『デュエルモンスターズ』。 通称『DM』。
世界で最も普及しているゲームの名前である。 どんなものかと説明すれば、モンスターカードでモンスターを召喚し、魔法や
これが普及し始めた頃は、机や床にプレイマットを敷いて行っていたそうだが、今では『ソリッドビジョン』というカードに描かれたイラストをスキャンし、実体化させることの出来る機能が搭載された携帯機器『デュエルディスク』が登場したことにより、迷惑を掛けることがなければ、スペースを気にすることなく勝負――デュエルが出来るようになった。 そしてDMは時代が進む毎に進化し、ついには実体化した物を触れられる事が出来るようになった『リアルソリッドビジョン』が普及したことにより、DMを楽しむ人間――つまり『デュエリスト』の人口数は、爆発的に増えていった。
また、一種の競技種目でもあり、なんとゲームなのにも関わらずプロリーグが存在している。 そこで戦うことため、『プロデュエリスト』を目指すデュエリストも多く、そういった人材を育てるための『デュエルスクール』という要請施設まで存在する。
その中の一つ、『Leo Duel School』。 通称『LDS』。
大手企業、『レオ・コーポレーション』が運営し、生徒から多くのプロデュエリストを輩出している上、『融合』、『儀式』、『シンクロ』、『エクシーズ』等、他では教えられていないような様々な召喚方法を教えており、舞網市に存在する数多のデュエル塾の中でも最大の規模を誇るデュエルスクールである。
かく言う僕自身も憧れのプロデュエリストを目指すためこのLDSに通い、他の生徒ともに日々切磋琢磨し合いながら、デュエルの腕を上げていっているのだ。
のだが…………さっき言ったとおり、僕は最近どうにも戦績が振るわず、9連敗なんていう情けない状況になっている。
「はぁ……」
再びため息が出てしまう。
今僕はデュエルで疲弊した体を癒すため、LDSの2階に設置されたカフェで街の景色の見える窓側の席に座っている。 辺りから漂う上品なコーヒーの匂いとケーキ等の洋菓子の甘い香りが鼻腔を擽り、デュエルで強張った身体から力を抜かせてくれる。 しかしそれでも、やはり連敗による悲壮感から出るため息は止まらない。
「何がダメなんだろう……?」
ディスクからデッキを取り出して確認する。 長年付き添ってきただけあって、特徴は熟知している。 シナジーのあるカードを選び、タクティクスは練ってあるはずだ。
だけど、それでも勝てない。 自分の作り上げたタクティクスが通用しなくなっているのだ。
「環境のせいかなぁ」
LDSが設立されてから、デュエルモンスターズの環境は目まぐるしい速度で変化を迎えた。 モンスターのパラメーターが誰が見ても解るくらいにインフレし、魔法や罠、モンスター効果はインチキレベルに強化され続け、昔なら公式大会では禁止指定されて使えないようなカードが、今ではさも当然の様に無制限で使用されている(一部例外はあるけど)。
逆に、それまで使われていた既存のカードはどんどん新しいカードにお株を奪われていき、見向きもされなくなっていった(これも一部例外はあるけど)。
僕のデッキも、おそらくその環境の変化に流されてしまったのかもしれない。
でも、
「また後で作戦を練りなおそ!」
まだ何かやれること、見付けられていない所、考え付いていない所があるはずだ。 前向きでいなければ、勝てるデュエルも勝てなくなってしまう。 そう思って小さく、しかし力強く、自分を鼓舞する。
だがそうする前にまずは休憩だ。 何事も疲れていては成し遂げられない。 そう思ってデッキをディスクにセットし直し、目前の自分で頼んだ『ハニーシュガーカフェオレふわふわ生クリーム添え』の入ったカップを手に取り、軽く口に入れる。
「んあっ、甘ぁい♪」
あまりの甘さに思わず頬に手を当ててしまう。 ほっぺが落ちそうと言うはこういう時のための言葉なのだと思う。
カフェオレなんだからつまりはコーヒーであり、本来は苦い飲み物であるはずなのに、これほどまでに甘くて美味しいのは正直奇跡だと思う。 僕はコーヒーの香りはとても好きだけど、苦いのはちょっと苦手だ。 だからこういうコーヒーの香りを楽しめながら飲めるカフェオレという飲み物は大好きだ。 なお、甘ければ甘いほど良い。
ソーサーの上に戻す前にもう一度だけ口に含む。 ん~あまあまぁ♪
「相変わらずそんな歯が溶けそうな物飲んでいるのね」
僕が甘さの余韻に浸っていると、横から声を掛けられた。 カップをソーサーの上に戻してからその声の主を見上げる。
褐色の健康的な肌にスラリと伸びた手足。 黒色なのに艶やかでむしろ明るくすら見えるロングのストレートヘアーが特徴の少女だった
「あれ、光津さん? 授業は終わったんですか?」
「私はこの時間はとってないのよ。 罠カードの講座は、私のデッキにとってそこまで重視するものじゃないから。 ここ、座るわよ」
そう言って彼女は僕が許可を出す前にテーブルに自分の持っていたトレイを置き、向かいの席に座った。
LDS『融合コース』に所属していて、特徴はさっき言った点の他、釣り上がった赤い瞳を持ち、端整な顔立ちと相俟って大人びた美貌を醸し出した美少女だ。 僕と所属コースこそ違うが、前にデュエルして以降よく絡み、多分他のコースの人の中では一番仲良くさせて貰っている。
彼女は自分のカップに一口つけてから切り出す。
「で? さっきデュエルコートに行く所を見たけど、誰かとデュエルしてたの?」
「あ、見ていらしてたですか?」
「内容までは見てないけどね。 どうだったの?」
「えっ。 あ、えっと……」
正直言うとあまり言いたくない。 だってこの人――
「まさか……また負けたんじゃないでしょうね?」
やたら僕の勝敗を気にしていらっしゃるのだ。 しかも負けたと言ったら間違いなく怒る。 より言いたくない。
しかし、この尋問してくる際の光津さんの目の鋭さは半端じゃない。 元々釣り目ということもあり、本音を言うとすっごく怖い。 さっき強張ったからだから力が抜けたといったばかりなのにまた強張って全身に力が入っている。 もしかしたら震えているかもしれない。
「………………負けちゃいました」
言っちゃった。
怖さに耐え切れず、言っちゃいました。
「アンタはああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「ふにゃにゃにゃにゃにゃ!? いひゃ、いひゃいれす!!」
案の定怒られ、身を乗り出してきた光津さんに両頬を引っ張られてしまう。 痛い! 痛いよ! というかそんなに大声出したら回りの人間から注目されると思うんですけどちょっと抑えましょうよ光津さん!
なんだか横から「あら、光津さんだわ。 隣にいるかわいい子は誰かしら?」「あの光津さんがあんなにもじゃれ合って、うふふ。 仲が良いのね」「まるで姉妹みたいだわ」とかなんとか好き勝手な会話が微かに聞こえた。
あの姉妹じゃないです! というかじゃれ合っているように見えるかもしれないけどこれ結構痛いので誰か助けて!
そう思いながら周りの人間に助けを求めるも、顔は光津さんに固定されていて目だけでしか訴えられないのでそれは誰にも届かない。 距離が遠いのだ。
やっとのこと僕の頬から光津さんの手が離れたのは、時間にすれば1分もないだろうが、体感的には5分は経ったような気がした。
「ったく。 それで、誰に負けたのよ?」
不機嫌そうにしかし、それでも大きな音は立てないように座り直した光津さんは、カップを再び持ちながらこれもまた不機嫌そうに追及してくる。
……まぁ、もうこれ以上は怒られないと思うから隠さないでいいかな?
「エクシーズコースの志島北斗さんです」
「…………………………………………………………」
あ、あれ? 光津さんまたなんか怒ってる? 顔と手が時間止まったみたいに動いてないんですけど……。
「ねぇ、
「は、はい」
「私が頼んだこの飲み物、なんだか解る?」
え、なんだろ? コーヒー? 紅茶? でも前者だと薄い気もするし、後者だとむしろ濃すぎる気がする。
「えっと……わからないけど湯気立ってるんでとりあえずホットなのは判ります」
「今からあなたにぶっかけるわ」
「本当にごめんなさい!!!」
こ、こ、こっ、こわっ!? めっちゃくちゃ怖い!! なんで!? 正直に言ったのに!?
「あの、光津さんもしかして志島さんと仲悪かったりします?」
「別に、仲悪いわけじゃないわよ。 一応友人程度の付き合いはあるし、むしろ私の友好関係の中では良い方じゃないかしら」
「じゃあなんで?」
「決まってるでしょ。 友人であると同時に、お互い違うコースの首席同士だから、ライバルでもあるのよ」
「はぁ、なるほど」
そういえば志島さんって『エクシーズコース』の首席なんだっけ。 確かに強かったし、納得かなぁ。
「だ・か・ら! 『私に勝った』あなたが負けると、私がアイツに劣ってるみたいになるでしょうがあああああああああああああああ!!!」
「いひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!?」
また頬を引っ張られる。 いーたーいーよー! 伸びちゃうよー!
「…………あなたの頬ってホント柔らかいわよね」
「なんか目的違ってません!? ただ引っ張りたいから引っ張ったみたいになってますよ!?」
だとしたら酷い話しだ。
ちょっぴりムスッとしたので、光津さんを睨む。
僕の睨みがちょっと効いたのか、光津さんは誤魔化す様に咳してから、「とにかく!」と言って僕をズビシッ! と勢い良く指差す。
「あなたはこの私に一度でも勝った。 そんなあなたが何度も何度も負け続けていたら、私がそんなザコにやられたみたいで嫌なのよ! 勝者には勝者なりの責任っていうものがあるの! わかった!?」
「わ、わかりました……」
光津さんの捲し立てるような啖呵に思わずくぐもった声で返事してしまう。
「わかったならさっさとデッキの再調整でもする! ほらさっさと行きなさい!」
「え、でも僕まだこれ飲んでないんですけ――」
「いいから行く!!!」
「は、はい!!!」
光津さんの獅子のような凄い迫力に圧され、僕は『ハニーシュガーカフェオレふわふわ生クリーム添え』の惜しさすら忘れて、逃げるようにその場から離れた。 そのままカフェを出て膝に手をつく。 ほんの数メートルしか走ってないのに異様に疲れた。
「はぁ……はぁ……ホント怒ると怖いあの人…………」
見た目はすっごく美人なのになぁ。 もったいないなんて失礼な感想が浮かび上がる。
しかしそうは思うも、同時にこうも思う。
――光津さんもしかして、あんな風に言ってたけど、実は僕の事を気遣ってくれていたのかな?
だって、単に僕が負け続けていることが気に食わないだけだったら、あんな風にするんじゃなくて罵倒したと思う。 僕を追い出す口実だって、どことなくアドバイスをする感じがあったと思う。 想像だけど、そうだと嬉しい。
ありがとうございます。 光津さん。 今度こそ勝てるよう、頑張ります!
僕はそう決心して走り出し、カフェを後にする。
その最中、「なにこれ甘っ!!?」って声が聞こえたのは、内緒です。
…………まぁ勿体無いから良いですけど。
今度こそ勝つんだ! と勇んで僕が向かったのは、LDSの中でも上階に位置する書庫だった。
書庫というと地下の中にあってなんか薄暗いイメージがあるが、LDSのそれは窓から日光が程よく差し込み、結構暖かな雰囲気がある。 図書館とかを思い浮かべると結構当たっていると思う。
そんな書庫で僕はそこで入り口付近に設置された検索用のPCでデュエルに関する資料を探している。 しかし、モニタが映す資料は既に読んだ物が多くあまり参考にはなっていなかった。
一応属性関連のものはまだ探してないけど、種族関連だったら置いてある資料は殆ど読んじゃったんだよねぇ……それに属性の方だって、カテゴリー面でのシナジーが強いものが多いから、それを調べたところでって感じもするし……。
うーん……と唸りながらオフィスチェアの背凭れに体を預け、どうしたものか息を吐きながらと天井を見上げると、
「おう遊雅、なんか探しもんか?」
「え、わっ、とあっ!?」
いきなり人の顔が見え、驚いた際に跳ねた身体がデスクの中に引きずり込まれるように椅子の下の方に行き、そのまま椅子から転げ落ちて頭を打った。
「おうぅ……おおぅうう……!」
「なにやってんだお前」
頭を抑えながらもがきうめく僕に呆れのニュアンスを含んだ言葉が浴びせられる。 あれれ、デジャヴ?
とりあえずみっともない姿を見せたままでは申し訳ないので、髪を纏めてから立ち上がって、声を掛けてて来た人物を再確認する。
その人物は、僕より少し高いくらいの小柄な体躯に竹刀を背負い、手入れはあまりしていないのかハリネズミの様にはねまくった髪を、僕程ではないにせよ長く伸ばした、どこかやんちゃな雰囲気のある少年だった。
「やはは……すみません。 ちょっとびっくりしまして」
「んまぁこっちも驚かせて悪かったがよ。 んで、なんか探してたのか?」
「ええ。 ちょっとデッキを再調整するために、何か良いカードがないかと思って資料を。
「俺か? まぁ、コイツをな」
そう言って刀堂さんは、自分の持っていた本を掲げる。 そこそこ厚みのある本で、タイトルに『ナチュルシンクロ講座』とあった。
「……枕にしては少し薄いですね」
「しばくぞお前!?」
間違えたようだ。
刀堂さんが威嚇するように顔をずいっと近づけながら背に持つ竹刀に手を掛ける。 しかし大丈夫、光津さんの時の様に取り乱したりはしない。
「ごめんなさい冗談です」
「……ったく、失礼なやつだぜ」
悪態をつきながらも刀堂さんは竹刀の柄から手を離す。 彼は竹刀を常に携帯はしているが、それを他人を打つために使ったりは絶対しないのだ。 最初見たときは驚いたが、慣れてしまえば笑って過ごせる。
「でもここにいるのは珍しいですね? いつもならデュエルコートにいるのに」
「まぁな。 俺もデッキの再調整をしたくてな。 お前と同じように資料を探してたのよ」
「へぇ~……刀堂さん意外と勉強熱心だったんですね」
「お前ホントちょいちょい失礼だな……まぁ俺としてもあんま似合ってねぇのは解ってっけどさ、今の強さに満足しているようじゃ、次には進めねぇ。 実戦も良いが、知識はあっても邪魔にはならねぇってこった」
最初はやはり空気が合わないのか、どこかむず痒そうだった刀堂さんの表情だが、話していくたびに段々と晴れやかになっていく。
飽くない向上心。 あんなにも強いのに、まだ、もっと、と限りのないそれは、見ていて自分ももっと頑張らねばとさせる何かがあった。
すごいなぁ……と、自然と顔が綻んでいく。
「あら、随分と仲がよろしいのねぇ」
そんな中、割り込んでくる声が一つ。 入り口の方からだった。 刀堂さんと共にそちらの方を見ると、僕は驚きに目を剥く。
まずその人物の髪形に驚いた。
リーゼントである。 しかもただのリーゼントではない。 なんとダブルである。 リーゼントが二つ横に並んでいると言えば良いか。 つまりダブルリーゼントだ。
さらに衝撃的なのが、そんな髪形をしているのが男性ではなく女性だということだ。 何故そんな髪型に。
「り、理事長!?」
「えっ!?」
僕が突然現れたその女性の姿に呆然としていると、刀堂さんが驚いたかのような声を上げる。 その声に僕も驚愕する。
…………これが、LDSの理事長?
改めてその容姿を見る。 歳は40には届いてない程度だろうか。 しかし、立ち振る舞いは妖艶かつ若々しく凛々しい。 つまりはかなりの美人だ。 何故そんな髪型に。
服装はシックなスーツにタイトスカートと、まともなのに……色が真紅なのを除けば。
「刀堂さん。 ここは静かに本を読む場所です。 静かになさい」
「すっ、すいま――あ、すいません……」
大きい声を出した刀堂さんを静かながらもピシャリと一喝するその威圧感は、光津さんですら目ではなかった。 刀堂さんがあんなに縮こまるなんて、普通じゃない。
そして、その威圧の目線はこちらに降り注いだ。
「……あなたが天辻遊雅さんでよろしかったかしら?」
「え? あ、はい! お初にお目に掛かります! 天辻遊雅です!」
まさか僕の方に声が掛かるとは思わなかった。 理事長は僕のことを知っているようだが、初対面なのは間違いないので軽く自己紹介をして頭を下げる。 というか緊張のあまり自分の所属コースを言うのを忘れた。 まぁ知ってるだろうけども。
「随分礼儀正しいのね。 殊勝な心がけだわ」
「……ありがとうございます」
褒められているのだろうが、まったくそんな実感はない。 嫌味とかが含まれているというわけではなく、それを感じ取れないほどに身が竦み上がっているのだ。 お礼を言えたのだってやっとの事だ。
「今回はあなたに用があって来ましたの」
「僕に……ですか?」
「オイ遊雅、理事長がじきじきに声を掛けるって相当なことだぞ? なにやったんだよ……」
「刀堂さん」
「は、はいっ」
横槍を入れた刀堂さんを小さく、だが恐ろしく低い声と冷ややかな目線だけで黙らせる。
しかし理事長はすぐさま僕の方へと向き直った。
「天辻さん。 この後お時間よろしい?」
「はい。 一応予定はありません」
「そうですか。 それは良かったわ。 では、私と一緒についてきてもらえるかしら?」
「………………はい」
小さく、首を縦に振る。 理事長の口調は穏やかはあったものの、同時に有無を言わせぬニュアンスも含まれていた。
僕の肯定に理事長は微笑みながら踵を返し、「では、行きましょうか」と書庫を出て行く。
「では刀堂さんまた明日」
「おう……」
刀堂さんに別れの挨拶をしてから僕も理事長の後ろについていく。 刀堂さんは心配そうな顔をしながら僕を見送ったが。 書庫を出る前に「大丈夫です」と僕は笑みで送った。
――そして、
この日を境に、僕のデュエリストとしての人生が大きく変わることとなる。
理事長の案内のもと、着いたのはLDSの中でも一般生徒は立ち入れない上層、その中に位置する小さな執務室のようなところだった。 小さいといっても造りと装飾は豪奢かつ品があり、床のタイルは大理石なのかどうかは解らないが、鮮やかな色をしているのにも拘らず天井を映せるほど磨かれている。 推測だが、ここは所謂『理事長室』という所なのかもしれない。
「そちらに座りなさい」
理事長は部屋の中央――二つの向かい合ったソファと間にあるローテーブルの手前側のソファを指し、自分は奥側の方のソファに腰を掛けた。 僕も遅れてソファに座り、ローテーブル越しに対面しあう図となった。
お互いがソファに座ったと同時に、理事長がその赤いルージュの塗られた口を開いた。
「さて、こちらの自己紹介がまだでしたわね。 私は
物腰は気品があり清楚さを感じさせる。 ワンテンポ遅れて「こちらこそ」と、頭を下げる。 赤馬理事長はそんな僕を見て「ふふ。 本当に礼儀正しいのね」と笑っていた。 ありがとうございます。
「それでは、早速なのですけれども天辻遊雅さん」
僕から切り出そうかと思っていたが、ありがたいことに向こうから切り出してくれた。
何だ? 何を言われる? 理事長直々の言葉。 一体、何を――――――
「あなたには、転属をお願いしたいと思っておりますの」