遊戯王ARC-V LDS 進化の翼   作:ユアシアン

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皆さんおはようございます。
一門ちゃんのデッキ予想できた人いたかな?


Phase2 進化の翼、エボルート召喚 A

 さて、どう来る?

 とりあえず岩場を降り森の方まで来たが、姿を隠しても意味は無い。 例えば相手モンスターに攻撃される際、隠れたところで必ず追いつかれ、攻撃を避けることは不可能なのだ。 それに何もせずに1分を過ぎるとペナルティを受ける。

 アクションデュエルにおいて移動はもちろん大事だが、その目的はアクションカードを探すことにある。 しかし、相手はあの一門さんだ。 そんな時間は与えてくれないだろう。

 そして、彼女は動き始めた。

 

「……私のターン、ドロー。 私は手札の《魔轟神獣ノズチ》の効果を発動。 手札の《魔轟神ルリー》を捨て、このカードを特殊召喚するわ」

 

 彼女の足元につぶらな瞳をした胴が妙に太い黄色い蛇と、何故かそれに巻きつけられた青い体色の子悪魔が現れる。 どうやらあの2体で1体のモンスターらしい。 

 

魔轟神獣ノズチ

光属性 獣族 レベル2

攻撃力1200

 

「……特殊召喚に成功したノズチのもう一つの効果。 この効果で特殊召喚に成功した時、手札からレベル2以下の『魔轟神』と名の付いたモンスター1体を特殊召喚する事が出来る。 私はレベル2のチューナーモンスター、《魔轟神獣ケルベラル》を特殊召喚」

 

魔轟神獣ケルベラル

光属性 獣族 レベル2

攻撃力1000

チューナー

 

 続いて現れるのは頭が三つある赤色の体毛の小犬。 その傍らには色は黒で異なるが、ノズチと同じように小悪魔が携わっていて、ケルベラルに繋がった鎖を抱えるように握っている。 

 ……あれってリード? というか、

 

「一門さんってそんな可愛いモンスター使ってましたっけ?」

「か、かわっ!? かか、かかか可愛くなんてないわ!」

 

 あれ、素朴な疑問をぶつけただけなのに凄い動揺し始めたぞ?

 

「え、でも――」

「この子達は『魔轟神獣』魔の神に飼われし神獣にして私の新たなる僕よこの子達はそれぞれ恐ろしい能力を持っていて貴方のモンスターを貪り尽くし貴方を敗北へと導くでしょうフフフフ見た目が可愛いからって侮らない事ね」

「今自分でも可愛いって――」

「侮らない事ね!!!」

「あ、はい」

 

 あんな顔を真っ赤にして大声を出す一門さん始めて見た。 これ以上追求するとデュエルの後でも何かありそうだから止めておこう。 もしかして似合わないとか思っているのかな? そんなことは無いと思うけど……。

 ――とまぁ、冗談はこの辺にして、いい加減アクションカードを探さなければ。 チューナーを出したということは、この先も展開してくるに違いない。

 森の中というのは時間を稼ぐのには適しているが、反面アクションカードが見つけ辛いという欠点もある。 なので今はとにかく走り回って見つけ出すのが先決だ。

 

「――――!」

 

 そして見つけた。 前方100メートルほど前、木の枝に挟まっている一枚のカードを。 取られない為速度を上げる。 

 しかし、

 

「ここでさっきノズチの効果で捨てた《魔轟神ルリー》の効果を発動。 このカードが手札から墓地へ捨てられた時、このカードをフィールド上に特殊召喚するわ」

「ッ!」

 

 後10メートル! というところで目の前に赤い仮面を付けた少年の姿の小悪魔が現れ、行く手を阻まれたせいでたたらを踏んだ。 背中に生えた蝙蝠の様な翼を羽ばたかせながら「キシシシシッ」と笑っていて憎たらしいことこの上ない。

 

魔轟神ルリー

光属性 悪魔族 レベル1

攻撃力200

 

 僕はここはダメだと判断し、他を当たるため再び走り出す。 

 

「……さて、揃ったけどまだ準備があるわ。 私は手札から『おろかな埋葬』を発動」

 

おろかな埋葬

通常魔法

自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

 

「この効果により私はデッキから《魔轟神クシャノ》を墓地に送るわ。 そしてカードを2枚セット」

 

 一門さんの足元に一瞬だけ2枚のカードが浮かび上がり、そのまま隠れるかのように消滅する。 すると、客席の方がざわめき出した。

 

「まだメインフェイズ1なのにカードを伏せるだと?」

「普通あぁいうのってメインフェイズ2以降にするんじゃ……」

「いや、バトルフェイズを行わないなら1で伏せることはあるぞ」

「じゃあ、あんだけ揃えたのに攻撃する気がないのか?」

 

 多種多様な意見が飛び交う。 確かに、彼女の行動には一見意味がないように見える。 しかし――

 

「……フフフ……皆解っていないようね。 ならば見せてあげるわ……私のデッキ――『魔轟神』の恐ろしさを!」

 

 一門さんが岩場から飛び降りた。

 来る!

 

「私はレベル1の《魔轟神ルリー》とレベル2の《魔轟神ノズチ》に、レベル2の《魔轟神ケルベラル》チューニング!」

 

 ルリーとノズチがそれぞれレベルの数の光の球体と化し、ケルベラルも同じくレベルと同じ数の光の輪と化す。

 

「魔の神界を統べし絶対神が第三柱。 今こそ地上へと身を乗り出し、大いなる戦の先触れとなれ!」

 

 そしてその2種の光が混じり合う。レベルの合計は……5!

 

「シンクロ召喚! 現れなさいレベル5、《魔轟神レイジオン》!!!」

 

 現れたのは赤のアクセントが入った金色の鎧を身に纏い、先程のルリーよりも大きな翼を持った、悪魔と神。 その両面の性質を持ったモンスターだった。

 

魔轟神レイジオン

光属性 悪魔族 レベル5

攻撃力2300

シンクロ

 

 一門さんはそのままレイジオンの手に掴まり、彼女の手を取ったレイジオンは飛翔しながらこちらへ向かって来、そのまま僕の5メートルほど前に舞い降りた。

 それはまさに、僕を行く手を阻むように。

 

「……フフフ。 逃がさないわよ。 まだ始まったばかりじゃない、ゆっくりやりましょう? 最初から疲れちゃったら後に響くわよ?」

「一門さん体力無いですもんね」

「……潰す」

 

 まずい怒らせてしまった。

 だって! 一門さん体を使っての講義ではいつもビリッケツなんだもん! ダンベルを持ってのドローの特訓では40にもまったく届かず、ランニングではいつも完走出来ずにリタイヤ。 というかいつも隅っこで体育座りしていたような気もする。

 それはともかく、この状況はまずい。 僕の判断ミスでもあるが、後ろは岸壁で逃げ場がない。 ボルテクスで飛んでいこうにも相手のレイジオンも飛ぶことが出来るため、簡単に行く手を阻まれる。

 つまり、アクションカードを探すのは諦めた方が良い状況ということだ。

 

「……シンクロ召喚に成功したレイジオンの効果。 手札が1枚以下の場合、手札が2枚になるまでデッキからカードをドローする事ができる」

「! っていうことは――」

「……ええ。 私の手札は0。 よって2枚ドロー」

 

 そう。 レイジオンの効果はシンクロ召喚成功時の手札補充。 『2枚まで』ではなく『2枚になるよう』ドローする効果。 だからより多くドロー出来るよう手札を使い切ったのだ。

 それに彼女は、『召喚権』をまだ使っていない!

 

「……ちょっと勿体無いけどいいわ。 墓地の《魔轟神クシャノ》の効果を発動。 手札の《魔轟神》と名のついたモンスター1体を墓地へ捨てることで、クシャノを手札に加える。 そして私が捨てるのは、《魔轟神獣ガナシア》! ガナシアはルリーと同じ効果を持っているわ。 攻撃力200アップのおまけ付きでね。 そのまま特殊召喚」

 

 レイジオンの隣に白くて小さな像が召喚される。 そして『魔轟神獣』ならではの御付の小悪魔が…………何故か踏み潰されていた。 可哀そう……。

 

魔轟神獣ガナシア

光属性 獣族 レベル3

攻撃力1600→1800

 

「……そして《魔轟神レイヴン》を通常召喚」

 

魔轟神レイヴン

光属性 悪魔族 レベル2

攻撃力1300

チューナー

 

 続いて現れたのは鴉のような、でもどこか赤みを帯びた翼を持った『魔轟神』。

 チューナーでレベル2。 ということは……

 

「……その顔、もう解っているようね。 なら見るが良いわ! 私はレベル3の《魔轟神獣ガナシア》に、レベル2の《魔轟神レイヴン》をチューニング!」

 

 レベルの合計は5。 マズイ……!

 

「シンクロ召喚! 現れなさい! レベル5、《魔轟神レイジオン》!!!」

 

 2体目のレイジオンが姿を現し、1体目のレイジオンと並ぶように降り立った。

 そして、彼女の手札は現在1枚。

 

「レイジオンのシンクロ召喚に成功したので、手札が2枚になるようドローするわ。私の手札は1枚。よって1枚ドロー」

 

 2連続でシンクロ召喚をしながら手札の補充も行い一定以上を保つ。 見事としか言えないそのプレイングに心の中で賞賛しながらも眉間に皺を寄せる。 ホント、こんな時じゃなければ素直に凄いと感心出来たのに。

 そして、問題はここからだった。

 

「……バトルよ。今シンクロ召喚したレイジオンでボルテクスに攻撃!」

「くっ」

 

 後攻から行うことの出来るバトルフェイズ。

 片方のレイジオンが右手に赤い光を帯びせながら此方に向かってくる。 ボルテクスも対抗するように背中に携えた大剣を抜きレイジオンに振るうが、それはレイジオンの剣の腹を狙った蹴りによってへし折られた。

 

「カオス・フィスト‼」

 

 そのままガラ空きになった胴へ赤い拳を叩き込まれたボルテクスは、光の粒子となって爆散した。

 

「う、く……!」

 

 リアルソリッドビジョンが起こす爆風に飛ばされぬよう耐える。 相変わらず無駄に迫力のあるシステムだ。

 そして、僕のボルテクスよりレイジオンの攻撃力が上だったということは、上回った分だけ僕のライフポイントも削られる。

 

Yu-ga

LP4000→3800

 

 だけど、やられただけで終わるわけにはいかない!

 

「ボルテクスの効果発動! 戦闘で破壊された時、レベル4以下の鳥獣族モンスターを1体デッキから特殊召喚します! 僕はレベル1の《ドラグニティ-トリブル》を守備表示で特殊召喚!」

 

 ボルテクスと入れ替わるように現れたのは白く大きな翼を生やし、羽根のような手裏剣を持った鳥人の戦士。

 

ドラグニティ・トリブル

風属性 鳥獣族 レベル1

守備力300

 

「そしてトリブルの効果発動!このカードが召喚、または特殊召喚された時、デッキからレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る事が出来ます!僕はレベル1の《ドラグニティ-ブランディストック》を墓地へ送ります」

「……壁を作りながら墓地肥やし……小賢しいわね。 でもその鳥も地に落ちて貰うわ! もう一体のレイジオンでトリブルを攻撃!」

 

 2体目のレイジオンがトリブルへと襲い掛かる。 トリブルの守備力はたった300。 いとも容易く破壊されてしまう。

 でも、それは攻撃が成功したらの話!

 

「ただではやられない! リバースカードオープン! 《ゴッドバードアタック》!!!」

「……!? なんですって!」

 

 一門さんの顔が驚愕に染まる。 彼女は知っているのだ。 このカードの威力を!

 

「トリブルをリリースして効果発動! フィールド上のカード2枚を選択して、破壊します! 僕が選択するのは今攻撃してきたレイジオンと、その後ろの伏せカード!」

 

ゴッドバードアタック

通常罠

(1):自分フィールドの鳥獣族モンスター1体をリリースし、

フィールドのカード2枚を対象として発動できる。

そのカードを破壊する。

 

 レイジオンの拳を、トリブルは翼を羽ばたかせて飛翔し回避する。 そしてさらに高く、高く飛び、次の瞬間、命の炎を燃やしながら急降下し、そのままレイジオンの体を貫いた。 続けてその後ろのカードも破砕する。

 《奈落の落とし穴》かぁ……危なかった……。

 

「……くぅ……、あんな雑魚に私のレイジオンが……! ……私はこれでターンエンドォ……!」

 

 こんなに怨念の込もったターンエンド見た事ない。 このまま呪われてしまう気がしてほんの少し尻込みしてしまう。

 

Nana

LP4000

手札2

モンスター1

魔法・罠1

 

 とにかく僕のターンが回って来た。 今の僕の場はガラ空き。 このターンで巻き返さないと、魔轟神の展開力を考えれば間違いなく次のターンで終わってしまう。 気を引き締め直して左手をデッキのトップに添える。

 

「僕のターン、ドロー! ……よし!」

 

 御誂え向きのカードが来た!

 

「僕は《ドラグニティ-ドゥクス》を召喚!」

 

現れるのはレギオンやトリブルと比べると無機質な翼を生やし、手に大幣のような物を持った戦士と言うよりは指導者のような風貌の鳥人。

 

ドラグニティ-ドゥクス

風属性 鳥獣族 レベル4

攻撃力1500

 

「ドゥクスの効果! このカードはレギオンと同じ効果を持っています!」

「……なら、選ぶのはファランクスね」

 

 流石は一門さん。 鋭い。

 

「その通りです!ドゥクスの効果でファランクスを装備。 そしてファランクスの効果で自身を特殊召喚!」

 

 ドゥクスに続くように、ファランクスが場に登場する。

 

「それと、ドゥクスは自身を含めたフィールドのドラグニティと名の付いたモンスターの数だけ攻撃力をアップします」

 

ドラグニティ-ドゥクス

攻撃力1500→1900

 

「……フン。どうせシンクロするのでしょう? 意味ないパンプね」

「ガナシアのパンプだってそうじゃないですか」

「……絶対に潰す」

「僕はレベル4の《ドラグニティ-ドゥクス》にレベル2の《ドラグニティ-ファランクス》をチューニング!」

 

 相手は凄い殺る気だ! 僕もそれに応えなければ!

 

「渓谷の矛なる竜騎士よ、その名の証に、仇なす者を打ち砕け!」

 

 レベルの合計は6! さぁ、これからが本領だ!

 

「シンクロ召喚! 舞い上がれ! レベル6、《ドラグニティナイト-ゲイボルグ》!!!」

 

 交じり合った光から生誕するのは、白銀の鎧を纏ったドラゴンと、それに跨る同色の鎧を纏った翼を持つ竜騎士――《ドラグニティナイト-ゲイボルグ》!

 

ドラグニティナイト-ゲイボルグ

風属性 ドラゴン族 レベル6

攻撃力2000

シンクロ

 

「……何かと思えば、攻撃力2000? レイジオンより攻撃力が低いモンスターを出して何をするつもりかしら?」

「決まってます! ゲイボルグでレイジオンを攻撃!!」

「……な!? 何ですって!?」

 

 僕の攻撃宣言に一門さんが顔を驚愕の色に染める。 それはそうだろう。 相手よりも攻撃力の低いモンスターで攻撃するというのは、自分のモンスターが破壊されライフポイントが削られて終わる自殺行為だ。

 ――基本的には。

 

「ゲイボルグの効果発動! このカードが戦闘を行うダメージステップ時に、自分の墓地に存在する鳥獣族モンスター1体を選択して除外し、その除外したモンスターの攻撃力分このカードの攻撃力をアップさせます! 僕は《旋風のボルテクス》を選択!」

「……! ボルテクスの攻撃力は……2100!? ということは……」

 

ドラグニティナイト-ゲイボルグ

攻撃力2000→4100

 

「レイジオンの攻撃力を上回った!?」

「すげぇ! あんな攻撃力初めて見た!」

「やるじゃねぇかあのチビ!」

「あの一門といい勝負してるぞ!」

 

 声援が聞こえる。 余計な単語も聞こえたが、それでも湧き上がる会場の雰囲気に僕の気分は高揚する。 

 

「……くっ……!」

 

 ゲイボルグが上空へと羽ばたく。 そのまま大きく旋回し、レイジオンを狙って錐揉み状に螺旋を描きながら急降下し、

 

「タービュランス・ドライブ!!」

 

 一本の槍となって、反撃に繰り出された拳ごとレイジオンを打ち砕いた。

 

「……くぅ……! おのれぇ……!」

 

Nana

LP4000→2200

 

 よし! 一門さんのライフポイントを大きく削ることが出来た!

 実を言うと、ゲイボルグの他に攻撃力3800で攻撃出来る《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》っていう選択もあったけど、あっちは返しのターンに弱いから、展開力に秀でた『魔轟神』相手だとそのまま畳掛けられてしまう。 なので、除外が多少もったいなくってもこのゲイボルグの方が良いだろうという判断をした。 ゲイボルグの効果は相手ターンでも発動できるし、なにより序盤にボルテクスを出せたおかげで、より多くダメージを与えられたしね!

 

「僕はこのままターンエンドです。 ターン終了と共にゲイボルグの攻撃力は元に戻ります」

 

ドラグニティナイト-ゲイボルグ

攻撃力4100→2000

 

 さて、次のターン。 間違いなく一門さんの反撃が来る。

 ここからが正念場だ!

 

Yu-ga

LP3800

手札3

モンスター1

 

 リアルソリッドビジョンによって作られた空が、いつの間にか夜を表す濃紺な瑠璃色へと変わり、木々の葉が揺れる程度の涼しげな微風が吹く。 そんな中、僕のターンが終わり一門さんのターンとなる。

 しかし、

 

「………………?」

 

 何故か一門さんはドローどころか、俯いたまま微塵も動かない。 顔色を確認しようにも、顔は風で揺らされている髪の毛で隠れてしまって全く見えなかった。

 どうしたんだろう? お腹でも痛いのかな?

 一瞬そう思ったが、その考えをすぐに否定する。 何か聞こえるのだ。

 

「…………れ…………」

「え?」

 

 それは一門さんの声だった。 何かを呟いている。

 え、何? 呪詛?

 失礼ながらもそんなことを思ったが、すぐにそれはあながち間違いじゃないことを知る。

 

「……のれ……………………」

「あの、一門さん……?」

 

 さっきよりははっきりと聞こえた。 更に彼女の体が震えだし、フェードインする様に段々と彼女の声がはっきりした物になる。

 

「……おのれ……おのれ……おのれ、おのれ。 おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおおぉぉのれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

「ひぃっ!?」

 

 ガバァ! と歌舞伎のように髪を振り回しながら顔を上げた一門さんの目は、限界まで見開いて血走っていた。 その姿、まさに幽鬼。 既に遅いが目を合わせただけで殺されそうな迫力だった。

 

「……よくもやってくれたわね天辻遊雅! よくも私のライフを……ッ! ライフを削ってくれたわねぇッ! これじゃあ、あの方に顔向けできないじゃない……!!」

「そ、そんな事言われたって困りますよ!」

 

 僕だってこのデュエルは勝たなければならないのに、ライフポイントを削ったくらいで怒られるのは流石に心外だ。

 

「ていうかデュエル開始前も言ってましたけど、あの方って誰ですか?」

 

 地味に気になっていた。 まぁ恐らくは声を掛けて貰ったであろう赤馬理事長か、もしくはこのデュエルを見ているかもしれない講師か。 いや、もしかしたら――

 

「……決まってるじゃない。 刀堂刃様よ!」

 

 ――――……………………………………………………

 

「……………………え」

 

 なんとなくで聞いた質問だったが、予想外すぎて言葉を失う。

 え、嘘、え、刀堂さん? なんで? い、いや、刀堂さんは良い人だし、誰かから好かれることが意外とかそんな風には思っていないんだけどそうじゃなくて、一門さんと刀堂さんって同じコースなだけで接点がなさそうというか、そもそも二人がお話ししているところを見た事が無い。 僕が知っている中では一度デュエルをしている所を見た事がある位だ。

 

「あの、えっと、よく分からないんですけど、刀堂さんに認めてもらうってどういうことですか?」

 

 よせばいいのに何故かそのことについて触れてしまう僕。

 すると、一門さんはまるで敵でも見るかのような恨めがましい視線をぶつけて来た。 こっわ。

 

「……気にかけて貰っている貴方には解らないでしょうね……毎日刀堂様と楽しそうにお話できて、いつも気さくに話し掛けて貰えて、あんな親しげに出来るんだから……! 私はいつもその様子を影から見ていることしか出来なかった。 それが悔しくて、悔しくてたまらなかった……! 何で……何で貴方ばっかり!!」

「そ、そんなに言うんだったら、一門さんの方から話しかけたりすればいいじゃないですか!」

「……わ、私の方からお声をかけるなんてそんなおこがましい事出来るわけないじゃない!」

 

 何でそこだけ異様に謙虚なんだ! ていうかいつも見てたの!? 軽くストーカーじゃないか!

 

「……だから私は、圧倒的な力をもってこのデュエルで貴方を負かし、貴方みたいな雑魚デッキを使っているチビなんかよりも私の方が魅力的だって認めて貰って、振り向いてもらうつもりだったのに! 貴方の……貴様のせいで! 絶対に許さない! 絶対に貴様は潰す!! わぁたぁしのタァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!」

 

 ビュゴォッ!! と、一門さんのドローと共に凄まじい爆風が巻き起こる。

 くっ…………! なんて風圧だ! あんな細腕のどこにこんな力が……ッ!

 

「……メインフェイズ1に入ると同時に、リバースカードオープン! 《リビングデッドの呼び声》!! 自分墓地のモンスター1体を選択して特殊召喚する! 私は《魔轟神レイジオン》を選択して特殊召喚!」

「蘇生系の罠カード!?」

 

 前のターンから伏せられていたカード、召喚や攻撃に反応しないと思っていたらそういうことだったのか!

 フィールドにレイジオンが再び登場する。

 

リビングデッドの呼び声

永続罠

自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 

「……更に私はチューナーモンスター、《魔轟神クシャノ》を通常召喚!」

「ッ!」

 

 続いて現れたのはこれまでの『魔轟神』とは違い、純白の翼を生やし、異様に分厚い本を右腕に抱えた『魔轟神』。

 前のターンに手札に加えていたモンスターか!

 

魔轟神クシャノ

光属性 悪魔族 レベル3

攻撃力1100

チューナー

 

 チューナーモンスターが出たということは、間違いなくシンクロ召喚をする気だろう。

 

「私はレベル5の《魔轟神レイジオン》に、レベル3の《魔轟神クシャノ》をチューニング!」

 

 レベルの合計は8! かなりの上級モンスターだ。 何が来る?

 

「魔の神界を統べし絶対神が第二柱。 始まりし大戦を駆け巡り、全ての戦場を混沌へと導け! シンクロ召喚! 現れなさいレベル8、《魔轟神ヴァルキュルス》!!!」

 

 光の中から現れたのは、 屈強な体躯を赤と黒の鎧で包み、背にはレイジオンすらも超える大きさの翼を持った『魔轟神』。

 

魔轟神ヴァルキュルス

光属性 悪魔族 レベル8

攻撃力2900

シンクロ

 

 攻撃力2900……! だけど大丈夫だ。 ゲイボルグの効果を使えば、簡単に上回れる!

 

「……ヴァルキュルスの効果発動。 1ターンに一度、手札の悪魔族を一枚捨てることでデッキから一枚カードをドローするわ。 私が捨てるのは《魔轟神ルリー》!」

「デッキを回す効果! それに、ルリーって事は……」

「……その通りよ。 まずはドロー…………フフッ、そして手札から捨てた《魔轟神ルリー》を特殊召喚!」

 

 『キシシシシ!』と小憎たらしい笑い声を出しながらルリーが現れる。 少し腹が立ったが、ここで疑問が出てくる。

 何でルリーをわざわざ召喚したんだ?

 ルリーの攻撃力はたったの200。 しかも攻撃表示で出すなんて。

 

「……フフフ。 訳の分からないといった顔をしているわね。 私にとっても正直賭けだったけど、これで良いのよ」

「え?」

「……すぐに分かるわ。 私は今引いたカード、《魔轟神獣チャワ》の効果を発動! 手札の『魔轟神』と名の付いたモンスターを一枚捨てる事で、このカードを特殊召喚する! そして捨てるのは……《魔轟神獣キャシー》!!」

 

 一門さんがコストにするためのカードを僕に向けて掲げる。 それは、ミントグリーンの小悪魔が蠍の様な尻尾を持った黒猫に威嚇されているイラストのカードだった。

 コストをわざわざ僕に見せたということは、やはりコストにすることで効果を発揮するモンスターなのだろう。 一体、どういう効果が……。

 

「……まずはチャワを特殊召喚」

 

 浮いているルリーの真下に光とともに現れたのは、犬のチワワに似た小さな『魔轟神獣』と、それに跨った黄色い体色の小悪魔。

 

魔轟神獣チャワ

光属性 獣族 レベル1

攻撃力200

チューナー

 

 チューナー!? ここから更にシンクロ召喚を行うということか!?

 ……いや、落ち着け。 大丈夫だ。 どんなモンスターが出ようとも、ゲイボルグなら墓地に鳥獣族がある限り返り討ちに出来る!

 しかし、その考えは非常に甘かったのだとすぐに思い知る事となる。

 

「……そっちじゃないわよ天辻遊雅」

「え?」

「……チャワを出したのは確かにシンクロ召喚をするため。 でも本命はこっち! 今捨てた《魔轟神獣キャシー》の効果発動! このカードが手札から墓地へ捨てられた時、フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を破壊する!」

「なっ!?」

 

 破壊効果!? ということは――――ッ!

 

「……解っているわよね天辻遊雅。 私が破壊するのは、もちろん貴方の《ドラグニティナイト―ゲイボルグ》!!」

「ッ! ゲイボルグ!」

 

 その一門さんの宣告と同時に、ギギャアアアァァッ!! と、ゲイボルグが苦悶の悲鳴を上げだした。

 そんな…………。

 

「ゲイボルグ…………ダメッ!」

 

 しかしそんな僕の叫びも虚しく、ゲイボルグはそのまま爆散してしまう。

 マズイ、今の僕のフィールドには、盾になるモンスターどころか伏せカードすらない!

 

「……フフフフフ。 さぁバトルよ! チャワ! ルリー! 行きなさい!!」

「ッ!」

 

 数秒前までゲイボルグのいた虚空を呆けながら眺めていた僕を、2体の魔轟神が襲う。

 まずチャワが矢のような勢いで僕の鳩尾突撃し、その衝撃で無理やり酸素が吐かされた僕は体をくの字に曲げた。

 

「か、は……っ」

 

 倒れないよう足に力を入れるが、次にパァン! と乾いた音と共に自分の頬に痛みが走った。 重たいものではなかったが、二撃目の衝撃に耐える余裕はなく、足がもたついてしまいそのまま倒れてしまう。

 見上げたところに手を振りぬいた状態で飛んでいるルリーがまたもや憎たらしい笑い声を上げている。 恐らく叩かれたのだろう。

 

Yu-ga

LP 3800→3600→3400

 

「……フフフ……これで終わりじゃないわよ。 ヴァルキュルスで直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 一門さんの掛け声と共にヴァルキュルスの両手に赤い光が収束する。 マズイ……ッ! デカイのが来る!

 どうにかしてこの瞬間だけでもアクションカードを手に入れねばとヘッドスプリングの要領で立ち上がる。

 

「――――ッ!」

 

 運良くすぐ見つけられた。 右側30メートル程離れた茂みの中に、それはあった。

 あれだけは絶対に取らなければならない。 この瞬間にも攻撃をしようとするヴァルキュルスには目もくれずに一直線にアクションカードの元へと駆ける。

 せめて、あれだけでも……!

 だが、それすらも既に遅かった。

 

「カオス・ディザスター!!!」

 

 バオゥ!! という音と共にヴァルキュルスから紅い閃光が放たれる。 それは当然だが、明らかに僕を直接狙っていた。

 

「くっ、う……ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 体に鞭を打つかのように雄叫びを上げ、水面に向かうかのようにアクションカード目掛けて飛び込む。 それはカードを取るのと同時に、攻撃を避ける意味もあった。

 だがしかし、

 

「!? うああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 ドゴォオオ!!! という爆音が背後で響き、巻き起こった爆風と共に僕の体が吹き飛ばされた。 

 後ろが岸壁だったのが災いした。 閃光が壁にあったことでエネルギーが拡散し、爆発を生む結果となったのだろう。

 

Yu-ga

LP 3400→500

 

「ぐっ……! う、ぐ……うぅ……」

 

 予想外のことだったので受身が取れず、地面に体を強く打ちつけてしまい、ほぼ全身に走る痛みに悶絶する。 しかし、どうにか痛みに耐えながら自身と周りの状況を見る。 手には手札以外のカードの感触はない。 アクションカードも取り損ねてしまったらしい。 周りに見当たらない事を鑑みるに、今の爆風で飛ばされてしまったのだろう。 

 それに、一応直撃は避けたが、ヴァルキュルスの攻撃は受けてしまった。 LPも大分削られた。

 くっ! あと……あともう少しだったのに……!

 わずかに届どかなかった希望に歯噛みし、拳を地面に打ち付ける。

 ……あれ? こんな事、昨日もあったような……?

 

「……メインフェイズ2に移り私は、レベル8の《魔轟神ヴァルキュルス》とレベル1《魔轟神ルリー》に、レベル1の《魔轟神チャワ》をチューニング!!」

 

 ……いや、今はそんな事はどうでも良い。 メインフェイズ2に移行したという事は、僕のライフが残った状態で攻撃が終わってバトルフェイズが終了した。 つまり、次の僕のターンが回ってくるという事。

 でも、このタイミングでシンクロ召喚……?

 不思議に思いながらも、全身に力を入れてよろけながら立ち上がり、2種の光を見据える。

 

「魔の神界統べし絶対神が第一柱。 見定めし舞台が整う時、混沌なる大戦に終焉の幕を下ろせ!!」

 

 レベルの合計は……10!

 

「シンクロ召喚!! いざ玉座より立ち上がらん! レベル10、《魔轟神レビュアタン》!!!」

 

 現れたのは赤と金色の鎧を身に包み、ヴァルキュルスと同じくらいの大きさの赤い翼を持った赤髪の『魔轟神』。

 レイジオンともヴァルキュルスともどこか違う。 そのモンスターが身に纏う威光は、まさに『神』の名にふさわしく思えた。

 《魔轟神レビュアタン》。 あれが、一門さんの切り札……!

 

魔轟神レビュアタン

光属性 悪魔族 レベル10

攻撃力3000

シンクロ

 

「……フフフ……本当はこのターンで終わらせたかったのだけれど、まぁ良いわ。 どちらにせよ、これで貴方の勝ち目はなくなった」

「どういうことですか? 確かに簡単ではないですけど、攻撃力3000なら僕の『ドラグニティ』の爆発力で超えられる可能性は十分に有ります!」

「……ええ、そうでしょうね。 でも、レビュアタンは破壊された時、墓地の『魔轟神』と名のついたモンスターを3体まで手札に加える事が出来る効果を持っているのよ」

「なっ!? それじゃあ……!」

 

 一門さんの言っている事はすぐに理解できた。

 彼女の墓地には先程僕のゲイボルグを破壊した《魔轟神獣キャシー》がいる。

 つまりそれは、墓地のキャシーとキャシーを捨てさせる手段の取れるカードをサルベージすれば、僕が例え次のターンに強力なモンスターを出してレビュアタンを倒せたとしても、返しのターンでキャシーの効果によって破壊され、また直接攻撃が来るという事だ。

 ということは必然的に、次が僕の最後のターン……!

 

「……フフッ、理解出来たようね。 ……フフ……フフフフフフフ…………フフフハハハハハハハハハハハ!!! 私はターンエンドよ! さぁ天辻遊雅、最後の足掻きを見せてご覧なさい。 その時代遅れのデッキで、どこまで出来るのかをねえ!」

 

 一門さんはそう挑発的に嘲笑的に言ってくる。

 一々馬鹿にされて悔しいが、追い込まれているのは僕だ。 言い返す事は出来ない。 なら、やり返して鼻を明かす!

 

Nana

LP2200

手札0

モンスター1

魔法・罠0

 

「……僕のターン……――――」

 

 左手をデッキに添える。 これが最後のドロー。 そう思うと、自然と指に力が入った。 

 お願いだ僕のデッキ! 僕は、今のコースでもっと強くなっていきたい! プロを目指していきたい! 逆転の一手を、どうかこの手に!!

 

「ドロー!!!」

 

 勢いよく引き抜き、すぐさま引いたカードを確認する。

 

 しかし、

 

「え………………?」

 

 そのカードを見て、僕は愕然とした。 下手をすれば、膝が地に着いてしまうほどだった。

 引いたカード、それは――

 

「《竜の渓谷》……?」

 

 

竜の渓谷

フィールド魔法

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に手札を1枚捨てる事で以下の効果から1つを選択して発動する事ができる。

●自分のデッキからレベル4以下の「ドラグニティ」と名のついたモンスター1体を手札に加える。

●自分のデッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る。

 

 

 アクションデュエルにおいて、フィールド魔法は発動の出来ない魔法カードに等しい。 何故なら、このアクションフィールド自体もフィールド魔法であり、このフィールドは塗り替えることが出来ないからである。

 つまり僕は、このデュエルにおいて最も引いてはならないカードを引いてしまったのだ。

 というよりそれ以前に、

 

「な、何でこのカードが……?」

 

 入れた覚えがないのだ。 このカードを。

 この《竜の渓谷》はドラグニティにおいては必須のカードだ。 だが、それはスタンディングデュエルでの話。 アクションデュエルでフィールド魔法は効果を発動する事が出来ない為、完全に宝の持ち腐れになるのだ。 使えるとしても手札コスト程度だろう。

 だから、このカードを今日入れているはずがない。 昨日の時点でデッキの内容は確認したし、もっと言うなら志島さんとデュエルをする前に抜いた覚えだってある。

 なのに、なんで……?

 

「……どうしたのかしら天辻遊雅? まさか、良いカードが引けなかったのかしら? フフフフ……そんなデッキにすら見放されるなんて……お笑い種ね」

「……ッ」

 

 呆然としていた僕に一門さんからの声が掛かる。 また、僕のデッキを馬鹿にした。

 だけど、言い返せない。 ただデッキから見放されただけならまだしも、これは僕の管理ミス。 どう言われても仕方がない……

 

「……そんなクズみたいなカードを使っているからそうなるのよ。 残念ね天辻遊雅、あなたの将来は決まったわ。 そのクズデッキのせいで!!」

 

 言われても……

 

「確かに……」

「今時『ドラグニティ』なんてなぁ?」

「正直ダサいわよね。 何で使ってるのかしら?」

「あんなデッキで勝てるわけねぇじゃん」

 

 客席からもそんな声がちらほらと聞こえてくる。 嘲笑し、蔑んだ声が。

 

「………………」

 

 仕方が…………

 

「……フフフ……みんな同じ事を思っているみたいよ? どうするの天辻遊雅? 降参(サレンダー)するかしら? どうせそのクズデッキから引いたクズカードじゃどうしようも出来ないでしょう? ならさっさと――」

 

 

「うるさいッ!!!」

 

 

 涙を堪える様に歯噛みして、拳を自分の力で砕かんばかりに握り締めていた僕は、気付いたら全てを拒絶するようにそう吼えていた。

 それは、僕自身も意識してないくらいに大きく響いたようで、一門さんと会場の笑い声は掻き消えていた。

 

「……解ってるよ……君の言うとおり、『ドラグニティ』は使っている僕自身から見ても時代遅れのデッキだ。 展開力は無いし、安定性も無い。 手札消費も荒いせいでスタミナだって無いし、爆発力だって目を見張る程のものじゃない」

 

 拒絶の咆哮とは逆に、僕は握り拳をそのままに、零すようにこのデッキの欠点を述べていく。 僕はこのデッキの特徴、弱点は髄の髄まで理解している。 こんなデッキを未だに使ってるのは自分くらいのもので、このデッキで勝っていくのは難しいことくらい。

 でも、

 

「でも……でもさっ……!」

 

 このデッキ群を見た時、当時は難しかった毎ターンシンクロ召喚をするその特色に、もはや完全に廃れたに近いユニオンを思い出すそのバトルスタイルに、

 

「初めて惚れたカードで、初めて作ったこのデッキで」

 

 弱さを理解しているからこそ、譲れないものがある。 デュエリストなら、誰もが持っている当たり前の事。

 

「ずっと勝ち続けていきたいって思うじゃんか!!!」

 

 勝ちたい。 このカード達で、このデッキ(ドラグニティ)で。 勝ち続けたい!

 負けたくない。 このデッキを、馬鹿にする奴なんかに。 もう負けたくない!

 堪えるのを止めたせいで溢れてしまった涙を袖で拭う。

 まだやれることはある! 僕のターンは始まったばかりなんだ!

 

「………………あれ?」

 

 今自分の中で湧き上がった感情に違和感を抱く。

 負けたく……ない?

 そう思った。 『勝ちたい』だけではなく、『負けたくない』と。

 

「そうか…………」

 

 昨晩からずっと考えていたが、やっとピンと来るものが出た。

 

「これだったんだ……!」

 

 やっと、解った……!

 遅いかもしれない。 でも、何かを掴めたような感覚に喜びに近いものがこみ上がってきた。

 『負けたくない』。

 勝ちたいとはずっと思っていた。 だから、色々と勉強して、デッキだって練りなおしてきたんだ。 でも僕は、勝利が見えなくなった瞬間、いつも諦めていた。 昨日の志島さんとのデュエルだって、確かに崖っぷちだったかもしれない。 でもまだ足掻く事は出来たかもしれないのに、それをしなかった。

 どこか、『負け慣れていた』ところがあったのかもしれない。

 でも、今は絶対に負けてはならないデュエル。 勝ちたいし、負けたくない!

 

「……な、なによ、いきなり叫んで……そんなに睨んで…………フ、フン! どう言おうったって、このターンで私のライフポイントを削りきらなければ、貴方は負けるのよ!」

 

 先程の僕の咆哮にこれまで呆然としていた一門さんが、少々どもりながらそう言ってくる。

 確かにこの手札では、レビュアタンをどうにか倒せたとしても、一門さんのライフは削りきれず、彼女にターンを明け渡してしまう。 それではダメだ。

 くぅっ……! 何か、何か考えろ! 墓地に利用できるものはないか。 エクストラは? 出せるモンスターは何が良い!? 頼む、考え付いていくれ!

 負けたくない! 負けたくないんだ……!

 歯噛みしながら、考えながらそう願う。 最後のチャンスを、絶対に生かさなければならない。

 

「…………?」

 

 ふと、右腕のデュエルディスクに違和感を感じた。

 熱い。

 いや、言うほどは熱くないが、明らかにいつもより熱い。 高速処理によるヒート状態になるときはあるが、それはインターネットを使っている時にたまになる程度のものだ。 デュエル中になったことは一度もない。

 それに、

 

「光ってる……?」

 

 微かに、だが間違いなく僕のデュエルディスクが光を帯びている。 正確には、メインデッキとは反対側に設置されたエクストラデッキを格納するホルダーが。

 よくわからないが、一応確認しておこう。

 

「すいません一門さん! ちょっとエクストラデッキを確認してもいいですか!!?」

「……え? ま、まぁいいわよ……?」

 

 僕がいきなり声を掛けてきたからか、一門さんは少し驚いたような反応を見せてから承諾してくれた。 「……何なのよ、いきなり怒鳴ったり急に黙ったりと……」とか聞こえた気もするが、今は気にしない。

 「ありがとうございます」と、一言言ってからホルダーのハッチを開けて中身を確認し、13枚のエクストラデッキを取り出し………………ん? ちょっと待ってなんかおかしい。

 ディスクのモニタを確認してみる。 そこには僕のエクストラデッキの枚数が13枚であることを表示していた。 確かに僕のエクストラデッキは13枚だ。 でもだからこそおかしい。

 僕のエクストラは『全部で』13枚だ。 これまでに使ったボルテクスとゲイボルグを抜いたら11枚でなければおかしい。 どういうことだ……?

 今度はエクストラの内容を1枚1枚確認する。 そして……――

 

「なに……これ…………?」

 

 見慣れた僕の切り札たちの中に、見慣れない、入れた覚えのないカードが混じっていた。

 しかもそれは、シンクロのような白色でも、融合のような紫色でも、エクシーズのような黒色でもなく、全くもって見たことの無い、虹のような色をしていた。 虹といってもくっきりした様なものではなく、プリズム反射による淡い虹色の光のそれに近い。

 それとモンスターカードのテキストには基本、モンスターの種族、種類、召喚法が記載されている部分があるが、その召喚法の部分に見た事の無い単語が記載されている。 

 こんな召喚法、知らない……。

 でも、何でだろう。 なんとなくだけど、こうすれば良いっていうのがイメージできる。 本当に出来るかどうかは解らないけど。

 ……それでもやってみよう。 足掻いてみよう。 このデュエルで僕は、負けたくないって思えた。 それは多分、成長出来たって事でもあると思う。 それなのにここで負けて終わりだなんて嫌だ。 僕はもっと、『進化』し続けたい!!

 

「ありがとうございました! もう大丈夫です!」

 

 一門さんにそう言ってからエクストラデッキをホルダーの中に戻す。

 そして一呼吸し――

 

「メインフェイズ!」

 

 宣言すると共に手札から一枚のカードを抜き取る。

 

「僕は《ドラグニティ-パルチザン》を召喚!」

 

 抜き取ったカードをプレートに置くことで現れたのは、頭部に巨大な刀身の付いた兜を装備した紫色の小竜。

 

ドラグニティ-パルチザン

風属性 ドラゴン族 レベル2

攻撃力1200

チューナー

 

「そのままパルチザンの効果を発動! このモンスターの召喚に成功した時、手札から『ドラグニティ』と名の付いた鳥獣族モンスターを1体特殊召喚し、その特殊召喚したモンスターにパルチザンを装備させます! 僕はレベル4の《ドラグニティ-ミリトゥム》を特殊召喚し、パルチザンを装備!」

 

 パルチザンが光を帯び、一瞬にしてその姿は幅広の刀身を持った一本の長槍へと変わる。 そしてそれを手に取るのは、背中に隼のような鋭い翼を生やし、左の腰には長刀を、右の腰には短剣を携えた鳥人の女戦士。

 

ドラグニティ-ミリトゥム

風属性 鳥獣族 レベル4

攻撃力1700

 

「……ミリトゥム……そのカードは確か、魔法・罠ゾーンに在る『ドラグニティ』を特殊召喚出来る能力を持っていたわね。 なるほど、やっぱりまたシンクロ召喚をするつもりね」

 

 前のデュエルの時に見せたことがあったからか、ミリトゥムの効果を正確に述べる一門さん。

 だが――

 

「いいえ、僕はミリトゥムの効果は使いません」

「……な、なんですって!?」

 

 僕の宣言に一門さんの顔が驚愕に染まる。 しかし、すぐにそれは余裕めいたと言うよりは僕を小馬鹿にしたような表情に変わった。

 

「……フン。 なら、自棄にでもなったというの? そんなモンスターでは、私のレビュアタンは倒せないわ!」

「そんなことは解っています! だから僕は、シンクロではなく他の方法で、このデュエルに勝ちます!」

「何を言って……」

 

 一転して訝しげな表情を見せる一門さん。

 さぁ、行くぞ!!

 

「僕は、『進化条件』を満たした《ドラグニティ-ミリトゥム》を『進化対象』に選択すると同時に、手札のフィールド魔法、《竜の渓谷》を『進化素材』に選択して、『コンストラクション』!!」

 

 リアルソリッドビジョンによって作られた夜空に太陽の白い光が差し込み、濃紺な藍色から、澄み渡った青空へと色を変えていく。 そして突如、その空から一本の光の柱が流星の如くミリトゥムに降り注いだ。

 

「なんだ、あの光!?」

「……な、なに……? 何が起こっているの?」

「なんだよ進化って!?」

「美しい…………」

 

 ギャラリーから驚きの反応が聞こえてくる。 一門さんも、目を皿にして言葉を失っていた。

 そんな中、光に包まれたミリトゥムは、その光の中で姿を変えていく。

 

「疾風の速度で宙を駆け、その名のもとに、抗う者を討ち伏せよ!」

 

 その様は正に『進化』。 そう、この召喚の名は――

 

「『エボルート召喚』!!」

 

 徐々に細くなっていく光の中から現れたのは、緋色の鎧を身に纏い、龍の頭の様な兜を被り、美麗な装飾が施された剣を持った鳥人の女戦士。

 

「舞い踊れ! レベル7、《ドラグニティセイバー-ブルトガング》!!!」

 

ドラグニティセイバー-ブルトガング

風属性 レベル7

攻撃力2500

エボルート

 

 

 




いつも読んでくださりありがとうございます。ユアシアンです。

そんなわけで一門ちゃんのデッキは『魔轟神』です。
実はこの子最初は出す気はありませんでした。でも既存のキャラクターで最初の対戦相手にするにはぴったりのキャラがいないなぁと思い作りました。
ていうかこのデッキ初めて触れましたけどソリティア加減半端ないですねw
初心者が手を付けていいデッキじゃなかったわこれ……。

ちなみに容姿ですが。自分の拙い文章では伝わりにくいかもしれないので、
皆さんイメージしてください。

女子中学生くらいにまで成長した《魔轟神クルス》ちゃんを。

……できましたね? それが皆さんにとっての一門菜奈です。
え、なに? 胸の大きさ? 知ら管

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