満月が空を独占する静寂の夜...
暗闇の中に足音が2つ鳴り響く...
1つは軽やかでリズム良く響く。
もう1つは重く、犬のような足音が逃げるように響く。
街灯がチカチカと点滅し、走り回る1人と1匹の姿が見え隠れする。
1人は少女...銀髪を後頭部で1つにまとめている。
1匹は獣...姿は犬と差ほど変わらない。
大きさは普通の犬の2倍程あり、剥き出しの牙と鋭い爪が月明かりに照らされギラギラと逆光を放っている。
少女は獣を追いかけ加速し、獣を飛び越え前へと躍り出た。
獣は予想外の出来事に怯みを見せたが構うことなく少女に飛び掛った...が、そこに少女の姿はない。
少女はすかさず太腿に装備していた刃渡10センチ程のにナイフを抜き、獣の頭が頭上を過ぎた辺りで喉元にナイフを突き立てた。
獣は着地と同時に地面に崩れ、喉から鮮血が吹き上がる。
獣は1回ビクンと痙攣を起こし絶命した。
鮮血は辺りを赤く染め上げ少女も大量の血を浴びた。
しかし、少女の銀髪は大量の着地を浴びても尚月明かりの下輝いていた。その姿は果たして「天使」か「悪魔」か...
ーAM4:30ー
住宅街に立ち並ぶアパートの群れ。その1角にアパートの外階段を上る
銀髪の少女の姿があった。
手にはビニール袋を提げてあり、少女が着ているパーカーには大量の血が付着している。外階段の前には「カリヤ」と書いてある木の看板が地面に突き刺してある。
少女はフラフラと2階の奥...207合室へ入っていった。
少女は玄関で靴を乱雑に脱ぎ、暗い廊下を進みリビングへ入った。
リビングは広く白い大きなソファーと透明なガラステーブルが綺麗に配置されている。
少女は手に提げていたビニール袋をまたも乱雑にガラステーブルの上に置き、中から飲み物や弁当が崩れ出た。
少女は虚ろな瞳のまま血に汚れた衣類を次々と脱ぎ捨て、風呂場へ着く頃には全て脱ぎ終えていた。
数分後、少女は下着のままリビングへ戻ってくると倒れるようにソファーへ突っ伏し、すぅすぅと寝息を立てた。
ーAM6:30ー
薄暗いリビング...
カーテンの隙間からは仄かに優しい光が漏れ出し、リビング内を満たす。すぅすぅと寝息が響く中、ソファーの後ろ側にある襖が開き容姿幼い少女が姿を現した。
少女はあくびを1つし、癖なく肩まで伸びた茶髪を耳にかけ洗面所へ向かった。バシャバシャと何回か水の弾ける音がし、しばらくすると少女がリビングに戻ってきた。
少女はリビング内を見渡すと、速やかに散らばっている衣類を洗濯機に詰め込んだ。その後、床に付いている血の跡を拭き取りリビングの明かりを着けた。
「乃々さん。こんな所で寝ていたら風邪を引いてしまいますよ?」
「んぁ?」
乃々(のの)と呼ばれた少女は気抜けた言葉を発し、ソファーからむくりと起き上がった。
「ん〜...おはよ〜涼(すず)...」
乃々は大きなあくびをするとフラフラと洗面所へ向かった。
「乃々さん。今朝方に帰ってくるのはいいけど、脱いだ服はちゃんと洗濯機に入れてくださいね?」
涼は台所へ向かう途中洗面所にいる乃々に声をかけた。
「んー...」
またも気抜けた返事がしたが涼は気にせず台所へ向かった。
ーここ、207号室には、
流泉 乃々(りゅうせん のの)
泉夜 涼(いずみや すず)
柊 刹(ひいらぎ せつ)
の3人が住んでいる。
この3人は10年前孤児院で出会った。
乃々は事件に巻き込まれ家族を失い...
涼の両親は涼を残して他界し...
刹は親に捨てられた。
同じ時期に孤児院に入ったのがきっかけで3人はすぐに仲良くなった。
そして、孤児院生活5年を過ぎたある日、3人の中で1番元気のある乃々が孤児院を抜けようと言い出し半強制的に2人を連れ出した。
孤児院を抜け出し3日、3人の中で最年長である刹(13才)は実力があれば年齢制限なしで働ける「狩師」という「妖獣」を狩る職業を見つけた。
旧世紀、「妖獣」という異能力を持った肉食生物が生まれ、人類を絶望の縁へと立たせた。しかし、科学が特化した新世紀では「妖獣」に対抗する為に「GPU(ギブアニューズアルパワー)」という時的に「妖獣」のように異能力を得る薬と「AAA(オールアビリティアライズ)」という自分の身体能力を上昇させる薬を開発し、それを使って「妖獣」を殲滅する「狩師」という職業が生まれた。
「狩師」が「妖獣」を狩る姿は孤児院のテレビで何度か見ていた乃々たちは「狩師」がどのように「妖獣」を狩るのか大体把握していた。
3人は生き物を殺す事に不安を感じていたが生活費を得るため、止む無く「狩師」の仕事に就いた。
初めは「妖獣」を狩る事に抵抗を見せていた3人だが、数を増すごとにそれは無くなり狩る事に達成感すら抱いていた。
元々素質があった3人はどんどん上達し、今では「狩師」トップクラスを凌ぐ実力者となった。
そして現在、3人の中で最年長である刹は
18才という若さで早くも「狩師」の最高機関「FBAA(フェアリービースト・アナイーレーション・エージェンシー)」の幹部となった。刹は「FBAA」の幹部として各国を飛び回り、アパートに戻ってくる事がほとんどない。たまに帰ってくるときは生活費や土産話を置いていく。
乃々と涼も刹と共に「FBAA」で活躍を見せていたがまたも乃々の奇行で涼を巻き込み自営へと移った。
普通、組織・機関に属していない「狩師」は「妖獣」に対抗する為の薬が支給されない。
しかし、乃々と涼は「FBAA」に所属していたときに親しくなった科学者に頼み現金と引き換えに薬をもらっている。
乃々と涼は「狩師」をしながら学校にもかよっている。
乃々は歩いて数分程度の場所にある市立精誠(しりつせいせい)高校の1年生。
涼はバスで数分程度の場所にある市立陽聖(しりつようせい)中学校の2年生。
生活費や学費は「妖獣退治」を専門とする
「カリヤ」を営み、稼いでいる。
他には刹が置いていく生活費や、狩った「妖獣」から剥ぎ取った貴重な部位を専門家のところへ持って行き売りさばく事で賄っている。
「乃々さん。まだもう1つ依頼がありますけどどうしますか?
今日は月曜日だから学校もありますよ?」
涼は台所で作業をしながら洗面所から戻ってきた乃々に問いかけた。
「ん〜...依頼ってどんなのが残ってる?」
「えっと...夜になると小型の妖獣が集団で畑を荒らしにきます。...というのが残っていますね」
「あー...めんどいやつか...。まっ、仕事は仕事だし仕方ないか...ん?
夜になると...ってことは学校行っても問題ないよね?」
「あ、それもそうですね。じゃあ、今日は学校へ行くということで...
はい、朝ご飯できましたよ〜」
「んー、ありがと。…あ、そうだ涼」
「はい?」
「テーブルの上に置いてあった弁当知らない?」
「あ、それなら冷蔵庫に入ってますよ」
「ならよかった。あたし今日のお昼はそれ食べるから弁当は作らなくていいよー」
「わかりました〜」
乃々は台所から涼の返事が返ってくるのを確認すると、テーブルに出された朝食を朝のニュースを見ながら黙々と食べ、8:00にアパートを出て学校へ向かった。
〜 〜 〜 〜 〜 〜
「乃々!」
「おっと…」
教室の扉を開けると同時に1人の少女が
勢いよく飛びついてきた。
「ちょっと、凍華(とうか)?朝からどうしたの?」
凍華と呼ばれた少女、聖 凍華(ひじり とうか)は乃々のクラスメイトであり「FBAA」に所属している「狩師」でもある。
「なんとかしてぇ〜〜!」
「えーっと…何を?」
「あ、えっとね…夜になるとおばあちゃんの家の畑が妖獣に荒らされるの!」
「あぁ、あのめんどい依頼って凍華のおばあちゃんからだったのか」
「えっ?もうおばあちゃんから頼まれてたの!?だったら早く仕事してよ〜」
「え〜。集団って結構めんどいし…。
…っていうか凍華だって狩師なんだから自分で狩ればいいでしょ?」
「それが…私、今薬の支給来てなくて…」
「ふーん、それであたしに…。でも、小型の妖獣なら薬なんか無くてもだいじょ…」
「それが無理なの!!」
凍華が突然大声を出したため、クラスにいた全員が何事かと乃々たち2人に注目した。
乃々は「めんど…」と声を漏らし、凍華の手を引き廊下に出た。
「で、何で?」
「だから薬が無いと無理なんだよ!」
「だーかーらー!何で無理なのかを聞いてるんだって」
「えっと、実は…その妖獣たち、1匹倒すとその1匹を補うようにして別の妖獣から1匹復活するの!」
「うわぁ…めんどい異能力だなぁ…」
「だから薬が…」
「わかったよ。言われなくても今晩行くつもりだったから」
「ほんと!?よかったぁ〜。これで安心できるよ〜」
「あ、でもあたしの異能力は今回の妖獣には向いてないからあたしの相棒も呼ぶね」
「うん。お願いするね!」
「いや、凍華も手伝ってね?あたしの相棒帰り遅いからさ。時間稼ぎとして…ね?」
「えぇ〜!?私薬無しじゃ全然戦えないよ?」
「そんなことないって。凍華の腕が確かなのはあたしも「FBAA」も知ってるよ」
「うぅ…じゃあ、アシスト程度なら…」
「りょーかい!それじゃ、そろそろ教室に戻ろうか」
話し終えた2人は教室に戻り、先程の誤解を解いて席に着いた。