舞台は渓谷。
木々が生む何物からも汚されぬ清い空気は、谷風の心地よいそよ風と相俟って、感じ取れるなら癒しの効果を生んでいただろう。
「はぁっ……、はぁっ……!」
しかしそれを感じられないくらいの全身を締め付けるような緊迫感が襲う中、僕はその谷底を走っていた。 息絶え絶えながらも走り続け、目配りだけで周囲を窺う。
「どこだ……!どこにある……!」
探すは逆転の一手。 この状況を覆すことの出来るカード。 見つけ出せなければ、このまま負ける!
「――――――!」
一瞬だけだが間違いなく視認出来た。 突如足にブレーキを掛け踵を返し、右側の壁を見上げる。
あった!
だが、それがあったのは岸壁の遥か上段。 比較的小柄な僕ではまるで届かない。
「だったら!」
右腕にまるで盾に様に装着されている緑色のタブレット状の端末。 それの左側、そこに設置されているおよそ30枚前後のカードの束――デッキに左手を添える。 そして、そのまま思いっきり一番上のカードを居合い抜きの様に引き抜く。
「ドロー!!」
引き抜いたカードを確認する。 …………いける!
「僕は、このカードを召喚!」
引き抜いたカードを、タブレットの前方にまるでくっ付いているかの様に浮いている、くの字アークを描いた光のプレートに叩き付ける様に置く。
それとほぼ同時に、僕の目の前には背中に翼を生やし、緑色の民族衣装のようなものを着た女戦士が現れた。
「お願い!」
僕が手を出し、女戦士が無言で頷き、僕の手を取った。 そのまま、腕に決して弱くない引力と、足の浮遊感を感じながら女戦士と共に谷底から抜けるように舞い上がる。
だが目的は谷底から出ることではない。 目的は――
「もう少し…………!」
岸壁に生えた木の枝に挟まっているカード。 それに手を伸ばす。
もう少しで届く!
が、
「させないよ! 『セイクリッド・プレアデス』の効果を発動! 今召喚されたソイツを手札に戻す!」
「なっ!? う、あ……!」
どこからか聞こえたその声と共に、女戦士が光の粒子へと変換され、その姿を消した。
もちろん、空中で支えるものを失った僕の体は重量に抗えず、そのまま地面に向かって落下する。
「くっ」
しかし、そうなる前に岸壁を蹴り、反対側の岸壁へと移る。 また岸壁を蹴り、まるでピンボールの様に右、左、右、左へと移動しながら下降し、落下の速度を弱めた。 着地した時には多少横滑りしたが、転ぶことなく脚は地面に着く。 どこにも怪我は無い。
しかし、問題はそこじゃない。 状況はなにも変わっていないのだ。 後一歩で変えられたかもしれない現状に、歯噛みする。
そして、幕を閉じる星が舞い降りる。
谷底が光に照らされ、その光源が上にあることを理解し見上げると、まるで重力を感じていないかの様にゆっくりと降りてくる白い何かがそこにいた。
それは、荘厳と言って間違いは無い、金のアクセントを含んだ屈強な純白の鎧を身に包み、三日月の様に湾曲した金色の刃と、月光の様に細く直線を描いた銀の刃を持つダブルセイバーを左手に携えた騎士だった。
「さて、君の手札は今戻したその一枚だけ。 ターンエンドでいいよね?」
騎士はその見た目とは裏腹に、やたら甲高く嫌味ったらしい声でこちらに窺ってきた。
いや違う、声の主は目の前の白騎士ではない。 声の主はそれの後ろ、騎士が羽織っている銀河のようなマントを、カーテンを開けるように軽く払って姿を現した少年からだった。
紫色の髪を星座をかたどったティアラで纏めながら逆立て、大きくて形は良いが反対に目つきは悪い三白眼。 それが、僕の対戦相手だった。
「さ、ターンエンドの宣言をしてくれ」
気取った態度で、今度は窺うのではなく促してきた。
まだだ。 まだ何か出来るはずだ……っ。 そう思い、必死に考える。
今やれることは無いか、何か利用できるものは無いか、何か時間を稼げるものは無いか。 周りの状況、自分の手札、墓地、デッキ、知識、持っているもの全てを総動員させて策を講じる。
が、
「…………ターンエンド」
出来ることはもう何も無い。 もう、僕の負けだ。
いつの間にか握っていた拳は、これもまたいつの間にか、解いていた。
「フン、諦めたか。 ドロー。 じゃあこのまま終わらせてやる! バトルフェイズ! セイクリッド・プレアデスで、ダイレクトアタック!!」
白騎士――プレアデスの持つ剣が光を帯び、そのまま上段に構える。
僕はそれを避けようとも、背を向けて逃げようともしなかった。
ああ……。
「コズミック・セイバー!!!」
僕目掛けて振り下ろされた斬撃は、直接は当たらず目前の地面に叩きつけられた。
しかし、そこから炸裂した爆風は粉塵を巻き上げ、砕け散った地面の破片と共に小柄な僕の体を吹き飛ばした。
また、負けちゃったなぁ…………
LP1700→0
Yu-ga
Lose
デュエル終了のブザー音が聞こえると、辺り一面の情景は青く茂った木々が背景に見えていた無骨な谷底から、学校の体育館を機器的で無機質にしたような空間へと変わっていく。
背中に感じる地面も、ゴツゴツとした砂利の感触から何の素材で出来ているのかもわからない冷たい鉄の感触に変わった。
「う……、く………――わっ!」
地面に打ち付けた時の衝撃で痛む身体を、力を込めてなんとか上半身だけ起こす。 が、
「あいたっ!?」
起こす際に何故か頭が何かに引っ張られ、そのまま後頭部を地面に打ち付けた。 打った部分を抑えながら自分の足元を見ると、どうやらお尻で自分の髪を押さえつけてしまっていたようだ。 髪が長いとこうなる事情がある。
「何をしているんだ……」
間抜けなことをしている自分に声が掛かる。 声の主はもちろん、僕のデュエルの対戦相手からだ。
マズい。 みっともない姿を見せてしまった。
今度は押さえつけないように、髪を横に流してから立ち上がり、誤魔化す様に「たはは……」と笑う。
「みっともない所を見せてすみません。 あ、デュエルありがとうございました! 聞いていた通り、お強いんですね」
「こちらこそ。 ま、君も、38連勝――いや、これで39連勝か。 常勝無敗のこの
対戦相手――志島北斗さんが、負けた僕に対して賞賛の言葉をくれる。 しかし、言葉としては褒めているが、彼の態度にはどこか苛立ちのようなものが見えた。 もしかしたら少しでもライフを削られたことが許せないのかもしれない。 相当なプライドの高さだと思う。 どうでも良いけどこの人身長高いなぁ。 ずっと見上げる形になっている。
「しかし、そんな古いデッキを未だに使うデュエリストがいたとはね。 驚いたよ。 …………それで僕にダメージを与えたのだからたいしたものだ」
「ありがとうございます。 ……そうですね。 まぁ、愛着みたいなものです。 あ、ダメージを与えられたのだって、偶然みたいなものですよ!」
「フン。 まぁ、いいさ。 それでは僕は失礼するよ。 次の40連勝に備えたいのでね。 じゃ」
そう言って踵を返し、北斗さんはこの空間――デュエルコートから去って行く。
デュエルし終わってから今の今まで、勝ったのに眉間に皺が寄ってて、終始満足してなさそうというか、気に食わなさそう顔をしていたけど、そんなにダメージ与えられたことが気に食わなかったのかな?
………………それにしても。
「おい! デュエルが終わったのならさっさと出ろ! 邪魔だ」
「あ、ご、ごめんなさい!」
後ろからこのデュエルコートを使いたいらしい人の怒声に身をビクつかせ、オタオタしながら僕もデュエルコートを出る。
出入り口の自動ドアから出ると、邪魔にならないよう少しだけずれて、疲れと敗北感で重くなった体を壁に預けるが、さっき起き上がる際に髪のせいで頭が引っ張られたことを思い出し、後ろの髪を全部体の前に持っていき、抱き枕の様に抱きしめる。
「はぁ……」
思わず溜め息が出てしまう。 右腕に装着したタブレット端末――デュエルディスクを腕から外し、モードを『デュエルモード』から『モバイルモード』に切り替え、自分のプロフィール画面を映す。
8割の確立で性別を間違えられる中性的な童顔。 腿の裏辺りまで伸ばし、先端をゴムで結んだ緑青色の髪。 多少の筋肉はあるが、それでも華奢で小柄な体躯。 そんな僕の写真と共にあるのは、僕のデュエルの戦績だ。
22勝23敗。 ついに敗北の方が多くなってしまった。
そんな僕、
初めまして、ユアシアンと申します。
ハーメルンでは初めて投稿しますが、文章量はどうでしょうか?
丁度良いと嬉しいです。
因みにこの物語にはオリカとオリジナル召喚が登場します。ご注意ください。
オリカのほうは増えて来たら専用のページを作りたいと思います。
それでは、今回から『遊戯王ARC-V LDS 進化の翼』始めていきたいと思います!
それと、主人公のデッキはナイショです!
もちろん後で明かします!
皆様の感想、評価、アドバイスなどをお待ちしております!