P4Aシナリオ番外編   作:三化月

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「足立の更生?そいつは俺の役目に決まってるだろうが!」の続編にあたるシナリオ小説。ペルソナ能力に目覚めた堂島遼太郎が特捜隊とともに足立とアメノサギリを撃退した後の物語で、足立透の公判を描いた劇場版という設定です。

罪を償う決心をした足立の前に立ちはだかる「現実」の壁。
荒唐無稽な事実を争う裁判に、様々な展開が……!

以前書いた『人類皆足立説』が「黒き足立裁判」とすれば、こちらは「白き足立裁判」の位置付けとなります。もちろん、ストーリーも全く別物です。

なお、P4キャラ以外にオリジナルキャラも登場しますのでご注意ください。



「足立裁判 ~テレビの中の真実~」(後編)

○地方裁判所

 地方裁判所の外観。

 そして『第二回公判』のクレジットが中央にフェイドイン。

 

○同・法廷

 二回目の公判、この日も傍聴席は満席。

 前回の公判で『テレビに入れた』という発言が出たことにより、その真意を知りたいという思いがかなり高まったようだ。

裁判長「本日の争点は、前回弁護側が主張した『人間をテレビモニターを通してこの世界とは別の世界へと移動させる』ことが可能なのか、可能ならば、それが被告人の行動といかなる意味を持つのかということです」

 ザワッ!

 法廷内全体が「まさかとは思ったが!」といった反応。

 裁判長の示した方向は、弁護側が主張した『テレビに入れる』という行動を真剣に議論するというものだった。

 ここには、裁判員の半数がこの問題に対して白黒つけないと判断ができなくなるという主張をした背景があった。

裁判長「まず、裁判員から被告人にこの現象について質問します。被告人は証言台へ」

 裁判長の言葉を受け、足立が証言台に立つ。

裁判員A「前回の公判で、あなたは山野真由美さんを『テレビに入れた』だけで殺してはいないと発言しましたが、それはつまり、『テレビに入れる』ことと『殺すこと』は別物という意味なのですか?」

足立「そうです。テレビに入れたからといって死ぬとは思いませんでしたし、他人を入れたのはその時が初めてでしたので」

 冒頭から法廷内がザワめきに包まれる。

 もはや『荒唐無稽』という言葉はこの時点で消えていた。

裁判員A「他人を入れたのは初めてと今仰いましたが、それでは自分が入ることもできるのですか?」

足立「その時はできました」

裁判員B「今はできないんですか?」

足立「試してみなければ分かりませんが、恐らくもうできなくなっていると思います」

裁判員B「それは何故ですか?」

足立「その力を与えてくれた存在に、多分、僕が見放されてしまったからだと……思います」

裁判員C「力を与えてくれた存在……とは?」

足立「よくは分かりませんが、テレビの中の怪物みたいなもんです」

 思わず傍聴席から失笑が漏れる。

 さすがに『怪物』という単語は常識外れか。

裁判員A「質問を戻します。テレビに入れると、人間はどうなるんですか?」

足立「別の世界に移動します」

裁判員A「それは、どんなところなのですか?」

足立「よく……分かりません」

裁判員C「分からないってことはないでしょ? あなたは入って、中を見てるんでしょ?」

足立「分からないというのは、どう表現すればいいか分からないような空間だということです。暗かったり、明るかったり、中の様子はその時によって違います」

 一瞬の沈黙。

 美雪と夜美は緊張した表情を崩さない。

 一方、三澤は終始バカにしたような顔つきだ。

裁判員A「……山野真由美さん、小西早紀さんの二人について、あなたは二人を殺したのではなくテレビに入れただけと言いましたが、あなたは入らなかったのですか?」

足立「その時は入りませんでした」

裁判員A「何故ですか?」

足立「どんなところかも分からないので、恐ろしかったからです」

裁判員B「相手が死ぬかもしれないとは、思わなかったのですか?」

足立「……そこまでは……思わなかったです」

裁判員A「その中にはシャドウという怪物がいると、前回弁護人の方が仰っていましたが、二人はその怪物に殺されたのですか?」

足立「そうだと思います」

 質問した裁判員三人が、ひそひそと話し合う。

三澤「……もういいんじゃないですか?」

裁判長「質問は……以上ですか?」

裁判員A「……はい。以上です」

裁判長「それでは、弁護側からの証人請求に基づき、証人尋問に移ります。一人目の証人の方、証言台へお進みください」

 裁判長の言葉を受け、証人席に座っていた直斗が証言台に進む。

 すると、傍聴席からどよめきが起こる。

 さすがに探偵王子として著名な直斗だけに、宣誓書を読み上げている間中、そのどよめきは収まらなかった。

 もう一つの証人席では、陽介が緊張で固まっている。

裁判長「では、まず弁護側からどうぞ」

美雪「はい」

 美雪が立ち上がる。

美雪「あなたは、被告人とどういったご関係ですか?」

直斗「私は家業で探偵業をやっておりますので、この事件に関しては初めから警察に捜査協力を依頼されていました。足立被告は、その時の担当刑事の一人でした」

美雪「被告人とは、ずっと協力体制を取っていたのですか?」

直斗「警察に協力していたのは、久保受刑者が逮捕されるまでです。その後は、事件解決と見なされて協力からは離れました」

美雪「結果的に、久保受刑者は諸岡金四郎の殺害のみが立証された形となりましたが、その時あなたはどう感じていましたか?」

直斗「何か違和感を感じていました」

美雪「違和感……と言いますと?」

直斗「最初の二件と諸岡先生の事件は、類似しているようであまり関連性が感じられませんでした」

美雪「なるほど。そして、その後あなたはどうしましたか?」

直斗「一つの推論を立てました。まず、最初の二件から諸岡先生の事件まではかなり日数が経っていましたが、実はその間にも事件は起こっていたのだと。そして、この事件には二つの特徴があった。殺される前に必ず誘拐される。そして、誘拐されるのは、決まってその直前にメディアに取り上げられて知名度が上がった地元民だった。最初の二件の後、警察では大きく取り上げませんでしたが、三件の誘拐事件が起こっていたのです。しかし、その三件の事件の被害者は、殺されることなく数日で助けられ、その人たちが一つのグループを形成していたのです。私はそのグループに接触を試みました。そして興味深い話を聞いたのです。『テレビの中に行って、助けている』と」

 ザワザワッ!

 室内が喧騒と緊張の空気に包まれる。

 証人席の陽介が、思わず武者震いする。

 そして、さすがの三澤も鋭い目つきで直斗を凝視している。

直斗「私はこの法則に何か秘密があると思い、自らを罠に嵌める決意をしました。地元の高校に転校し、メディアの取材を受け、何かが起こるチャンスを待ちました。すると数日後、何者かにさらわれ、気が付くとテレビの中の世界にいました」

 直斗の言葉に、またしても騒然とする法廷内。

美雪「そこがテレビの中の世界だと分かったのは何故ですか?」

直斗「情報と予想、そして後から仲間に聞いて確認したからです。……そして、そこでは自分自身の抑圧されたコンプレックスが影として存在していました」

美雪「その影に、あなたはどう対処したのですか?」

直斗「認めたくないという思いが頂点に達し、影の存在を否定しました。するとその存在は怪物に姿形を変え、私に襲いかかってきました。しかし、仲間たちが助けてくれたおかげで、怪物は元の私の影の姿に戻り、私もそのコンプレックスを受け入れました」

美雪「すると?」

直斗「影は私の身体と一体化し、何か力が湧いてくるのを感じました。そしてその後、私もテレビの中に入る力を手に入れたのです」

 ザワザワッ!

 大きくどよめく傍聴席。

 と、三澤が堪らず発言した。

三澤「いいかげんにしたまえ! いつまで世迷言を続ければ気が済むんだ。そんなSF小説のような話、信じられるわけがなかろう!」

 三澤の発言に、今度は美雪が冷静に切り返す。

美雪「三澤検察官の仰ることは尤もです。私も、実際にこの目で見るまでは信じられませんでした。ですので、今ここで人体がテレビに入れることを実証していただきます」

 美雪の言葉に騒然とする法廷内。

 裁判員の六人も思わず立ち上がる。

 そして、事務官の二人が大型テレビを証言台の横に持ってくる。

美雪「それでは、証人の白鐘さんが今からテレビのモニターに触りますので、その手元をよくご覧になっていてください。……では、よろしくお願いします」

直斗「……はい」

 大型テレビの方へ向き直る直斗。

 緊張の表情の美雪と夜美。

 若干冷や汗顔の三澤。

 そして、足立は少々固い表情をしている。

直斗「いきます」

 直斗がモニターに右手を伸ばす。

 そして、その指がモニターに触れた瞬間……、ピタリと指の動きが止まった。

直斗「えっ!?」

 右手が吸い込まれるどころか、普通に触れることしかできず、何度もモニターを触ったりコツコツと叩いたりする直斗。

美雪「そんな……」

 青ざめた表情の美雪と夜美。

 足立は、ガックリと頭を抱えている。

三澤「……ハーーハッハッハッハッ!! それ見たことか! とんだ赤っ恥だな、夏野君! 探偵王子!」

直斗「バカな……!! 何故!?」

陽介「クッソ!」

 陽介が証人席から飛び出して証言台へと走る。

美雪「花村さん!」

陽介「裁判長! お……いや私は白鐘の仲間で花村陽介といいます! 私もテレビに入れますので、続けて試させて下さい!!」

裁判長「おい君! ちょ……」

 裁判長の制止を聞くことなく、陽介はモニターに右手を伸ばした。

 しかし、無情にも直斗同様に右手がモニター内に入ることはなかった。

陽介「……な、……なんでなんだよ!?」

 茫然と立ち尽くす直斗。

 そして、諦めきれずにモニターに肩や頭をぶつけていく陽介。

 次第に、傍聴席からは冷たい笑いが沸き起こってきた。

美雪「……どうして。……どうして」

 半泣きの表情の美雪。

 と、夜美は眉をひそめながら直斗と陽介を凝視。

 そしてクルリと足立の方を見遣り、再び直斗と陽介の方へ顔を向ける。

三澤「……結論は、出たんじゃないかね?」

 三澤、そう言って美雪と夜美を見下す。

裁判長「……証人は、弁護側の主張を実証できなかったとして、これにて今回は閉廷とします。よって、次回は……」

遼太郎「待ってください!!」

 後方の扉が開き、遼太郎が走り入ってくる。

 証人席のところまで降りてきたところで、事務官たちに取り押さえられる遼太郎。

裁判長「何だ君は! 非常識だぞ!!」

遼太郎「もう一回! もう一回だけチャンスをください! 次の公判では、もう一人、必ずテレビに入れる証人を連れてきます! ……どうか! どうかもう一回だけ!!」

 ハッと顔を見合わせる美雪と夜美。

 そして、夜美が足立に目を向けると、足立は小さくコクリと頷いた。

三澤「裁判長! こんな非常識な輩の言うことなど……」

美雪「裁判長! 再度証人請求します!!」

 三澤の言葉を遮るように、美雪が叫ぶ。

三澤「何を言っとるか! もう無駄なあがきは止めたまえ!!」

夜美「……怖いんですか? 三澤さん」

 夜美が三澤をニヤリと睨みつける。

三澤「バ……バカを言うな! 何度やっても同じだと……言っとるんだ!」

美雪「裁判長! お願いします!!」

 目を瞑り、大きく溜め息を一つつく裁判長。

 そして徐に口を開く。

裁判長「よろしい。請求に応じます。何故なら、この現象の正否を確定させなければ次の段階に進めないからです。……加えて、検察側の証拠もまだ十分とは言えません。次回、改めて証拠調べという位置付けで、この件を再審議します。……閉廷!」

 

○拘置所・面会室

 暗い表情で集まる美雪、夜美、遼太郎、直斗、陽介、そしてガラス越しに足立。

陽介「クッソ! 何でなんだよ、こんなこと今までなかったってのに!!」

直斗「……もしかすると、僕たち自身の精神力の問題じゃあ」

美雪「え?」

 皆が疑問に思う中、足立が涼しい顔で応える。

足立「多分そういうことだと思うよ。テレビに入れる力ってのは、言わばペルソナ能力なわけだろ? ってことは精神力がその源。法廷っていう極度に緊張した中、今までにない、シャドウではなく現実の人間たちを相手に力を発揮するって気持ちが気負いになっちゃたんじゃないかな」

陽介「カーーッ! 情けねぇ!」

直斗「僕も……、お恥ずかしい限りです」

 頭を抱えてしゃがみ込む陽介。

 そして、直斗は深々と皆に頭を下げる。

夜美「へぇ~。それがペルソナ能力ってわけですか。ほお~」

 一人感心してニヤニヤしている夜美。

美雪「……でも堂島さん、大丈夫なんですか? 私、勢いでまた証人請求しちゃいましたけど」

遼太郎「あ、ああ。……大丈夫だ」

足立「うん。彼なら……大丈夫じゃないかな」

美雪「彼?」

直斗「……ひょっとして、鳴上先輩のことですか?」

遼太郎「ああ」

陽介「そっか。悠なら、ペルソナ能力者としては段違いの力があるし……」

直斗「ある意味、緊張とは無縁の人ですしね」

 思わずニヤける直斗と陽介。

夜美「……で、その人は受けてくれそうなんですか?」

陽介「ああ大丈夫大丈夫! 何たって俺の相棒だからよ!」

直斗「花村先輩ったら、またそんな無責任なこと言って……」

遼太郎「とにかく、今晩早速俺から電話しておく。……次、アイツがうまくやれたら。足立、もう少しだからな」

 足立、遼太郎の言葉を受けて何とも言えぬ表情となる。

足立「……もう少し……ですか。その結果どんな罪が待っているのか。まあ、楽しみにしようがない状況ってのも、なかなか辛いですねぇ」

 足立の現実を突く言葉に、一瞬黙り込む全員。

足立「あ! すいませんすいません! 暗くしちゃって……。僕のために皆さん頑張ってくれてるんだから、ホント。よろしく、お願いします」

 そう言って頭をコクリと下げる足立。

 美雪と夜美以外は、やはりこうしたシチュエーションには免疫がない。

 遼太郎は元部下として、直斗と陽介はかつての敵として、それぞれ複雑な思いを胸に秘め、この異様な空気を肌で噛み締めていた……。

 

○都会の悠の自宅・悠の部屋

 携帯で遼太郎と電話をしている悠。

悠「……はい。分かりました。……いえ。陽介が出るって聞いた時から、俺も行って当たり前だと思ってましたから。……はい。俺ができるだけのことをやらせていただきます。……はい。……おやすみなさい」

 電話を切る悠。

 そして、テレビの方へ歩み寄り、そのモニターへそっと指を近付ける。

 悠の指がモニターに触れた瞬間、ポチャリと波紋が生まれ、自然とその指がモニターに溶け込んでいく。

 一つ小さく頷き、モニターから手を放す悠。

悠「……足立さん」

 悠、遠い眼で窓の外を見つめる……。

 

○地方裁判所

 地方裁判所の外観。

 そして『第三回公判』のクレジットが中央にフェイドイン。

 

○同・法廷

 三回目の公判、この日は傍聴席を拡張して対応。

 前回の騒ぎがメディアで報道されたことで、まるで人気映画の続きを見るかの如く、傍聴券を求めてさらに長い行列が作られた。

 そして今回は、なんと初めから証言台横に大型テレビが設えられている。

裁判長「それでは開廷致します。今回も、前回に引き続き弁護側が主張している『人間をテレビモニターを通してこの世界とは別の世界へと移動させる』ことが可能なのか、可能ならばそれが被告人の行動といかなる意味を持つのか、ということに関する審議、そしてその他の部分についても双方の証拠調べを総じて行います」

 前回に増して緊張の表情の美雪と夜美。

 一方、三澤は不敵な笑みを浮かべ、被告人・足立は……無表情だ。

裁判長「では、本日も弁護側の証人尋問からです。証人は証言台までどうぞ」

 裁判長の言葉を受け、証人席に座っていた悠が立ち上がり、証言台へと進む。

裁判長「宣誓書の読み上げを」

悠「はい。……鳴上悠。十八歳。東京都荒川区在住。私は良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べない旨を誓います」

裁判長「主任弁護人、夏野美雪弁護士」

美雪「はい」

 美雪が立ち上がる。

美雪「鳴上さん、あなたが一連の事件に関わっていた細かな事実は後程述べていただきます。まずは、『人間がテレビの中に入れる』ということを実証していただけますか?」

悠「……はい」

 息を呑む法廷内の全員。

 悠がゆっくりと右手をテレビモニターへと近付ける。

 そして、その指先がモニターに触れた瞬間、ピチョンという微音とともに波紋が広がり、悠の指がモニターに溶け込んでいった!

一同「おおおおおおお……!!」

 騒然となる法廷内。

 ある者は叫び、ある者は怯え、またある者は興味深くその光景を凝視している。

 悠は、そのまま右手を手首まで入れたところで、スッと抜き取った。

美雪「(ホッとした表情で)……その力は、どういう原理なのですか?」

悠「分かりません」

美雪「いつ、手に入れたのですか?」

悠「去年、八十稲羽へ引っ越した日に、ガソリンスタンドの店員さんと握手をしました。その時、無性に気分が悪くなったんですが、恐らくその時に力を与えられたのだと思います」

美雪「そのガソリンスタンドの店員とは、何者なのですか?」

悠「後から分かったことですが、その人は人間ではなく、イザナミという神のような存在で、人の望みや可能性を見極めるために八十稲羽市に巣食っていたんです。そして、嘘や虚飾に目隠しされる世界こそ人の望みと判断し、観察を始めたのです」

 悠のまさに荒唐無稽な弁論に、再び法廷内が騒然となる。

裁判長「静粛に! ……続けなさい」

美雪「順を追って説明してください。まず、あなたが八十稲羽市に引っ越してきたのは何故ですか?」

悠「親の仕事の都合で、一年間だけ八十稲羽に住むおじさんの家で下宿することになったからです」

美雪「それはいつの話ですか?」

悠「確か、去年の4月11日だったと思います」

美雪「初めてテレビの中に入ったのは、いつですか?」

悠「引っ越してから二日目の夜だったと思います。学校でマヨナカテレビの話を聞いて、まさかとは思いましたが午前0時に点いていないテレビを見てみると、何か荒れた画像に女性の人影が見えました。その時、突然ひどい眩暈がしてふらつき、テレビのモニターに手をつこうとしたら、そのまま手がテレビの中に入ってしまい、何かこう……、中から引っ張られるような感じがしましたので、必死で引き抜きました」

美雪「では、全身を入れたのはいつですか?」

悠「翌日の放課後、ジュネスの家電売場にある大型テレビから入りました。前の日のことを思い出して、何となく手を入れてみるとやっぱりまるで水の中に手を入れるように入っていくので、そのまま肩まで入れたところで、後ろから友達二人に押されるようにして入ってしまいました」

 

○回想~夏野法律事務所~

 中央のソファーに、遼太郎、直斗、悠、そして美雪が座っている。

 そして、陽介がソファーの背中にもたれるように立ち、夜美は書棚の前で資料を確認している。

悠「……お話は分かりました。俺で力になれることなら」

美雪「ありがとうございます」

悠「でも、何で陽介や直斗はテレビに入れなかったんだ?」

陽介「足立さんの話だと、テレビに入るってのもペルソナ能力の一つだから、極度に緊張した状況で精神力が低下したせいじゃないかってことだ」

 美雪が申し訳なさそうな表情をする。

直斗「……それもあるでしょうが、もしかすると、僕たちが真実を隠そうとしていたせいかもしれません」

陽介「え? 俺たち、ちゃんと説明しようとしてただろ?」

直斗「いえ。テレビの中の世界のことは包み隠さず話す覚悟でした。しかし、できるだけ被害を最小限に食い止めたいという思いから、僕と花村先輩以外の仲間についてはできれば言及しないでおこうという気持ちがありました。……それが虚偽の精神と受け取られ、僕たちのペルソナ能力が制御されてしまったのかも」

陽介「う~~ん……」

美雪「難しいですね……」

 と、悠が引き締まった表情で一言。

悠「じゃあ、俺は何も隠さない。テレビの中のこと、事件のこと、そしてみんなのことも、全て真実を話すつもりで臨むことにするが……、それでいいか?」

陽介「いいんじゃね? ……もう、とっくに俺たち、覚悟できてるしな」

直斗「ええ。他の皆さんも、きっと分かってくれると思います」

 

○地方裁判所・法廷

 陽介と千枝の存在にも言及し、覚悟を決めた表情の悠。

美雪「お友達も含めて、三人一緒に入ったんですか?」

悠「はい」

美雪「ということは、そのお友達二人も、テレビに入る能力があったということですか?」

悠「いえ、そうではないと思います。これはあくまで仮説ですが、足立さんが他人をテレビに入れることができたのと同じように、そういう力を持った私の身体に友達が触れたことで、一緒に入れたのだと解釈しています」

美雪「では、そのお友達はそういう能力がない、ということなんですね?」

悠「その時はありませんでした。……でもその後、テレビの中で自分のシャドウと向き合い、その存在を認めてペルソナ能力を手に入れたことで、テレビに入れる力も得たのだと思っています」

 シャドウ、ペルソナ……、まるで漫画のような単語の羅列に傍聴席から呆れ声も漏れ聞こえる。

美雪「(気を取り直して)……シャドウとは、何ですか?」

悠「人間の抑圧された願望や欲望から生まれた怪物で、テレビの中に存在しています。そして、人間がテレビの中に入ったり入れられたりすることで、自分の認めたくない本質のような感情を露にした自分の影が現れるのです」

美雪「……ということは、事件の被害者だった山野真由美や小西早紀も、テレビに入れられたのだとしたら、自分のシャドウがそこで生まれていたということですか?」

悠「そうだと思います。……でも、これは実際に見たわけじゃありませんので、断言はできません」

美雪「そういう自分の闇のような存在を認めなかったら、どうなるのですか?」

悠「その影が姿形を変えて、凶悪なシャドウとなります。そして本人を襲ってきます」

美雪「……ということは、山野真由美と小西早紀は、その自分の影が怪物と化した存在に殺されたというわけですか?」

悠「その可能性が高いと思います。しかし、繰り返しますが見たわけじゃありませんので……」

 悠の言葉に、三澤がわずかにその口元を上げる。

 それを見逃さなかった夜美、何故か一瞬冷や汗を感じる。

美雪「もう一つ。……ペルソナとは、何ですか?」

悠「自分の闇の部分を受け入れることによって、そのシャドウが変化した精神エネルギーと言うか、自分の思うように操れる超常能力を使える分身のようなものです。そして、その力によって、怪物と化したシャドウを倒すことができるのです」

 一瞬間の沈黙。

 そして、一人の裁判員が声を荒げる。

裁判員D「茶番もいい加減にしろ! そんな漫画みたいな話、ホントにあるわけないだろ!?」

美雪「しかし、この証人が先程テレビに手を入れるところをあなたも見たでしょう?」

裁判員D「……そんなもの、何かのトリックに決まってる!」

 吐き捨てるように発言する裁判員D。

 苦い表情の裁判長。

 と、夜美が冷たい表情で呟く。

夜美「憐れなるは度量狭き人間……。そういうお方に、正しい裁きができるのかしら」

裁判員D「な……んだと!?」

 法廷内の空気が張りつめる。

裁判長「(ガベルを一つ鳴らし)静粛に! ……裁判員、弁護人、ともに私語は慎みなさい」

美雪「……す、すみません! 裁判長!!」

 美雪、左足で隣にいる夜美の足を密かに蹴る。

夜美「あっつ……」

 しかめっ面で右足を押さえる夜美。

美雪「(再度気を取り直して)先程仲間と仰いましたが、それは前回の公判で白鐘証人が発言していた、最初の二件の事件以後に誘拐された方々のことですか?」

悠「そうです」

美雪「……それが誰であるか、お答えできますか?」

悠「はい。……私の高校の同級生である花村陽介、里中千枝、天城雪子、そして一年後輩の巽完二、久慈川りせ、そして白鐘直斗です」

 正直に答えた悠だが、さすがにクマのことまで公にすることはないだろうと思い、仲間のラインナップから外した。

 そして遼太郎のことは、最後に必要があれば付け加える思いだった。

 ここで傍聴席から新たに異質などよめきが。

 それはそうだろう。

 アイドルとして知名度の高い、久慈川りせの名がその中にあったからだ。

美雪「その六人は、皆一様にテレビに入れられて自分の影を認め、ペルソナ能力を手に入れた……ということですか?」

悠「そうです」

美雪「そしてあなたたちは、その特殊な力を使って、何をどうしようと考えていたのですか?」

悠「事件の真相を……暴こうとしていました。そして、久保の逮捕によって事件は終わったと一旦は思いました。しかし、仲間たちが誘拐された事実については違和感を拭えませんでした。久保が犯人だとは、どうしても思えなかったんです。そんな時、俺の従妹が誘拐され、そのことがきっかけで俺たちは考えました。誘拐された時間はほんの一瞬、ならば犯人はテレビごと移動している。しかし不審車両の目撃情報はない。となると、怪しまれずに白昼堂々犯行を行える立場の人間が犯人だと思い、宅配のトラックを疑いました。そして、生田目太郎が議員秘書を辞めてから宅配業者になっていると、足立さんが教えてくれたんです」

美雪「被告人、それは事実ですか?」

足立「……はい」

美雪「証人、続けて下さい」

悠「私たちは生田目を追い詰め、テレビの中で彼の精神が生んだシャドウを倒し、これで全てが明らかになったと思いました。しかしまだ、何かが引っ掛かったのです。そして生田目に話を聞き、もう一度考えました。実はそれまでに、これ以上助けるなといった警告のような脅迫状が私の元に届いていました。それも含め、自分たちの行動をある程度継続的に把握し、堂島家に怪しまれずに近付くことができて、山野アナや小西先輩と何らかの接点があった人物がいるはずだと考えた時、一人の人物が浮かびました」

美雪「それは?」

悠「……足立さんです」

美雪「そして、どうしましたか?」

悠「私たちは足立さんを問い詰めましたが、テレビの中に逃げられました。そしてみんなで追いかけ、テレビの中で足立さんに、山野アナと小西先輩、そして久保をテレビに落としたこと、生田目をそそのかして誘拐を続けさせたことを聞きました」

美雪「……分かりました。私からの証人尋問は以上です」

 そう言って着席する美雪、半ばホッとした表情。

 隣の夜美は、勝ち誇ったような顔つき。

裁判長「……検察側からの反対尋問は、ありますか?」

三澤「反対尋問はありませんが、新たな証拠請求とともに陳述を改めさせていただきます」

 三澤がゆっくりと立ち上がる。

三澤「初公判の際、私は被告人の山野真由美・小西早紀両名の殺害方法についてその見解を示しましたが、凶器不明、死体遺棄の方法も不明、証明となるべき拠り所は、被告人の生きてきた背景とその残虐性、そして犠牲者二人への暴行の事実のみでありました。故に裁判長から不十分との言葉もいただきましたので、今回改めて再調査致しました。司法解剖の結果を再確認すると、山野真由美の死亡推定時刻は4月11日の午後11時から翌日午前2時までの間。その夜、被告人は山野真由美警護の名目で天城屋旅館に部屋を取っており、調べの結果、午後11時頃から夜中の2時頃まで、つまり山野真由美殺害の時刻と思しき時間に隣客と酒盛りしていたという事実が明らかになりました。さらに、小西早紀の死亡推定時刻は4月14日の午後7時から午後10時までの間。この日の被告人は夜勤であり、丁度その数時間は引継ぎの書類整理をしていたという事実があります。つまり、アリバイ的に被告人が二人を殺害することは不可能となります」

美雪「(え……?)」

夜美「(……認めるの?)」

 不審な顔つきになる美雪と夜美。

三澤「そこで先程の証人の証言、そして実証です。誠に信じられないことですが、彼はテレビの中に自分の手を入れてみせた。つまり、人体がテレビの中に入れることを実証したのです。実に不思議なことですが、それは事実でした。被告人も、事件当時はテレビに入れた、そして他人をも入れられたと証言しています。とすれば、被告人はあくまで山野真由美及び小西早紀を、テレビに入れただけだったのです!」

 三澤の言葉に唖然とする美雪と夜美。

 そして足立は、わずかに眉をひそめる。

三澤「では、誰が山野真由美及び小西早紀を殺害したのか? 弁護側の陳述ではシャドウとかいう怪物の仕業との主張でしたが、それは単なる想像に過ぎない。もっと現実的に、もっと確実に、もっと信憑性のある実行犯が他にいるのではないか? そう考えた時、全ての条件に当て嵌まる人物が一人だけいたのです。それは……、そこにいる鳴上悠氏です!!」

 騒然とする法廷内。

美雪「な……!!」

夜美「クッ……!!」

 思わず上半身を起こす美雪と夜美。

 証言台の悠は、唖然とした表情で固まる。

 そして足立は……、左手で顔を押さえて俯く。

三澤「山野真由美が殺害されたのは4月11日夜半。そして鳴上氏が八十稲羽市へ引っ越してきたのも4月11日。それまで大きな事件なく平和そのものだった田舎町に、考えられないような猟奇殺人事件が起こった。その日、まさに彼はその土地へ足を踏み入れていたのです。山野真由美の死亡推定時刻の時間帯、その間被告人のアリバイは確定している。一方、鳴上氏は叔父である堂島遼太郎氏宅で就寝ということになっているが証拠はない。さらに、小西早紀が殺害されたのは4月14日の夜。この時間帯も被告人のアリバイは固く、逆に鳴上氏は丁度テレビの中にいたと言っています。これ以上ない逆アリバイだ!」

悠「ちょ……、ちょっと待って下さい! 俺は何も……」

美雪「意義あり! 検察側の陳述に根拠はありません!」

 必死の形相で叫ぶ美雪。

裁判長「意義を却下します。検察側、続けて」

三澤「はい。被告人は、被害者の二人を『テレビに入れただけ』と証言しています。それは間違いないでしょう。しかし、他にもう一人テレビに入れる人物がいて、被告人が落とした二人をテレビの中で殺害し、その後アンテナや電柱に死体を遺棄した」

美雪「あり得ません!!」

三澤「何故あり得ないと言える? 不思議な力でテレビに入れるんだ。じゃあ不思議な力で自分の指紋などつけることなく相手をショック死させることくらい造作もないだろうし、アンテナや電柱に引っ掛けるという離れ業も、不思議な力を以てすればできるだろう。その不思議な力が、先程この法廷で証明されたわけなんだろ? ならば、……これはもはや不思議でも何でもない!!」

 静まり返る法廷内。

 そして、傍聴席の視線が証言台の悠に集まる。

悠「……俺は……無実です」

美雪「そうです! 鳴上氏が実行犯だなんてあり得ません! 彼は、仲間とともにテレビの中に誘拐されていった人たちを助けていたんですよ!?」

三澤「その仲間とやらが、前回の公判でテレビに入れることを証明できなかったじゃないか」

美雪「そ、それは……」

三澤「仮に、同級生や後輩たちを助けていたことが事実だったとしても、それは山野真由美と小西早紀を殺害したことを否定する証拠にはならない! 逆に、その罪を隠すためにその後行っていた偽善という可能性の方が高い!」

美雪「……絶対に、あり得ません!!」

三澤「(美雪の発言に構わず)さらには生田目太郎氏にも証言を取りました。彼もまたテレビに入ることができる人物だったようで、警察の調書にはそうした記録がありますが、公判の記録では恐らく荒唐無稽な発言として黙殺されていました。その実証性の低さ、及び本人の反省度の高さから執行猶予となりましたが、送検直前の病院内で、恐るべき事件が起こっていたのです。……それは、鳴上悠氏によってテレビの中へ落とされかけたという事件です!」

美雪「……な!?」

 ザワつく傍聴席。

 そして、悠への疑念の眼差しがより色濃くなる。

 足立もまた、悠をジっと見据えている。

三澤「生田目氏は、誘拐罪で逮捕された後、身体の激しい衰弱からまず病院へ送られましたが、その病室内に鳴上氏がいきなり乱入し、身体の自由が効かない生田目氏をテレビの中へ落とそうとした。生田目氏の必死の懇願で踏み止まったものの、その行動は冷酷非道であり、犯罪係数が高いと言わざるを得ません!」

悠「それは違います! ……いや、生田目をテレビに落とそうとしたことは事実ですが……、その……」

 悠のしどろもどろした陳述に、周囲の疑念はさらに強まる。

夜美「証人! これは事実なのですか!?」

悠「事実……ですが、それは従妹を誘拐して死に追いやったことで衝動的に……、でも……できなかったのです! 結果的に落としは……しなかった」

 うなだれる悠。

 と、足立が重い口を開く。

足立「……彼は、殺していません。生田目に対してのことは知る由がありませんが、彼がテレビの中で行っていたことは全て正義感からです。犯罪を犯せるような人物では……ありません」

三澤「そうでしょうか? これだけ状況証拠が揃っているのですよ? ……ああ。被告人は、彼を庇っているんですね?」

足立「え?」

三澤「調べによると、被告人と鳴上悠氏はごく親しい関係だった。鳴上氏の叔父が被告人の上司だったこともありますが、そこを超越した個人的な付き合いもあったらしいじゃないですか。庇いたい気持ちは分かりますが、それではあなたが正しい裁きを受けられませんよ?」

 三澤の言葉に絶句する美雪と夜美。

 自分たちが足立にすべきことを、今三澤が代わりにしようとしている。

 なんという屈辱!  

三澤「(ニヤリと笑い)私からの陳述と証拠請求は以上です」

 静かに腰を下ろす三澤。

 そして、勝ち誇った目つきで美雪と夜美を見遣る。

裁判長「(ガベルを一つ鳴らし)本日はここまで。先の弁護側の証拠請求である『人間がテレビモニターを通してこの世界とは別の世界へと移動させることは可能である』ということについては、証人が実証したことで立証とします。明らかに超常現象であり、通例では考えられぬ実例となりますが、過去にも超能力裁判などで現場立証されているケースがあります。事実は事実として受け入れる、これが司法の常識であります。……続いて検察側からの証拠、鳴上悠氏への嫌疑は審議材料に値します。よって新たな証拠として受理しますが、鳴上悠氏は現時点ではあくまで証人です。明日から一週間、時間を空けますので、その間に鳴上悠氏を重要参考人として取り調べることを、私からの請求事項とします」

夜美「……裁判長!」

裁判長「何かね? 夏野夜美弁護士」

夜美「私たちに、鳴上氏の弁護をさせて下さい!」

裁判長「それは鳴上氏が決めることです。……いかがですか?」

悠「……お願い……します」

 美雪と夜美の方を見ることなく、無表情に答える悠。

裁判長「それでは、本日は閉廷とします」

 

○踊る新聞記事の見出し

『八十稲羽連続猟奇殺人事件に新たな疑惑!』

『まさかの共犯者がいた!!』

『超常現象!? 男子高校生に宿る不思議な力とは!?』

 

○稲羽署・刑事課

 受話器を持って怒鳴る遼太郎。

遼太郎「何だと!? そんなバカなことがあるか!!」

 ガチャリと受話器を置いて部屋を飛び出す。

 

○同・廊下

 警官数人に連れられて歩く悠。

 と、正面から遼太郎が走ってくる。

遼太郎「悠ーーーっ!!」

悠「……おじさん!」

 遼太郎、悠の傍の警官に掴みかかる。

遼太郎「おい! どういうことだ、これは!?」

警官A「いやその……、私たちは連行しろと言われて……」

遼太郎「ふざけんじゃねーぞ!? 何で悠が!!」

 激しく憤る遼太郎。

 と、後ろから木野警部補が現れる。

木野「重要参考人の正式な取り調べです。邪魔はしないでいただこう」

遼太郎「何ィ? 何の取り調べだ!? 悠が何をした!?」

木野「報告を御存じないのですか? 彼は足立透の共犯者、殺害の実行犯の疑いがあるのです」

遼太郎「そんなことがあるわけないだろう!! ……じゃあ、俺に調べさせろ!!」

木野「ハッ! 無理に決まってるでしょう。あなたの甥っ子さんなんでしょ? 近親者の取り調べなど認められません!」

 そう言って、悠を取調室へと連れていく木野。

遼太郎「クッソ……」

 握った拳を震わせながら、廊下の壁を蹴る遼太郎。

 

○拘置所・面会室

 暗い表情で座っている美雪。

 その隣には、宙空を見つめる夜美。

 少し離れた椅子には直斗、そして陽介が室内をグルグルと歩き回る。

陽介「……ったく、どうなってんだよ!」

美雪「すみません……。私たちの力が足りないばかりに……」

 うなだれる美雪。

直斗「夏野さんたちのせいじゃありません。これは……、全く想定外の出来事でした」

美雪「でも……」

 若干涙目の美雪。

 と、ガラスの向こう側の足立がポツリと呟く。

足立「悠君が実行犯か……。いやあ、そいつは僕も思いつかなかったなあ」

陽介「ちょ……、てめぇ誰のために!!」

 陽介がガラスの仕切りに肉薄して叫ぶ。

足立「ああ、ゴメンゴメン……。僕のためにこうなっちゃったんだよね。本当に……すまない」

 素直に頭を下げる足立。

直斗「……しかし、状況はかなり深刻です。テレビに入るという実験は、僕たちが失敗して鳴上先輩が成功したことにより、今や鳴上先輩固有の超常現象のように祀り上げられてしまった。そして検察側はその実証を逆手に取って、足立さんの殺人罪立証から全く別人の共犯説を高らかに謳い上げた。おまけに生田目の証言を部分的に取り上げて鳴上先輩の殺意を浮き彫りにするなんて……。卑劣だ!」

 自分の両膝を掴んで震える直斗。

夜美「でもさあ、目の付け所は最高なんだよなあ……。あの野郎……、本当に憎らしい……」

 無表情で話す夜美。

 憎らしいと言いながら、全く感情が読めないような状態だ。

直斗「……夜美さん?」

美雪「ああ、気にしないでください。このコ時々こうなるんです。……でも、何とかして鳴上さんの無実を証明しなきゃ、起訴されてしまったらますます不利になっていきます」

直斗「どうすれば……いいんですか?」

美雪「争点は山野真由美と小西早紀の殺害と死体遺棄です。一番有効なのはこの二件に関してのアリバイ立証なのですが、残念ながら二件とも不利な状態です。特に小西早紀の方は、死亡推定時刻の範囲内にテレビの中にいたと証言してしまっている。これはかなり痛いです……」

夜美「(急にキリッとした表情になり)ただ、やったという確たる証拠もありません。今はただ、生田目氏をテレビに落とそうとした事実をクローズアップされ、犯罪係数が高いという錯覚が起こっているのです。ならば、その錯覚を取り除けばいい」

 そう言って立ち上がり、窓の方へと歩を進める夜美。

直斗「……しかし、あの時の鳴上先輩は、菜々子ちゃんを殺されて一旦冷静さを失っていました。ほんの一時とは言え、生田目に対して殺意を抱いたのは事実でしょう」

陽介「いや、俺がそそのかしたんだ! ……クッソ! 代わりに俺を捕まてみろってんだよ!!」

直斗「よしてください花村先輩。……本当に、捕まりますよ?」

 直斗の言葉に、思わず椅子を蹴り上げる陽介。

足立「……僕が殺害の自白をすれば、悠君は助かるんじゃない?」

陽介「え?」

足立「もともとそういう裁判だったはずだろ? この裁判の主役は僕だ。悠君には退場してもらって、僕がちゃんと責任取ればいいんじゃない?」

美雪「それはダメですよ足立さん。堂島さんのご依頼は『あなたに正しい裁きを受けさせること』です。それはあなたも同意したはずでしょう? あなたが……不当な求刑を受けることは許されません!」

足立「ならどうするんだい?」

夜美「……もちろん、鳴上さんを助け出します」

 夜美、窓の外を眺めたまま強く言い放つ。

陽介「できるんですか!?」

夜美「できるできないの問題じゃありません。……やるのです!」

 夜美の言葉に、直斗が笑みを浮かべる。

直斗「……そうですね。僕たちはやらなきゃいけない。鳴上先輩の無実を証明する、それが今僕たちがやらなきゃいけないことだ!」

夜美「はい。私たちはやらねばなりません。……白鐘さん、力を貸してください」

 夜美が直斗の方へ振り返り、熱い眼差しを送る……。

 

○稲羽署・取調室

 向かい合う悠と木野警部補。

木野「……何だって?」

悠「ですから、二人は恐らく自らのシャドウに殺られたんです」

木野「だからそのシャドウってのは何なんだよ」

悠「さっきから言ってるじゃないですか。自分のコンプレックスが形になった怪物です」

木野「あーーーー、もうやってらんねぇ! まともな神経じゃできないぞこりゃ……」

 天を仰いで嘆く木野。

 と、ドアがギィと開いて三澤が入ってくる。

三澤「すみません。遅くなりました」

木野「三澤さん。彼の言うことは無茶くちゃです。常識では考えられません!」

三澤「だからいいんですよ。……あなたは調書を」

 三澤、木野に冷静に調書を取るよう指示。

三澤「……で? どうやってあの二人を殺したんです? 手からビームでも出しましたか?」

悠「そんなことはできません」

三澤「不思議な力が使えるんでしょ? ……あなたがやったに、決まってるんですよ!!」

 三澤が睨みを利かせる。

 と、その時バタンとドアが開き、美雪と夜美、そして直斗が室内に入ってきた!

木野「な……何だ!?」

夜美「立ち合いをさせていただきます。鳴上悠の担当弁護士、夏野夜美です」

美雪「同じく、夏野美雪です」

三澤「お前ら……!! ここはお前らの来る場所じゃあ……」

直斗「許可は取ってありますよ。ご覧の通り」

 そう言って直斗は、取り調べの弁護士同席を許可する旨を記した書類を見せつける。

三澤「ク……」

夜美「さあ、続けて下さい。どこまで進みましたか?」

木野「ニャロウ……。怪物がどうとか、そんなものは……いるはずない!」

三澤「その通り。さすがに怪物を証明することはできないですよね? テレビからでも出しますか?」

 三澤がニヤつきながら悠を見遣る。

悠「……シャドウは、俺たちが全て倒しました。イザナミが消えたことで、もうテレビの中も平和になったんです」

三澤「イザナミ?」

悠「人間の可能性を試していた存在です。俺たちの力を認め、退散していったのです」

木野「じゃあ何か? 今はお花畑にでもなってるって言うのか?」

悠「……その通りです」

木野「ふざけんな!!」

悠「ふざけてなどいません。聞かれた通りに答えただけです」

 毅然とした態度で答える悠。

直斗「木野警部補、それが答えですよ」

木野「何?」

直斗「あなたは平和と聞いてお花畑を連想した。それが一般的な人間の思考パターンというものです。テレビの中の世界は、そうした人間の思考パターンを再現する世界なのです」

三澤「だから何なんです?」

直斗「分かりやすく説明しましょう。先程鳴上先輩が言ったイザナミというのは、八十稲羽に巣食ってた地域神のようなものと思っていただければ結構です。その神が、人の望みを見極めるために『マヨナカテレビ』というシステムを造り出し、抑圧された真実の姿を浮き彫りにした時に人はどうなるかという実験をした。その結果、嘘や虚構に目隠しされた世界こそ人の望む世界だと解釈し、影の世界を現実の世界にしてしまおうと企んだのです。しかし、僕たちが人の可能性を示すことによって集合的意識の中へと戻った。つまり、ひとまず退却してまた見守っていこうとジャッジしてくれたということです」

三澤「被告人やこの男子高校生が、何故そんなことに関わることになったんだ?」

直斗「何故かは分かりません。ただ、足立さん、生田目氏、そして鳴上先輩はその神から選ばれ、その神が行っている観察実験のサンプルのような存在となったのです」

 直斗の説明に、夜美が続ける。

夜美「彼らは我々の代表のようなものだったのです。……元々は、足立透氏が代表と認められていました。『人類代表』とでも申しましょうか。嫌な事からは逃げたい、何も考えずに毎日を怠惰に過ごしたい、そういうマイナス思考をつい考えてしまうのが人間です。しかし、彼らはその理念をひっくり返し、プラス思考こそ人間の真理であるとその存在に認めさせたのです」

三澤「……訳が分かりませんね! 大体、そのことと、彼が殺害実行犯じゃないことに何の関係があるんですか?」

夜美「何の関係もありません」

三澤「何ですって?」

夜美「今の説明は、テレビの中の世界について、あなた方にもその概要を知ってほしいがためでした。その上で、そこで彼らが何をしていたかを考えていただきたいのです」

木野「フン! 実にくだらない。そういう話こそ、どこまでがホントなのか、まるで分からないじゃないか!」

夜美「その通りです! つまり、テレビの中での殺害を証明することなど、誰にもできないのですよ! それはあなたも分かっておいででしょう? 三澤さん」

三澤「しかし彼は、生田目氏を殺意を持ってテレビに入れようとした! それは事実です!!」

夜美「あくまでそれを拠り所にしますか?」

三澤「当たり前でしょう! 人殺しの意志があって、テレビに入れるという超常能力を持っている、これだけで十分……」

 三澤の言葉に、美雪が強い口調で詰め寄る。

美雪「それは未必的殺意であり、大事な従妹を殺されたという客観的に見て同情的な要素を踏まえた一瞬の感情です。私たちは、改めて生田目氏の証言を取ってきました。彼は、鳴上さんの取った行動を殺意とは認めていませんし、行為態様からも『テレビに入れる』ことが『死に至る』ことに直結しませんので、これは殺意とは認められませんよ? そのくらい、あなたに分からないわけないでしょう? 三澤さん」

三澤「くっ……」

 言葉に詰まる三澤。

美雪「あなたがもし鳴上さんを起訴すると言うのなら、私は弁護側の証人として新たに生田目太郎氏を用意します。生田目氏の本心、反省度合い、捜査への協力性、いくつもの要素から、あなたが主張する『鳴上悠が冷酷非道な性格で超人的な能力を持っている=(イコール)山野真由美と小西早紀を殺害した実行犯』という根拠には到底辿り着けません。……これもあなた自身、当然お分かりのことですよね? 三澤さん」

 美雪から目をそらす三澤。

直斗「……何故、鳴上先輩を陥れようとしたのですか?」

 直斗の言葉に、三澤、そして木野も絶句している。

 と、ゆっくりとドアが開き、遼太郎が入ってくる。

遼太郎「木野。……もう諦めろ」

木野「……何!?」

遼太郎「ウラは取れた。お前が三澤検察官と組んでやろうとしていた、つまらん警察の体裁作りのな」

木野「……まさか」

悠「どういうことなんですか? おじさん……」

遼太郎「つまり、足立の実刑が決まれば、久保、生田目と続いた殺人の誤認逮捕が決定的となり、警察のメンツが丸潰れになるってことだ」

直斗「え? じゃあ、検察側も最初から足立さんを殺人罪に持っていく考えではなかった……ということですか?」

遼太郎「それはどうかな。足立一人に罪を被せちまう方がシンプルで分かりやすい。だが、殺害の凶器や死体遺棄の方法が証明できないことは明らかだ。その上で足立を実行犯として立証する術を模索するか、或いは第三者を祀り上げるか。いずれにしても、警察のメンツを保つためには検察側の主張によって判決に導かなくっちゃ意味がねぇ。……大方、警視辺りの圧力がかかってたんだろ」

 ワナワナと震える木野。

木野「……堂島さん!! あなたは平気なんですか!? ここで検察が負ければ、この一年間の警察の無能さを、世間に晒し者にすることになるんですよ!?」

遼太郎「フン。いいじゃねーか、そんなこと。事実、俺たちは無能だったんだ。この事件を解決したのはコイツらガキだ。そして、足立のような不完全な警察官を生んでしまったのも、俺たち警察の責任だ。……潔く、恥かこうじゃねーか」

 遼太郎、木野の肩をポンと叩く。

 そして、三澤は観念したように一つ溜め息をつく。

美雪「……鳴上さんを、解放してくれますね?」

三澤「分かりましたよ……。結果的に、こっちが恥の上塗りしてしまった感じですねぇ。溜飲下がりましたか? 夏野クン」

美雪「え……」

 少々戸惑う美雪。

 そして、夜美は口を尖らせながら呟く。

夜美「……あ~あ、つまんない」

 そう言って一人部屋を出ていく夜美。

 それを見て、美雪が僅かに口元を緩める……。

 

○地方裁判所

 地方裁判所の外観。

 そして『第四回公判』のクレジットが中央にフェイドイン。

 

○同・法廷

 四回目の公判。

 順次席につく三澤検察官、美雪弁護士、夜美弁護士、そして被告人の足立。

 張りつめた空気の中、裁判長が入場。

裁判長「(丁寧に腰掛けて)それでは開廷します。まずは、前回検察側からの陳述にあった鳴上悠氏の取り調べについてお願いします」

三澤「はい」

 立ち上がる三澤。

三澤「結論から申し上げますと、鳴上悠氏を殺害の実行犯と立証することは難しく、起訴するには至りませんでした」

 少しどよめく傍聴席。

三澤「嫌疑の根拠として、彼のアリバイと彼の冷酷性、そして彼の超人的な特殊能力を挙げていましたが、この三つをつなぎ合わせることに論理性は乏しく、山野真由美、小西早紀両名殺害の証拠たる物件及び動機もありませんでした。よって、鳴上悠氏は不起訴。検察側としては、この件に関する証拠請求は取り下げます」

 そう言って着席する三澤。

夜美「(くっそ~。私が言いたかったセリフを自ら……)」

 悔しげな表情で唇を噛み締める夜美。

裁判長「では、双方新たな証拠請求がなければ、論告・弁論に移りたいと思いますが……」

三澤「お待ち下さい」

 そう言って立ち上がる三澤。

三澤「最後に一人、こちらからの証人陳述を求めます」

美雪「……え?」

三澤「どうぞ」

 三澤の言葉を受けて入室してきたのは、なんと先程まで実行犯の嫌疑をかけられていた悠であった!

夜美「な……!!」

 悠の姿を見て青ざめる夜美。

 そして、美雪と顔を見合わせる。

 一方、悠は飄々とした様子で証言台へ。

裁判長「証人は宣誓書の読み上げを」

悠「はい。……鳴上悠。十八歳。東京都荒川区在住。私は良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べない旨を誓います」

 今度は検察側の証人として宣誓する悠。

 あり得ない展開に、傍聴席も動揺に溢れている。

三澤「あなたはこの一連の事件に、大きく関わっていましたね?」

悠「はい。最も関わっていたと思います。俺と……足立さんが」

 足立の眼が鋭くなる。

三澤「あなたは、被告人にどんな印象を持っていましたか?」

悠「初めは、親しみやすい刑事さんだと思っていました。でも、事件の首謀者だということが分かり、テレビの中で話を聞いている内に憐れな人だと感じるようになりました」

三澤「憐れ……とは?」

悠「久保をテレビに入れたり、生田目をそそのかして誘拐を続けさせたり、『ただ面白いから』という理由だけで色々な人の人生を狂わせ、努力することを無駄なことだと割り切るような考え方に、憐れみを感じました」

三澤「憎しみは……感じなかったのですか?」

悠「……よく、分かりません。感じた時もあったかも分かりませんが、基本的には可哀想な人だとしか思えなかったような気がします」

三澤「でも、先程言ったように色々な人の人生を狂わせた張本人なんですよ? あなたの親友である花村陽介君の思い人であった小西早紀を死に追いやった人物だ。この点については?」

悠「小西先輩を失った陽介の気持ちは察するに余りあります。しかし、実際に小西先輩を死に追いやったのは恐らく自分自身のシャドウです。テレビに入れるということできっかけを作ったのは足立さんですが、それはあの人の弱さかが招いた一つの事故です。……その点は、陽介も十分理解していると思います」

 悠の陳述に、足立は真剣な表情で聴き入っている。

三澤「山野真由美、そして小西早紀を殺害した実行犯は不明なまま。あなたの意見ではシャドウというテレビの世界にいる怪物である公算が高いとのことですが、仮にそうだとして、被告人に全く殺意がなかったと言えますか?」

悠「分かりません。それは足立さんの心の中に、真実があるでしょう」

三澤「聞き方を変えます。被告人が山野真由美と小西早紀をテレビに入れたのだと知った時、あなたはどう感じましたか?」

悠「ひどい人だと思いました」

 悠の言葉に、一瞬ニヤリとする三澤。

三澤「生田目太郎氏をそそのかして、あなたの友人や後輩たちを誘拐させ続けたと知った時は、どう感じましたか?」

悠「何故?という感じでした。足立さんが何をやりたいのか、正直理解できませんでした」

三澤「被告人から脅迫状を送られたというのは本当ですか?」

悠「はい。本当です」

三澤「それはどんな内容でしたか?」

悠「これ以上助けるなといった警告でした」

三澤「それが被告人によるものだと分かった時、あなたはどう思いましたか?」

悠「色々な思いが……混じったような感じでした。ただ、やはり憐れみや同情めいた気持ちが大きかったように思います」

 悠の言葉に、足立が僅かに苦笑い。

三澤「最終的に、あなた方は被告人をテレビの中から連れ戻し、警察への出頭を促した。その時はどんな思いでしたか?」

悠「しっかり法の裁きを受けて、罪を償ってほしいと……思いました」

 と、ゴクリと生唾を飲む美雪。

美雪「(この検察官……、まさか……)」

 少し間を置き、三澤が強い口調で話す。

三澤「最後にお聞きします。この猟奇的な連続殺人事件、そしてそれに付随する模倣殺人事件や誘拐事件を引き起こした張本人として、あなたは被告人を赦せますか?」

 三澤の問いに、しばらく俯いて考える悠。

 そしてゆっくりと顔を上げて答える。

悠「足立さんのやったことは、間違いなく悪いことです。しかし、それは人間が誰でも持っている虚無感や弱い部分を利用され、結果的に悪事へとつながったわけですので、張本人という解釈ではありません。被害者の人たちにしてしまった行動については許せませんが、きちんと反省して罪を償ってくれれば……、人としては赦せます」

三澤「……分かりました。以上です」

 そう言って着席する三澤。

裁判長「弁護側、反対尋問はありますか?」

美雪「(少し考えた後)……ありま」

夜美「一つだけ! これは三澤検察官にお聞きしたい」

 その言葉に、三澤が夜美の方へ顔を向ける。

夜美「あなたはもし自分がテレビに入れたとしたら、ご自身の影と向き合うことが……できますか?」

 夜美の不可思議な質問に、傍聴席が軽くザワめく。

三澤「(ニヤッと笑い)私には影も日向もない。よって、そんなものは……生まれないでしょうね」

夜美「(同じくニヤッと笑い)分かりました。ありがとうございます」

 満足そうな表情の夜美を横目でチラリと見遣り、呆れたといった表情の美雪。

裁判長「それでは論告・弁論に移ります。証人は退場して下さい」

悠「はい」

 悠が法廷から出ていく。

 そして、裁判長がガベルを一つ鳴らして空気を変える。

 論告とは、検察側が改めてこれまでの審議を踏まえてどのような判決にすべきかを主張するもの。

 弁論は、逆に弁護側が適切な判決はこうあるべきと主張するものだ。

裁判長「ではまず検察側の論告から、どうぞ」

三澤「はい」

 再度立ち上がる三澤。

 

○同・廊下

 スッキリしたような、モヤモヤしたような不思議な心持ちで歩く悠。

 廊下の途中、窓際の長椅子に座って外を眺める。

 様々な思いが込み上げてくる中、目を瞑って大きく深呼吸する悠。

悠「……さあ、行こうか」

 

○同・法廷

裁判長「では次に、弁護側の弁論を」

美雪「はい」

 美雪が立ち上がる。

 

○堂島家・リビングダイニング

 ソファーで新聞を読む遼太郎。

 傍に座ってる菜々子、新聞の見出しに悠のことが書かれてあるのを見て不安な表情に。

菜々子「お父さん……」

遼太郎「んん?」

菜々子「お兄ちゃん……、大丈夫なの?」

遼太郎「ああ、大丈夫だ。お兄ちゃんはな、正義のヒーローなんだ。本当のヒーローってのはな、悪を倒すだけじゃない。悪が生まれないようにするためにはどうすればいいか、そのために必要な時は、倒すだけじゃなく赦すってことも大事なんだ。それができるのが、真のヒーローってやつだ。……ん、菜々子にはまだ、難しいかな」

菜々子「ううん! 分かるよ、菜々子。だって、お兄ちゃんのこと大好きだもん!」

遼太郎「そうか……」

 菜々子の頭を撫で、優しく微笑む遼太郎。

 

○地方裁判所・法廷

美雪「……以上です」

 着席する美雪。

裁判長「最後に、被告人の意見陳述です。被告人は証言台へ」

足立「はい」

 足立が証言台に立つ。

裁判長「これで審理を終えますが、何か言いたいことはありますか?」

足立「……特に……、ああいや、今の気持ちを、話しておきます。……皆様本当に、申し訳ございませんでした」

 そう言いながら、深々と頭を下げる足立。

足立「これまでここで話されてきたことは、全て真実です。テレビの中とか、普通は考えられないようなこともあって混乱される方もいると思いますが、ホントだから仕方がない。それしか言いようがないし、今はお詫びすることしかできません。この後、どんな結果が出ても、僕は全て受け入れようと思ってます。それが、僕がやってきたことへの報いですから。……結果がどうなるかは分かりませんが、人生も面白いもんかもしれないな、と今は思っています。……最後に、堂島さん、悠君……、ありがとう」

 目を瞑って少し会釈をし、被告人席へと戻る足立。

裁判長「(ガベルを一つ鳴らし)それでは、ただいまより裁判官・裁判員による別室審議に入ります。判決は、一時間後に行います」

 

○愛家

 カウンターで肉丼を見つめる直斗。

直斗「肉の下にあるものは……米、であるはずだが、この目で見るまでは……信じられない。目で見えないもの、隠されているものは、いくら想像が出来ても証明はできない。もしかしたら、この肉の下には米ではなくパンが入っているかもしれないからだ。それを明らかにするのが裁判だが、見たくても見られない真実もある。それをどうやって証明するべきなのか……」

 肉丼を相手に深く思考を巡らせる直斗。

あいか「探偵王子……、どうかしたか?」

直斗「いえ、何でも……」

 あいか、無表情で丼を洗いながら呟く。

あいか「現実と真実は……違うもの」

直斗「……えっ?」

 

○地方裁判所・法廷

 再度、全員が法廷内に入ってくる。

裁判長「それでは判決を言い渡します。稲羽市連続猟奇殺人事件における、被告人・足立透の四件の起訴事実について、当裁判所は次のように判決する」

 静まり返る法廷内。

 そして……。

裁判長「主文。被告人を包括一罪の傷害罪として懲役三年に処す」

 どよめく傍聴席。

 美雪、夜美、三澤、そして足立は全員一様に固い表情を崩さない。

裁判長「理由。本件起訴事実の内容。本件の起訴事実は、被告人は、第一、2011年4月11日から12日にかけ、山野真由美に暴行した上、結果死に至らしめ、住宅屋根のテレビアンテナに吊り下げ、第二、2011年4月14日から15日にかけ、小西早紀に暴行した上、結果死に至らしめ、市街地の電柱に吊り下げ、第三、2011年7月12日、警察に自首してきた久保美津雄受刑者に対して暴行を働き、第四、2011年4月未明、生田目太郎氏が殺人につながる誘拐を引き起こすよう煽動した、というものである。当裁判所は、本件第一起訴事実、及び第二起訴事実について傷害罪を適用、第三起訴事実については暴行罪及び職務怠慢を適用、第四起訴事実については誘拐教唆を適用、よってそれぞれの量刑を包括し傷害罪の一罪とする」

 僅かに頷く仕草を見せる美雪。

裁判長「本件第一起訴事実について。被告人は、天城屋旅館に宿泊していた山野真由美を訪ね、身辺保護と称してロビーで話をし、不倫関係について問い質した結果頭に来たので、山野真由美の身体を掴んで大型テレビに中に入れた。その際揉み合った結果、右肩及び後頭部に打ち身傷を負わせた。被告人の供述によれば、テレビの中がどんな世界なのかも分からず単に落としてみたということであり、その結果が必ずしも死につながるとは言い難く、殺意は認められない。なお、テレビに入れるという行為は、法廷で鳴上悠証人が実証したことで可能な行為と判断する。死体遺棄については、被告人が山野真由美をテレビアンテナに吊るすという行為を実行した形跡はなく、山野真由美の死亡推定時刻の範囲内の被告人のアリバイも証明されていることから、これを実行したことは証明できない」

 厳しい表情の三澤検察官。

裁判長「本件第二起訴事実について。被告人は、テレビアンテナに吊るされて死亡していた山野真由美の第一発見者として、小西早紀の取り調べを行い、生田目太郎氏との肉体関係を口止めする代わりに自身との関係を迫ったが断られ、その結果暴行を働いた上、大型テレビの中に入れたと供述。その際、背中及び側頭部に打ち身傷を負わせた。直前に山野真由美が死体として発見されたことで、テレビに入れることで死ぬかもしれないという認識はあったと推察できるが、第一起訴事実同様、その結果が必ずしも死につながるとは言い難く、明確な殺意とは認められない。死体遺棄についても、第一起訴事実同様に被告人が小西早紀を電柱に引っ掛けるという行為を実行した形跡はなく、小西早紀の死亡推定時刻の範囲内の被告人のアリバイも証明されていることから、これを実行したことは証明できない」

 無表情で宙空を見つめている夜美。

裁判長「本件第三起訴事実について。被告人は、連続殺人事件の犯人として自首してきた久保美津雄受刑者の取り調べを行い、署内の総意としては悪戯と判断されていたが、もし立証の方向へと流れたら面白くないと感じて大型テレビに入れたと供述した。当時、久保受刑者にさしたる外傷はなく、被告人の殺意も感じられない。そして本件第四起訴事実について。被告人は、生田目太郎氏から、マヨナカテレビに映った人間が数日後に死ぬので保護してほしいという電話を受け、そのような夢みたいな話には取り合えないとしながらも、生田目太郎氏に誰にも見つからない場所にかくまってあげればいいとテレビに入れることを煽動したと供述した。これについては、生田目氏も自身の取り調べで類似する証言をしていたが、荒唐無稽という判断のもと裁判で争われることはなかった。生田目氏がテレビに入れるまたは他人を入れる能力があったかどうかは証明されてはいないが、被告人同様の状態という想定のもとで考えた際、誘拐犯罪の教唆という証明には足り得る」

 グッと唇を噛み締めている足立。

裁判長「被告人の行った直接行為としては以上となるが、複数人の証言からテレビの中にいるシャドウなる異生物によって山野真由美及び小西早紀は殺害されたとあるが、これについては証明する術なく、証言自体も推測の域を出ないため棄却。第三者の実行犯として嫌疑がかかった鳴上悠氏については、証拠不十分により不起訴。山野真由美及び小西早紀殺害については本公判において証明できる事由なし。被告人の行動がそのきっかけを生んだことは間違いないところだが未必的殺意の域は出ず、反省と贖罪の念も強く感じられる」

 裁判長がガベルを一つ鳴らす。

裁判長「結語。以上の検討により、暴行、職務怠慢及び誘拐教唆を包括一罪として、刑法第204条により、被告人に対し傷害罪を認め懲役三年の言い渡しをする。被害者の負った障害としての程度はごく軽いものであったが、被告人が与えた社会的影響、また暴行、職務怠慢、誘拐教唆との包括の意味合いも含め、懲役三年の量刑を科す。よって、主文の通り判決する。以上」

   *  *  *  *

 ザワザワとそれぞれの思いを口にし出す傍聴席の人々。

 そして、足立はしばし天井を見つめ、フゥと溜め息をついて立ち上がる。

 その足立に美雪と夜美が寄り添い、三人が無言で法廷から退場していく……。

 

○踊る新聞記事の見出し

『足立裁判についに判決が降る!』

『やはり殺人罪は問えず! これが司法の限界!?』

『テレビの中の真実……、未だ謎は解明されず』

 

○夏野法律事務所

 ソファーに座ってコーヒーをすする美雪。

 その傍らに立ち、夜美は書棚を見つめながらコーヒーカップを持つ。

美雪「ひとまず任務完了。……お疲れ様でした」

夜美「お疲れ様でっす! とりあえず、妥当な判決だったんじゃないかなー」

美雪「そうだね。……ただ、鳴上さんや他の人たちがこれから世間にどう見られていくのか……、その辺がちょっと心配ではあるけど」

夜美「ま、大丈夫じゃない? 喉元過ぎれば熱さも忘れるのが人間。そーいうとこが、逆に人間のいいところでもあるんだし!」

 そう言ってコーヒーを飲む夜美。

美雪「うん。……でもさあ、結局また三澤のヤツにしてやられちゃった感じだよねぇ」

夜美「まさか最後にあーくるとは……。読めん奴だ。……読めん!」

 夜美、厳しい顔つきでさらにコーヒーを飲む。

美雪「そんなこと言ってるけど、夜美ったらちょっと嬉しそうだったんじゃない?」

 美雪の言葉に思わず咳き込む夜美。

夜美「ゴホゴホッ! ……な、何言ってんのよ!? そんなワケないでしょ!!」

美雪「あれあれ~? もしかして、アイツのこと実は……」

夜美「バカ言わないでちょーだい!! ささ、次の依頼がもう来てるんだから! 早くこの書類読んで!!」

 夜美、誤魔化すようにテーブルに書類の山をバサッと置く。

 美雪、それを見て微笑みながらコーヒーをすする……。

 

○堂島家・リビングダイニング

 テーブルを囲んで座る、遼太郎、悠、陽介、直斗、千枝、雪子、完二、りせ、そして菜々子。

 テーブルの上には寿司が並んでいる。

遼太郎「お前たち、今回はご苦労だったな」

陽介「いやあ、でもビックリしたぜ! 悠が最後にアッチ側についたって聞いた時は」

悠「すまなかった。フフ……」

直斗「……堂島さんは、知ってたんですか?」

遼太郎「いや、俺も後から聞いてびっくりしたな。まあ、あの三澤って検察官ならやりそうなことって言うか……、木野の立場もあるし、同じ結果が出るにしても甘くならんようにってことだったんだろうな」

悠「はい。裁判員の判断が弁護側に偏ったら極端に甘い判決になるかもしれないってことで、依頼を受けることにしました。……あと、俺に容疑者のイメージがついたままにならないようにって配慮もあったみたいです」

遼太郎「ほう? なかなかやるじゃねーか」

 と、菜々子が悠の右腕にしがみつく。

菜々子「お兄ちゃん……、良かった」

悠「菜々子……。心配かけてゴメンな」

 そう言って、菜々子の頭を撫でる悠。

直斗「……ただ気になるのは、今後鳴上先輩に押し寄せるであろう好奇の眼……ですよね」

陽介「ああ。テレビに入れるってことを証明しちまったわけだからなあ……」

完二「しくじったとは言え、花村先輩や直斗にも……何だかんだ言ってくる奴がいそうだな」

千枝「それを言ったら、もしかするとあたしらもだね。週刊誌なんかには、あたしらの名前が出ちゃってるのもあるし……」

 千枝の言葉に、暗い表情になる全員。

遼太郎「悠……。本当にすまない……」

 真剣な表情で悠に詫びる遼太郎。

悠「大丈夫ですよ、おじさん。俺、あんまり周りを気にしないタイプですから」

りせ「クスッ……。それ言えてる」

雪子「それが鳴上君の、いいところよね」

悠「(ニッコリ笑い)それに、俺には……こんなに素晴らしい仲間がいますから」

 悠、そう言ってグルリと特捜隊の仲間たちを見遣る。

 陽介が、直斗が、千枝が、雪子が、完二が、りせが頼もしく微笑む。

陽介「……ま、とりあえず一件落着ってことで、食おうぜ!」

完二「そうッスね! 後のことは後ってことで!」

 全員が箸を持って両手を合わせる。

全員「いっただっきま~す!!」

 寿司を食べ始める全員。

 いつものように、屈託なく笑い合い、皆が食卓を楽しむ。

 陽介がはしゃぎ、千枝が口いっぱいに寿司を頬張る。

 雪子が笑い、完二がりせにからかわれる。

 直斗が静かに微笑み、菜々子が歌う。

 そして、和やかに笑い合う遼太郎と悠の目が合い、何とはなしに真剣な表情に変わっていく。

 二人同時に、チラリと少し斜め上を見上げる。

 

○拘置所・裏手の駐車場

 天気のいい午後。

刑務所への搬送用ワゴン車が到着する。

 所員数人に囲まれて佇む手錠姿の足立。

ふと何かを感じて上空を見上げる。

足立「……堂島さん? ……悠君?」

所員「オラ、さっさと乗らねーか!」

 拘置所の所員が、足立を蹴り上げるようにしてワゴン車の後部座席に乗せる。

足立「あ、あああ!」

 転ぶように車内に入り込む足立。

運転手「出発します」

 走り出すワゴン車。

 

○搬送用ワゴン車内

 足立が、窓から外を眺める。

 流れゆく郊外の風景を見つめながら、徐々に優しげな表情になっていく足立。

足立「……人生……、か」

 足立、そう呟くと正面を向いて座り直し、僅かに微笑みながら静かに目を瞑っていく……。

 ここでエンディング曲がフェイドイン。

 

○エンディング曲

 ワゴン車の外側、後部座席の窓から足立の横顔が見える。

 ズームアウトしていくワゴン車。

 流れゆく白い雲。

 その雲の切れ間に、足立を乗せたワゴン車がふんわりと溶け込んでいく……。

 画面全体が白い雲に包まれ、エンドロール。

 

○『足立裁判 ~テレビの中の真実~』・完

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