遊戯王ARC-V LDS 進化の翼   作:ユアシアン

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目次でも書きましたが、すべての話をプロローグエピローグは別に2パートに纏めました。
これからも投稿は3~4回に分け、後で2パートに纏めるようにしたいと思います!


Phase5 覚えのない脅威 Part1

「はぁ……はぁ……っ、いけない……遅くなっちゃった……っ!」

 

 藍色掛かった夕焼けに染まる歩道を僕は7割くらいの力で走る。 LDSを出発してからそれなりの距離があるので、やや息が切れてきた。

 光津さんと別れ、講義が始まる直前に、兄さんから『何だと!? 遊雅お前、俺様と塾の講義とどっちが大事なんだ!! 全くしょうがない……だったら17時にいつもの倉庫に来い! 絶対遅れるなよ!』と言う返事が来たのだけど……

 

「何でこんなときに限って講義が長引いちゃうのーーーーーーーー!?」

 

 現時刻は17時半。 何故こんなに遅くなったのかと言うと、講義の内容が実戦を交えた物に変更されたからだった。 幸いデュエルは勝ったものの、結構上位の相手だったようで終わらせるのに時間が掛かり、しかもその後軽くでも反省会をするので更に時間を取られてしまった。

 

「兄さん怒ってなければ良いけど……」

 

 だけど多分怒ってないなんて事はまずないだろう。 正直言って確信できる。

 兄さんは自分の思い通りに事が進まないとすぐに機嫌を損ねてごね始める。 わがままで傲慢で気まぐれで自己中な人なのだ。

 まぁ謝ればすぐに許してくれるんだけどね! 僕の場合のみっ☆

 

「ふうっ……、つ~いたっ!」

 

 走る事10数分、ついに港へ到着する。 沈みかけている陽光を反射する海面はとても美しく、頑張って走ったご褒美として僕の気持ちに微かに安らぎをくれる。 もうちょっと早ければもっと綺麗だったかもだけど。

 今の時期のこの港はコンテナがあまり多くなく、道も広々としていてとても歩きやすい。 僕は夕焼けに染まりながら、星の様に点々と明かりを照らし始める向こう岸の舞網市を見渡しながら歩く。 これはここに来たときに必ずしている事だ。 疲れたっていう点もあるけど、初めて来た時からしている事は自然と体がそうさせる。

 反対側を見ると、そちらも綺麗ではあるのだけど、やはりLDSのビルが非常に目立つ。 

 ……いつも思うんだけど何であんな砂時計みたいな形をしているんだろう。 アンバランスじゃないのかなぁ?

 しかし、あのビルはああ見えて耐久面に対する黄金比を割り出すために非常に念密な設計構成がなされ、例え地震や外部からの襲撃なんてことがあったとしても、並みのビルより遥かに頑丈なのだとかなんとか。 まぁ、噂なんだけどね。

 ……それにしても、

 

「LDSに入ってもう大分経つんだなぁ……」

 

 光津さんとの昔話で自覚したが、僕がLDSに入ってから一年以上経っていたようだ。

 実を言うと僕は昔、LDS以外のデュエルスクールに通っていた。 そこは、LDSの様な競争社会というか、対人に関してドライなところとは真逆の、あったかくって和気藹々とした所だった。

 

「……元気にしてるかな、皆」

 

 ちょっとだけその時の日々を思い出して、噛み締めるように小さく零した。

 ある男の子がふざければ、ある女の子がハリセンをもって制裁する。 やたら暑苦しい塾長も同じようにされてたっけなあ……。 あと他の塾の人間なのに、よく遊びに来てた人もいたなあ。

 ホント、塾の人数は少ないのに、毎日が騒がしかった。 そして、とても楽しかった。

 

「……………………っと、あそこだ」

 

 思い出に浸っている間に目的地が見えてきた。 いくつも並んだ青い三角屋根の倉庫の中でも一番手前、No.52と扉にかかれた倉庫だ。

 

「あれ?」

 

 そこで違和感に気付いた。 扉が開いているのだ。 

 あの倉庫は兄さんの遊び場になっているだけなので、別に無用心だなぁとかは思わないけども、いつもは閉めるので妙に思える。

 まぁいいやと思って、駆け出そうとした――――

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「ぅわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 暗礁色のフラッシュが倉庫から見えたと思ったのと同時に、ここからでも大音量に思える悲鳴が聞こえたのだ。 それも、よく知っている人間の声の。

 

「兄さん!?」

 

 今の悲鳴は間違いなく兄さんのものだった。 一体何が!?

 兄さんの身の危険を察知し、全速力で倉庫の前まで走る。

 そして、半開きになった扉越しに見たものは、背中を向けているせいで顔は解らないが、黒いコートを着、デュエルディスクを装着した男と、床に背を預けながらへたり込んで放心している焦げたプリンの様な配色をした頭髪の少年――沢渡(さわたり)シンゴ――僕の兄さん。 

 さっきの悲鳴はやっぱり兄さんだったんだ!

 その光景を見て、ここで何があったのかを瞬時に理解した僕は、同時に一瞬にして身体の内側が燃え上がるのを感じた。 

 アイツが、兄さんを……?

 

 

 

 ボク(・・)の……

 

 

 

 ()の……

 

 

 

 ()の……

 

 

 

 兄さんを――――ッ!!

 

 

 

「貴様あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 吠えると同時に、自分の意思よりも早く体が勝手に動き出した。 振り払うように扉を開けながら駆け出す。 ガォウン!! と、低い音が後ろで鳴り響いた。

 間違いない! あの黒いコートの男――――コイツが兄さんを襲った!

 僕の怒号に気付いて振り返った男の顔に肉薄し、躊躇なく拳を叩き込む。 横で「きゃぁっ!!」と言う短い悲鳴が聞こえたが、気にしていられない。 しかし僕の拳は片手で難なく受け止められ、逆の手で払われてしまう。 間髪入れずにこめかみ目掛けて蹴りを放つが、それも身を屈めて回避される。 そのまま反撃に足払いが来たが、軸足に瞬間的に力を込め、その跳躍で男の頭上を飛び越えて兄さんと男の間に立つように着地する。 これで、兄さんをかばえる位置につけた。

 兄さんの近くに移動しながらコートの男を見据えるが、倉庫も扉から覗く空もどちらも暗くて男の顔はうまく見えない。 

 

「「「遊雅さん!!」」」

 

 複数の人物に横から声を掛けられた。 兄さんとコートの男を意識しながら、そちらに目線を配る。 そこには見知った3人の顔があった。

 

「一体何があったんですか!?」

「いやそれが、俺たちもよく……」

「いつもの通りにここで沢渡さんの面倒を見ていたら、アイツらが現れて……」

「いきなりデュエルで襲われたんです!」

 

 彼らは僕の質問に答えた順に、緑髪の山部さん、ツーブロックの髪をオールバックにした大伴さん、短髪で若干猿顔の柿本さん。 兄さんの友達……と言うよりは取り巻きの3人である。  兄さんと遊ぶときはいつも一緒にいるので、必然と僕ともよく遊ぶ仲になった人たちだ。

 それにしても、

 

「デュエルで襲われた……?」

 

 どういう意味だ? スタンディングデュエルで召喚されるモンスター、使用される魔法、罠は全て質量の無い立体映像のはずだ。 そんな事できる訳がない。 せいぜい驚かせるのが関の山だし、アクションデュエルをやってきている兄さんがそんなもので悲鳴を上げるほど驚くなんて事は無いはずだ。

 しかし、その疑問にはすぐさま山部さんが答えてくれた。

 

「アイツとのデュエル、何故かアクションデュエルの時みたいに風が起こったりしていたんです! 沢渡さんもぶっ飛ばされてたし……」

「なんですって……」

 

 にわかには信じがたいが、恐らく事実だろう。 そうでないとそこでのびてしまっている兄さんの説明がつかないし、よく見たら倉庫内のものはかなり散乱し、物を焼いたかのような異臭が立ち込めている。 よほどの事がない限り、こんな事にはならないはずだ。 それこそ、ここでアクションデュエルでもあったかのような。

 僕は3人に貰った情報を元に、ここで起きた状況を飲み込んだ。

 彼らから目線を外し、男の方へと向き直る。

 

「……一体何が目的なんですか?」

「ここでの目的は済んだ。 もう用はない」

 

 コートの男が始めて言葉を発した。 意外なほどに澄んでいて、どこか強い意志を感じさせるような声だった。

 しかし、そんなものはどうでもいい。

 コイツ……人一人を襲っておいて、もう用はないだって?

 その冷徹な返事に、僕は頬が震えるほどに自分の怒りが更に燃え上がっているのを自覚した。

 

「……山部さん、大伴さん、柿本さん。 兄さんを病院へ運んで行ってあげてください……今すぐに」

「え? で、でも遊雅さ――」

「早く!!!」

「「「ッ!! ハ、ハイッ!!!」」」

 

 僕の要請に、3人は何故か怯えたような声で返事をし、うまく連携を取って兄さんを担ぎ上げ、その場を離れる。

 そして去り際、大伴さんがコートの男にこんな言葉を言い放った。

 

 

 

「ちくしょう! 覚えていろよ『榊遊矢(さかきゆうや)』!!」

 

 

 

 ……………………………………………………は?

 それを聴いた瞬間、僕の中の怒りがまるで氷水を掛けられたかのように鎮火し、身体の力が僅かに緩んだ。 今、なんて……?

 受け入れがたい言葉に呆然とする中、雲が月から退いたのか月明かりが倉庫の中へ差し込み、僅かに照らし始めた。

 それは勿論、男の顔も例外ではなくて。 少しずつ、男の顔が見えてくる。

 きつく結んだ唇。 やや釣り上がった猫眼。 顔の作りそのものは柔和でありながら、今は精悍な顔つきをしていて、刃のような鋭さを生み出している。

 それは、知っている人間の顔だった。 

 

遊矢(ゆうや)……なんで…………?」

 

 榊遊矢。 昔、僕が通っていたデュエルスクール、『遊勝塾(ゆうしょうじゅく)』で共に勉強しあった仲間である少年だ。

 それだけでも僕にとっては衝撃的な事だったが、それだけでは終わらなかった。

 月明かりのおかげで他にも人がいた事に初めて気付く。 そういえば、大伴さんは「アイツ」ではなく「アイツら」と言っていた。 一体……誰が…………

 

「遊雅……? もしかしてあなた、遊雅なの?」

 

 僕がその人物を確認するよりも早く、相手から僕の名前を呼ばれた。 だが、僕はその声を聞いて、完全に体が凍ったような錯覚を覚えた。

 理由は簡単。 それもまた、知っている人間のものだったからだ。

 

「ゆ……ず…………?」

 

 その人間は――少女は、なんで今まで気づかなかったのかわからないほど、遊矢の近くにいた。 濃い桃色の髪を青い半球状の髪飾りで二つ結びにし、右腕に赤い宝石のついたブレスレットをつけたほぼ同年代の女の子。

 柊柚子(ひいらぎゆず)。 彼女もまた、遊矢と同じく前の塾での仲間だった人間だ。 

 なんで……なんで二人が、兄さんを襲ったの……?

 そんな疑問を今すぐ投げかけたいのに、ショックと混乱が大きすぎて、まるで声帯に膜でも張られたかのように言葉が出ない。 

 そうしている内に、また次の出来事が僕を襲った。

 コォォと、柚子のつけたブレスレットの赤い宝石が輝きだしたのだ。

 

「?」

「な、なにこれ……?」

 

 柚子の意思ではないのか、つけている本人も驚きの表情を見せている。 そして次の瞬間、それはカッ! と光力を強めた。

 

「わっ!?」

「きゃぁっ!?」

 

 僕は思わず柚子の悲鳴を聞きながら目を瞑ってしまい、まぶたの裏で光が消えたのを確認すると目を開ける。

 するとそこには、

 

「え…………?」

「えっ、ええっ?」

 

 遊矢の姿はどこにも無く、僕の視界に映る人物は柚子しかいなかった

 ……意味がわからない。 なにが起きたのか全く理解できない。 今のフラッシュは本当に一瞬だった。 その瞬間だけで足音もなく埃も立てずにこの場から去れる訳がない。

 つまり、遊矢は本当に消えた。

 

「柚子、今の何……? 遊矢は!?」

「わ、解らない! 私にも、何が何だか……」

 

 僕の問い詰めに、柚子は戸惑いながらそう返す。 どうやら柚子の意思でやった事ではないらしい。

 だが、それでも遊矢をこの場から消えさせたのは柚子なのは間違いない。 納得がいかず、柚子に詰め寄ろうとした、

 その時だった。

 

「――――柚子!」

 

 倉庫の入り口から、ある意味でこの状況では聞こえてはいけない人物の声が聞こえた。

 声の主はそのまま倉庫へと入ってくる。 容姿はすぐに確認できた。

 人懐っこさを感じさせる猫眼、短くも長くもないややふわっと広がった髪の上に、右目側だけに星マークのついたゴーグルをつけた少年。

 それが誰なのか、疑いようも無かった。

 

「「遊矢!!?」」

 

 榊遊矢。 それは間違いなく彼だった。

 

「はぁ、はぁ……大丈夫か、柚子?」

 

 彼は全力で走ってきたのか、息絶え絶えになりながらも柚子の身を案じながら彼女に駆け寄る。

 

「遊矢……あなた、遊矢よね?」

「はぁ? 何言ってんだ柚子?」

 

 だが、柚子は混乱しているのか、そんな彼の言葉に対して字面だけ見れば頓珍漢な返し方をしてしまう。 とは言えそれは仕方がない。 だって、僕だって混乱している。 そもそも一体ここで何があったのか、あの黒いコートを着た遊矢は一体誰だったのか。

 同一人物とは僕は思えない。 だって、全然違うのだ。 確かに、顔は間違いなくまったく同じだ。

 だけど、今彼が身に纏っている服は黒のコートではなく学校指定の制服で、髪型はさっきは逆立てていたのに今は下ろしている。 それに、さっきの憮然とした雰囲気を持っていた遊矢と、肩を上下しながら息絶え絶えになっている遊矢とでは、顔は同じなのにも拘らず別人にしか見えない。

 ならば、

 

「遊矢……君、今までどこにいたの?」

「え? 遊雅までどうしたんだよ……って、えぇ遊雅!?」

 

 僕の顔を見るなり頭のゴーグルが飛び跳ねそうなくらい驚く遊矢。 気持ちは解る。 でも、今は彼に付き合っている余裕はない。

 再会を喜びたいのか、それとも色々と問い詰めたいのか、遊矢は僕に駆け寄ろうとする。

 だが、

 

「――ッ!!」

 

 それを僕は拳を突き出す事で制す。

 ブワッと、風圧で遊矢の髪が踊った。

 

「ごめん遊矢。 君も色々と言いたい事があるのは解っているんだ。 でも、今は僕の質問に答えて欲しい。 じゃないと、僕自身でも君に何をしてしまうか想像できない」

「え……な、なんだよ遊雅、どういう事――」

「――いいから早く答えろッ!! 君はここに来る前何処にいた!!!」

「ッ!? ん、えと……遊勝塾に、いたけど……」

 

 声を枯らしかけるほどに激昂した僕の問いに、遊矢は怯えながら、というよりはびっくりして戸惑った様子を見せながら途切れ途切れに答えた。

 

「それを証明できる人はいる?」

「え? あ、あぁ。 うちのジュニアの子達が証明してくれるはずだよ。 それにそもそもここに来れたのも、柚子が一人で沢渡の所へ行った! ってうちのジュニアの子――アユっていうんだけど、その子から聞いたから来たんだ」

「……………………」

 

 様子を見る限り嘘ではないようだ。 証人もいるとなれば、彼の潔白はほぼ間違いないだろう。

 ……でもだったら、そうしたらさっきまでいた男は一体誰だったんだ? 他人の空似なんかじゃない。 服装髪型の相違点はあれど、やはり顔立ちは同一人物としか思えないほど瓜二つだった。

 でも遊矢ではありえない。 なら、だとすれば、

 

 

 

 

 

 

 まさか、別の(・・)…………?

 

 

 

 

 

 

「――――――――――ぅあ゛ッ!?」

「「遊雅!?」」

 

 何かが頭の中でよぎった瞬間、頭に鋭い痛みが走り、頭を押さえる。 よろけてしまい、それを心配してくれたのか、二人が僕に駆け寄ってきた。

 

「遊雅、どうしたの? 頭が痛いの?」

「おい、大丈夫か?」

「……ぁ……うん、大丈夫…………」

 

 寄り添って声を掛けてくれる二人にやや朦朧としながら答える。 この痛み、赤馬社長のデュエルの後でもあったあれと同じだ。 だけど、今度はよりはるかに鋭く強かった。 一体、何が……? 

 いや、それより今、僕は何を考えた?

 この状況の答えを出せるような材料を思い浮かべたような気もするけど…………ダメだ、今はどう思い返してもそれが思い出せない。

 多分、僕自身酷く混乱している。 兄さんが襲撃され、その犯人がかつての友人である可能性が示唆され、しかしそれは当人ではなく別人であるという。 正直訳が解らな過ぎて、今は保留しておくしか他に出来ない。

 それに何より、先に病院に行かせた兄さんが心配だ。 何時までもここに留まっているわけにはいかない。

 

「ごめん二人とも……騒いでおいて悪いんだけど、ちょっと先に帰るね…………」

「え、ちょ、ちょっと遊雅?」

「遊雅お前、本当に大丈夫なのか? なんだったら、家まで送るよ」

「あ、そうよね! 久々に会えたんだし、話でもしながら――――」

 

 手を頭から離し顔を挙げ、二人の間を軽く謝罪しながら割る。 微妙におぼつかない足取りだからなのか、二人が再び心配そうな声でそう気遣ってくれた。

 だけど、

 

「ごめんありがとう。 でも、本当に大丈夫だから。 それに、心配してくれるのはありがたいけど、これから兄さんのお見舞いに行かなきゃいけないんだ」

「兄さん……? え、遊雅のお兄さんって……」

「え! 遊雅って兄貴がいたのか!?」

 

 柚子は今の僕の言葉でボクの兄さんが誰なのかをすぐに理解したようだ。 遊矢はその場にいなかったらしいから解らないみたいだったけど。

 それに、断る理由はそれだけじゃない。

 

「それに遊矢。 僕は君の言った事は信じているけど、それでも疑いを完全に晴らしたわけじゃないよ」

「え? それってどういう――――」

「悪いけど、今は僕も混乱しててね……話せるほどの余裕も無いんだ。 じゃあね……」

 

 遊矢の言葉を遮りながら、二人を背に歩を進める。 「お、おい遊雅!」と、制止の声も聞こえたが、僕はそのまま彼らのことを振り返らずに倉庫を出た。

 

「――――はぁ…………」

 

 倉庫の中は煙いていて空気が淀んでいたせいか、潮風の香る外の新鮮な空気は安らぎをもたらし、緊張のほぐれた体が自然と体内の空気を吐き出させた。

 頭の痛みの余韻も大分失せ、気持ちも微かにだが余裕が出来始める。 だがその余裕もすぐになくなる。

 早く、兄さんの所へ行かなくちゃ。

 大怪我ではないとは思うけど、襲われたという事実で精神困憊しているかもしれない。 急がなければ。

 そう思った僕は、自分の疲労の事は考えず、微かな潮風を追い風に全力で駆け出した。

 

 

 

 黒に近い紺色のコートを着、フードで顔を隠した少女――凛雅は、倉庫の中で起きていた一連の流れを、港からは反対岸のビルの屋上から眺めていた。

 そして、その倉庫から出て、病院を目的地に夜の港を走る人影を目で追いながら、彼女はまるで愛する人を見るかの様に薄く微笑んで、そして小さく呟いた。

 

 

 

 

 

「も~い~かいっ……♪」

 

 

 

 

 

 舞網市に吹く風は、既に別の物へと変わっている。

 

 

 




皆様、遅くなりましたが明けましておめでとうございます!今年も自分とこの作品をどうぞよろしくお願い致します。

さて、今回の話で初めて本編とリンクしました。そして今回で色々と詰め込む予定ですが、出来たら楽しみに読んで頂けるととても嬉しいです。

色々と後付しまくって風呂敷たためなくならないよう注意しなければ……
ちなみに、遊矢と知り合いというのは、実はPhase1で伏線はありました。気付いてくれた(覚えていてくれた)方々はどれくらいいたのだろう……。

それでは、皆様の感想、評価、アドバイスなどを心からお待ちしております。もし少しでも気に入ってくださった場合は、お気に入り登録をしていただけると励みになります!

失礼します!
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