「私のターン、ドロー! ……私はまず墓地の《ジェムナイト・オブシディア》を除外して《ジェムナイト・フュージョン》を手札に戻し、《ジェムレシス》を召喚!》」」
第4ターン、彼女が最初に召喚したのは、背中に推進器を背負ったアルマジロを髣髴とさせる装甲のモンスター。
「あれ、『ジェムナイト』じゃない?」
その名前か、もしくはそのモンスターの容姿に引っかかるところがあったのか、遊雅は小首を傾げた。
「ええそうね。 だけどれっきとした『ジェムナイト』のサポートカードよ! 召喚されたジェムレシスの効果発動! デッキから『ジェムナイト』モンスターを手札に加える。 私は2体目の《ジェムナイト・オブシディア》を選択して加えるわ」
ジェムレシス
地属性 岩石族 レベル4
攻撃力1700
コストの要らないサーチ効果と言うのはかなり優秀な限りだが、召喚時効果ということは下級モンスターの低い攻撃力がさらされるという事になる。
となれば勿論、
「早速行くわよ! 《ジェムナイト・フュージョン》発動! 融合素材にするのは手札の《ジェムナイト・オブシディア》と場の《ジェムレシス》! 鋭利な漆黒よ、導きの宝獣よ、今一つとなりて新たな光を生み出さん!」
融合召喚でくるのが通りだ。
「融合召喚! 現れよ、幻惑の輝き! レベル8、《ジェムナイト・ジルコニア》!!」
渦巻いた光の中より姿を見せたのは、金剛の如き輝きを持つ巨大なガントレットを装備した屈強な拳闘士。
ジェムナイト・ジルコニア
地属性 岩石族 レベル8
攻撃力2900
融合
「攻撃力2900……!」
「さらに今融合で手札から墓地へ送ったオブシディアの効果を発動! 墓地のレベル4の通常モンスター、ガネットを特殊召喚!」
果たしてもう何度目にしたことになるか、緋色の戦士が姿を現す。 そして、
「まだ終わらないわよ! 墓地のオブシディアを除外して≪ジェムナイト・フュージョン≫を回収!」
「また!?」
「また」とは、《ジェムナイト・フュージョン》の回収の事だろうか。 まぁそう驚かれるのも無理はない。 墓地に『ジェムナイト』が存在する限り、何回でもこのカードはサルベージ出来るのだから。
「当然! もう一度《ジェムナイト・フュージョン》を発動! 手札の《ジェムナイト・ラピス》と、場の《ジェムナイト・ガネット》を融合! 神秘の力秘めし碧き石よ。今光となりて現れよ!」」
遊雅の驚愕の声を一言で流しながら遠慮無く二回目の融合を行う。
ラピスを基点に行う融合召喚。 呼び出すモンスターは決まっている。
「融合召喚!! 月光に照らされし夜色の輝石! レベル5、《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》!!」
前のターンでエクストラデッキに戻した聖女が再び場に現れた。
そして、
「ラピスラズリの効果を発動! デッキの『ジェムナイト』を墓地に送ることで、場に特殊召喚されているモンスターの数×500のダメージを相手に与える! 私は《ジェムナイト・ラズリー》を墓地に送って、マディラとラピスラズリとジルコニア3体分、更にあなたのゲイボルグとガジャルグの2体分――計2500のダメージをあなたに与える!」
ラピスラズリの胸の水晶に光が収束し、前のターン以上の大きさとなる。 そして次の瞬間、それが遊雅に向けて弾丸の様に放たれた。
そして、今の遊雅にはこの効果を無効化する手段を持っていなかった。
「ぐ、あッ! くっ……!」
今度こそまともにくらい、5メートルほど弾き飛ばされる小さな身体。 しかし、背中が地面に激突するよりも空中で体を捻り、早く腕を丸め柔道の受身のように上手く衝撃を受け流し、むしろその勢いを利用して滑りながらも体制を整えて再度立ち上がる。
Yu-ga
LP4000→1500
(へぇ……結構鍛えているのかしら。 やるじゃない)
今よく見れば、袖やズボンから覗く肢体はとても滑らかかつしなやかな筋肉を持っていることがわかる。 細いとはいえヒョロヒョロという訳ではないようだ。
ダメージを防いだわけではないものの、その見事な身のこなしに彼女は心の中で素直に賞賛した。
(だけど身のこなしだけ良くてもデュエルは勝てないのよ!)
これは身体能力を比べる体力テストじゃない。 お互いのデュエリストとしての力を競うデュエルだ。 最後には身体ではなくカードがものを言う。
「じゃあ、ラズリーの効果で《ジェムナイト・ガネット》を加えて……バトルよ! まずはマディラでゲイボルグを攻撃!」
先程のお返しとばかりに溶岩の騎士が迫り来る。 そして、ゲイボルグの効果はマディラ相手には発動できない。
ゲイボルグが繰り出した尾を盾で防ぎ、追撃に放たれた真空のブレスは身を屈めてやり過ごし、そのまま滑り込むようにゲイボルグの真下を取る。
そして、携えた赤い剣が光を強くし、
「ラーヴァ・ブレイド!」
それを確認した次の瞬間、凄まじい跳躍と共に竜を切り裂き、返す刃で降下すると共に全体重をかけた斬撃で竜騎士を叩っ切った。
Yu-ga
LP1500→1300
「くぅっ……!」
「次! ジルコニアでガジャルグを攻撃!」
マディラが真澄の元へ戻ると同時に入れ替わるように次は金剛の拳士が巨体に似合わぬ凄まじい速度でガジャルグに肉薄した。 距離を取ろうとするもそれよりも早くに拳が竜の身体に命中し、コロセウムの壁に激突する。 だが、その身が地面に倒れる前に大きな翼を使って羽ばたき何とか体制を整え、アサルト・ガストを放つ。 しかし、放った槍は拳士の巨大な拳によって真正面から打ち砕かれた。 ジルコニアはそのまま高く跳躍し、
「ブリリアント・ミーティア!!」
拳士の両拳が肘下辺りからバーニアを噴出し、次の瞬間、ミサイルのように――いや、2本のミサイルとして凄まじい勢いで放たれ、ガジャルグを粉砕した。
Yu-ga
LP1300→800
この瞬間、遊雅の身を守るモンスターはいなくなった。 伏せカードが1枚あるが、これまでに発動してこなかったという事は攻撃に反応するタイプの物じゃない。
「これで最後よ! ラピスラズリで直接攻撃!」
三度、ラピスラズリが胸元に下げた水晶に光が収束する。 そして、最後の攻撃となる光弾が放たれた。
しかし、
「まだ……終わらせません! リバースカードオープン! ≪ガード・ブロック≫!!」
「≪ガード・ブロック≫!?」
「この効果により、この戦闘によって発生する僕への戦闘ダメージは0になり、僕はデッキからカードを1枚ドローします!」
ガード・ブロック
通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
ラピスラズリの光弾は遊雅の目の前で見えない壁の様なものに弾かれ、防がれた。
戦闘に関さない伏せカードと思っていたが、予想が外れた。
(なるほど……一番大きいダメージを防ぐためにわざと2回の攻撃を受けきったのね)
あれほどの猛攻を耐えながらその判断を下せる胆力は、真澄としても驚嘆に値するものだった。
(それに……)
同時に、前のターンで疑問に思っていた点が一つ晴れた。
(なんで《ダメージ・ポラリライザー》なんて相手にも利益を与えるカードを使っているのか、ようやく解ったわ。 『ドラグニティ』は展開力、スタミナに乏しいカテゴリー……それらを補うために、あらゆる状況でドローできるカードを入れているわけね)
元々『ドラグニティ』自体、癖が強過ぎて誰も使わないというのに、様々な補助カードを駆使して真澄相手にここまで戦えただけでも、デッキの構築力もあると言っていい。
だが、
「例え今のダメージを防げたとしても、私のフィールドには融合モンスターが3体。 あなたのフィールドはがら空き。 手札もその一枚。 さぁ、これからどうするのか見せてもらうわ。 私はこれでターンエンドよ!」
Masumi
LP 3800
手札 4
モンスター 3
魔法・罠 0
若干、遊雅を試すような口ぶりでターンエンドの宣言をする真澄。
彼女は無意識ながらも、この状況を楽しんでいた。 この絶望的状況を、天辻遊雅はどう対応してくるだろうか。 出来るなら見てみたいと、心が躍っていたのだ。
「えぇ……! 最後まで、僕は諦めません! 僕のターン、ドロー!」
そして第5ターン。 遊雅のターンが始まり、ドローをする。
引いたカード、それは――
「! 僕は魔法カード、《貪欲な壺》を発動! 墓地のモンスター5枚を選択してデッキの戻し、その後2枚ドローします。 戻すのはガジャルグ、ゲイボルグ、シールド・ウィング、デブリ・ドラゴン、ドゥクス!」
引き直しができ、且つ数少ない完全な1:2交換のカード。
貪欲な壺
通常魔法
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、デッキに加えてシャッフルする。その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。
「そして2枚ドロー! ……いける!」
「っ!」
顔つきが変わった。 追い詰められていた表情から、希望を見出した表情に。
「僕は《ドラグニティ-レギオン》を召喚!」
そこに並び立つ様に現れたのは、金色のガントレットとアンクレットを装備した鳥人の拳闘士。
ドラグニティ-レギオン
風属性 鳥獣族 レベル3
攻撃力1200
「レギオンはドゥクスと同じ効果を持っています! よって、墓地のレベル3以下のドラゴン族の『ドラグニティ』――レベル2の《ドラグニティ-ファランクス》選択して装備します!」
その宣言と同時に、レギオンのガントレットが、一回り大きくなり、それは琥珀色のグローブめいたそれに変わる。
真澄はその様子を見て、遊雅が何をしようとしてるかを理解した。
「ファランクス……確か装備状態の時、フィールドに特殊召喚できる効果だったかしら。 となると、レベル5シンクロ? そんなモンスターを出したところで、私のジェムナイト達は倒せないわよ!」
が、
「いいえ。ファランクスの効果は使いません」
真澄の予想は根底から外れていた。
「何ですって?」
「ドラグニティは、こういう事も出来るんです! 自分の場に『ドラグニティ』と名のついたカードを装備したモンスター1体をゲームから除外する事で、このカードは特殊召喚する事ができます! ファランクスを装備したドゥクスを除外! 破滅の意を持つその名を掲げ、脅威となりしもの全てを滅せ!」
真澄は知らなかったのだ。 例えシンクロ召喚でなくても、ドラグニティは上級モンスターを出せるという事を。
「舞い斬れ! レベル8、《ドラグニティアームズ・レヴァテイン》!!」
レギオンの身体が光の粒子となって霧散し、それが合図とばかりに天空から舞い降りる影が1つ。
それは、勇猛なる猛禽の翼を背に生やし、巨大な直剣を逆手に構えた緋色の竜。
ドラグニティアームズ・レヴァテイン
風属性 ドラゴン族 レベル8
攻撃力2600
「……っ! だけど、その攻撃力じゃ、ジルコニアには届かないわね!」
だが、そう言う真澄自身、これで終わるなどとは思っていない。
「大丈夫です! レヴァテインの効果発動! 召喚・特殊召喚に成功した時、墓地に存在するレヴァテイン以外のドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する事ができます! その効果により僕はファランクスを装備させ、ファランクス自身の効果で特殊召喚!」
レヴァテインの傍らに、琥珀色の鎧をまとった小龍が現れる。
ファランクスはレベル2のチューナー。 ということは、
「レベル10シンクロ!?」
「ええ。 ですがまだ終わりません! 速攻魔法発動! 《地獄の暴走召喚》!!」
「ッ!? そのカードは……!」
「相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在している状態で、攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時、その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを、自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚します! 来て、ファランクス!」
地獄の暴走召喚
速攻魔法
相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する。相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。
遊雅の呼び声と共に、琥珀色の小竜が更に2体現れる。
このカードは本来真澄も自分の場のモンスターを1体選び、手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚せねばならないが、融合モンスターはその限りではない。 エクストラデッキは範囲外なのだ。
そして、
(複数の同レベルモンスターを揃えたけど、間違いなくエクシーズ召喚はないと見ていい。 ……ということは、まさか!)
この状況で力を最大限発揮できるモンスター、真澄の知る限りで、それは1体だけ存在している。
「行きます! レベル8の《ドラグニティアームズ・レヴァテイン》に、レベル2の《ドラグニティ-ファランクス》をチューニング!!」
そのモンスターは、圧倒的且つ強大な力を持っているが、召喚自体が難しく、召喚しても力をうまく発揮しきれないという扱いにくいものだったはず。
「炎獄の果てに封印されし暴龍よ、その憤怒の瞳に映る全てを、三叉の炎で焼き払え!」
それを、この天辻遊雅は扱えるというのだろうか。
「シンクロ召喚! 解き放て! レベル10、《トライデント・ドラギオン》!!」
光の中より現れたのは、赤い龍鱗に、巨大な翼と巨躯、そしてなにより印象的な三つの首を持った竜――いや、猛々しいその姿はまさにドラゴンと呼ぶにふさわしい。
トライデント・ドラギオン
炎属性 ドラゴン族 レベル10
攻撃力3000
シンクロ
「この瞬間、《トライデント・ドラギオン》の効果を発動! シンクロ召喚に成功した時、自分フィールド上のカードを2枚まで破壊します! 破壊するのは2体のファランクス!」
ドラギオンの右と左の首が、大きなその口を開けながらファランクスへと伸びる。 そして次の瞬間、小さなその竜を一瞬にして飲み込んだ。
これで、
(シンクロ召喚して、効果発動の条件まで満たした!)
ターンの始めはたった2枚の手札だったのに、これほどのプレイングが行えるというのは並大抵の事じゃない。 たとえ運であろうが技量であろうが、ここまで来たらそれは些細な違いだ。
「バトルフェイズ! ドラギオンはシンクロ召喚時に破壊したモンスターの数だけ攻撃回数を増やします! よってマディラ、ジルコニア、ラピスラズリ全てとバトル!」
このターンのバトルが開始されると同時に、3体の『ジェムナイト』が三首ドラゴンへと激突する。
しかし、
「なッ!?」
マディラの溶岩の剣を長くも太い尾を振って砕き、左手でジルコニアの拳を受け止め、ラピスラズリが放った光弾にいたっては対処することなく着弾しても身じろぎすらしなかった。
その圧倒的な力を目にし、真澄は絶句する他ない。
そして、攻撃を受けきったドラギオンのそれぞれの口部に炎の光が灯る。
「パーガトリアル・トライデント!!」
瞬間、その灼熱の炎は3体のジェムナイトそれぞれに目掛けて放たれ、一瞬にして宝玉の戦士達を焼き払った。
Masumi
LP3800→3000→2900→2300
「う、く……っ!」
凄まじいその熱気に真澄は思わず腕で顔を覆う。 そして、熱が下がったと思って腕を下ろした時には、視界に自分のジェムナイト達の姿はなかった。
「僕はこれでターンエンドです」
Yu-ga
LP 800
手札 0
モンスター 1
魔法・罠 0
ターンエンドの宣言が告げられ、真澄のターンとなった。
「………………」
真澄はその宣言を聞いた後も、数秒間動けなかった。 その理由はいたって簡単。
(信じられない……)
自分の自慢のモンスター達がやられた事実が、ここまで追い詰められている現状が、もしかしたら負けるかもしれないという戦況が、久方ぶりに彼女を刺激したそれらは簡単には受け入れられるものではなかった。
しかし、真澄の表情に、焦りや怒りの表情はなかった。
「フッ……」
彼女の顔は今、微かにだが笑っていた。
勝つにしろ負けるにしろ、恐らくこれが真澄の最後のターンとなるであろう事は、デュエル中の二人だけでなく、観戦中の刃もそれを悟っている。 そして、今の彼女の手札は数こそあれど、正直言って良いものではない。
だからこのターン、このドローで自分がこの状況をひっくり返す事が出来るかどうか、真澄は気持ちが高ぶっていたのだ。
(一体何時以来かしらね、こんな気持ち……)
自分に勝てるデュエリストはこのLDSにはいない。 そう思うようになってどれ程か、こんなにもワクワクするデェエルは。
真澄は遊雅を見据える。
(ホント、不思議な子)
このデュエルが終わったら色々と聞き出してやろう。 一体何者なのか、ついでに性別も聞こう。 解らないし。
攻め入る様に質問をしまくったらきっとあたふたするだろう。 あの生徒のそんな姿は容易に想像できる。
真澄は心の中のみ、悪戯っぽく微笑んだ。
だがその前に、
(このデュエルは私が勝つ!)
デッキに添える右手に力を込め、
「いくわよ! 私のターン、ドロー!」
引いたカード、それは――――
「――ッ!」
引いたカードを見て、彼女は僅かに歯噛みした。
そのカードは《ジェムナイト・サフィア》。 そして今彼女の手札にあるのは、ラズリーの効果で加えた《ジェムナイト・ガネット》、《ジェムタートル》、2枚目の《ジェムナイト・フュージョン》、《ジェム・マーチャント》。
(あと……あと一枚『ジェムナイト』があれば、あのカードを出せたのに……!)
残念ながら、彼女は目当てのカードを引く事ができなかった。 しかし、
「これでも十分対処は出来るわ! 私は《ジェムナイト・フュージョン》を発動!」
ここでただ負ける彼女ではない。
「手札のガネットと《ジェムナイト・サフィア》を融合! 堅牢なる蒼き意志よ、紅の真実を知る時、その思いを一層強くさせん!」
渦巻く光の中より現れる、真澄の最後の切り札。 それは、
「融合召喚! 真実を見出す紅玉の輝き! レベル7、《ジェムナイト・ルビーズ》!!」
青いマントをなびかせ、斧とも鎌とも槍とも取れる長い得物を携えた真紅の騎士。
ジェムナイト・ルビーズ
地属性 炎族 レベル6
攻撃力2500
融合
「攻撃力……2500」
「ええ。 だけど、こうすれば届くのよ! 《ジェム・マーチャント》を通常召喚し、ルビーズの効果を発動! フィールドにいる『ジェム』と名の付いたモンスターをリリースする事で、そのリリースしたモンスターの攻撃力を得る!」
「ッ!? と言うことは……」
「マーチャントの攻撃力は1000。 よって攻撃力は3500!!」
ジェム・マーチャント
地属性 魔法使い族 レベル3
攻撃力1000
ジェムナイト・ルビーズ
攻撃力2500→3500
これで、ドラギオンの攻撃力を上回った。
例え切り札が出せない状況に陥りようが、自身のカードを熟知し、勝機を逃さぬよう諦めなかった結果である。
「行くわよ、バトルフェイズ! ルビーズでトライデントに攻撃!」
ドラギオンの3つの口から放たれた炎と、ルビーズの矛から放たれた炎が激突した。 それらはお互いの中間地点で拮抗し合い、爆発の様に拡散しながら拮抗する。
「ッ!!」
その時、遊雅は既に動いていた。 ルビーズはドラギオンと競り合っている最中。 彼を止めるものは何もない。
矢の様な速さで観客席へと走り、凄まじい跳躍で2階席の方に踊り込む。 最初から目をつけていただけあって、すぐに目当ての物を見つけた。 それをすぐさま発動させる。
「アクション
レインボー・シャイン
アクション魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の攻撃力はエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。
トライデント・ドラギオン
攻撃力3000→3800
両者の攻撃力の大小がこれで元に戻った。 虹の光を浴びたドラギオンの炎の勢いが一層激しくなり、ルビーズの炎を押し始める。
だが、
「アクション魔法、《レインボー・シャイン》発動!」
「なっ!?」
声がした方向――左手側の客席を向くと、そこには既にアクション魔法を発動し終えた真澄が遊雅を見据えていた。
「ルビーズの攻撃力を800ポイントアップ! これでルビーズの勝ちよ!」
ジェムナイト・ルビーズ
攻撃力3500→4300
ルビーズの炎もまた勢いを増した。 そして、ぶつかり合う炎はついに大爆発を起こし、粉塵を巻き上げる。
そしてその時、ルビーズは既に追撃の姿勢に入っていた。 立ち込める煙の中、計六つの目を凝らしてルビーズを探すドラギオン目掛けて高く跳躍し、そのままついに姿を捉える事のできなかった三つ首のドラゴンを袈裟に斬り捨てた。
Yu-ga
LP800→300
切り札を失い、これでまた絶望的な状況へと追い込まれた遊雅。 だが、それでも諦めた顔はしていない。
「ターンエンド!」
「僕のターン! ドロー!」
宣言が終わると同時にやや食い気味にドローをする。 もはやこの殴り合いの様なテンポは如何に今のデュエルが泥仕合なのかを物語っている。
だが遊雅のライフは風前の灯。 手札は今引いたカード1枚。 間違いなく遊雅の最後のターン。 キーカードを引かなければ遊雅の負けとなる。
が、
「僕は《ドラグニティ・ドゥクス》を召喚!」
「! ここで!?」
諦めない人間に、必ずデッキは応えるのだ。
そして、
「召喚時効果により墓地のファランクスを装備して、ファランクスの効果で自身を特殊召喚!」
展開力も、スタミナもないとしても、1枚のカードで逆転できる可能性を秘めているのが『ドラグニティ』である。
「レベル4の《ドラグニティ・ドゥクス》に、レベル2の《ドラグニティ・ファランクス》をチューニング! 緋色の軌跡描く竜騎士よ、その名の如く、
このデュエルで行われる最後のシンクロ召喚。 遊雅が選ぶ最後の矛は――
「シンクロ召喚! 舞い駆けろ! レベル6《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》!!」
緋色の鎧を纏った胴長の龍と鳥人の竜騎士。 それは、遊雅のデッキの中でも最大の爆発力を持った切り札。
ドラグニティナイト-ヴァジュランダ
風属性 ドラゴン族 レベル6
攻撃力1900
シンクロ
「攻撃力、1900…………でもっ」
「ええ。 それだけじゃありません! ヴァジュランダの効果発動! シンクロ召喚成功時、墓地のレベル3以下のドラゴン族『ドラグニティ』モンスター1体を選択して、ヴァジュランダに装備します! これにより、《ドラグニティ・アキュリス》を装備!!」
ヴァジュランダの左手に銀色の小ぶりな槍が装備される。 これで準備完了。
「さらに、ヴァジュランダの効果発動! 装備しているカード1枚を墓地へ送る事で、攻撃力を倍にします!」
ドラグニティナイト-ヴァジュランダ
攻撃力1900→3800
「攻撃力3800……ッ!」
まさかルビーズの攻撃力を超えられるとは思っていなかったからなのか、それとも超えた事そのものに対してなのか、真澄は驚愕の表情を見せた。
だが、
「まだです!」
「え?」
これでは終わらない。 なぜなら、このターンで決着を付けるからだ。
「墓地へ送られたアキュリスの効果発動! モンスターに装備されている状態で墓地へ送られた時、フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊します!」
「ッ! 対象は……」
「勿論ルビーズ!」
遊雅が対象の名を上げるやいなや、ヴァジュランダはルビーズ目掛けてアキュリスを投げた。 対しルビーズ。 それを打ち落とそう矛を振り下ろすが、アキュリスは空中でホップして軌道を変え刃をかわし、ルビーズの胴体を捉えた。
風穴の開いた宝玉の戦士は粒子となって爆散する。
「っ!」
この瞬間、彼女のフィールドはがら空きとなった。 身を守るモンスターも、対抗する魔法や罠も。
故に、
「これで最後です! ヴァジュランダでダイレクトアタック!!」
ヴァジュランダが槍を空に掲げると、晴れ晴れした青空に暗雲が立ち込め始める。 ピシャァッ!! という轟音と共に竜騎士の槍を避雷針にして雷が落ちた。 そして、雷撃を帯びた槍を竜騎士は投げる体制に入る。
「…………」
その時、真澄は動かなかった。 ただ、雷槍を放とうとしている竜騎士をまるで陽光を見るように目を細めながらじっと見つめていた。 攻撃を避ける気も防ぐ気もない。 明らかに諦めを感じる姿勢だが、その顔はむしろ胸の奥で引っ掛かっていたものがようやく取れたような、晴れた顔をしていた。
(あぁ…………そういう事だったのね、刃)
やっと、解ったのだ。
彼の言っていた「どういう形であれ負けた」と言う言葉。 確かに、どういう形であれとは言い得て妙だ。
天辻遊雅はどれだけ追い込まれようと絶対に諦めない。 そして諦めずにドローしたたった一枚のカードで状況を逆転させた。 あれだけ追い込んだにも拘らず。
「………………」
彼女は目を伏せる。 攻撃を受け入れるために。
次の瞬間、彼女の後ろでドガァ!!! と言う音と共に炸裂した爆風によって、自分の体が客席から投げ出されたのを理解した。
Masumi
LP2300→0
Yu-ga
Win
(私の負けね……)
真澄は自身の敗北を受け入れながら、ほぼ放物線を描きながら体が地面に激突するのを待った。
しかし、
「光津さん!」
女子にしてはハスキーで、男子にしては高い声に名前を呼ばれた事に気付いた時、背中と膝裏にトン……と柔かいくも芯のある感触を覚える。 目を開けると、そこには精悍な顔つきでこちらを見ている天辻遊雅の顔があった。
「え……?」
何故天辻遊雅が自分の目の前に? そう思った瞬間に、スタ……と言う音と共に僅かな衝撃を感じる。 そして気付いた。
自分が今お姫様抱っこをされているという事実に。
「~~~~~~ッ!!」
それを自覚した瞬間、彼女の中の血液が沸騰するように体中が熱くなった。
「ちょ、ちょっと何してんのよ! 早く降ろしなさい!」
あまりの羞恥心に身体を振って降りようとするが、如何せんこの生徒存外に力が強い。
「え、だ、だって、高いところから落ちかけて危なかったので……」
「デュエリストなら建物2階分くらいの高さから落ちても打ち身程度で済むわよ! いいから早く降ろして!」
「………………」
しかし、真澄の要求を聞いても押し黙るだけで了承しようとはしない。 流石に羞恥心が限界なのとその対応に苛立ちを感じた真澄は捻る身体の力を強くする。
だが、それでも遊雅の拘束を解く事は出来なかった。 いい加減そろそろ抗議の言葉を出そうとした、その時だった。
「……んで…………」
「?」
「何で、諦めたんですか……」
「え……?」
一瞬、何を言われたのかが解らなかった。 次に何を言われたのかを理解しても、何故今そんな事を言われたのかが解らなかった。
諦めたとは、一体どういうことか。
「なに言ってるの……私は諦めてなんかいなかったわよ。 最後まで全力を出してあなたと戦ったわ」
そうだ。 それは間違いなく嘘ではない。 全力を出していたし、最善の手が打てるように最後まで動いていたはずだ。
だが、そうだというのにも拘らず、彼女の口調は言い訳するかのように細々としていた。
「じゃあ」と、遊雅は続ける。
「なんで最後の攻撃の時、アクションカードを探そうとしないでそのまま攻撃を受けようとしたんですか?」
「ッ!」
その言葉を聴いて、真澄は眉間を小突かれたような感覚と共に言葉に詰まる。
「まだ猶予はあったじゃないですか。 手に入れたカードが逆転に繋がるかもしれなかったじゃないですか。 もっと抗ってもよかったじゃないですか。 僕は、あんな楽しいデュエル、続けられるならもっと続けたかったです!」
そう。 あの時、アクションカードを拾えばもしかしたら防げたかもしれないのだ。 あの攻撃を。 だが真澄はそうはしなかった。 何故なら、もう負けたと思ってしまったから。
(そっか……)
真澄は悟る。 まさにそれが、
それを感じたとき、体中の力が抜けていくよう感じがした。 まるで、くだらない柵から開放されたように。
「……ごめんなさい。 そうね、あなたの言うとおりだわ。 私はあなたの力を試すためにこのデュエルをしたというのに、肝心の私自身が最後の最後まで全力でいられなかった。 デュエリスト失格ね……」
「そ、そんなことないです! 僕が言いたかったのは、その……」
こちらがしおらしい態度を見せると、さっきの勢いはどこへやら。遊雅は初めて見た時のオドオドした態度に戻ってしまった。 今となっては、それもどこか可笑しくて、つい小さく吹き出してしまう。
「わかってるわよ! だから……また今度デュエルしましょう。 今度は最後まで全力を尽くすし、諦めない。 それに、私が勝つわ!」
「! はいっ!」
晴れやかな笑顔でそう答える遊雅。 見上げるその笑顔はとても眩しくこちらの心まで晴れやかになりそうで――
(あれ? ちょっと待って……?)
ふと疑問がよぎる。
見上げる? 何故だ? 天辻遊雅は真澄の身長よりも低い。 見上げるなんて事はありえないはずだ。
この疑問を考えるにあたって、真澄は自分の体が何故かカーッと体が再び熱くなっていくのを感じ始めた。
ではここで思い出していただこう。 二人の生徒はデュエル終了時から今までどんな体勢で話し合っていたのか。
『オイ遊雅、いつまでそいつをお姫様抱っこなんてしてんだ? 真澄もなにらしくなく抱っこされたまんまになってんだよ
そのスピーカーから聞こえた刃の言葉。 それを耳にした瞬間、真澄の身体はカーッどころかボン! と熱暴走を起こす。
同時にポカンとしていた遊雅の腕という妙に心地の良いハンモックから全力の力で体を捻って抜け出し、空中で1回転半を決めてズダン! と着地した。 着地音こそ大きいが素人目でならば10点をあげたくなる動きだった。
「う、うう、うるさいわよ刃! 私がお姫様抱っことか……何言ってんのよ!?」
「そうですよ刀堂さん! らしくないなんて事はないです! 光津さんだって女の子なんですよ!」
「ちょっとあなたは黙ってなさい!!」
それに
そんなわけで、失礼にもほどがある2名の生徒にいいとこのお嬢様はなおも顔を真っ赤にして噛み付く。
しかし、遊雅はともかくシンクロコース主席はカラカラと笑いながら、
『だけどまぁこれで解ったろ? 俺の言ったとおり、そいつが面白い奴だってことが』
いきなり話題を変えられたことで勢いを殺され、真澄はぐぬぬ……と唸るしかない。 彼女がさらに噛み付こうとせず黙らされたのは、それが図星であり言い返せる言葉も見つけられなかったからである。
「
なので、彼女は矛先を変えることにした。
呼ばれた当人はビクゥッ! と身体を震わせながら「ハイッ!!」と返事をする。 そんな遊雅に真澄はビシィッ! と指を差す。
「いい!? さっきも言ったけど、私はいつか必ずあなたにもう一度デュエルを申し込むわ。 だからその時まで絶対に負けるんじゃわよ!」
「え、ええっ!?」
「うろたえない! あなたは融合コース主席であるこの私に勝ったのよ? そのくらいの責務は果たしなさい! 良いわね!!」
「は、はい……」
真澄の八つ当たりに等しい剣幕に気圧され、意思ではなくほぼ本能で承諾の返事を出してしまう遊雅。
それを確認した真澄は、「それじゃ、付き合ってくれてありがと。 お疲れ様」と残して踵を返し、気付かない間に元の風景の戻っていたコートをほぼ逃げるように後にする。
そのまま刃の元を素通りして廊下まで出ようとしたが、やはりそこで呼び止められた。
「よっ、敗北者さん。 これからまた図書室に戻ってアイツとまた勉強すんだけどよ、お前も来るか? アイツ座学はかなりのもんでよ。 教えるのも上手いんだぜ?」
思わぬところであの生徒の情報が手に入った。 どうやら座学では相当いい成績らしい。 その割には行き当たりばったりなデュエル内容だった気がするが。
とはいえ、刃がそういうのならそうなのだろう。 反省も兼ねて、合同でやるのも悪くはないが……
「……せっかくだけど遠慮しておくわ。 今は一人で今回のデュエルを振り返りたいの」
本音を言えば一緒に勉強したくもあったが、それと同じくらいに負けた相手からすぐさま教えを請うというのは、彼女のプライドが躊躇わせたのだ。
刃はそれを察したのかどうかはわからないが、「そうかよ」と肩を竦めて了承の態を見せた。 しかし、話はそれだけではないのか「それとよ」と、彼は続ける。
「随分と気に入ったようだな。 俺以上にアイツの事気に入っちまったんじゃねぇのか?」
「なんですって?」
「顔、にやけてたぜ」
「~~ッ!! うっさいバカッ!!」
最後の最後まで茶化してきたシンクロコース主席に子供のような捨て台詞を言い放って、バタン!! と思いっきり強く閉めた。
そのまま不機嫌そうに早歩きでエレベーターへと向かうが、その歩は一歩一歩進む度に段々と遅く穏やかになっていく。
刃から言われた事は、これまた完全に図星であった。 彼の言うとおり、彼女はあの生徒の事を気に入っていた。 本当に、面白い生徒なのだと。
(そういえば、結局性別を聞くの忘れたわね)
ある意味一番気になっていた事なのに、迂闊にも忘れてしまっていた。 あのお姫様抱っこの件や茶化してきたあのハリネズミのせいだと、彼女は責任を転嫁しそれで納得する。
しかし、お互い知り合ったのだから、今後はいつでも聞きだせるだろう。 次ぎ会った時の楽しみが増えたと思えばむしろ好都合だ。
(それより今は、今回の反省とデッキの練り直し! 今度は絶対私が勝ってやるんだから!)
そう心の中でこの場にいない生徒に対し宣戦し、彼女はエレベーターを待つ。
その顔は、まるで毒気を抜かれたかの様に晴れやかだった。
(それまで、絶対に負けるんじゃ無いわよ、
ちなみに、後日彼女はその遊雅の性別を聞くのだが、その答えを聞いた時、ホッとした表情を見せ、それをシンクロコース首席がまたからかって彼女の逆鱗に触れるのだが、それはまた別のお話。