出来たら前回のと纏めて読むことを推奨します。微妙にデュエルの内容を変えたので……あと流れを読む意味で。
思いもしない点から、彼女からの言葉が返って来た。
恐ろしいほど平坦な声だった。 怒りを超えて、感情を失った人間のそれだった。 自分の勝敗の事を考えていたのに、その思考が完全に停止した。 勝機を感じて生じた熱も一瞬で冷めた。
一体どういう感情を抱いたらあんな声が出せるというのか。
本来は暗くて見え辛いはずなのに、こっちを見ている目が酷く据わってのがわかる。
「何って……聞いてないんですか仲間から? 沢渡シンゴ。 LDSの生徒で僕の」
「あー、あーあー違う違う。 そういうことじゃないんだよ遊雅」
わざとらしく遮って、なおも平坦に聞いてくる。
「兄さんってなんなのかを聞いてんの」
「何って…………兄さんは兄さんですよ。 僕の兄です。 それが何だっていうんですか」
今までの彼女からの豹変振りに圧されながらも、僕はそう返した。
そして彼女は、
「は〜、兄さん……兄さん? 兄さ…………兄……………にっ………………………は……ははは……は、はははははははははっはははははははははっははははははははっはははははははははははははははははははははは!!!!」
急に、笑い出した。
詰まらなそうに吐き捨て、怪訝そうに首を傾げ、落ち込んだように呟き、何かがツボったかのようにお腹を抱え、狂ったように笑い出した。
「何、だ………?」
訳がわからず戦慄する他ない。 本当に、何なんだこの子は……?
何十秒も笑い続け、近くの電柱に凭れかかりながら息を整え、僕の顔を目で見据えて言った。
「キミに兄なんていないよ」
「なッ!?」
「あれー、聞こえなかった? 何度でも言うよ。 キミに兄なんていない。 いるわけない。 はー…………まったく冗談じゃないよ遊雅、それは流石に面白くない。 ……せっかく勝たせてあげようと思ってたのに、残念だなぁ……」
「何を言って……?」
「んー? あぁ、気にしないでいいよ。 どうせ…………………………何も解らないまま負けるんだから」
「? どういう――」
「ボクのターン、ドロー。 ……早速その羽を折らせてもらうよ。 魔法カード、《エアーズロック・サンライズ》を発動! ボクの墓地に存在する獣族モンスター1体を特殊召喚するよ。 選ぶのは、《ЯЯ-ブレイド・ラーテル》!」
先のターンで倒した黒の駆動騎士が地面を切り裂き、その穴から飛び出でた。
くっ……! いきなり蘇生されて戻ってくるなんて! それに、あのカードの効果はそれだけじゃない……ッ!
「有名なカードだから次の効果も知ってるよね。 このカードでモンスターを特殊召喚したと同時に、ボクの墓地にいる獣族、植物族、鳥獣族のモンスターの数の分だけ200、相手モンスターの攻撃力を下げる! ボクの墓地にいる該当モンスターは10体! つまり、2000ダウン!」
「そんなッ!?」
ドラグニティセイバー-エッケザックス
攻撃力5100→3100
エアーズロック・サンライズ
通常魔法
「エアーズロック・サンライズ」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分の墓地の獣族モンスター1体を対象として発動する。その獣族モンスターを特殊召喚し、相手フィールドのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、自分の墓地の獣族・植物族・鳥獣族モンスターの数×200ダウンする。
マズイ! エッケザックスの攻撃力が一気に下がった!
「ここで通常召喚を行うよ。 ボクは3体目の《ЯЯ-ダウンリズム・ラクーン》を召喚! もう知ってるよね? ダウンリズムの召喚成功時、墓地からレベル2の『ЯЯ』モンスター――《ЯЯ-アップリズム・ラクーン》を裏側守備表示で特殊召喚!」
お腹が砲筒になった小さい狸と、SF映画に出てきそうな光剣の様な撥を持った大きい狸(を模したロボットのようなモンスター)が現れる。 大きい狸はそのまま宙返りしてカードの裏面へと変化した。
「ここでダウンリズムのもう1つの効果を発動! 自分フィールド上に存在する獣族Xモンスター1体を対象として、この子をエクシーズ素材にする!」
「自身をエクシーズ素材に!?」
「対象にするのはモチロン、ブレイド・ラーテル!!」
小さいほうの狸方ロボットが姿を黄色い光球へと姿を変え、黒騎士の周りを漂い始めた。 まるで衛星の様に。
「エクシーズ素材を得たから、ブレイドの効果も発動! エクシーズ素材となったダウンリズムを取り除いて、ブレイド以外のモンスターを表側守備表示に変更! 変更するのはセットしているアップリズムのみ。 よって400アップ!」
ЯЯ-ブレイド・ラーテル
攻撃力1200→1600
ORU1→0
ЯЯ-アップリズム・ラクーン
裏→表
「さらに、セットしていたアップリズムがリバースした事で効果発動! デッキから『ЯЯ』モンスター1体を裏守備表示で特殊召喚!」
カードの裏面から飛び出した大きい狸が光の撥を地面に突き刺す。 すると、その少し前方の地面に幾何学的な文様が描かれた陣が浮かび上がり、その中から新たなモンスターが飛び出てきた。
「さぁおいで! 《ЯЯ-クイックリー・ビッグハムスター》!」
飛び出てきたのは名前とは裏腹に、いやむしろ名前の通りなのか、黒の駆動騎士以上の高さのある丸い灰色のボディをし、ブースターで短い足を表現した、げっ歯類を思わせる様相のモンスターだった。
ЯЯ-クリックリー・ビッグハムスター
リバース
地属性 獣族 レベル4
守備力1800
裏
新しい『ЯЯ』? でも今更どうして……? 恐らくあのモンスターもリバース効果を持っているのかもしれないけど、もう表示形式を変更する手立てなんて……
「不思議そうな顔をしてるね遊雅。 でもすぐに解るよ。 ボクは魔法――《太陽の書》を発動! 今伏せたビッグハムスターを表側攻撃表示にする!」
「《太陽の書》!?」
太陽の書
通常魔法
裏側表示でフィールド上に存在するモンスター1体を表側攻撃表示にする。
あまり見ることのないカードだけど、そうか、リバース効果を発動するために!
「このデッキになら入れる意味はあるんだよねぇ! リバースしたビッグハムスターの効果を発動! 自分の墓地、またはデッキから同名モンスターを特殊召喚する! 2体目のビッグハムスターを特殊召喚!」
少女の呼ぶ声と共に、2体目のげっ歯類型アンドロイドが現れる。
ЯЯ-クイックリー・ビッグハムスター
リバース・効果モンスター
星4/地属性/獣族/攻1100/守1800
(1):このカードがリバースした場合に発動できる。
自分のデッキ、墓地から同名モンスター1体を特殊召喚する事ができる。
(2):このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
相手ライフに500ポイントダメージを与える。
「同時にブレイドも400アップ!」
ЯЯ-ブレイド・ラーテル
攻撃力1600→2000
また黒の駆動騎士の攻撃力が上がった。 しかし、今注目すべき点はそこじゃない。
「同レベルのモンスターが並んだ……ッ!?」
「そうだよ。 見せてあげる、ボクの切り札を。 2体のビッグハムスターでオーバーレイ! 2体のレベル4『ЯЯ』モンスターで、オーバーレイネットワークを構築!!」
2体のげっ歯類型アンドロイドが灰色の光へと姿を変える。
切り札……? ブレイド・ラーテルが切り札じゃなかったのか!?
「仲間の仇を討つがため、今修羅の化身へと生まれ変わらん!」
光の渦と交じり合った2つの光は爆光し、新たなモンスターの産声となる。
「さぁおいで! 被食者の頂点に立つ優しき猛者よ! ランク4、《ЯЯ-ライオットハート・エレファント》!!」
現れたのは、右手に長大かつ肉厚な蛇腹剣を、左手に剣と同じくらい巨大な、像の頭部を模したと思しき盾を持った、赤と銀の重厚な装甲の駆動戦士だった。
ЯЯ-ライオットハート・エレファント
地属性 獣族ランク4
攻撃力2500
エクシーズ
「いくよ遊雅…………お仕置きの始まりだ。 ライオットの効果発動! エクシーズ素材を1つ取り除き、墓地から《ЯЯ》モンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚する。 その効果で2体目の《ЯЯ-マッハ・ピジョン》特殊召喚!」
「なッ!?」
マズイ! 確かあのモンスターは、此方のカード発動を出来なくする効果だったはず!
「驚いているところ悪いけど、それだけじゃないよ」
「え?」
「ライオットの効果処理はまだ続いているんだよ。 特殊召喚した後、ボクのフィールドにいるモンスター全てを攻撃表示に変更する!」
「ッ!? ということは…………」
「ライオットは全ての『ЯЯ』の効果が使えるってことだよ! 攻撃表示になっていないのはマッハとアップリズム。この2体を攻撃表示に変更。 そしてリバースした事でこのターンのバトルフェイズ中、遊雅は一切のカード効果を使うことが出来なくなった。 あとついでに、ブレイドも攻撃力アップ!」
ЯЯ-マッハ・ピジョン
裏→表
守備力1500→攻撃力1500
ЯЯ-アップリズム・ラクーン
守備力800→攻撃力0
ЯЯ-ブレイド・ラーテル
攻撃力2000→2800
相手の場にはモンスターが4体。 此方の動きも封じられた。
でも……!
「僕のエッケザックスの攻撃力はまだ3100。 そのモンスター達ではまだ勝てない!」
しかし、朱髪の少女はつまらなそうに、「大丈夫大丈夫」と手をヒラヒラと振り、
「そのくらい解ってるから。 ていうか、既に問題は解決済みなんだよね~」
「え?」
ピン、と人差し指を立てる。
「ブレイドとライオットの効果。 まず、ブレイドはエクシーズ素材を持っている限り、他のモンスター効果を一切受けない」
「……それがなんなんですか」
今のこの状況には全く関係ないはずだ。
少女は構わず続け、次に中指も立てる。
「次にライオットの効果。 ライオットはエクシーズ素材を持っている限り、自分以外の全ての『ЯЯ』モンスターの攻撃力を800ポイントアップするんだよ」
「…………………………………………………………………………ッ! まさか……っ!?」
一瞬、身震いするほど体が強張った。
気付いてしまった。 少女が何を言っているのかを。
ブレイド・ラーテルは他のモンスター効果を受けない。 それは、破壊であれバウンスであれ墓地送りであれ、モンスター効果なら一切を受け付けない。 それが、例え自軍からの援護であっても。
しかし、それは――――
「そう! エクシーズ素材を持たない今のブレイドはこの恩恵を受ける! さぁ……『襲い来る者を討ち払う撃退者』達! ライオットの声に応え、今こそ目の前の敵を討ち払え!!」
ギュルォアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!! という獣に似た、しかし明らかに獣のものではない咆哮が轟く。 それはまさに、襲い来る者達の進行を妨げる威嚇であり、立ち向かうが為の勝鬨でもあった。
雄叫びと共に、被食者達の力が湧き上がる。
ЯЯ-ブレイド・ラーテル
攻撃力2800→3600
ЯЯ-アップリズム・ラクーン
攻撃力0→800
ЯЯ-マッハ・ピジョン
攻撃力1500→2300
ЯЯ-ライオットハート・エレファント
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/地属性/獣族/攻2500/守1200
「ЯЯ」と名のついたレベル4モンスター×2
「ЯЯ-ライオットハート・エレファント」の(1)の効果は1ターンに1度しか発動できず、発動したターン自分は「ЯЯ」モンスターしか特殊召喚できない。
(1):このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
自分の墓地から「ЯЯ」モンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚し、
その後自分フィールド上に存在する全てのモンスターを表側攻撃表示に変更する。
(2):X素材を持ったこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分のターン中このカード以外の「ЯЯ」モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。
そんな…………
「エッケザックスの攻撃力を、上回った…………?」
無意識に、足が一歩、後ろへと動いた。
「さぁ、遊雅………………お仕置きの時間だよ。 ブレイド、エッケザックスを攻撃!」
ヴォン!! と、黒騎士は応えるように握った光剣を振るい、その直後、一瞬でエッケザックスに肉薄し、光剣を繰り出す!しかし、エッケザックスはブランディストックのガントレットで受け流した。 さらに受け流す際に半身になったことで、黒の駆動騎士の背後を取り、そのまま正拳突きの要領でガントレットについたランスで黒騎士の身体を串刺しに――――――しなかった。 したのは黒騎士のマントのみ! 本体は…………エッケザックスの上にいた。 マントを囮にした直後、横に跳び、電柱を蹴って龍騎士の頭上へ躍り出たのだ。 高度は高い。 そのまま全体重を乗せた斬撃を見舞う! エッケザックスもそれに迎撃するようにレヴァテインの剣を振り上げた!
しかし――――――――
ブレイド・ラーテルは剣と剣がぶつかり合う瞬間、光の刀身を掻き消し、あえて空振った。 するとどうなるか。 当然、エッケザックスも空振る事になる。 そして、着地と同時に再度光の刀身を形成し、龍騎士のがら空きになった胴へ――――
「瞬雷一閃!!」
文字通り、雷の如き一閃! その一太刀で龍騎士の身体を上下に斬り分け、奇しくも龍騎士は持っている剣の元の持ち主と同じく、光剣の刀身を納刀するかのように掻き消した黒騎士の背後で爆発四散した。
Yu-ga
LP1800→1300
「うそ…………」
信じがたい光景を前に、思わず膝から崩れ落ちそうになる。
嘘でしょ……僕の翼が、こんなにもあっさりと…………?
まるで、足場がなくなって落ちるような気持ちの悪い浮遊感を感じながら、僕はさらに1歩、2歩と無意識に後退していった。
そこで、
「まだ
「えっ――――ごッ!!?」
みしり……という音と共に、身体中に凄まじい重圧が掛り、息が詰まった。 正体はもちろん、あの大きい狸の突進。 耐えるなんて出来るわけもなく、蹴った小石の様に容易くぶっ飛ばされる。
Yu-ga
LP1300→500
そのまま何度もバウンドし、何度も転がってようやく止まる。 痛みにもがこうとするが、体内の酸素が足りず、その程度の動きすらままならない。
「これで最後かな。 ライオット!」
赤の駆動戦士が右手に持つ巨大な蛇腹剣を振りかぶり、天へ掲げる。 するとそれはガシャガシャガシャガシャガシャガシャンッ!! と、鉄と鉄がぶつかる音を立てながら、鞭の状態から一振りの大剣へと姿を変えた。
ま、ず…………ッ!?
立ち上がろうとするが、先の突き飛ばされた痛みで体が上手く動かない。 そして、相手は僕が立ち上がるのを待ってくれるはずがない。
「ガルガンチュア・プレッシャー!!!」
大剣は無慈悲に振り下ろされる。 地面に接触した瞬間、爆発そのものといっても過言じゃない衝撃と共に爆風が巻き起こる。 爆心地から広範囲にコンクリートの地面が拉げ、僕の身体はコンクリートの破片と共にまるで木の葉の様に数メートルも舞い上げられた。
Yu-ga
LP500→0
UNKNOWN
WIN
ディスクに勝者が表示される中、僕の身体はそのまま何の支えも補助もなく地面へ落下する。 ドシャ……と、受身は取れなかったが、身体が自然と大の字に広げる形となったので、ダメージが分散され骨折や内臓の損傷はないと思う。 LDSのフィイジカルトレーニングで培ったものだ。
でも、そんなことはどうでも良かった。
負けた。
ただ負けたんじゃない。 最大の切り札を使ったのにもかかわらず負けた。 絶対に勝たなければならない相手なのに負けた。 憎いと思った相手に負けた。
「…………んで」
そんな現状を受け容れられず、悔しさと、無念さが入り混じった感情が押し寄せ、涙が目から溢れ出す。
「…………なんで」
何で。
勝てたはずだ。 あそこまで追い込んで、負ける要素なんてなかった。 まさか、向こうには此方を負かす要素があったというのか。 いや、相手は手札を使い切っていた。 多分、あのドロー。 最後のターンのドローで逆転負けしたんだ。 そうに違――
「なーんて、思ってる?」
声と共に、此方へ歩み寄ってくる足音が聞こえる。 誰のものか、確認するまでもない。
声と足音の主は僕を見下ろす。
「まー、確かにボクは手札を使い切った。 あそこで《エアーズロック・サンライズ》を引けなければ危なかっただろうね」
「でもさ」と続け、緋色の髪の少女は膝を折って、見下ろすのではなく僕の顔を覗き込むように顔を近づける。 僕は、目を逸らせなかった。
そして、
「コレ、な~んだ?」
「………………………ッ!!?」
右腕につけているデュエルディスクからとって見せたのは、1枚のカード。 それを見た僕は頭が真っ白になる。
彼女が僕に見せたのは何の変哲も無い魔法カード。 だが取り出した場所が問題だった。 彼女が取り出したのは、デッキからではなくカードの差込口から。 つまり、それは一つ前のターンから伏せていたカードという事になる。
彼女が見せたカードは――――――
「サイ……クロン…………?」
「正解♪」
サイクロン
速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
「エッケザックスがブレイドに攻撃するダメージステップ時にこのカードを使って装備しているレヴァテインを破壊したら、エッケザックスのレベル5以上のドラゴン族を装備していたら~の効果が無くなって、合計1500の攻撃力ダウンになる。 あとは……いや、もう全部解ってるか」
意地の悪い笑顔で言う少女。
彼女の言うとおり、そのカードが、前のターンから伏せてあった。 その事実が語る意味は、すぐに理解できていた。 だけど、解らないの点がある。
「なんで…………何でそれを発動しなかったんですか……! 僕を……舐めていたのかぁ……ッ!!」
「そうだよ」
「なっ…………!?」
あっけらかんと答えられ、言葉を失う。 少女はその先を語りだした。
「言ったじゃん。 『勝たせてあげようと思ってた』って。 聞こえなかった? まぁどっちでもいいけど。 でもさ~、遊雅が『兄さん』とかわっけわっかんない事言い出すからさ~、もうあったまきちゃってついボコボコにしたくなっちゃったんだよね~」
「……何が、訳の解らない事だ。 ……あなたの方が、よっぽど訳が解らない。 兄さんは兄さんだ。 僕には兄さんがいる。 それだけの事じゃなぎゅッ……ぁ……あ゛…………か…………っ」
いきなり首を掴まれ、言葉を遮られた。 そのまま細い身体から出ているとは思えない凄まじい力で無理やり身体を起こし、同時に徐々にのどを絞めてくる。 振り払おうとするが、今の僕には体を捻る力すら残ってなかった。
少女は僕に囁くように、しかし感情がないようなひどく平坦な声で言う。
「……ねぇ遊雅。 人が
「あ…………が、か…………ぁ………………」
首を絞める力がさらに強くなってくる。 呼吸だけでなく徐々に頭に血が上らなくなって意識が遠くなり、耳に入ってくる言葉が一文字も理解が出来なくなる。
「遊雅さ、ボクがどんな思いでここにいると思ってる? どれだけキミに会いたかったと思ってる? どれほどキミの事を思っていたと思ってる? ボク、ずっとキミに会うの楽しみにしてたんだよ? ずっと、ずぅっと、すーーーーーーーーっと今日まですごく、すごく辛い思いをしてきたけど、キミへの気持ちを糧にして頑張ってきたんだよ? なのに…………それなのに兄さん? ボクのほうが訳が解らない? やめてよ遊雅。 そんな事言わないでよ。 ホントさ、キミには……
全く理解で出来ないことをまくし立てた少女は、まるで怒られた子供が八つ当たりでぬいぐるみを投げるような感じに、ボクを地面に叩き付けた。
「ぉぶっ……! ……………かはっ、けふっ、げふっけふっ……!」
痛みは感じない。 痛覚が麻痺したか、それよりも呼吸が出来るようになった事を体が優先したのか、一気に酸素を取り込もうとして、むせるに終わった。
意識が回復する中で少女は言う。
「そういえばさ、ボクが勝ったらっていう条件は言ってなかったね」
忘れていた事を。
「なに…………?」
「だって当然じゃない? 遊雅が勝ったら情報提示してあげるって報酬があるのに、ボクが勝ったら何もないなんておかしいじゃん」
「それが当たり前だ」といわんばかりに主張する少女。 実際言っている事自体は正しいが、あまりにおこがましい言い分だ。
しかし、
「何を……する気ですか?」
恐らくどう言っても聞きはしないだろう。 それに、僕自身抵抗する力もない。何をされたとしても、今は耐えるしかないのだ。
「んー、そうだなあ…………」
悩むような言葉とは裏腹に、やることは最初から決まっているかのようにおもむろにデュエルディスクの側面――赤外線センサーをこちらに向けた。
何、を……?
行動の意図がわからず頭の中で首をかしげるが、何故だろうか。 とんでもなくマズイ事が起こるような、そんな気がして、体の底からゾクッと悪寒が走り、身体中から気持ちの悪い汗が噴き出した。 まるで、首筋に刃を添えられているような、そんな感覚。
僕を見下ろす少女の口が三日月のように裂ける。
「
デュエルディスクが、怪しげな光を放ち出す。
マズイ……! 解らない…………解らないけど、マズい! アレは絶対的にマズい!!
「や、やめ…………っ!」
自分の体中の信号が目の前の光が危険だと警告するが、身体はそれに応えない。 静止の声を張り上げるも、ディスクの光は強くなる。
もう、ダメかと、諦めたように目を瞑った………………その時だった。
Pi-Pi-Pi-Pi-Pi-Pi-!!!
甲高い電子音がけたたましく鳴り響いた。 これって…………着信音?
デュエルディスクにはデュエルの交流の場を広げる為に、インターネットだけでなく通話機能もついている。 だけど僕じゃない。 音源は、緋色の少女のデュエルディスクからだった。
「っ! 隼兄ぃ!? こんな時に…………ッ!!」
送り主の名前なのか解らないが、モニターを見て苛ついた様子で歯噛みする少女。
着信音が鳴り響き続ける中しばらく逡巡していたが、ついに諦めたように大きく息を吐き、対応のボタンを押すと、
「はい、もしも――――――」
『
ディスクから男の凄まじい怒号が轟いた。 それは多少の距離はある僕の耳も貫いた。 もちろん、ディスクそのものに顔を近づけていた少女は溜まったものではなく、弾かれたようにディスクから顔を離し、鬱陶しそうに片目を瞑る。 しかし、すぐに機嫌を取るような愛想笑いを作り、
「ごめんごめん隼兄ぃ。 LDSのやつから情報を探るのに手間取っちゃってさァ」
『何!? お前が手こずるほどの者がLDSにいたと言うのか!? 今何処にいる! 今すぐそちらに向か――――』
「あー、いいっていいって! 口が堅かっただけだからさ。 もう終わったからそっち向かうよ」
『そうか……だが早く戻って来い! 集合の時間はとっくに過ぎているんだぞ!』
「わーかってるってば! じゃぁね!」
『ま、待て! 話はまだ――――』
プツッ
それまで非常にやかましかった男の声が途切れる。 少女が通話を切ったようだ。
「ったく、うるさいなぁ……心配してくれるのはありがたいけどさぁ、も~…………」
悪態をついた言葉とは裏腹に、やや嬉しそうな声音でそう呟く。 相手は彼女の仲間だったのだろうか。
そう考察していると、少女は「興が削がれちゃったよ」と、ディスクを操作しはじめる。 すると、センサーから発していた光が消えた。
「………………」
同時に正体のわからなかった緊張感から開放され、身体の力が一気に抜ける。 そのせいか、意識が段々と薄くなってきた。 心身ともに限界なのかもしれない。
い、いや、ダメだ……! こんなところで気を失うわけには……ッ!
無理にでも起きようと全身に力を入れるが、僅かに上半身が動いただけで、すぐにまた地面に吸い戻される。
「動かないほうがいいよ。 遊雅」
僕の様子を見ていた緋色の髪の少女がコートの着崩れを気しながらそう言う。
「アレだけダメージを与えたんだ。 しばらくは動けないと思うよ。 助けが来るまで大人しくしてなさい。 いいね?」
「うる、さい……っ! 僕は……!」
「はいはい。 そもそももう決着はついたんだし、今回はここまで! それにそんなに慌てなくても大丈夫だって。 きっとまた
「何……?」
すぐ会える。
その言葉に引っ掛かりがあったが、彼女は勿論応えない。
「さーて、そろそろ急がないと本気で隼兄ぃが怒り出しそうだし、ボク帰るね。 バイビ~」
そしてそのまま踵を返してひらひらと手を振りながら歩を進めた。
くそっ……行かせてなるものか……! アイツは知ってるんだ! 兄さん――――いや、僕の事を!!
渾身の力を込めて身体を起こす。 しかし、立ち上がろうとしても前のめりに倒れるだけだった。 それでも、すがるように朱色の髪の少女の背中に向けて手を伸ばす。
ま、て……待て…………! 待っ、て…………待って、よ…………待って………………
「っ、凛雅ぁッ!!!」
とっさに出た言葉だった。 さっきディスクから男の声で聞こえた
すこしだけ達成感と、してやったりと言う感情で、口元が緩むのが解った。
はは……やった。 当たっ……た。 凛雅。 それがあの子の――――――――――――
だが、
バチッ
「ぎ、――――ぁッ!!」
あまりにも必死で忘れていたのかもしれない。 彼女の正体に近づく度に頭を走る電撃のような痛み。 顔を見たときほどの衝撃ではなかったが、それでも満身創痍の今の僕の意識を刈り取るには十二分だった。
意識が、遠のく。
感じていた身体の重みは浮遊感へと変わり、目の前に広がる光景は段々ぼんやりしていくと同時に狭まっていき、ついに暗闇へと変わる。
最後に見えた光景は、薄暗いあの広くない路地と、僕に慌てて駆け寄るあの少女の姿だった。
そして、覚えのある暖かくて柔かい感触に包まれたのを感じた後、僕の意識は完全に途絶えた。
いつも読んでくださりありがとうございます。ユアシアンです。
ついに決着がつきました!よく負ける主人公だなぁ(2回目)
ЯЯの切り札は象でした!
……や、一応被食動物だし。ライオンとか虎とか実際食うし。
ちょっと考えたのですが、【ЯЯ】の纏めページを明日明後日に投稿したいと思います。それを見ながら読むもよし、ちょっと興味が湧いたら読んでみてください!
凛雅の髪はキュアビューティを参考にすると良いかもしれません。アレにツインテールを加えた感じ。あとパッツンじゃない。参照↓
http://www.asahi.co.jp/smile_precure/img/chara/precure/p05_precure_01.gif
ちなみにモチーフはタラバガニです(蟹じゃない事重点)。
次回はエピローグです!今月以内に投稿できたら良いなって。
それでは、皆様の感想、評価、質問、アドバイス等を心よりお待ちしております!