前回も申しましたとおり、今回は短くデュエルもないですが、重要な回ですので読んでいただけると嬉しいです。
時刻はおおよそ20時。
レオ・コーポレーション社内の一室。 一部屋というよりはほぼ小さなロビーのような広さと洋装のその室内で赤馬零児は巨大なスクリーンを見ながら一人佇んでいた。
見ているのは天辻遊雅という生徒が今日昼頃行ったデュエルと、自身と行ったデュエルの2つ。 考えてるのは今日の出来事。 『エボルート召喚』と天辻遊雅という生徒についてだ。
(おかしい)
それらについて、零児は率直にそう結論付けていた。 理由はパッと思い浮かべるだけでも4点ある。
(1点目。 エボルート召喚と言う召喚法があの天辻遊雅という生徒によって生まれた。 そこまでは『前例』もある。 気になる事ではあるが、今問題にすべき点はそこではない)
リモコンを操作し、録画の内容を少し巻き戻す。 戻し終えて再生されるのは、零児自身とのデュエルの最中に行われたエボルート召喚のシーン。
(2点目。 天辻遊雅がエボルート召喚を行ったのは私とのデュエル。 そして
1回目は『進化対象』となるカードは場に、『進化素材』となるカードは手札にある状態でエボルート召喚を行っていた。
2回目は『進化対象』となるカードは場に、『進化素材』となるカードも場に、しかも1度使用した状態でエボルート召喚を行っていた。
天辻遊雅が一人で可能性を広げられたという事に関してはそこまで強い疑問を抱いているわけじゃない。 ただ如何せん早すぎるのだ。 たった2回。 それもどちらも練習せずの本番。 そんな状況で行える自信。 そして実際に出来たという事実。 まるで――――
(最初からその召喚法のことを熟知しているかのような早さだった)
しかし、
(そう結論付けるのは流石に早計か。 それに、私とのデュエルでエボルート召喚を行った際のあの顔は、不確定な可能性に賭けていた様な表情をしていた。 熟知している者のそれとはとてもではないが思えない)
演技をしていた? いや、それはない。 何故なら表情だけでなく、明らかに全力で挑んでいたあのプレイングは、そんなものを微塵も感じさせなかった。
それに、演技だったとしても、何故自分に演技をする必要がある。 あの状況で下手な演技をしたら自分に怪しまれるだけだろう。
とりあえず、天辻遊雅が演技はしていなかった。 エボルート召喚も熟知はしていなかった。
しかし、不可解な点としては、まだこれは序の口であった。
(3点目。 天辻遊雅のデュエルの内容)
一般的に、新しく強力な切り札が手に入ったら、人はどうするだろうか。
ほぼ大抵の人間はこうだ。
その切り札を惜しげも無く振り翳して披露し、それをもって相手を打ち負かそうとする。
(LDSの人間の実力は、間違いなく他のデュエルの養成施設の人間と比べて一線を画している。 だがそれでもあの生徒はジュニアユース。 年齢も幼さをやっと抜け出した位のものだ。 あの位の年代だったら、もっと新しい力を使いたい、試したいと思うはずだ。 だが、天辻遊雅はエボルート召喚を『あくまで切り札のひとつ』として捉え、最初はシンクロ召喚を行った。 状況に合わせて武器を変えて戦うその様は……)
『戦士』。 その一言に尽きる。
とは言え、偶然手札にキーカードが来なかったからという理由もあるだろう。 それにしたって、あの生徒のプレイングはジュニアユースの生徒としてはあまりにも合理的だったが、根拠が少なすぎる。 これも今は伏せておいていいだろう。
しかし、
(4点目。 ある意味ではこれが最も不可解だ)
零児は、彼のデスクに置かれた薄い資料の束を手にとって見る。 その内容は全て天辻遊雅に関するものだった。
急がせたため、入塾の際に提出されたプロフィールと、今期の公式デュエルの勝敗一覧表しか用意できなかったが、それだけでも十分に零児の猜疑心を刺激した。
(天辻遊雅の勝率。 私を相手にあれ程の実力を発揮し、一時は追い詰めるまでの力を持っていながら、勝率5割前後の勝率とはどういう事だ)
零児は自身の実力を全く奢っていない。 あくまで事実として受け止めた上で、ジュニアユースの人間では自分には全く歯が立たないと言い切れる。 さらに、彼自身の立場と言うものもあって、怯んで実力を出し切れない人間だって少なくないはずだ。
だが天辻遊雅は実力を出し切り、零児が本気を出していなかったとはいえ、一時は深手を負わせた。 それに、あの生徒が手加減が出来る程器用な人間とは思えない。 勝率だってわざわざ下げる必要がどこにある。
さらに、もっと不可解な点もある。
(その勝敗内容。 天辻遊雅が勝利した相手の殆どはLDSのジュニアユースの中でも上位のデュエリストばかり。 その反面敗北した相手の殆どは自身よりもランキングや勝率の低い生徒ばかりだ)
一部例外もあるが、そのような傾向が強い。 逆境の中でこそ真価を発揮するタイプと言うのだろうか。
どうやらここ最近は自身より下位の生徒ばかりとデュエルしていたせいか、負け続けていたようだが。
(とにかく情報が足りない。
そう決断し、デスクの電話を手に取り、彼の秘書へと発信する。 それはワンコール目が鳴り終わる前にキャッチされた。
「私だ。 天辻遊雅という生徒の資料の収集を急がせろ」
『かしこまりました。 明日午前中までに揃えるようにします』
「頼んだ」
そう言って通話を切り、短い応答を終わらせる。 その時の彼の表情は、普段の彼とはまるで違う、酷く険しいものだった。
(出来ればはずれであって欲しいという反面、当たっていたら他の可能性を見出せるかもしれないという期待もある。 なんにせよ、早急に真実を知り、今後の算段を練らなければ)
とあるビルの屋上。
そこには一人の人間が、決して弱くない風に吹かれながら、本来は落下防止用にあるフェンスの向こう側で寛ぐ様に背中を預けていた。
その人物の顔は、自身が着ている紺色のロングコートに付いたフードによって隠れているが、体躯はその上からでも解る位に細く小柄で、少女であるということが窺える。
その少女が見るのは、見晴らしの良い夜の街の景色ではない。 好きな人へ送ったメールの返信を待ち続けるかの様に口角を上げながら見つめているのは、
「ふふっ♪ あの子にちゃんと届いたかなぁ? ボクからの
誰にも聞こえないように、あるいは聞かせないように楽しそうにそう呟く。
その直後、後ろからガチャっと扉の開ける音が聞こえた。 それと同時に
「こんなところにいたのか。
少女の名前であろうそれを呼ぶ若い男の声。 慣れ親しんだ声だ。 呼ばれた側の少女――凛雅は、特に警戒心を抱くことなく後ろへと振り向き、自分を呼んだ男を見据える。
背丈は凛雅より頭一つ高いくらい(といっても凛雅自身の身長が低いので、その男も大して高くは無いのだが)。 顔には分厚いライダーゴーグルに黒革のマスク。 身体は自分とデザインは異なるが、黒のロングコートで覆われている。 正直言って、
「不審者?」
「君が言えた事じゃないだろう……」
ミラフォをくらった。 とはいえ、こういうやり取りは親しい間柄だから出来ることである。
「というか、見つけるのに随分掛かったねユート? ディスクでお互いの場所特定できるのに」
凛雅はフェンスを飛び越えて男――ユートにそう問いかける。 彼女自身、こんなに見つかるのが遅くなるとは思っていなかった。
「君がフラフラといろんな所へ移動するからだ。 おかげで
「ありゃりゃ、ごめんごめんっ♪ というか
仲間の一人――
そんな自分の姿を見て、ユートは手間の掛かる子供を相手にするかのように、わずかにクスリと笑ったように息を吹かせた。
マスク越しなのにそのどこか爽やかな雰囲気を感じるのがどことなくカチンときた。
「それも君を心配しての事だ。 大目に見てやってくれ」
「ったく、しょうがないなぁ…………それじゃ、行こっか! 案内してねっ♪」
「ああ」
頷き、踵を返すユートの後姿を、凛雅はフードが風に取られないよう抑えながら付いて行く。
ビル風は彼らがいなくなった後も、止む事を知らないまま変わらず強く吹き続けていた。 しかし、所詮は一角に過ぎないこのビルを覆うこの街には、新たな風が吹く事になる。
彼らの手によって。
いつも読んで頂きありがとうございます(二回目の挨拶)。
さて、社長の方はともかく、新キャラが出てきました。
フードの少女。一体誰と関係があるんだ……。
黒咲さん、登場すらしてないのになんかごめん。そういうイメージが強いから……
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