってよ!』等と勧誘されたりしない限り大きな変化というものは起きない。
起きないはずなのだが・・・あいつは・・・
等と考え特別棟を歩いている内にいつのまか部室はすぐ目の前である。
さて、彼等がいつも通りの日常を送るように俺も俺の変わらぬ日常を送りますかね?
扉に手をかけると既に鍵は空いていたのか、すんなり扉は開いた。中には雪ノ下雪乃が平素変わらぬ様子で読書に勤しんでいた。
続く