「ちょっと刃! どういう事よ、説明しなさい!」
場所は書庫。 皆が静かに読書をする為に本来は静かにしなければならないのだが、そんな常識的な事すらも頭に入らないほど彼女――真澄は興奮しているようだった。
彼女に怒鳴られるまでテーブルの向かいに座っている髪の長い小柄な少女(……と思しき生徒)と共に自己学習していた刃は、呆れてドン引いた目線を真澄に送る。
「どういう事ってどういう事だよ……ていうかここは本を静かに読むところだろ。 静かにしろよ」
「あ…………」
刃のその言葉で初めて周りの空気に気付いたようで、真澄は顔を真っ赤にしながら、刃の隣の席に座った。
「んで、なんだよいきなり」
出だしで躓いてしまったからなのか、彼女が座ってからワンテンポ置いても口に出さないので、彼の方から聞き出す。 すると、真澄はキッと彼を睨み付け、
「聞いたわよ。 連勝を止められたそうね。 シンクロコースで主席の貴方が、しかも同じシンクロコースの人間に。 本当なの?」
「あ? んだよ、誰かから聞いたのか?」
「その反応からして事実のようね……一体誰なの、貴方に勝った生徒って」
真澄が刃に所構わずに押しかけた理由はそれだった。 真澄と刃はそれぞれジュニアユースでの融合コースとシンクロコースの主席の座に居座っている。 これまでの戦績だってほぼ無敗。 ここ最近では敗北など一切なかったはずだ。 だというのに今朝、そんな彼を倒した人間が現れたと言う話を聞いた。 よく慢心しているエクシーズコースの主席ならまだしも、この刃が同じコースの人間に負けるなど、とても信じられないが、本人の様子を見るに本当の様だ。 ならば、デュエリストが一体誰なのか、真澄はどうしても知りたかったのだ。
そして、刃はその人物が誰なのかを口にする。
「そいつ」
親指で指したその先を追う。 そこには、真澄の剣幕に圧されていたのか、二人の会話にいつ入ろうかとオドオドしている緑青色の長い髪を持った中性的な雰囲気の………………生徒しかいなかった。
体格は小さくて華奢。 漂う雰囲気も小動物のようで、とても強そうには見えない。
そんな生徒の全容を見て真澄は、ふっ……と、身体の力が抜けると同時に、口からも同じような笑いがこぼれた。
「ちょっと、冗談でしょ? 刃、貴方こんな小さくて弱そうな子に負けたわけ?」
「あ?」
真澄から零れた笑い、それは嘲笑だった。 彼女は背もたれに寄りかかりながら腕と足を組んで続ける。
「しかもそんな負けた相手と仲良くお勉強? 倒された相手にご教授願っているのか知らないけれど、シンクロコースも落ちたものね」
「何……?」
「負けたくせにデートなんかしてんじゃないって言ってるのよ。 そんなんだから足元を掬われたのよ」
「んだと、テメェ……つうかそもそもこいつは――――」
「あ、あの!」
お互いの雰囲気が明らかに悪くなったのを察知した当の生徒が、周りに響かない、しかしハッキリとした声で二人の間に入るように声を放った。
今の声でハッとした二人がその生徒の方へと振り向く。
その時の顔がまだ喧嘩腰な表情だったのか生徒は怯えた様に自分の長い髪を抱き枕の様に抱きしめながら「ひぅっ」とひっくり返った声を出した。 そしてこの瞬間、その生徒はこう結論付けていた。
なにか話題をすり替えないと喧嘩が始まってしまう!
生徒はそもそも自分が原因だとは微塵も思わないまま頭をフル回転させ、打開策を講じる。 とにかく、目の前の女生徒の気をこちらに向けなければ!
そして、僅か2秒で練った作戦を実行した。
「あの……刀堂さん。 そちらの怖い顔の方は……?」
「あ゛ぁっ!?」
「ひっ!?」
ある意味作戦は成功したが、こちらに向いた矛先は思っていたより鋭かったせいで小さな悲鳴を上げてしまう。
「ぷっ……、ははははははははははははっ!!! オイ真澄、お前顔怖いとか言われてんぞ。 まぁ間違いねぇけどあはははははははは!!! そりゃおっかねぇよなぁ、わかるわっくくくくくく……!」
「刃貴方ねぇ!!」
回りの視線も気にせず天井を向きながら大笑いし、次に腹を抱えて悶絶する刃に真澄は噛み付くが、笑いすぎて聞こえないのか聞き流される。 数秒置いてもまだ笑っているのでいい加減殴って黙らせようかと思ったときに、刃は手でそれを制した。
彼は笑いすぎて出た涙を拭いて呼吸を整える。
「ふーっ、やー笑ったぜ。 やっぱお前は面白ぇな!」
「あ、あははは……」
「ちょっと刃! こっちの話を――――――ッ!」
「刀堂さんッ!?」
また食って掛かろうとした真澄に刃は今度は手ではなく彼が背負っていた竹刀の柄尻を彼女に向けることで制止させる。 いつ抜いたのか、真澄には全く見えていなかった。
威嚇に等しいそれに、真澄はただ押し黙るしかない。 対し、刃は変わらぬ口調で続ける。
「解ってるっての。 コイツの事だろ? お前の言っていることは正しいよ。 俺はコイツに負けた。 形はどうあれ、間違いなくな」
「形……?」
怪訝に思った真澄に「あぁ」と、相槌を打ちながら再び竹刀を背中のホルダーへと収める刃。
「まぁ、説明してやってもいいが……こんな所で口で説明するより、もっと良い方法があんだろ?」
ニィ、と片方の口端を吊り上げて笑う。 その仕草に真澄はイラッとした表情を見せたが、すぐに彼の考えを察し表情を変えた。
「……実際にデュエルして確かめろ、という事ね」
「そういう事だ。 お前もそれで良いか?」
「え? え、ええっと……」
ぽんぽんと話が進んでいく中でいきなり話を振られ、戸惑う様子を見せる。 思いっきり話についていけていないらしい。
「お前の実力をデュエルで顔の怖いコイツに見せ付けてやれってことだよ」
「おいコラ」
「え、えええ!!? そ、そんなこといきなり言われても!」
オイお前今から面白いことやれよと言わんばかりの無茶振りに、生徒の様子が戸惑いから狼狽えに変わる。
しかし、それから考える仕草を暫し見せ、
「…………解りました。 そのデュエル、お受けします」
次には真摯な瞳で真澄を見、承諾した。 その時の顔つきは今までの小動物のような雰囲気から一転、デュエリストのそれに変わっている。
(面白いじゃない……)
彼女とてデュエリスト。 そんな目を見てしまったら体が疼くのが通り。 自然と、僅かに口角が上がった。
真澄は「決まりね」と言って席から立ち上がると、その生徒を見据える。
「デュエルコートに行くわよ。 着いてきなさい」
「は、はい!」
「よし! んじゃ片付けるか! 勉強終わり終わり!」
「……まさか刀堂さん、勉強を早く打ち切るためにデュエルしろって言ったんですか?」
「…………」
「何で分かったんだコイツみたいな顔してる!? 酷いですよ! 刀堂さんが教えて欲しいところがあるからって始めた勉強会なのに!」
「うるせー! デュエルってのは勉強なんかより実戦なんだよ! いいからとっとと片付けるぞ!」
「もー! これからは付き合いませんよー?」
「わーったわーった! デュエル終わったらここで再開しようぜ! それで良いだろ?」
「はい!」
「……先に行くわよ」
真澄はそう言って、返事を待たずに踵を返してその場から離れる。
(何なのよ、あの子……)
書庫の自動ドアを潜り、真澄は一人奥歯を噛み締める。
異様に苛ついたのだ。 刃が、あの生徒と仲良くしている所を見て。 あの生徒が、彼と親しくしているところを見て。
真澄は別に刃に恋愛的な感情を抱いているわけではない。 もちろんライバルとして、友人としては好意を抱いている。 だがだからこそだった。
彼女はとあるエクシーズコース主席ほどLDS特有の高いエリート意識といったものは持っていない。 だが少なからずある程度は持っているのだ。 自分が認めない。 つまり、自分より下位のものを見下すといった、そういう意識が。
しかし、刃はLDSの生徒でありながらそういった面は皆無に等しい。 挑発的な言動こそそれなりに見るものの、それはあくまで彼の好戦的な性格から出るものだ。 彼は基本的には誰とでも仲良くなれる。 それが例え、自分よりはるかに劣るデュエリストだったとしても。
だから苛立ちを覚えたのだ。 自分の認める人間が、自分たちよりも劣っている人間と親しくしているのが。
不意に後ろで自動ドアの開く音がした。 振り返ると、さっきの生徒が小走りで自分を追ってきていた。 その後ろに刃が付いてきている。 どうやら無意識に歩を止めていたらしい。
「すみません、お待たせしました! 待っていてくださってありがとうございますっ」
自分が待っていたという誤解をしながら、当の生徒は礼を言いながら笑みをこちらに向けてきた。
その笑顔はにこやかであどけなく、満面といって差し支えない。 まるで、人間の負という物を知らない、純粋で人懐っこい少女のような。
「っ……別に待っていないわ。 行くわよ」
だがその笑みは、真澄の心を更に刺激した。 素っ気無い返事だけして、エレベーターへと向かっていた歩を再び進ませる。
「あ、はい!」と、元気な返事をしながらそれに続く生徒。
「なにそんな苛ついてんだよ?」
「別に苛ついてないわよ」
刃の疑問も早口で切り捨てる。
真澄は今はただ一つの事だけを考えていた。
(私は認めない……こんなヘラヘラした子が刃を倒したなんて。 まぐれに決まっている。 化けの皮を剥いでやるわ!)
地下デュエルコート。
エレベーターでそこへ降りれば、およそ200メートル強の長さのある幅広の廊下が見える。 そこには学校、と言うよりはバッティングセンターの様にコートに入るためのドアが並んでおり、それが左右あわせて30。
それらの一つに3人は入り、刃は観戦用のスペースに、真澄と生徒はそれぞれの位置に付き、デュエルディスクを左腕に――
(ん…………?)
違和感を感じ、真澄は生徒の方を見、すぐにその正体に気づく。 その生徒はデュエルディスクを
「ちょっと、あなた左利きなの?」
「え? はい、そうですけど?」
真澄の指摘にそれがなんだ? と言わんばかりに答える生徒。 よく見るとデュエルディスクも真澄のディスクとはデッキの挿入口やエクストラデッキのホルダーが逆位置に配置されている。
基本的に、販売されているデュエルディスクは全て右利き用の物ばかりだ。 ギターや野球のグローブ等を想像すると解り易いか。 つまり、左利き用の物を用意するとなると置いてある店を探すか取り寄せ、もしくはオーダーメイドなんて形になる。 しかも、デュエルディスクはそもそもが高価なもので、それが左利き用となると更に割高になる。 つまりそういったお財布事情によって、例え左利きであっても、殆どのデュエリストは右利き用のものを使うのだが、あの生徒はそういう事情は関係なく左利き用のものを使っている。
(家がお金持ちなのかしらね。 嫌味ったらしいことで)
自分の家だって相当裕福である事を棚に上げて、そんな印象を相手に抱く真澄。
「なんでもないわ。 さぁ、始めましょう。 えっと……」
「あ、自己紹介がまだでしたよね、ごめんなさい。 シンクロコース所属の天辻遊雅です。 宜しくお願いします!」
礼儀正しく右手の甲を左手で掴んでぺこりと45度のお辞儀。 ……どうやら育ちはいいようだ。
それにしても
(まぁ、どうでもいいか)
それよりも、名乗られたのならば返さなければ失礼に当たる。
「こちらこそ、遅くなってごめんなさい。 融合コース所属、光津真澄よ。 よろしく」
「はい!」
お互いにデュエルディスクのモードを変更し、『DUEL MODE ON STANDBY』の電子音声と共に構える。
『フィールド魔法、《虹の古代都市-レインボー・ルイン》発動』
そしてコート内に流されるアナウンスと共に、辺りの景色がリアルソリッドビジョンにより、床と壁は石で作られたコロセウムに、天井は虹の掛かるほど晴れ渡った青空へと変わる。
決闘の舞台は整った。 開始の合図をするため、息の吸い込み、
「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」
「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い」
「フィールド内を駆け巡る!」
「見よ!」
「これぞデュエルの最強進化系!」
「アクション――」
「「デュエル!!」」
Yu-ga
LP 4000
VS
Masumi
LP 4000
「先攻は貴方で良いわよ。 天辻
「さん……? まぁいっか。 解りました! ……うーん」
初手があまりよくないのか、指の腹をくわえながら難しい顔で手札を確認する遊雅。
「じゃあ、モンスター1枚とカードを2枚セットして、ターンエンドです!」
Yu-ga
LP 4000
手札 2
モンスター 1
魔法・罠 2
「それだけ……? シンクロコース所属なのにシンクロ召喚すらしないで終わるの?」
「あ、あはは……ごめんなさい。 あまり良い手札じゃなかったので」
困った状況をごまかす様に笑う。 またもへらへらとするその態度に、真澄は一瞬眉根を寄せた。
が、その直後、遊雅の目の色が変わる。
「なのでアクションカードを頼らせていただきます!」
言うやいなやその長い髪を翻してコロセウムの客席に向かって走り出す遊雅。
そのスピードは小柄な体躯が関係しているのか、まさに矢のような速さだ。
「させない! 私のターンドロー! 私は《レスキューラビット》を召喚!」
真澄の傍らに防災ヘルメットとレスキューゴーグルを頭につけた愛らしい兎が現れる。
レスキューラビット
地属性 獣族 レベル4
攻撃力300
「そのまま効果発動! このカードをゲームから除外して、デッキからレベル4以下の同名通常モンスター2体を特殊召喚するわ! 私が召喚するのは、《ジェムナイト・ガネット》!」
次にその兎が前足を器用に使って首につけたトランシーバーを使って発信する。 すると、ウサギの目の前に大きな漆黒の穴が開き、兎がそこへ飛び込むと、その直後、緋色の鎧を纏った戦士が遊雅の目の前に現れた。
「くっ」
行く手を阻まれた遊雅はブレーキをして勢いを殺し、方向転換をして別の方向へ走ろうとする。 しかし、それはもう一体の緋色の戦士が遮った。
ジェムナイト・ガネット×2
地属性 炎族 レベル4
攻撃力1900
通常
「更に《ジェムナイト・フュージョン》を発動! 手札の《ジェムナイト・オブシディア》と、フィールドの炎族である《ジェムナイト・ガネット》の1体とで融合!」
「っ! 融合……」
真澄が放った『融合』と言う単語。 それに反応し、遊雅はガネット越しに彼女に目を配る。
『融合召喚』。
指定されている素材のカードを『融合』のカードを用いて墓地へ送ることで、エクストラデッキから強力なモンスターを特殊召喚する方法だ。
「貴方がシンクロ召喚をしないというのなら、私の方から融合召喚を見せてあげるわ! 鋭利な漆黒よ、紅の真実よ、光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!」
漆黒の鎧の上に同色の巨大な数珠のようなものを襷掛けた戦士と、遊雅の行く手を阻んでいた緋色の戦士の片方が光に包まれ渦となって交わり、光の強さを増す。
「融合召喚! 輝石にも劣らぬ溶岩の輝き、レベル7、《ジェムナイト・マディラ》!!」
そしてその光の中から火山のような意匠のマントを翻して現れるのは、溶岩の如き灼熱の剣を持ち、ブロンズの鎧を纏いし騎士。
ジェムナイト・マディラ
地属性 炎族 レベル7
攻撃力2200
融合
「更に、融合によって手札から墓地へ送られたオブシディアの効果によって、墓地のレベル4以下の通常モンスター1体を選択して特殊召喚するわ。 私は一緒に墓地へ送った《ジェムナイト・ガネット》を特殊召喚! それと同時に《馬の骨の対価》を発動! 今特殊召喚したガネットを墓地へ送って2枚ドロー!」
馬の骨の対価
通常魔法
効果モンスター以外の自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を墓地へ送って発動する。自分のデッキからカードを2枚ドローする。
融合召喚の弱点は手札の減りの早さにある。 しかし、真澄は融合を行いながらも、カードのシナジーを考え上手く繋ぎ、失った手札を補充する。 お手本に出来るほどの見事なプレイングだ。
だが、真澄はこれだけでは終わらない。
「そして、墓地にある《ジェムナイト・フュージョン》のもうひとつの効果を発動!」
「墓地の魔法を発動!?」
「ええ。 『ジェムナイト』の恐ろしさはこれからよ! このカードは墓地に存在する場合、墓地に存在する『ジェムナイト』と名のついたモンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを手札に加える事ができるの。 私は今墓地に送った《ジェムナイト・ガネット》を除外!」
ジェムナイト・フュージョン
通常魔法
手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、「ジェムナイト」と名のついた融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。また、このカードが墓地に存在する場合、自分の墓地に存在する「ジェムナイト」と名のついたモンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを手札に加える。
これで手札は5枚。 最初の数に戻った。
「もう一度行くわよ! 《ジェムナイト・フュージョン》発動! 手札の《ジェムナイト・ラピス》と、場の《ジェムナイト・ガネット》を融合! 神秘の力秘めし碧き石よ。今光となりて現れよ!」
融合素材となったガネットが消えたことで遊雅の動きを止めていたものがいなくなる。 これ見よがしに遊雅は場を離れようとするが、入れ替わるようにマディラが行く手を遮った。
「融合召喚!! 月光に照らされし夜色の輝石! レベル5、《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》!!」
二回目の融合召喚。 現れたのは瑠璃色の修道服のようなものを纏い、胸に水晶を下げた、聖女を彷彿とさせる『ジェムナイト』。
ジェムナイトレディ・ラピスラズリ
地属性 岩石族 レベル5
攻撃力2400
融合
「2連続で融合召喚……」
『へぇ、やるじゃねぇか真澄! 腕を上げたな!』
遊雅と刃、二者二様の声が上がる。 だが両者とも真澄の腕を賞賛している声だということは間違いない。
自然と、真澄の口角が上がった。
「このくらいは朝飯前。 まだこんなものじゃないわ! ラピスラズリの効果を発動! デッキの『ジェムナイト』を墓地に送ることで、場に特殊召喚されているモンスターの数×500のダメージを相手に与える! 私は《ジェムナイト・ラズリー》を墓地に送って、マディラとラピスラズリの2体分――つまり1000のダメージをあなたに与える!」
「ッ!?」
ラピスラズリの胸の水晶に光が収束し、そして次の瞬間、それが遊雅に向けて弾丸の様に放たれる。
しかし、
「それは利用させて頂きます! リバースカードオープン! 《ダメージ・ポラリライザー》!」
「んなっ!?」
その光弾は突如遊雅の前に現れた鏡の盾によって弾かれ、二人のほぼ中間地点の地面で爆散した。
「この効果により、効果ダメージは無効となり、お互いに1枚ドローします!」
ダメージ・ポラリライザー
カウンター罠
ダメージを与える効果が発動した時に発動する事ができる。その発動と効果を無効にし、お互いのプレイヤーはカードを1枚ドローする。
遊雅に説明されたとおりに、ドローをする真澄は、心の中で叫ぶ。
(何でそんなもの入れてるのよ!?)
ラピスラズリの光弾が弾かれた事よりも、真澄はそちらの方に強い疑問を持っていた。
効果ダメージの無効化をするカードを入れているのは別になんとも思わない。 だが相手にも利益を与えるカードを何故入れているのか。
色々と引っ掛かる点はあるが、とりあえずは自分のやる事の処理を再開する。
「……私は墓地へ送ったラズリーの効果により、墓地の通常モンスター、《ジェムナイト・ラピス》を手札に加える。 そして、バトルフェイズ! マディラでそのセットモンスターを攻撃!」
真澄の攻撃宣言と同時にマディラの持つ溶岩の剣が光を増し、そのまま伏せられていたカード目掛けて叩きつける。
「ラーヴァ・ブレイド!!」
が、そのカードが表返ると同時に、刃の様にきらめく大きな翼を持った緑色の翼竜が現れ、その翼で攻撃を防ぐ。 ガキィッ!! という派手な金属音が鳴り響いた。
その光景に真澄は目を剥く。
「そんなっ!? マディラの攻撃力は2200。 下級モンスターが耐え切れる数値じゃないはず……それに、マディラが戦闘を行う時は、いかなる効果も発動できないのに、何故……!?」
真澄の問いに、当の相手がそれに答える。
「発動した訳じゃないからです」
「何ですって?」
「僕がセットしていたモンスターは《シールド・ウィング》。 守備力は900ですが、2回まで戦闘破壊されない効果を持っています。 これは発動する効果ではなく。 効果の適用です」
シールド・ウィング
風属性 鳥獣族 レベル2
守備力900
カードの効果と言うものは大きく分けて3つある。 1つは自分が自分メインフェイズ内でいつ発動するかを自由に決められる『起動効果』。 2つ目は何か一定の条件が起こった際に発動する、もしくはできる『誘発効果』。 3つ目はカードが表側表示になっている限り、効果が継続する『永続効果』。
真澄の言う通り、マディラの効果は攻撃する際、あらゆるカードの効果を発動させないというものだが、それはシールドウィングのような耐性の効果は無効化できない。 簡単に言えばそれは発動はしていないからである。
「……なるほど。 つまり、両翼を捥がない限り、そのモンスターは倒せないということね」
『言い方がこえーよ』
スピーカー越しに聞こえる外野の声は無視する。
そんなことよりあのモンスター、2回まで耐えるということはラピスラズリの攻撃でもまだ倒せない。 倒すならもう1体モンスターが必要となる。
(もう1体……もう一度《ジェムナイト・フュージョン》を使えば出せなくはなかったけど、飛ばしすぎるのは良くないと思って、温存したのが仇になったわね……》
とはいえ、別に間違ったプレイングをしたわけではない。 効果ダメージも攻撃も防がれてフラストレーションは溜まるが、戦線は十分に作れた。
真澄はそう判断し、切り替える。
「私はメインフェイズ2に移ってカードを1枚セットしてターンエンド。 さぁ、今度こそあなたの本気を見せてもらおうかしら」
Masumi
LP 4000
手札 4
モンスター 2
魔法・罠 1
既に追い込んだという意識もあってか、そう挑発する真澄。
しかしそれに対し、あの生徒は、
「はいっ! 解りましたっ!」
笑顔で、そう答えた。 まるでそんなものを全く意識していないかのように。
「でもその前に、光津さんのエンドフェイス時に、セットカードを発動させて頂きます!」
「何ですって?」
召喚時にも、攻撃時にもあの生徒はカードを発動しなかった。 だというのにこのタイミングで発動させるものとは。
「リバースカードオープン! 《風霊術-「雅」》!!」
「ッ! そのカードは!」
「僕のフィールド上に存在する風属性モンスター1体をリリースして、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択し、そのカードを持ち主のデッキの一番下に戻させます! 僕は《シールド・ウィング》をリリースし、選ぶのはラピスラズリ!」
瞬間。 ビュオオォォォウッ!! と言う音と共に突如発生した竜巻にラピスラズリが飲み込まれ、その時発生したそのあまりの突風に、真澄は顔を守るように視界を腕で覆う。 そして、風が止んだと同時に再び目にした光景に、ラピスラズリの姿はなかった。
風霊術-「雅」
通常罠
自分フィールド上に存在する風属性モンスター1体をリリースし、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。選択した相手のカードを持ち主のデッキの一番下に戻す。
「味な真似してくれるじゃない……!」
「押されっぱなしはさすがに嫌なので。 それじゃあ、僕のターンですね。 ドロー!」
先のターンとは打って変わって不敵な笑みを見せる遊雅。 ダメージを受けたことで火がついたのだろうか。
それにしても左手でドローする姿はどうにも普段の相手と印象が異なるからか、違和感を覚える。
とにかくこのターンからあの生徒の攻撃が始まる。 一体どんなデッキを使うのか。
「よし。 僕は《調和の宝札》を発動します! 手札の《ドラグニティ-ファランクス》を墓地に送って――」
「ドラグニティ!!?」
まだカードの説明途中だったが、使うデッキがあまりにも予想外すぎて食い気味に声を出してしまう。
そのリアクションに遊雅もビクゥッ! 身体を震わせた。
「え、えっと、ごめんなさい。 何か……?」
「…………いえ、なんでもないわ」
本当は色々と言いたい事があったが、今は言っても仕方がない。 まずはプレイングを見届けることにした。
「じゃあ続けます。 ファランクスを墓地へ送って2枚ドロー! ……これだったら……《デブリ・ドラゴン》を召喚します!」
がら空きになった遊雅の傍らに、弓と矢を模した頭部を持つ白い小竜が現れる。
デブリ・ドラゴン
風属性 ドラゴン族 レベル4
攻撃力1000
チューナー
「召喚された《デブリ・ドラゴン》の効果発動! このカードの召喚に成功した時、自分の墓地に存在する攻撃力500以下のモンスター1体を効果を無効にして攻撃表示で特殊召喚する事ができます! その効果により、僕は攻撃力0の《シールド・ウィング》を特殊召喚!!」
再び緑の翼竜が姿を現す。 これでついにチューナーとそれ以外のモンスターが並び立った。
「いきます! 僕はレベル2の《シールド・ウィング》に、レベル4の《デブリ・ドラゴン》をチューニング!! 紅き鎧を纏いし竜騎士よ、その名を示す為、脅威となりし全ての魔を討ち払え!」
2体の竜がそれぞれ光の球と輪へと姿を変え、一つになってその光量を増す。
「シンクロ召喚!! 舞い唸れ! レベル6、《ドラグニティナイト-ガジャルグ》!!」
そしてその光の中から現れたのは、大小計4枚の翼を持ち、真紅の鎧を纏った青い龍と、同色の鎧を身の纏った竜騎士だった。
ドラグニティナイト-ガジャルグ
風属性 ドラゴン族 レベル6
攻撃力2400
シンクロ
「くっ……!」
攻撃力2400。 マディラを超えてきた。 マディラは戦闘に入る際、他の効果の発動は許さないが、単純は火力で上回られたら手も足も出ない。
(それに、勿体ぶって出したんですもの。 何か強力な効果があるはず)
そう判断し、真澄は一切の油断をせずに身構えた。
「ガジャルグの効果を発動! 1ターンに一度、デッキからレベル4以下のドラゴン族か鳥獣族モンスター1体を手札に加え、その後手札からドラゴン族または鳥獣族モンスター1体を捨てます。 僕はデッキから《ドラグニティ-ドゥクス》を加え、そして手札から《ドラグニティ-アキュリス》を捨てます」
つまりは欲しいカードをサーチできて好きなカードで墓地肥やしの出来る効果。 非常に便利で有用な能力だが、
「………………え、それだけ?」
「え?」
「え?」と聞き返されてもこちらが最初に「え?」と言ったのだが。
「そのモンスターって、サーチの効果しか持っていないの?」
「まぁ、そうですね。 えっと……それがどうかしましたか?」
弱弱しい瞳で真澄の顔を窺う遊雅。 その目を見ると、段々と興が削がれてくる。
まったく、どうかしましたかじゃない。
確かにサーチ能力はとても有用な効果だ。 だが1ターン待たせて出し惜しみしておいてそれだけとなると、流石に肩透かしだ。
「いえ、なんでもないわ」
「……? 解りました。 ところで光津さん、何か発動するものってありますか?」
「? いいえ、ないわ」
「では僕は《
二重召喚
通常魔法
このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。
それは読んで字のごとく、もう一度だけ通常召喚ができるようになる通常魔法。 普通はもっと早く、一回目の通常召喚の前に使う物なのだが、
(なるほど……激流葬のように一網打尽される事を警戒して、一度シンクロ召喚まで成功させてから使ったわけね。 例え破壊されても、立て直せるように)
慎重かつ上手い使い方だ。 そして、手札を減らしてまで通常召喚を行うという事は、
「さらにドゥクスの効果発動! 通常召喚に成功した時、墓地のレベル3以下のドラゴン族の『ドラグニティ』を装備します! 僕はレベル2の《ドラグニティ-ファランクス》選択して装備し、ファランクスの効果を使用して自身を特殊召喚!」
ドラグニティ-ドゥクス
風属性 鳥獣族 レベル4
攻撃力1500
ドラグニティ・ファランクス
風属性 ドラゴン族 レベル2
攻撃力500
チューナー
竜騎士の傍らに並び立つ小竜と鳥人。 これで条件は揃った。
「そして、僕はレベル4の《ドラグニティ-ドゥクス》に、レベル2の《ドラグニティ-ファランクス》をチューニング!! 渓谷の矛なる竜騎士よ、その名の証に、仇なす者を打ち砕け!」
やはり、2体目の切り札を出す為にシンクロ召喚を行ってきた。 鳥人と小竜はそれぞれ形の違う光となり、次には一つとなって姿を変える。
そしてその光から遊雅の二つ目の矛として現れるのは、白銀の鎧を身に纏った竜と竜騎士。
「シンクロ召喚! 舞い上がれ! レベル6、《ドラグニティナイト-ゲイボルグ》!!!」
ドラグニティナイト-ゲイボルグ
風属性 ドラゴン族 レベル6
攻撃力2000
シンクロ
「ふぅん……」
白銀の竜騎士を見上げ、真澄は小さく嘆息する。
2連続シンクロ召喚。 1ターンに一度でもうまく繋げるのが難しいシンクロ召喚を連続して行えるという事は、どうやらやはり並みの生徒と言うわけではないようだ。
『おぉ! 2連続シンクロ召喚か! お前もやるじゃねぇか遊雅! そのまま打っ倒しちまえ!』
「刃うるさいッ!!」
同じシンクロ召喚使いとして遊雅のプレイングに心を動かされたのか、遊雅のプレイングを賞賛するついでにこちらの討伐を促した刃を一喝する。 何故こっちがアウェイにならなければならないのか。
(いや、そんなことより……っ!)
あの生徒の顔つきが変わった。 来る!
「バトルフェイズ! ガジャルグでマディラを攻撃!」
遊雅の攻撃宣言を皮切りに、ガジャルグがマディラへと襲い掛かる。 その速度はまさに投げられた槍に等しい。 頭部に備わった刃でマディラの身体を貫こうとするが、溶岩の騎士はこれをギリギリのタイミングで盾で防いだ。 しかし、その瞬間にバランスを崩した隙を竜騎士は見逃さなかった。 間髪いれずにその長い尾でマディラを弾き飛ばし、そのまま胴体目掛けて手に持った槍を投げつける。
「アサルト・ガスト!!」
更にそれは追撃として竜の口から放たれた息――いや、莫大な突風によって加速され、容赦なく溶岩の騎士の体を射抜いた。 射抜かれた騎士はそれだけに留まらず、砲丸のような勢いで真澄の横を通過し、後ろで爆散する。
Masumi
LP4000→3800
「次! ゲイボルグで直接攻撃!」
マディラが破壊され、真澄を守るモンスターは0となった。 ゲイボルグが舞い上がり、攻撃態勢に入る。 このままゲイボルグの攻撃まで受けたら大ダメージとなってしまう。
しかし、
(甘いわよ!)
この程度の状況、追い込まれている内には全く入らない。
「マディラが戦闘破壊された時に、私は永続罠『リビングデッドの呼び声』を発動! その効果により、マディラを特殊召喚!」
リビングデッドの呼び声
永続罠
自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。
「ッ! ゲイボルグ! 攻撃中断!」
地面から這い出て現れたマディラを目にした瞬間、遊雅はゲイボルグに静止の声を掛けた。 その指示通り、ゲイボルグはその場でピタリと止まり、そのまま遊雅の元まで下降する。
遊雅が攻撃を中断させたのは、ただマディラがゲイボルグの攻撃力を上回っていたからというではない。 ゲイボルグは攻撃時、墓地の鳥獣族を除外してその除外した鳥獣族の攻撃力を上げられる能力を持っている。 しかし、それはマディラの能力によって発動が出来ない。 よって、2200と2000でゲイボルグが自爆特攻する形になってしまうのだ。
(ふぅん……目先の欲に捉われず、冷静な判断力もある。 刃を倒したことはまだ認められないけど、内部でもそこら辺の奴よりは全然強い)
少しずつではあるが、段々と真澄は遊雅の実力を認め始めていた。 しかし、
(だけど、何で今まで私はあの天辻遊雅という生徒を知らなかったの? これほどの事が出来るデュエリストを、何故……?)
真澄は、LDS内の強豪の名前はある程度押さえている。 主席とはいえ、いつ抜かれるのかの警戒を怠っていないからだ。 それはもちろん、自分のコースの中だけではない。 コース別の対抗戦だってあるのだ。 他のコースで名をはせている生徒と顔くらいは知っている。 しかし、あの天辻遊雅という生徒は全く見たことがなかった。
(転入生……? いや、そんな感じじゃない。 どことなくLDSに馴染んでいる雰囲気はあった)
では何故? 考えれば考えるほど、あの生徒の正体がわからなくなってきた。
「……メインフェイズ2。 1枚カードを伏せて、僕はこのままターンエンドします」
そうこう思考を巡らせている間に遊雅からターンエンド宣言が告げられ、2回目の真澄のターンが来た。
(まぁ、今はいいわ。 それよりも……面白いじゃない)
刃を負かしたどうこうというものが完全に無くなったわけじゃない。 しかし、久々に歯ごたえのある相手に、真澄は高揚していた。 このデュエルを全力で楽しみたいと。
(久々に……本気を出すわ。
真澄の目の光が強くなる。 実質的にこのターンからが、このデュエルの開始となった。
Yu-ga
LP 4000
手札 0
モンスター 2
魔法・罠 1
いつもご愛読いただきありがとうございます、ユアシアンです。
今回からモンスターの種族を記載し
通常モンスターである場合に通常と付け加えるようになりました。
さて今回はジェムナイトですが、
これDD以上にやばかったです。なんせ4000ライフでやっている為、ラピスラズリの存在が痛すぎます。ダイヤも使えちゃうのでなおさら。
でも融合でこれだけ展開できるのは面白いよなぁ……シャドールにもある程度対抗できそうだし。
それでは、皆様の感想、評価、アドバイス等を心からお待ちしております。
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……ラビットとデブリは許してほしいこの頃