P4Aシナリオ番外編   作:三化月

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「足立の更生?そいつは俺の役目に決まってるだろうが!」の続編にあたるシナリオ小説。ペルソナ能力に目覚めた堂島遼太郎が特捜隊とともに足立とアメノサギリを撃退した後の物語で、足立透の公判を描いた劇場版という設定です。

罪を償う決心をした足立の前に立ちはだかる「現実」の壁。
荒唐無稽な事実を争う裁判に、様々な展開が……!

以前書いた『人類皆足立説』が「黒き足立裁判」とすれば、こちらは「白き足立裁判」の位置付けとなります。もちろん、ストーリーも全く別物です。

なお、P4キャラ以外にオリジナルキャラも登場しますのでご注意ください。


「足立裁判 ~テレビの中の真実~」(前編)

○病院・四階病棟の廊下

 誰もいない静かな廊下。

 うっすらとした電灯がその冷たい床を照らす。

 

○同・奥の病室

 無人の病室。

 その中央に置かれたテレビのモニターの中心が光る。

 と、そこから足立を抱えた堂島遼太郎が飛び出してくる!

遼太郎「……っと!」

足立「イテテ……」

 床に転がったまま周囲を見渡す遼太郎。

遼太郎「ここは……。そうか、あの病室か」

足立「あ……」

遼太郎「なるほど。お前はここから向こうへ逃げたってわけだな?」

足立「……はい」

 神妙に答える足立。

 と、胸を押さえて苦しみ出す。

足立「……グッ!」

遼太郎「さすがにダメージがデカいか。まあいい、ここは病院だ。ひとまず治療だな」

 そう言って立ち上がる遼太郎。

足立「(床で蹲ったまま)すいません、堂島さん……」

遼太郎「バカヤロウ。すいませんで済んだら、警察はいらねーんだよ!」

 軽口を叩き、僅かに口元を上げる遼太郎。

 フェイドインしてくるオープニング曲。

 

○オープニング曲

○タイトル『足立裁判 ~テレビの中の真実~」

 画面では、前作クライマックス・シーンのダイジェストが流れる。

 テレビの中の世界で、足立が山野真由美、そして小西早紀を襲う。

 それをモニター越しに見て驚愕する遼太郎。

 それぞれのペルソナを現出させ、シャドウと戦う特捜隊の面々。

 悠と足立が対峙し、そこに遼太郎が割って入る。

 足立がマガツイザナギを召喚!

 そして遼太郎はコウリュウを召喚!

 ペルソナで戦いながら、互いの主張をぶつけ合う遼太郎と足立。

 マガツイザナギに止めを刺すコウリュウ。

 倒れ込む足立。

 出現するアメノサギリ。

 シャドウに飲み込まれそうになる足立に向かって、遼太郎が突っ込む!

 別の異空間で、気を失った足立に襲いかかるシャドウをコウリュウが蹴散らす。

 遼太郎が足立を目覚めさせ、懇々と諭していく。

 心が通じ合い、優しい笑顔になる遼太郎と足立。

 一方、アメノサギリを打ち負かした特捜隊の面々。

 テレビの中の世界は、霧が晴れて明るく澄んでいく……。

 

○病院・廊下

 戦いを終えた悠たち特捜隊の面々が、集中治療室に向かって歩く。

 と、集中治療室から遼太郎が出てくる。

悠「おじさん! 足立さんは……」

遼太郎「ああ、大丈夫だ。アイツは俺がきっと更生させる」

 遼太郎の言葉に、ホッと胸を撫で下ろす全員。

遼太郎「で、あのデッカいのはやっつけられたのか?」

悠「はい。……いや、でも消滅したというわけではなさそうです。結局アレは、人の可能性を試していたのかもしれません」

陽介「人が望む限り、また現れる……とか言ってたな」

直斗「アレは、僕たち人間が『視ること』によって何を感じるか、どんな可能性を生み出せるかを観察していたのだと思います。……今回は、僕たちがアレの感知し得る可能性を超えることができたので引き揚げましたが、今後また、人がネガティブに偏っていけば出現するかもしれませんね」

遼太郎「ネガティブ……か。足立は、まさにそういう心の隙をつかれちまったってことなんだろうな……」

 遼太郎の言葉に考え込む全員。

完二「油断したら、人間はシャドウになっちまう……ってことを、アレが教えてくれたのかもしんねースね」

 的を射た言葉を放った完二に、皆の視線が一斉に集まる。

完二「……な、なんスか!?」

りせ「完二のクセに、カッコ良すぎだってば!」

完二「うっせい!」

 和やかに笑い合う全員。

悠「……ところでおじさん、菜々子の具合は?」

遼太郎「ああ、順調に回復してる。……まあ年内は無理だろうが、春までには退院できるだろう」

雪子「良かった……」

 胸に手を当てて安堵する雪子。

千枝「じゃあ、いっちょお祝いに肉でも食べに行きますか!」

陽介「お前はお祝いじゃなくても、いっつもそれじゃねーか」

千枝「うっさいわね!」

 千枝、陽介に肘打ちを食らわす。

陽介「うぐっ! ……お前な」

遼太郎「ハッハッハッハッハッ!!」

 バカ笑いの遼太郎に、皆もつられて笑う。

 と、背後から看護士の声が。

看護士「ちょっとあなたたち! 病院では静かに!」

 ハッとする全員。

遼太郎「すみません……」

 遼太郎を中心に、看護士に頭を下げる全員。

 

○カレンダー画面

 12月6日から、2月中旬に進む。

 

○踊る新聞記事・ゴシップ週刊誌の見出し

『足立容疑者退院! 猟奇殺人の取り調べが始まる!』

『平和な田舎町を襲った恐怖の連続殺人の真実とは!?』

『足立容疑者の恐るべき実態! これでも警察官だった!!』

 

○稲羽市駅前商店街・電化製品店の店頭

 ウィンドウのテレビ前に人だかりができている。

 モニターには、両手に手錠をかけられた足立がパトカーに乗り込む姿が。

 口々に噂する市民。

市民A「あれが真犯人かあ……」

市民B「え~? あの元議員秘書じゃなかったんだ」

市民C「刑事だって!」

市民D「うっそ~! コワ~い!」

市民E「でもさあ、なんか変な供述してるらしいよ?」

市民F「あったまおかしいんじゃない?」

市民G「でも、これでワケ分かんない霧も晴れたし、ホント良かった」

市民H「……あの霧、結局何だったんだろうね?」

 

○稲羽署・会議室

 遼太郎を含め、数人の署員が議論している。

木野警部補「……というわけで、留置した足立容疑者の取り調べは明日からになります」

署長「うむ。取り調べは木野君、君が主導でやってくれたまえ。……一応、堂島君の調書を参考にしてな」

 そう言って何やら書類に書き込む署長。

遼太郎「……署長。私も加えていただくわけにはいきませんか?」

署長「ああ? 何を言っとるんだ君は。直属の上司だった君が担当できるわけないだろう!」

遼太郎「分かっております。……しかしこの事件は、私が担当しなければいけないんです! 私でなければ……!!」

署長「ふん! 君と足立ははぐれモン同士だったからなあ。傷の舐め合い……か」

遼太郎「そんなんじゃありません! 私でなければ分からない事情が……!!」

 バンと机を叩いて立ち上がる遼太郎。

 皆の視線が遼太郎に集まる。 

 その眼はいずれも冷たく……。

署長「例外は認められんよ、堂島君」

 

○同・留置場へ続く廊下

 木野警部補が歩く後ろから遼太郎が駆け寄る。

遼太郎「オイ木野!」

 遼太郎の声に、振り返ることなく表情をしかめる木野。

遼太郎「俺の調書、ちゃんと読んだろーな?」

木野「……読みましたよ。でも参考にはなりませんね」

遼太郎「どういうことだ!?」

木野「当然でしょう。辻褄合わないことだらけじゃないですか。……確かに、山野真由美と小西早紀の事件について細部まで突いてますが、手口や実行の経緯が曖昧すぎます」

遼太郎「それは、もう一度本人から話を聞いてからだな……」

木野「バカバカしい。……僕が一から聞き出しますよ。奴は凶悪犯なんだ。悪党の誤魔化しにあなたが乗っかってどうするんですか?」

遼太郎「そんなんじゃねー!! これは特殊な事件なんだ。俺でなきゃ暴けん!」

 堂島の言葉に立ち止まる木野。

木野「堂島さん。言っときますけど、足立の取り調べを任されたのはこの僕だ。邪魔はしないでいただきたい!」

 そう言い切ると、木野は真っ直ぐ足立のいる留置場へと足早に向かう。

 取り残された形の遼太郎は、苦虫を噛み潰したような顔で壁を叩く。

遼太郎「クッソ! ……足立、スマン」

 

○同・留置場

 足立が留置されている部屋。

 何もない空間で、うなだれて座っている足立。

 と、木野が部屋の鍵を開ける。

木野「出て来い。取り調べだ」

 木野の言葉に従い、ゆっくりと立ち上がる足立。

 ドアのところまで行ったところで、木野に背中を押される。

木野「とっとと歩け!」

足立「ああ……」

 つんのめってこけそうになる足立。

 それを冷たい眼で見ながら、部屋の鍵を閉める木野。

 

○八十神高校・屋上

 金網越しに外を眺める直斗。

 と、その肩にフワリとコートが掛けられる。

完二「うおーさぶ! おい直斗! コートもなしでこんなとこで、風邪ひいちまうぞ!」

直斗「巽君……。ありがとう」

 優しく完二に笑いかける直斗。

完二「どうした? なんか考え事か?」

直斗「……いえ、そういうわけではないんですが。やはり……、気になりますね。足立さんのことは」

完二「ああ、そうだな。まあ胸クソわりぃ奴だったが、ここんとこの取り上げられ方は……ちょっとな」

 完二も遠い眼になり、外を眺める。

直斗「テレビの世界のことが公になることはあり得ない。となれば、容疑者の人間性や過去の経歴を大袈裟に捉えていく方向へ行ってしまうのは、ある程度仕方ないんですが……」

完二「アイツの左遷の経歴とか、キャリア組からの落ちこぼれだとか、そりゃそーいうことが犯罪につながったかもってことは分かるけどよ……、言い過ぎじゃねーのか?」

直斗「そうですね……」

完二「堂島さん何やってんだろ、もっと何とかなんねーのか!?」

直斗「それは無理ですよ。元上司と部下じゃあ、取り調べには関われませんから」

完二「お前ンとこにも、協力要請とかねーのか?」

直斗「ありませんね。……恐らく、堂島さんとのつながりを考えてのことでしょうね」

完二「クソッタレ……!!」

 金網をかみむしるように掴む完二。

直斗「……足立さんは、罪を償いたいと思っている。だからこそ、正しい形で裁かれてほしい。先輩もそう望んでいるはずです。しかし、今のままでは……」

 二人の背中に、冷たい冬の風が突き刺さる……。

 

○カレンダー画面

 2月中旬から、4月上旬に進む。

 

○都会の鳴上家・悠の自室

 都会の自宅に戻った悠が、机に向かって勉強中。

 と、ベッドの上の携帯電話が鳴る。

 席を立ち、電話を手に取る悠。

 そこには『おじさん』の着信文字が。

悠「おじさん……」

 着信ボタンを押す悠。

悠「もしもし!」

 

○堂島家・リビングダイニング

 ソファーの上で悠に電話をしている遼太郎。

遼太郎「ああ、悠か?」

悠「はい」

遼太郎「ああ、スマンな夜遅くに」

 

○都会の鳴上家・悠の自室

悠「いえ。何かありましたか?」

遼太郎「……今日、足立が起訴された」

 思わず息を呑む悠。

悠「そう……ですか」

遼太郎「ああ。ただ問題は……」

 

○堂島家・リビングダイニング

遼太郎「担当の検察官が相当なクセモンだってことだ」

悠「くせもん……、ああ、曲者ってことですか?」

遼太郎「(立ち上がって台所へ移動しながら)そうだ。今まで数々の事件で無罪と思われるモンでも有罪にしてきた強者らしい」

 

○都会の鳴上家・悠の自室

悠「でも、足立さんは罪を償いたいんですから、そういう人の方がいいんじゃないんですか?」

 

○堂島家・リビングダイニング

遼太郎「(冷蔵庫から缶ビールを出して蓋を開けながら)いや、ダメなんだ。そいつはシロをクロにするだけじゃなく、罪状まででっち上げちまうような奴だ。それじゃあ、足立は本当の意味で償えない」

悠「本当の意味で……」

遼太郎「そうだ。奴は今、自分の罪を認めている。そして、その罪に対してシロクロはっきりさせて、自分にできる限りの償いをしようとしてるんだ。だから、もしそれが間違った方向に進もうもんなら……」

 

○都会の鳴上家・悠の自室

悠「もしかして、また虚無の力が増大して……」

 

○堂島家・リビングダイニング

遼太郎「……或いは、な」

 眉をひそめ、缶ビールを飲み干す遼太郎。

悠「……おじさん」

遼太郎「んん?」

悠「その検察官って……」

遼太郎「……ああ。そいつは東京高等検察庁所属……」

 

○東京高等検察庁

 一人の男がビルから出てくる。

 その足元に遼太郎の言葉が重なる。

遼太郎「三澤……充宜(みさわ・みつるぎ)」

 背の高い、赤いフレームの眼鏡をかけたスマートな男が立ちはだかる。

 

○稲羽署・会議室

 木野と三澤検察官が机を挟んで協議中。

三澤「……なるほど。この動機は使えますね。そして刑事という立場」

木野「ただ、本人の供述にかなり曖昧な点が多いのも事実ですが……」

三澤「曖昧……と言うより非論理的、いや非現実的なだけですね。特にこの堂島警部補の調書は実にくだらない。こんな容疑者の言いなりになったようなファンタジックな弁論は法廷では通用しない」

 そう言って、堂島の調書を投げ捨てる三澤。

木野「私もそう感じましたので、改めて調書を取り直したんです。悪人は罰せられるべきですからね! ……あとは死因と、死体遺棄の方法ですが」

三澤「それも十分辻褄を合わせられますよ。まあ見てて下さい。フフフ……」

 室内に、正義という名の黒い霧が充満する……。

 

○同・留置場の接見室

 厚いガラスを挟み、遼太郎と足立が向かい合い座っている。

遼太郎「スマンな、足立。お前を必ず更生させるだなんて言っておきながら……」

足立「ハハ、堂島さんらしくないですねぇ。……いいじゃないですか。僕は悪いことをしたんだから、罪を償わなくちゃ。それがどーいう方向にいっても、僕は文句言える立場じゃないですからね」

遼太郎「……いや、それは違うぞ足立。裁きってのはあくまで正当じゃなきゃ意味ねーんだ。真実を正しく判断し、それに対して相当する罰を受けなければならん」

足立「でも、あんなやり手の検察官がついちゃったら、もう無理でしょ」

遼太郎「確かに難しいかもしれんが、まだ打つ手はある。弁護人は俺が手配しようと思うんだが、それでもいいか?」

足立「ああ、そりゃ構いませんよ。元々あてなんかなかったし。……でも、弁護人次第でどうなるって言うんです?」

遼太郎「お前には罪は償わせる。だから有罪にはしなきゃいけない。だが、真実を踏まえての有罪でなきゃ意味がねーんだ。……弁護人ってのは、無罪を勝ち取るためにいるわけじゃなく、被疑者が正当な裁きを受けるための手助けをするもんなんだ。……千里の後輩が弁護士になっててな、結構腕が立つらしいんで、今から頼みに行ってくる」

足立「はあ……」

遼太郎「……俺は、本気だからな」

 そう言って、立ち上がり部屋を出ていく遼太郎。

 足立、その後ろ姿を見送り、コクリと頭を下げる。

 

○電車の中

 吊り革を掴んで立っている遼太郎。

 車内アナウンスに耳を澄まし、扉の方へと歩を進める。

 

○某県某市・JR線の駅前

 改札を抜けて出てくる遼太郎。

 と、クンクンと鼻を動かす。

遼太郎「何だ? この匂い……」

 一瞬疑問に思った遼太郎だったが、周囲を見渡して合点がいった。

 そこは、駅前に所狭しと焼肉屋が犇めき合っており、その匂いが駅のホームにまで充満している肉ゾーンだったのだ。

遼太郎「フフ、何とかいう悠の友達が来たら、泣いて喜びそうな町だな」

 

○同・商店街から国道沿い

 八割が焼肉屋の商店街を抜け、国道沿いに出る遼太郎。

 そこで、内ポケットからメモを取り出して確認する。

遼太郎「……と、あれだな」

 小奇麗な商業ビルを見つけ、そこへ向かう遼太郎。

 

○藻桐ビル・五階

 そこは藻桐ビルという商業ビルで、いくつかの中小企業が事務所を構えていた。

 そこに、遼太郎の訪ねてきた『夏野法律事務所』があった。

遼太郎「ここか」

 ドアをノックする遼太郎。

 奥から「どうぞー」と返事が聞こえる。

 静かにドアを開ける遼太郎。

 

○同・夏野法律事務所内

 ゆっくりと開かれるドア。

 そこから遼太郎が緊張した面持ちで入ってくる。

遼太郎「すみません。電話した……堂島ですが」

 遼太郎の前に、一人の女性が姿を現した。

 それは年の頃三十歳前後と思しき、可憐だが聡明さをも兼ね備えたようなショートヘアーの女性だった。

 彼女は夏野美雪(なつの・みゆき)、遼太郎の妻であった千里の学生時代の後輩で、今は敏腕の弁護士である。

美雪「あ、いらっしゃいませ! 千里先輩には、ホントにお世話になりっぱなしで……」

遼太郎「ああ、いえ……」

 緊張で神妙な面持ちとなる遼太郎。

美雪「あ、すみません……。奥様の事件、まだ未解決だったですよね……」

遼太郎「ああ、それは別に。……今回はその、よろしくお願いしたいと……」

美雪「あーはいはい、そりゃもちろん! 千里先輩の旦那さんの依頼ですからね、私もいつも以上に気合いを入れさせていただきます。……あ、どうぞ!」

 そう言って、美雪が遼太郎を中央のソファーに手招きする。

 遼太郎がソファーに腰掛けると、その正面に美雪も座る。

美雪「あ、いけない!」

 美雪、再度立ち上がって上着の内ポケットから名刺入れを出す。

美雪「(遼太郎に名刺を差し出しながら)弁護士の夏野美雪です。よろしくお願いします」

 遼太郎も立ち上がって名刺を取り出す。

遼太郎「あ、ああ。稲羽署の堂島です。よろしく」

 名刺交換を終え、再び座り直す両者。

美雪「ご依頼は……例の連続殺人事件ですよね。被告人の足立透さんは、あなたの部下だった」

遼太郎「はい」

美雪「そもそもあなたの引率で出頭した形になっている。そして罪を自供しているとなると、有罪はほぼ確定だと思いますが、私共がお手伝いする方向性はどのようなもので?」

遼太郎「俺は、アイツに正当な裁きを受けさせたい。その上で罪を償わせたいんだ」

美雪「正当な裁き?」

遼太郎「ああ。実は、今回の事件は特殊な事情がいくつもあって……、事実を立証するのは多分すごく……難しいと思うんだが、何とかアイツには正しく罪を償わせたいんだ」

 拳を握って力説する遼太郎。

 それを見て、思わず美雪も真顔になる。

美雪「……つまり、足立被告の犯行について今報道されているようなことは、事実ではない……と?」

遼太郎「そうだ。おまけに三澤なんて検察官がつきやがって」

美雪「ああっと、あの人ね。(少し苦笑いして)まあ、こちらとしても強敵になりますね。……ただ、罪を犯したということは事実なんですね?」

遼太郎「そうだ」

 と、奥から別の女性がお盆にコーヒーを載せて出てくる。

 彼女の名は夏野夜美(なつの・やみ)。

夜美「へぇ~、面白そうな話ですね」

 そう言いながら、夜美はコーヒーを三杯テーブルに置き、美雪の横に座り込む。

遼太郎「……えっ!?」

 思わず遼太郎が二人の顔を見比べる。

 そう、二人は双子の姉妹であり、互いに弁護士。

 夜美は美雪の妹であり、一卵性ゆえ同じ顔立ちだが、髪はロングヘアーであった。

夜美「はじめまして。美雪の双子の妹で、弁護士の夏野夜美と申します」

 夜美、そう言いながら遼太郎に名刺を渡す。

遼太郎「あ、は……、よ、よろしく」

 遼太郎、少々焦りながら夜美と名刺交換。

遼太郎「……いや、夏野さんに双子の妹さんがいたとは。それも、二人して弁護士とはねぇ……」

夜美「恐縮です」

美雪「あー、千里先輩と学校が一緒だったのは私だけでしたもんね」

 夜美の登場で、少々場の空気が和らいだ。

 しかし、その夜美がまた話題を戻す。

夜美「堂島さんの望みは、事件の真実を法によって裁くこと、そして足立被告が正しく罪を償うこと、ということでいいですね?」

遼太郎「そう……だな。しかし、その真実があまりにも……」

夜美「私たちにお任せ下さい! 真実はいつも一つ!ですよ」

美雪「どっかで聞いたセリフだ」

遼太郎「二人で……やってくれるって、ことか?」

美雪「ん~。ま、そうですね。妹がやる気になっちゃったみたいですから。ハハ」

夜美「僕たちは、二人で一人の弁護士さ」

 そう言ってニヤリと笑う夜美。

美雪「今度は誰のマネだよ」

 少々呆れ顔でコーヒーを飲む美雪。

遼太郎「……あ、そのでも、申しわけないんだが費用はそれほど見込んでないんだ」

美雪「あー、いいですよそんなの一人分で! 千里先輩の旦那さんだし、ここはサービス価格で」

夜美「相変わらずハーフボイルドだな、美雪」

美雪「もういいって」

 漫才をしているかのような二人に思わず笑顔になる遼太郎。

遼太郎「ハハ……。まあ、とにかくよろしく頼む。詳しい話はまた後日ってことで、いいのかな?」

美雪「そうですね。ただ、今回は裁判員裁判ですから、公判前整理手続が早めにあると思われますので、急いだ方がいいですね。……えっと、こちらの予定は……」

 そう言って手帳をパラパラとめくる美雪。

美雪「明日の午後なら大丈夫ですが、いかがですか?」

遼太郎「ああ、俺も大丈夫だ」

美雪「では、お話をお聞きする前に犯行現場も見ておきたいですね。まずは八十稲羽へお邪魔することに致しましょう」

遼太郎「ああ、そいつは助かるな。……実は、色々と見ておいてもらいたいこともあるんでな」

夜美「見ておいてもらいたいこと?」

 遼太郎の言葉に、夜美が思わず身を乗り出す。

遼太郎「ああ、まあ色々とな。……じゃ、よろしく頼みます」

 立ち上がり、改めて頭を下げる遼太郎。

 

○八十稲羽市内・八十稲羽駅前

 翌日の午後、八十稲羽駅前には遼太郎と直斗の姿があった。

 そこに駅の建物から現れる、美雪と夜美の弁護士姉妹。

夜美「あーーーっ、空気がおいしい!」

美雪「……あ、堂島さん!」

 美雪が遼太郎を見つけ、小走りに駆け寄る。

遼太郎「やあ、よく来てくれた」

美雪「どうも! ……え?」

 美雪、遼太郎の隣にいる直斗に目を遣る。

 同時に、夜美も美雪の隣に駆け寄って直斗を凝視。

美雪・夜美「た……探偵王子!?」

直斗「白鐘直斗です。よろしくお願いします」

 美雪と夜美に頭を下げる直斗。

遼太郎「いや何、俺だけだと説明不十分になりそうなんでな」

美雪「いやいやいや! こちらこそよろしくです! 探偵王子と

ご一緒出来るなんて、光栄です!」

夜美「……そう言えば、確か探偵王子もこの事件の捜査に協力しておられたと思うのですが、途中から手を引かれたのですか?」

直斗「手を引いたと言うより……、外された、というべきですかね」

 直斗、そう言いながらチラリと遼太郎を見遣る。

遼太郎「おいおい勘弁してくれよ。あの時はまだ全然……」

夜美「あの時?」

 夜美の眼がキラリと光る。

遼太郎「とにかく、まずは遺体発見現場から見てもらおうか」

 

○同・とある民家の前

 今は空き家になっている民家の前に、遼太郎、直斗、夏野姉妹の四人が立つ。

遼太郎「ここが、第一の被害者・山野真由美が発見されたところだ」

美雪「あのアンテナに引っ掛かっていた、というわけですね?」

遼太郎「ああ。ニュースやなんかで見たとは思うが、いきなり不可解極まりない状況だったな」

 夜美が民家の傍まで近寄り、そこから上部を見上げる。

夜美「……人力であのような芸術的な形を作るとなると、かなり大がかりな細工が必要ですね」

直斗「芸術的?」

美雪「あー、すみません! このコ、時々ちょっと変なこと言いますが、気にしないで下さい!」

 美雪、夜美の方へ小走りに近寄ってチョコンと頭を小突く。

遼太郎「次は、第二の被害者である小西早紀が発見された場所だが、ここからそう離れていないところにある。……こっちだ」

 そう言いながら、遼太郎が他の者を誘う。

 

○同・路地

 町の区域をつなぐ路地。

 そこに小西早紀が発見された電柱があった。

遼太郎「ここだ」

 電柱を見上げる美雪と夜美。

美雪「この上に人間を吊るすとなると……、さっきよりさらに難しい作業になりますね」

 真剣な表情で電柱を凝視する美雪と夜美。

直斗「その通りです。まずは、そのことを実感していただくためにお二人をここへお連れしました」

夜美「……ってことは、死体遺棄の方法そのものについても、調書通りではないということですね?」

直斗「はい」

美雪「私たちが聞き及んでいることは、当時の報道及び、今回警察からいただいた足立被告の聞き取り調書だけです。……この調書を書いたのは、堂島さんではないですよね?」

遼太郎「ああ。俺は足立に近過ぎるということで取り調べのメンバーからは外されていた」

美雪「なるほど。……この調書によれば、具体的な方法は不明となっているものの、足立被告が現場に遺棄したとあります」

夜美「それは……、確かに不自然ですよね。たった一人で、誰にも気付かれることなくあのような場所に死体をセッティングする。……とても人間業ではない」

 ジッと二人を見る直斗。

 その直斗に、夜美がクルリと顔を向けて呟く。

夜美「……足立被告は、人間ですか?」

 直斗、夜美の言葉に僅かに口元を上げながらその問いに返す。

直斗「面白い問いかけですね。……それも含めて、問題の犯行現場に行くとしましょうか」

夜美「えっ? 答えは……」

美雪「人間に決まってるでしょ。……犯行現場は、山野真由美が天城屋旅館、小西早紀が稲羽署の取調室……で良いですか?」

遼太郎「犯行現場としては、それで正解だ」

美雪「犯行現場としては?」

夜美「……つまり、殺害現場ではない、と」

直斗「(ニヤリと笑みを浮かべ)行きましょう」

 

○天城屋旅館

 旅館入口に、遼太郎、直斗、夏野姉妹の四人が入る。

直斗「ごめんください」

 直斗の声に、奥から雪子が足早に現れる。

雪子「いらっしゃいませ! 直斗君、そちらが……?」

美雪「弁護士の夏野美雪です」

夜美「同じく、夏野夜美です」

 深々と雪子に頭を下げる夏野姉妹。

遼太郎「スマンな、無理言って……」

雪子「いえいえ、大丈夫ですよ。……では、こちらへ」

 そう言って、雪子は四人を大型テレビのあるロビーへと案内する。

 

○同・ロビー

 事前に雪子が人払いしていたので、ロビーには誰もいない。

 そこで、美雪と夜美が、足立と山野真由美に扮するように現場再現をする。

美雪「調書によれば、被害者の山野真由美はこの辺りで足立被告に詰め寄られる……」

 そう言って、中央のテーブル前に立つ美雪。

美雪「そして足立被告は、その正面から山野真由美に掴みかかる」

 美雪が夜美に目で合図。

 と、夜美が足立を演じるように美雪の肩を掴む。

夜美「ここで足立被告は、山野真由美に対してどんな攻撃を仕掛けたのか? 調書では『暴行を加え、多大なる精神的ショックを与えた』としか記されていません」

美雪「しかし、司法解剖の結果を見ると、死因となるほどの外傷はなく、あくまで何らかのショックによる心臓麻痺と推定されている。直接死につながるほどの精神的ショックを与えたとなると……」

夜美「それは相当ヒドい言葉、或いは恐ろしい脅しをかけたのか」

 夜美、そう言いながら美雪の顔にしかめっ面の自分の顔を近付ける。

直斗「……不自然だとは、思いませんか?」

 直斗の言葉に、黙って考え込む美雪と夜美。

 と、遼太郎が鞄から紐綴じした書類を取り出し、美雪に渡す。

遼太郎「最初に俺が書いた調書だ。提出したのは、ここからいくつかの事項を削除したものだ」

 書類を受け取る美雪。

 夜美も隣に来てそれを覗き込む。

遼太郎「まずはありのままを書いてみた。しかし、あまりに荒唐無稽な出来事は捜査を混乱させるだけだと考え、肝心な部分は敢えて削除して提出した。結局、俺のヤツは揉み消されちまったがな。……だが、そこに書いてあることは紛れもなく事実であり、それはここにいる白鐘も証明できる」

 調書を読む夏野姉妹の顔色が徐々に変わっていく。

 それを、真剣な眼差しで見つめる直斗。

美雪「(自分の前頭葉に手を当て)あの……、ちょっと頭が混乱してきました」

 と、美雪が持っていた調書を夜美が奪う。

夜美「(ニヤニヤした表情で)これは……、実に興味深い」

 夜美、調書を最初から読み直す。

直斗「美雪さん、あなたが混乱するのも無理はありません。僕も、最初はバカな話だと決めつけて現実的な捜査にあたっていました」

美雪「……ちょっと待っていただけますか? 一つひとつ、整理していきましょう。まず、足立被告の山野真由美に対する感情、そしてこの場所で詰め寄った話の内容、それは理解できますし、警察からいただいた調書とも概ね一致します。問題はその後です。……『被疑者・足立透は、山野真由美の身体に掴みかかり、傍にあった大型テレビのモニターに押し付けるようにし、そのまま中に入れ込んだ』とありますが、これはどういう意味ですか?」

遼太郎「……そこなんだ、この事件の焦点は。何と説明していいか分からんが、とにかく『中に入れた』としか言いようがないんだ」

 美雪の頭にハテナマークが躍る。

直斗「つまり、その現象を正しく表現するなら『人の体格以上のテレビモニターを通して、この世界とは別の世界或いは空間へと移動させた』ということです」

夜美「……ハハハ、ってことは、モニターと人体が物理的かつ生物学的に同化若しくは細胞変化できる、さらには私たちが生きているこの世界以外の別空間が存在する、以上二つの仮説を事実として受け入れなければならないわけですね?」

直斗「そういうことに……なりますね」

 神妙な面持ちの直斗。

 反面、さらににこやかな表情になっていく夜美。

夜美「いやあ、これは本当に興味深い! 四次元の世界や死後の世界といったように、この世界以外の異空間が存在するかもしれないということは、古来より多くの記録がありますので、可能性としては十分にあり得ると私は思っています。そしてテレビモニターとの融合も、物質が全て原子構造でできている以上は、人間の細胞が原子と同等の粒子構造に変化できた場合、その細かい網の目をくぐるように通り抜けたりすることも可能なはずなんです!」

 興奮して一気に捲し立てる夜美。

美雪「あのね夜美、それは原子理論上のことでしょ。そこまで飛躍すると、ますます不明確になるわ。……とは言え、どうやらここをクリアしなければ先へは進めない感じですね」

直斗「その通りです。実際に公判で証明できるか、また材料として取り扱うかは別として、あなた方が僕たちを信用し、僕たちがあなた方を信頼してお任せするためには、この一歩はどうあっても乗り越えていただかなければならない!」

 直斗は、強い口調で夏野姉妹へ詰め寄る。

夜美「……これは、私の天才的勘から発する言葉ですが、……たん、いや白鐘さん。あなたも、テレビの中に入れるんじゃありませんか?」

 その言葉に、美雪と遼太郎はギョッとして夜美を見遣る。

 しかし、直斗はそのセリフを予想していたかのように、少し微笑みながら大型テレビに近付く。

直斗「……お見せします」

 そう言って、直斗は自分の右手をテレビのモニターに当てる。

 すると、水面に波紋が広がるような形で、直斗の右手がモニターの中に入り込んでいく!

美雪・夜美「ええっ!?」

 驚いてテレビに近付く夏野姉妹。

 そして、直斗がモニターから右手を抜く。

夜美「……!!」

 夜美が、モニターの直斗の手が入った部分をさすりまくる。

 しかし、何の異常も認められない。

美雪「……白鐘さん、右手を見せていただけますか?」

直斗「はい」

 そう言って美雪に右手を差し出す直斗。

 美雪、直斗の右手を盛んに揉んだり引っ張ったりするが、特に変わったところはない。

遼太郎「……どうだ? 信じられるか?」

美雪「まさかとは思いますが、堂島さんも……」

遼太郎「ああ。実は数ヶ月前に一度だけ入ることができた。その時、足立の犯行をこの目で見て、奴と戦い、この世界に戻してきたんだ。……だが、それ以来、俺はもう入ることができなくなっちまったみたいだ」

 遼太郎、そう言ってテレビのモニターに触るが、直斗のように手が溶け込んでいくことはない。

 一瞬、沈黙する四人。

 遼太郎と直斗が、危険な賭けをしているかのような目つきで夏野姉妹を見つめる。

夜美「……面白い。ぜひこの先のことも詳しくお聞かせ願いたい。確か、シャドウとかペルソナとか……私の辞書にない言葉が散りばめられていました」

美雪「(両手を広げて一つ溜め息をつき)はぁ……。これはとんでもない運命に巻き込まれてしまいましたね。いいでしょう。私も本腰入れて取り組むことに致します」

 美雪の言葉に安堵の表情となる遼太郎と直斗。

美雪「ただし! ……しっかり検証して現実の事象として正しく証明されれば、という条件付きです。場合によってはあなたたちにも証言していただく必要があるかもしれません。その覚悟はおありで?」

遼太郎「ああ」

直斗「法廷で論じなければいけない展開になった場合は、僕も全面的に協力します。ただその時は、ある意味事件の時以上に世間がひっくり返る大騒ぎになるでしょうね……」

美雪「そうでしょうね……」

夜美「大騒ぎ結構! そうなりゃアイツを満天下でギャフンと言わせられる!!」

遼太郎「アイツ?」

美雪「ああ、検察官の三澤充宜のことです。……昔、夜美が彼に赤っ恥かかされた裁判がありまして」

直斗「なるほどね」

 直斗が夜美を見遣ると、既に戦闘モードに入ったらしい夜美は何度もテレビのモニターをコツコツと叩いていた。

美雪「では、次の犯行現場ですが……、稲羽署の取調室となるとさすがに……」

遼太郎「そうなんだ。公式調書に明記されていないだけに、現場検証はちと厳しいな」

直斗「まあ、状況はこことさほど変わりませんから、現場へ行く意味は大してないとも言えます」

美雪「そうですね。寧ろ、その後の現象をもっと詳しくお聞きする必要があるのかと……」

直斗「そう思って、今夜はこの旅館にお二人の部屋を取ってあります。続きは、そこでお話できれば」

 直斗の言葉を聞いて、思わず飛び上がる夜美。

夜美「おひょう! 天下の天城屋旅館に泊まれるのですか!?」

美雪「(興奮する夜美の頭を押さえつけながら)あ、ありがとうございます。では、改めてそちらで……」

 

○稲羽署・留置場

 部屋の中で、静かに読書をする足立。

 と、担当の署員が声をかける。

署員「足立透!」

足立「は……はい?」

署員「手紙だ」

 署員、そう言って封書を鉄格子の隙間から足立に手渡す。

足立「あ、ありがとう……ございます」

 足立、座り込んで封書を開け、中に入った一枚の紙を取り出す。

 そこには、遼太郎の字で『弁護士は手配できた。お前は俺を信じて待っていろ。決して卑屈になるな。諦めるな。面倒だなんて思って俺以外の奴の口車に乗るんじゃねーぞ? 分かったな!』と書かれていた。

足立「(微笑んで)堂島さんったら……。大丈夫ですよ。僕はここに入って、初めて人間らしい気持ちになれた気がします。悠君たちや堂島さんにコテンパンにやられて、逆に生きる意味ってのがちょっとだけ感じられたような気がするんですよね。もし僕がまだ生きることを赦されるのなら……ですが」

 そう言って、足立は遼太郎からの手紙を封筒に戻し、その封筒を両手で挟むようにし、目を瞑って何かに拝む……。

 

○天城屋旅館・龍の間

 食事を摂りながら話を続ける直斗と夏野姉妹。

 美雪と直斗が箸を止めて話す中で、夜美は常に飲み食いしながら二人の話に割って入っていく。

美雪「……ということはですね、シャドウというのは人間の抑圧された願望や欲望から生み出される存在で、様々な怪物の姿となってテレビの中の世界を徘徊している、と」

直斗「そうです。そして、山野アナや小西さんのように強制的に入れられた人たちは、自らのコンプレックスの塊である自分自身の影と対峙し、その影は存在を否定されると怪物に変化するのです。……恐らく、山野アナや小西さんは、自分の影を否定して、その結果、怪物化した自分のシャドウに殺されたのでしょう」

美雪「死体が、現実世界のアンテナや電柱に逆さ吊りにされたようになって発見されたことについては?」

直斗「これは僕の推論ですが、テレビの中でシャドウに殺された場合、その身体は自動的に現実世界に飛ばされるのではないかと。そして、テレビという発信体の元であるアンテナや電柱に『戻っていって』、結果的に『吊らされた』ような状態になってしまったのではないかと」

美雪「ふ~む……」

 考え込む美雪。

夜美「(相変わらず箸を動かしながら)で、なんでテレビなんですか? テレビという媒介には、何か意味があるんですか?」

直斗「それを説明するためには、僕が何故テレビに入れるか?ということを知ってもらわねばなりませんね」

夜美「キタキタッ!」

美雪「喜ぶな!」

 と、ここで遼太郎が部屋に入ってきた。

直斗「あ、お帰りなさい」

美雪「……どうでした?」

遼太郎「ああ。もう面会時間が過ぎてたんで、手紙だけ渡してもらうよう言づけてきた。……で、どこまで話したんだ?」

直斗「次は、僕たちの話です」

遼太郎「そうか。……俺も、最初に悠から聞いた時は全く耳に入らなかったんだよな。情けねぇことだが、人間ってのは自分で見聞きしたことじゃねーと早々信じることはできねぇもんだ」

直斗「そうですね。僕もそういう考えがありましたので、先輩たちが事件に関与していると分かった時、自分の身を使って実験するしかないと思ったんです」

美雪「……え?」

夜美「ウッグ……」

 夜美が刺身を喉に詰まらせてむせる。

直斗「それは、僕にとっても衝撃的な出来事でした……」

 

○稲羽署・留置場の接見室

 昨夜、天城屋旅館でひと通りの事情を把握した夏野姉妹が、遼太郎とともに足立との面会にやって来た。

 弁護士との接見は、秘密保持のため警官の立ち合いは無しという決まりになってる。

 夏野姉妹も同席とは言え、遼太郎と足立は久々に水入らずといった感じの面会を果たした。

遼太郎「どうだ? ここの生活も慣れたか?」

足立「そうですね~。ま、堂島さんのシゴきよりよっぽど楽ですよ?」

遼太郎「コイツめ……。まあいい。今日はお前についてくれる弁護士の先生二人に来ていただいた」

美雪「夏野美雪です。よろしくお願いします」

夜美「夏野夜美です。よろしくお願いします」

 表情、口調から瓜二つの夏野姉妹が足立に挨拶。

足立「へぇ~。双子の弁護士さんなんて珍しいですね。いやあ、ホントにそっくりだ」

美雪「足立さん。私たちは、堂島さんのご依頼を受け、あなたの弁護を担当することになりました。そして昨日、極めて特殊な事情を色々と聞かせていただきました」

足立「へぇ~」

 あくまでにこやかな足立。

美雪「堂島さんのご希望は、あなたの罪を正しく裁き、あなたが然るべき罪の償いをすることだと仰いましたが、あなたのご意向もそれに異存はないですか?」

足立「ないですよ。僕は取り返しのつかない罪を犯した。だからどんな裁きを受けても文句は言えない。ただ、僕だって卑しくも刑事の端くれなんでね。まともな裁判でこの罪が立証されるとは到底思っていない。でもそれが叶うなら、僕はどういう結果も受け入れるつもりだよ」

美雪「分かりました。では順を追ってお聞きします。あなたは、山野真由美さんをテレビに落とした際、殺意はありましたか?」

足立「え? あーなるほど。そう言われてみれば難しいなあ。私情が絡んでたからねぇ、面白くなかったのは確かですよ? でも、殺意、とまではいってなかったような気はしますねぇ。懲らしめてやりたい……って感じですか」

美雪「分かりました。では、小西早紀さんに対してはどうですか? 殺意は感じていましたか?」

 美雪の言葉に、足立はしばらく考え込む。

足立「……あのコには、正直下心がありましたし、それを拒否されて頭に血が上ったことは認めます。でも、テレビに落とすことが殺すつもりだったかと言われれば、違うような気がしますねぇ」

美雪「分かりました。では、久保美津雄受刑者を落とした時はどうでしたか? 咄嗟に思いついてテレビに入れたということですが、そこに殺意はありましたか?」

足立「ああ、それはない。間違いないよ。僕が彼を殺す理由はないし、あの時は彼が全ての犯人に祀り上げられることを避けたかった、それだけだったんで」

美雪「分かりました。では最後に、生田目太郎氏に救済の名のもとに誘拐を続けさせた時はいかがです? 結果として、生田目氏がテレビの中に入れた人たちが死ぬかもしれない、ということを自覚していましたか?」

足立「生田目……か」

 再び、足立が少し下を向いて考える。

足立「……正直なところ、生田目にテレビへ落とすことを差し向けた時は、大して深い考えはなかった。でも、それが続くにつれて、生田目が入れて、それを悠君たちが助けるって構図に面白味を感じてきたんだ。でも、久保のこともあって、いい加減助けられんのが鬱陶しくなってきたんだよね。それで悠君に脅迫状を書いた。だから、殺意がなかったかと言えば微妙だけど、少なくともそれまでは悠君たちが助けることを信じてた面もあるんで、死ぬとは思ってなかったかもしれないね」

夜美「もし、渦中の高校生たちがあなたの脅迫状に従って行動を止めていれば、あなたは満足でしたか?」

 夜美の質問に、それまでにやけ顔だった足立の表情が真顔になった。

足立「……そうなれば、菜々子ちゃんを助けられなかったってことになるんだよね。それは……、それは辛い」

遼太郎「足立……」

足立「僕はね堂島さん。自分では認めたくなかったんですが、やっぱり堂島さんと菜々子ちゃんには特別な思いがあったんだと思います。だからこそ、二人に慕われる悠君に嫉妬して、脅迫状を書いた。……何もかもどーでもいい。そういう気持ちにシャドウがつけこんできてこんなことになっちゃったけど、堂島さんと菜々子ちゃんは、僕の孤独感を癒してくれる。そんな気がしてたのかもしれない。そういう気持ちがあったから、堂島さんと生田目を追っかけた時だけは、ちょっと本気になってたのかな……」

 しばらくの沈黙。

 そして、一つ溜め息をついた美雪がそれを打ち破る。

美雪「あなたの意思は理解できました。あとは私たちにお任せ下さい。必ずや、あなたの望む方向へと導いて差し上げます」

 キリッと言い放つ美雪。

 そして、その傍らで目をギラつかせる夜美。

足立「よろしく……お願いします」

 

○踊る新聞記事・ゴシップ週刊誌の見出し

『未曽有の連続猟奇殺人事件は、やはり裁判員裁判に!』

『足立裁判、ついに公判が始まる!』

『傍聴競争率百倍!? 君は真実をその目で確認できるか!』

 

○某県某市・地方裁判所

 地方裁判所の外観。

 そして『初公判』のクレジットが中央にフェイドイン。

 

○同・法廷

 ギッシリと埋まった傍聴席。

 その眼は、一様に好奇に満ちている。

 検察側では三澤検察官が余裕の笑みを浮かべ、弁護側では夏野弁護士姉妹がその三澤を睨むようにして座っている。

 そして、中央の裁判官席の両側に六人の裁判員が並ぶ。

 裁判員裁判となった今回の公判。

 一般から選出された裁判員の表情が最初から青ざめていることからも、この事件の特殊性が窺える。

 と、手錠をかけられた足立被告が入場。

 傍聴席がザワつく。

 足立は傍聴席をチラリと見遣り、そこらから突き刺さってくる鋭い視線を敢えて全身に浴びるように天を仰いで一つ大きな溜め息。

 そして静かに被告人席に座る。

 弁護人席の夜美が、足立を勇気づけるように目を向けて小さく頷く。

 足立、少しホッとしたように表情を和らげる。

 と、裁判長が入場して全員が起立。

 一礼とともに、足立の初公判が始まった。

裁判長「それでは開廷致します。弁護側の主任弁護人は、夏野美雪弁護士で宜しいですね?」

美雪「はい」

 主任弁護人というのは、法廷で弁護人が複数いる場合に統率を図る代表である。

裁判長「被告人、前へ」

 足立が証言台に立つ。

裁判長「それでは人定質問に入ります。名前は?」

足立「足立……透です」

 

○都会の悠が通う高校・図書室

 調べ物をしている悠。

 ふと開いた本に『足立区』という単語を見つけ、壁の時計を見上げる。

悠「始まった……か」

 

○八十神高校・二年の教室

 この春から二年生になった直斗。

 授業中、夏野弁護士姉妹に全てを話して弁護相談をした時のことを思い起こす。

直斗「(……本当に、あれで良かったのだろうか)」

 

○堂島家・リビングダイニング

 珍しく、非番で自宅にいる遼太郎。

 ソファーに座って物思いに耽る。

 と、菜々子が不思議そうな顔で近付く。

菜々子「……お父さん。具合、悪いの?」

遼太郎「ん? ああ、いやあ大丈夫だ。何ともないよ」

菜々子「そう……?」

 顔色の悪い遼太郎を心配する菜々子。

 たまの休みだが、遼太郎の身体を気遣ってどこかへ連れて行ってほしいとなかなかせがめない。

遼太郎「(ソワソワした様子の菜々子に気付き)……そうだ菜々子。ちょっと、ジュネスにでも行くか」

菜々子「(笑顔になり)わあ、ホント!?」

 遼太郎に抱きつく菜々子。

 遼太郎、そんな菜々子の頭を撫でながら、心は法廷の足立に……。

 

○地方裁判所・法廷

裁判長「……最後に、職業は?」

足立「……警察官です」

 足立の言葉に、傍聴席がザワつく。

裁判長「人定質問を終わります。では罪状認否に移ります」

 三澤検察官が立ち上がる。

三澤「起訴状を朗読します。被告人・足立透は、2011年4月11日夜、アナウンサーの山野真由美を天城屋旅館で身辺保護の名のもとに執拗に詰問・恫喝し、性的ないやがらせを含み精神的に追い詰めた結果死に至らしめ、翌12日の明け方までに八十稲羽市内の一軒の住宅屋根に逆さ吊りのような格好でその死体を遺棄した。続いて同年4月14日、八十神高校三年の小西早紀を目撃者として警察署内で聞き取り中に執拗に詰問・恫喝し、同じく性的ないやがらせを含み精神的に追い詰めた結果死に至らしめ、翌15日の明け方までに八十稲羽市内の電柱上部に逆さ吊りのような格好でその死体を遺棄した。さらに、同年7月12日、現在諸岡金四郎殺人の罪で服役中の久保美津雄受刑者に対し、職務を全うすることなく取調室で暴行を働いて監禁、久保受刑者に不要な精神的圧力を与えた。そして遡って同年4月16日、生田目太郎氏を巧みな話術で誘導し、誘拐及び殺人に関する教唆をした。以上です」

 厳しい表情で足立を睨む三澤。

 足立、若干迷ったような表情で固まっている。

裁判長「被告人に権利説明を致します。被告人は、終始沈黙することが許されます。また、個々の質問に対して陳述すること及び拒むことができます。そして、陳述したことは被告人に対して有利・不利を問わず全て証拠となります」

 足立、依然として固い表情。

裁判長「被告人。起訴状の通りで間違いありませんか?」

 美雪が足立に目配せする。

美雪「(揺れないで! 打合せ通りに……!!)」

足立「(ゆっくりと口を開いて)……四人に対して、罪を犯したことは認めます。ただ、山野真由美をアンテナに吊り下げたり、小西早紀を電柱に引っ掛けたりしたことはありませんし、僕が直接殺したわけではありません。……久保を監禁したというのは……、ちょっと表現が違いまして……、その……。あと生田目をそそのかしたのは、誘拐された人に害を及ぼすことを狙っていたわけではありません」

 足立の陳述に傍聴席からチラホラと声が聞こえる。

 特に、自分が殺したわけじゃないという部分に戸惑っている様子だ。

 三澤が鋭い目つきになる。

 と、美雪がスックと立ち上がる。

美雪「起訴状には事実とは異なる事項が多く含まれています。この件については、冒頭陳述にて説明させていただきます」

 着席する美雪。

 その美雪をキッと睨む三澤。

 それを見て、感情的な目つきで三澤を睨み返す夜美。

 少し上半身が前かがみになる夜美を、美雪がその太腿に手を当てて抑える。

裁判長「……分かりました。それでは本日の争点は、起訴状の内容についての正否となります。被告人は下がって」

 裁判長の言葉を受け、足立が被告人席に戻る。

裁判長「では、検察側から冒頭陳述を」

 三澤が立ち上がる。

三澤「はい。起訴状の通り、被告人・足立透は天城屋旅館に隠匿中のアナウンサー・山野真由美を4月11日夜に身辺保護という名目で訪ねました。被害者・山野は議員秘書の生田目太郎氏との不倫騒動から歌手で生田目の妻である柊みすずから起訴され、その騒ぎから逃れるために天城屋旅館に隠れていたのです。そのことにマスコミが気付き始めたため、被告人は身辺保護の名目で山野真由美に近付いた。しかし、実際は山野に対して性的な質問やいやがらせを執拗に行い、その結果ノイローゼ気味になった山野に暴行を働き、激しい精神的ショックを受けた山野は心臓麻痺で昏倒。さらにはその死体を夜中に運び出し、住宅屋根のアンテナに吊り下げるという残虐かつ猟奇的な方法で遺棄したのです」

裁判官「被告人。意義はありますか?」

足立「……確かに、山野真由美に対していやがらせのように詰め寄ったことは認めます。でも、そこで僕が殺したわけじゃありません。僕は彼女を……テレビに入れただけです」

 ザワッ!

 途端に騒々しくなった傍聴席。

 あちらこちらで「テレビに入れた?」という驚きの声が挙がる。

 裁判員六名も、慌ただしく手元資料を調べ始める。

裁判長「(怪訝な顔つきで)……被告人及び弁護側の陳述は、後程まとめて聞くことに致します。検察側、続けて」

三澤「はい。続く第二の事件。八十神高校三年の小西早紀に対して、先の山野真由美死体遺棄の現場目撃者として警察署で聞き取りするという名目で取調室で二人きりになり、小西に性的な言葉で詰問した上、自分と性的なつながりを持つように強要。それを拒まれた被告人は逆上し、小西に恐喝・暴行を実行。結果、山野同様に激しい精神的ショックを受け、心臓麻痺で昏倒。その死体を夜中に運び出し、電柱の上部に吊り下げるという残虐かつ猟奇的な方法で遺棄しました」

 三澤の言葉を、足立は目を瞑って聞いている。

裁判長「第三、第四の事件はどうですか?」

三澤「第三の事件。現在、諸岡金四郎殺人の罪で服役中の久保美津雄受刑者についてですが、これは自首してきた久保に対して全く話に取り合わず、挙句暴行を加えて署外に監禁したものです。元々、久保は諸岡以外の先の被害者である山野真由美と小西早紀をも自らが殺害したと自供してきたのですが、結局その二件については証拠不十分のため不起訴、諸岡殺しのみが立証されて服役中です。山野及び小西の殺害も久保の仕業となれば自らの罪を被せられることになったはずですが、何故か被告人はそれには乗らず、久保に不当な暴行を加えて亡き者にしとうとしています。後の監禁も含めて、これは被告人の性癖的衝動的な殺人未遂と考えていいでしょう。そして第四の事件。生田目太郎氏は第一の被害者である山野真由美と不倫関係にあった元議員秘書です。彼は議員秘書の座を追われてからは実家の運送業を手伝っていましたが、その間に被告人が接触を図り、数人の男女の誘拐及び殺人未遂に手を染めさせました。その真意は、生田目氏にこそ全ての罪をなすりつけたいがためでした。生田目氏は運送業者をやる傍らで八十神高校の生徒を次々と誘拐していたのですが、その要因はノイローゼによる幻覚症状でした。それはテレビに次の被害者が映る幻を見るというもので、被告人はそれを利用して生田目氏をそそのかし、見た幻に近い風貌の学生を隔離してあげれば助けられると主張、その結果書き残された生田目氏の日記により全ての犯行が彼の手によるものと捏造しようとしたのです。最後に被害に遭った少女などは、助かったものの数日の間生死を彷徨いました。これは明らかに殺人教唆に値します。なお、先程被告人の口から発せられた『テレビに入れた』という発言は、この生田目氏の幻覚症状に影響されたものに他ならないでしょう」

 三澤の現実的な陳述に、傍聴席は幾分落ち着きを取り戻した様子。

 これで、ひとまず検察側からの冒頭陳述は終了した。

裁判長「それでは、弁護側の冒頭陳述をどうぞ」

 裁判長の言葉を受け、美雪が立ち上がる。

美雪「はい。起訴状及び検察側の陳述で事実と異なる点を、順を追って説明させていただきます。まず第一の事件。アナウンサーの山野真由美に対しての被告人の天城屋旅館での言動について、性的な質問やいやがらせ的な事実は確かにありました。しかし、そこで執拗なまでの精神的ショックを与えて心臓麻痺に至らせたというのは事実無根であります。被告人は、あくまで山野真由美をテレビに入れただけなのです」

 美雪の言葉に、またしても傍聴席がザワつく。

三澤「お前はバカか? テレビに入れただなんて……、そんな非常識な理屈が法廷でまかり通ると思っているのか?」

美雪「思ってますよ。だって事実なんですから。……テレビに入れたという表現は分かりにくいですね。言い方を換えると、『人の体格以上のテレビモニターを通して、この世界とは別の世界へと移動させる』ということになります」

 美雪の言葉に、傍聴席からは失笑も漏れ聞こえる。

三澤「ハッ! バカバカしい。人間がテレビに入れるわけもないし、この世界とは別の世界が存在するなどということはあり得ない!」

夜美「あり得ないという根拠はなんですか? あり得ないことをあなたは立証できるのですか? 三澤検察官」

 夜美が衝動的に発言する。

三澤「そんなもの、常識で考えれば当然だろう! それとも君は、この世界とは別の世界に行ったことがあると言うのかね?」

夜美「答えになっていません。私はあり得ないことを立証できるのかと問うたのです。……答えて下さい、三澤検察官」

 カンカンカン!

 裁判官がガベルを鳴らす。

裁判長「夏野主任弁護人、意見を統率しなさい」

美雪「(夜美を押さえつけて)はい! すみません……」

 夜美、不服ながらも姿勢を正して座り直す。

美雪「(咳払いを一つして)続けます。テレビのモニターを通して別の世界へ行った場合、そこにはシャドウという人間の抑圧された願望や欲望から生まれた怪物が徘徊しており、山野真由美や小西早紀のように故意にその中に入れられた人間は、そういった怪物に襲われる可能性があります。加えて……」

三澤「フザけるな! そんな荒唐無稽な話をよく法廷でできるな貴様は! 裁判長、こんな陳述をまともに聞く必要があるんですか?」

 絶句する裁判長。

 その左右では、各裁判員たちがひそひそと話し合う。

 と、一人の裁判員が発言した。

裁判員A「私たちは法律に関しては素人です。しかし、だからこそ裁判員制度に則って原告被告両方の意見を真っ向から聞いて、専門的ではないフラットな立場でジャッジすることが責務だと認識しております。そういう意味において、弁護側の意見も最後まで聞くべきだと思いますが、いかがですか? 裁判長」

 この言葉に、裁判長も腹を括る。

裁判長「……よろしい。ひとまず弁護側の陳述を聞きましょう。夏野主任弁護人、続けて」

美雪「はい。何者かに故意に別世界に入れられた人間は、自分の抑圧された願望や欲望が表面化した自分の影と対峙します。そして、その存在を自分自身が認めることができない場合、その影に魂を乗っ取られ、肉体だけが現実世界へ帰っていきます。その結果が、アンテナに逆さ吊りになっていた山野真由美、そして電柱に引っ掛かっていた小西早紀のような遺棄状態になったのです」

 さらにザワつく傍聴席。

 そして、三澤がニヤリと笑って口を開く。

三澤「よ~し、いいだろう。ここは敢えてその非現実的な夢物語に付き合ってやろうじゃないか。……貴様の理屈だと、山野真由美や小西早紀は、自分の影である化け物に殺されたというのか?」

美雪「それはあくまで可能性の一つです」

三澤「何ィ?」

美雪「残念ながら、私たち自身がその別世界を体験したわけではありませんので、これは過去の事実に基づいた可能性の一つということになります。ただ、被告人が天城屋旅館や取調室で直接手を下して殺害したわけではないという証拠証言にはなり得ます」

三澤「ハッ! そんなもの証拠になるわけがなかろう」

美雪「いいえ。証拠はいずれお見せ致します」

 美雪の言葉に、傍聴席及び裁判員一同がドッを沸く。

裁判長「……夏野主任弁護人、続けて」

美雪「はい。先程申しました通り、被告人は直接手を下したわけではありません。そして、別世界で徘徊しているシャドウ、若しくは自分自身の影に何らかの方法によって殺害され、山野真由美と小西早紀の肉体は現実世界へと戻りました。その場所がアンテナや電柱であったという事実は、『マヨナカテレビ』と呼ばれる特殊な電波が関係してきます」

 傍聴席がまたもザワめく。

 口々に「聞いたことある!」「見たことある!」「ってことはさっきの……」などという声が挙がる。

美雪「これは、都市伝説としてある程度世間を騒がせましたので御存じの方も多いと思いますが、『雨の日の深夜0時に一人で消えたテレビの画面を見つめていると運命の人が見える』というものでした。しかし実際は、人々の『見たい』という思いが集まった時にその対象が見たいように映る『窓』のようなものであり、そこに映った人間がその後テレビに入れられ、結果何者かに殺されてしまったらテレビから消滅し、遺体となってこの世界に出てくるといった寸法です。つまり、被害者の二人はテレビという媒介を通して命を奪われたことにより、テレビの発信元であるアンテナや電柱に『戻っていき』結果的に『吊るされた』ような状態になったという推論です」

三澤「推論……ですか。ハハ」

 バカにしたような笑みを浮かべる三澤。

 と、夜美がキッと三澤を睨んで言い放つ。

夜美「あなたの陳述も全て推論じゃないですか。被告人が山野・小西両者をショック死させたことも、アンテナや電柱に吊り下げたことも、久保受刑者を暴行・監禁したことも、生田目氏に罪をなすりつけようとしたということも、何の証拠もないんじゃありませんか?」

三澤「バカを言うな。私の陳述は全て確かな証拠と証言によって成り立っている。……この後の立証で詳しく説明してやるよ!」

夜美「うっ……」

 自信満々の三澤に、思わず飲み込まれてしまう夜美。

美雪「(若干、額に汗をかきながら)次に第三の事件ですが、起訴状にある久保受刑者を監禁したという表現に誤りがあります。ここも、山野真由美や小西早紀と同様、『テレビに入れた』という表現が正しいと言えます。さらに第四の事件では、生田目氏がテレビ画面に幻を見て偶発的な犯行に及んだという見解でしたが、これは生田目氏がマヨナカテレビを見て被告人に相談したことがきっかけで、被告人が生田目氏にテレビの中に入れることが殺害を防ぐことになるとそそのかしたというのが事実です。そういう意味では検察側の陳述と同義になるかもしれませんが、生田目氏が見たものはあくまで幻覚ではなく真実であり、特に最後の少女誘拐に関しては被告人の全く意図したものではなかったということも付け加えておきます。こちらからの冒頭陳述は以上です」

 そう言って美雪は着席。

   *  *  *  *

 想像を絶する陳述が展開されたことで、室内の空気は異様なものになっていた。

 傍聴席からはチラホラと呆れて席を立つ人も見え、六人の裁判員も半ば呆れ顔になっている。

 と、裁判長がガベルを一つ鳴らし、場の緊張を保つ。

裁判長「それでは立証へと移ります。検察側からどうぞ」

 

○ジュネス・おもちゃ売場

 菜々子がラブリーングッズを一つ選ぶ。

菜々子「お父さん、これがいい!」

遼太郎「そうか。よし」

 遼太郎、菜々子の差し出したおもちゃを手に取り、レジで会計。

 

○同・エスカレーター

 エスカレーターを下る遼太郎と菜々子。

菜々子「お父さん、ありがとう!」

遼太郎「ああ。良かったな」

 

○同・家電売場

 並んで歩く遼太郎と菜々子の前に、人だかりが見えてくる。

菜々子「あれぇ? 何だろう」

 菜々子、小走りに人だかりの方へ。

 そこは、ニュースが映し出されている大型テレビの前だった。

アナウンサー「……というわけで、今まさに足立容疑者の公判が行われています。果たしてどんな展開になっているのか」

解説者「まあ、ポイントは手口でしょうからねぇ。公判が始まるまでこれほど情報がシャットアウトされている事件も珍しいですから、注目度もそれだけ高いということです」

 テレビに見入る客たちは、口々に足立の悪口を言っている。

 それを耳にし、少し悲しい表情になる菜々子。

菜々子「……お父さん。足立さん、やっぱり悪い人だったの?」

遼太郎「菜々子……」

 遼太郎、しゃがんで菜々子と目線を合わせる。

遼太郎「菜々子。足立はな、やっちゃあいけないことをやってしまったんだ。だから、罪を償わななくっちゃいけない。それを今、決めているところなんだよ」

菜々子「……もう、会えないのかな……」

遼太郎「そんなことはないと思うぞ? 悪いことをしても、反省して、償えば赦されるのが社会ってもんなんだ。……でもな、人間は信じられないことをなかなか受け入れられないもんだ。それが……問題なんだがな……」

 そう言いながら、険しい表情になっていく遼太郎……。

 

○地方裁判所・法廷

 立ち上がる三澤検察官。

三澤「では立証に入ります。まず、山野真由美を殺害したのが被告人自身だということについて。被告人が天城屋旅館へ被害者の山野真由美を訪ねたのが11日の午後10時。その後、旅館の者に人払いさせてロビーで二人きりに。そこで口論から暴行へとつながり、最終的に性的な脅しや警察官だからこそできる脅し、例えば拳銃を突きつけるなどにより激しい精神的ショックを与え、被害者を心臓麻痺に追い込んだ。状況から判断して、被告人が山野真由美を殺害した可能性は高いと言える。外傷は住宅屋根に吊り下げた時についたと思われるものが数ヶ所。他に、脅しの最中についたと思われる打ち身などもあり、被害者の衣服についた指紋は被告人のものだけ。死体遺棄の方法は自供していませんが、それもいずれ明らかになるでしょう」

 三澤の説明に、何故か足立は神妙な顔つきで聴き入っている。

 と、美雪が発言する。

美雪「事実に反します! 被告人はその時、山野真由美をテレビに落としただけだと証言しています!」

裁判長「被告人、その点はいかがですか?」

足立「それは……」

 足立、話しかけたがグッと唇を閉じる。

夜美「……足立さん!」

 思わず叫ぶ夜美。

裁判長「弁護側! 被告人の発言を誘導する言動は慎むように!」

夜美「はい……」

  ニヤリと笑った三澤が立証説明を続ける。

三澤「小西早紀の場合も、事情は同様です。何より、被告人が取調室で彼女に不当な尋問をしたことは自供しているわけですから、その流れで殺害に至ったと考えるのが自然でしょう。そもそも被告人は、『警察官になったのは本物の銃を撃てるから』などと発言している人物です。警察官の風上にも置けませんし、こういう嗜好は犯罪癖に直結します。……被告人は、優秀な成績で警察官になったものの、たった一度のミスのために田舎の署へと左遷。毎日仕事に身も入らず、徐々に幸せに暮らす町の人々を憎むようになっていき、果ては自分の人生を狂わせた警察機構そのものに復讐したい気持ちが昂ってきた。そんな折、密かにテレビを見て気に入っていた山野真由美を保護する役目が回ってきたことで、彼女に自らの欲望をぶつけた。そして殺害し、さらにはその目撃者である女子高生にも性欲の赴くままに迫り、殺し、あのような猟奇的な死体遺棄まで行ったのです。まさに残虐非道な、極刑に値する犯罪者です!」

美雪「意義あり! 三澤検察官の発言はとても立証に足るものではありません」

三澤「では、そちらの言い分は立証できるのですか?」

美雪「……被告人は被害者をテレビの中に落としただけです。それは、被告人の証言があります」

三澤「その証言が荒唐無稽だと言ってるんだよ! 何度言ったら分かるんだ!」

裁判長「弁護側。被告人が言う『テレビに入れた』という事実を証明できるものはあるのですか?」

美雪「今は……ありません。ただ……」

 迷う美雪。

 証明するためには、直斗をはじめとする事件に関わった高校生たちを証人として立たせて実証させるしかないのだ。

夜美「次の公判で証明します」

 夜美の言葉に、法廷内が騒然となる。

美雪「ちょ……」

夜美「テレビの中に人体が入れる、その中に異世界があるということを、証人を介し次回の公判で証明致します」

裁判長「分かりました。夏野主任弁護人。今の発言を、正式な証人による証拠請求と受け取って宜しいか?」

美雪「……は、(一瞬迷うも、隣の夜美がコクリと頷くのを見て)……はい。請求します」

裁判長「よろしい。今回の争点は起訴状内容の正否としましたが、検察側、弁護側ともに立証は不十分です。新たな証拠の提出をこちらからも求めます。……最後に、被告人から何かありますか?」

 裁判官の言葉を受け、足立が立ち上がる。

 そして、夏野弁護士姉妹を見る。

 熱い眼差しを足立に向ける美雪と夜美。

 足立、次に三澤検察官の方を見る。

 その目と目が合う足立と三澤。

 足立の口元が僅かに上がる。

足立「……二人をテレビに入れた……ような気はしますが、少し混乱していて分かりません」

美雪「えっ!?」

 三澤がニヤリと笑う。

足立「色んなことがありすぎて、正直頭が回っていません。思い出す時間を……ください」

裁判長「被告人に繰り返し言っておきます。ここでの発言は全て証拠として取り扱われますので。……では、本日はこれで閉廷とします」

 

○某県某市拘置所・面会室

美雪「足立さん! どういうつもりなんですか!?」

 美雪が声を荒げて足立に迫る。

 室内には、美雪、夜美、遼太郎、そして足立の四人。

足立「……僕はね、罪を償いたいんだよ」

美雪「分かってますよ! だから私たちが……」

 美雪、唇を噛み締める。

 一方、夜美は窓際に立って外を眺めている。

遼太郎「こんな気がしてたよ」

美雪「えっ?」

 遼太郎の言葉に驚き、美雪が首を動かす。

遼太郎「コイツはつまんねーことに頭働かすからな。大方、立件されやすい方向に流されちまおうって算段だろ」

美雪「そんな……」

 足立、一つ溜め息をついて話し出す。

足立「弁護士さんには悪いけど、テレビに入れるだのシャドウだのペルソナだの、そんなこと簡単には証明できないよ? 事実で押していけば、そーいうことを証明できなきゃ絶対前には進まない。重い刑罰はおろか、ヘタすりゃ無罪になっちゃうかもしれない。だったら、あの検察官さんが言ってたように全部僕がやったことにすれば、スンナリ有罪になるだろ?」

美雪「はぁ~……」

 美雪が頭を抱える。

美雪「あのねぇ足立さん。私たちは覚悟を決めてこの仕事をお受けしたんです。確かに常識では考えられないようなことばかりで、正直私自身も見ていない事象については納得し切ってはいません。しかし、お受けしたからには堂島さんのご依頼通り、真実を明らかにした上であなたに正当な裁きが下されるように導きます!」

足立「……多分、無理だと思うなあ」

美雪「足立さん!」

 美雪がバンと机を叩く。

遼太郎「足立よ、この二人を信じたらどうなんだ? お前のために力尽くそうってんだぞ?」

足立「はぁ……」

 曖昧な表情の足立。

遼太郎「……しかし、次の公判に向けて証人請求したんだろ?」

美雪「そうだ、夜美! あんなこと突然言ってくれちゃって……」

 美雪が夜美の方へ振り返る。

夜美「(窓の外を見たまま)だって、白鐘さん協力するって言ってたじゃない」

美雪「そりゃそうだけど……、彼らを巻き込むとどんな事態に発展していくか分かったもんじゃないのよ?」

夜美「でもさ、足立さんの言う通り、テレビに入れることをまず実証しなければ、結局私たちは負けるんじゃない?」

 夜美、そう言うと足立の方へと歩を進め、顔をグイッと近付ける。

夜美「私はこの事件に大変興味があります。だから、どんな手を使ってでも真実を立証してみせます。それには足立さん、被告人であるあなた自身も同じ方向を向いていただかなければ困るんです。あなたが三澤の捏造に乗っかるような甘い考えでいたら、勝てるものも勝てなくなるんです。……それに、向こうの陳述を認めちゃったら、あなた死刑になりますよ? 死にたくはないでしょ?」

 夜美の迫力に少し押された足立だったが、椅子の背もたれに重心を預けながら諦観した表情で答える。

足立「……死ぬとか生きるとか、そーいうことは、正直どーでもよくなってるからなあ」

遼太郎「足立貴様……!!」

 足立の言葉に思わず憤る遼太郎を、美雪が抑える。

夜美「(足立から離れてニッコリと笑い)フッ。まあ、はっきり言ってしまえば、私もあなたが死のうが生きようがどうでもいいんですよ。私はこの事件の真実を証明したいだけ。そして三澤に勝ちたい。それだけだから」

美雪「ちょっと夜美! それは言い過ぎよ!」

 美雪が立ち上がって夜美を責める。

足立「ハハ……。面白い弁護士さんだねぇ。なんか、そーいう人になら任せてみても面白いかもね。……僕は、これからどうすればいいんだい?」

夜美「最初の打合せ通り、事実をありのままに証言してください」

足立「僕がテレビの中で、悠君たちや堂島さんと戦ったことも?」

美雪「……殺害した事実がないことを証明するためには、それも必要かもしれません。しかし、できればテレビに入れることを証明することで有利に持っていきたいところですね」

遼太郎「やっぱり、白鐘に出てもらうしか……ないってワケか」

美雪「……そうですね」

 

○ジュネス・屋上フードコート

 テーブルを囲む美雪、夜美、遼太郎、そして直斗。

美雪「……あの、どうしてこんなところで?」

遼太郎「俺もそう言ったんだが……」

直斗「こういうところだからいいんです。まさかこんなところで重大な話をしているとは思いませんからね」

夜美「盲点原理ってヤツですね? 『盗まれた手紙』みたいな」

直斗「あ、夜美さんもしかして、ミステリお好きですか?」

夜美「裁判より好きです」

 朗らかに笑い合う直斗と夜美。

 そして苦笑いの美雪。

 と、そこへ陽介がやって来る。

陽介「やぁ、お待たせお待たせ!」

 陽介が直斗の横に座る。

直斗「紹介します。一年上の先輩、花村陽介さんです。こちらのお二人は、弁護士の夏野先生姉妹です」

陽介「あ、どうもどうも! 話は直斗から聞いてます。よろしくお願いします」

美雪・夜美「弁護士の夏野です。よろしくお願いします」

 美雪と夜美が、同時に同じ挨拶言葉を発する。

陽介「うわっ、ステレオだ! さすが双子……」

 陽介の素直な反応に、思わずニッコリする美雪と夜美。

遼太郎「……早速だが、今日はお前たちに頼みがあってだな」

直斗「分かっています。証人出頭ですよね?」

美雪「はい。ご迷惑がかかることを承知で頼みます。やはり『テレビに入れる』ということを実証しないことには、真実の裁きに近付くことはできません」

直斗「実証……ということは、法廷で実験をする方向ですか?」

美雪「はい。実際に大型テレビを持ち込んで、そこにこの間私たちに見せていただいたように手を入れてもらえれば……」

陽介「それって……、かなりヤバいんじゃあ……」

美雪「はい。花村さんの仰る通り、世の中が大騒ぎになることでしょう。そして、あなたたちが好奇の眼に晒されることも容易に想像がつきます……」

直斗「そうでしょうね。場合によっては、僕たちも化け物扱いされるかも」

陽介「おいおい、マジかよ……」

 陽介、露骨に冷や汗顔。

直斗「僕は、探偵として危険と隣り合わせになることは常に覚悟しています。ですから、必要とあらば証人出頭はさせていただく所存でしたが、花村先輩や他の方々はそうもいかないと思うので、ここでしっかり今後の方針を決めておくべきかと」

陽介「今後の方針?」

直斗「つまり、出頭してしまったらこの先どういう目に遭うか分からない。そのくらいの覚悟が必要なことになりますので、できれば僕だけで済ませられればいいのですが、その場合、テレビの中での事実をある程度隠蔽しなければならない」

陽介「ふふん、それじゃあ真実には……辿り着けないよな?」

直斗「……その通りです」

 陽介が、直斗の帽子のツバをグイッと下ろす。

直斗「な……、何をするんですか!?」

陽介「舐めんなよ、直斗。俺たちゃ、命賭けてシャドウたちと戦ってきた仲間だぜ? 今さら引けるわけねーし、真実誤魔化しちまったら、結局この裁判も意味ねー結果になっちゃうんだろ? なら答えは一つ。……やるしか、ねーだろ」

直斗「花村先輩……」

 陽介の男らしさに、思わず美雪と夜美もうっとりする。

陽介「ただ、他の奴らも全員ってなると、ちょっとな……。ひとまず、直斗と俺で、できるとこまでやってみるってことで、いいですか?」

 そう言って、陽介が美雪と夜美を見遣る。

美雪「いいでしょう。まずはテレビに入れることを実証することが第一です。その上で、山野真由美と小西早紀、この二人がいかにして殺害されたかの立証にまで持っていかねばなりません。そこで、最初にテレビに入ったという花村さんの証言は必ず必要になります」

陽介「あー、ただ……、その二人がテレビの中で殺されたところを見たわけじゃありませんよ?」

夜美「それは大丈夫ですよ。あなたが自分のシャドウと戦ったこと、そして、足立被告が全てをありのままに証言すれば、勝ち目はあります!」

 キリッとした表情でそう言い放つ夜美。

遼太郎「すまんな、お前たち……」

 直斗と陽介に頭を下げる遼太郎。

 その姿を見て、さらに気持ちが引き締まる直斗と陽介……。

 

(後編に続く)

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