やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE!   作:あぽくりふ

10 / 28
9話 実は彼はそれなりに戦える。

 

 

「お......らぁああッ」

 

黒い片手剣士が跳躍しながら空中で咆哮し、跳躍の最高点でさらに片手剣突進技《ソニックリープ》を発動。それでもかろうじて届いた剣先が《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》の眉間を穿ち―――バラン将軍は仰け反るようにして体を硬直させる。完全なる隙。

 

「ユキノさんっ」

「ええ」

 

キリトが作り出した隙を逃さず、アスナとユキノは全速力で地面を蹴りつける。さらに続くのはエギル達。アステリオス王の前にバラン将軍を倒さねば、この戦いに勝機はない。

それがわかっているのか、本隊メンバーも合わせて各々が全力で剣技(ソードスキル)をトーラス族の将軍に叩き込み、色とりどりのエフェクトが光を散らす。

 

―――だが。

 

「くっ......!?」

 

僅かに、届かない。

 

残り数ドットの体力。あと少しだというのに、ソードスキルを放った後の硬直時間によって全員が動けない。

―――不味い。ユキノはそう悟るが、システムには逆らえない。だが、このままではバラン将軍のナミング技を連続で食らい、アステリオス王の攻撃まで加われば―――

 

「また、かよっ」

 

だが、そんなユキノの悪寒はキリトの行動によって払拭される。《ソニックリープ》の直後、空中で仰け反った姿勢から強引に繰り出される《閃打(センダ)》がバラン将軍の胸に僅かに届き、残り数ドットだった体力は余さず0へ。膨張し、ポリゴンとなって将軍は砕け散る。

 

「ふぅ......」

 

スキル後硬直から解放され、ユキノは安堵から息を吐く。僅かに、気を抜いてしまった瞬間。

 

―――それがいけなかった。

 

「―――ッ!」

 

尋常でない様子で、キリトが何事か叫ぶ。なんだ、と思った直後にユキノは彼に左腕で抱えられていた。

 

「な―――」

 

なにをするの?と続けようとした瞬間。彼女の視界を、膨大量の白い光が染め上げた。意識が一瞬飛ぶ。

 

「ぐ......」

 

気付けば、ユキノはキリトに押し倒されるような姿勢で、地面に転がっていた。キリトが呻き、その様子がおかしいことに彼女は気付き―――直後、自分の体も動かないことに気付く。体の感覚が、遠い。動かそうとすれば動くが、その動きはもどかしいくらいに鈍い。

何事か、と目を動かして体力ゲージを見れば二割も削れており、加えてそのすぐ下にはとある阻害(デバフ)アイコン―――キリトが口を酸っぱくして注意していた状態異常、麻痺(パラライズ)のアイコンが現れていた。

 

「ユキ......ノ......」

 

普段なら『ユキノさん』と敬称付きで呼ぶキリトだが、非常事態なのかそれを省き、囁くようにして告げる。

 

「POTで......治療、を」

「......!」

 

POT。それはポーションの略であり、彼女は彼に言われて麻痺治療用のポーションを飲み干さねばならないことに気付く。早くしなければ、アステリオス王の餌食になるに違いない。

ユキノは必死になって右腕をポーチを伸ばすが、その動きは遅々としていてもどかしい。加えて、自分の上にいる少年が非常に邪魔だというか動くなくすぐったい。助けられたのは事実だが、セクハラ紛いのことをされているのもまた事実。この戦いで無事生き残れたらこの真っ黒くろすけ(ブラッキー)を処刑しよう、とユキノは内心決意する。

 

「......どうして」

 

麻痺治療ポーションを飲み干し、彼女はキリトに短く問う。《アステリオス・ザ・トーラスキング》はすでに目前で、リンドとキバオウ目掛けて振り下ろさんと、高々とハンマーを振り上げている。レイドリーダーである彼らを殺せば、あの牛の王が向かってくるのは此方だろう。わかっていても、体は動かない。

―――麻痺の治療は、ポーションを飲んだからといってすぐ回復するわけではない。早くとも60秒、回避はもはや間に合わない。これが末期の会話になるのかもしれない―――とユキノは何処か達観しつつ、糾弾するように少年に尋ねた。

 

「わからない」

 

少年は短く、単純(シンプル)な答えを返す。―――わからない。なんだそれは、とユキノは返そうとして。

 

―――人を助けるのに、理由はいらない。

 

そんな言葉を何処かで読んだような、と彼女は場違いな思考をする。そして、そこでふともう一人の少女のことを思い出した。自分はこのセクハラ剣士に助けられて直撃を免れたが、彼女はどうなったのか―――。

 

「アスナ、さん―――」

 

少年の体の暖かさを感じながら、彼女はもう一人のパーティーメンバーの名前を呟く。自分より年下の、美しい少女。せめて彼女には―――

 

「......!?」

 

と、そこでユキノは瞠目する。

ボス部屋の薄暗い天井を切り裂くようにして光が飛来し、アステリオス王の額に輝く王冠に直撃。アステリオス王は仰け反るようにして攻撃をキャンセルされる。

 

「あれ、は―――」

 

否、それは光ではない。

するすると自動的に戻っていくそれは、おそらくチャクラム。普通なら落下するはずのそれは、見えざる糸に引かれるように、するすると戻っていく。

―――そして、短いディレイから回復したアステリオス王は怒声を上げ、チャクラムが飛来した方向へと体を回転させる。ターゲットが変わったのだ。思えば、今のがアステリオス王へのファーストヒットだった。

 

「―――すまねぇ!俺としたことが、竦んじまった!」

 

突然、後方から伸びた腕がキリトとユキノを同時に抱え上げる。その豪腕の持ち主であり、深みのあるバリトンの声で謝罪するのはエギルだった。

プレイヤー二人と言えばかなりの重さのはずだが、エギルは簡単にそれを抱え、ボス部屋の東の壁際へ走り出す。見れば、エギルの友人三人も麻痺を食らったプレイヤーを運び始めていた。

 

「......っ」

 

巨漢に抱えられながらも、ユキノは必死に首を動かす。アスナは、どうなったのか―――。

 

―――そして、ユキノは驚愕した。

 

「な......」

 

隣で抱えられているキリトも驚愕の声を漏らした。

驚愕した点は二つ。一つ目は、鍛冶屋のネズハが、あのチャクラムを操っていたこと。

そして、もう一つが―――

 

「あいつ......」

 

キリトとユキノの視線の先。そこにあったのは、とある光景。

 

―――地面にへたりこみ、呆然と見上げるアスナ。そしてその前には、彼女を守るように立つ一人のプレイヤー。

蒼いマフラーを首に巻き、手に持つのは黒金の槍。その深みのある金属光沢はそれが業物であることを証明している。

マフラーの上には二つの瞳。どろりと腐ったような、深淵のような瞳。見たものに悪寒を抱かせながらも、引き込むような双眼。まるで、地獄を見てきたかのような目―――。

 

「ハチマン......」

 

情報屋アルゴが全幅の信頼を置き、彼女以外の指示では動かない槍兵(ランサー)

 

ハチマンが、そこに立っていた。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

ああめんどくさい。俺はそう思考しながら、槍を無言で構える。後方にはアーちゃんことアスナがいる。

 

「......なんで」

 

呆然としたような呟き。数瞬の間の後、それが俺に向けられたものだと気付き―――俺は振り返り、栗色の髪をした少女に告げた。

 

「―――それが俺の仕事だからだ」

 

簡潔な答え。背後で息を飲む音が聞こえた。

......まあ、本当は別に理由なんぞないんだが。《疾走》を使ってかっさらうようにして《アステリオス・ザ・トーラスキング》のブレスから回避させただけだ。そこに知り合いのプレイヤーがいたから助けてみた、というのが真相だ。

 

「おい、いつまでそうしてるつもりだ」

「え......」

 

俺は呆れたように片眉を上げ、へたりこむアスナに告げた。

 

「戦うのなら、剣を持って立て。そうじゃないなら、邪魔だからどっか行ってろ」

「わ......私だって戦います!」

 

アスナが顔を赤くして立ち上がる。俺はそうか、と頷いてアステリオス王を見つめる。飛来するチャクラムがアステリオス王をディレイさせる様子を見て、やるじゃねえかネズハ、と俺は小さく呟いた。

 

「―――いるんだろ、アルゴ」

 

根拠のない確信と共に吐き出した言葉。だがその予測は違わず、背後の空間が歪んで《鼠》のアルゴは現れた。

 

「なんの用ダ?」

「ネズハに、ボスのブレスだけは確実にキャンセルするように言ってくれ。他はどうにでもなる」

「あいあいサー......アーちゃんのこと、頼んだヨ」

 

そんな言葉を残して消えるアルゴ。俺は顔をしかめ、どうしたものかと視線を移す。そこにいたのはレイピアを持ちながら立っている少女。

 

「アスナ、だったか」

「は、はい」

 

何故か緊張したようにこちらを見ているアスナに背を向け、俺は言った。

 

「―――好きに動け。後はこっちで『合わせる』。麻痺したプレイヤーが回復するまでの時間を稼ぐぞ」

 

なんか大物っぽいことを言ってる感を出してるが、翻訳すれば『うん、俺どうしたらいいかわかんないし後衛やるねー。麻痺したプレイヤーが治ったら逃げるから、そこんとこよろしく☆』ということだ。割とゲスな思考だが、俺としては死にたくないのでしょうがない。端から見れば、美少女を盾にしてようなもんである。だが私は謝らない。

 

「......!わかりました!」

 

適当なことを言った自覚はあるが、どうやら騙くらかせたらしい。俺は無言で肩を竦め、《隠蔽(ハイディング)》を発動。熟練度100を越えた《隠蔽》は戦闘中でもなかなか解除されることはない。とは言っても、さすがに攻撃行動を行えば解除されるが。

 

「......はぁ」

 

俺はフロアボスと戦ったことなどない。中ボスと戦ったことすらない。だが、恐怖感はそこまでなかった。いや、あるにはあるのだが―――戦闘用に意識を切り替えている、とでも言おうか。具体的に言うなら、喜怒哀楽が鈍くなったような状態。これもまた根拠のない確信だが、今の俺は目の前で誰かが死んだとしても、淡々と戦闘を続行できるだろう。

 

「............」

 

さて―――行くか。

 

俺は飛び出していったアスナを追うべく、ボス部屋の床を蹴った。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「す、げえ......」

 

キリトは息を飲む。その視線の先にあったのは、とある戦闘風景だった。

 

―――そこでは、巨躯を誇るトーラス族の王と、二人のプレイヤーが激闘を繰り広げていた。しかも、プレイヤーのほうがアステリオス王を圧倒している。死角のない完璧なコンビネーションが、《アステリオス・ザ・トーラスキング》を封殺していた。

 

まず目を引かれるのは細剣使い(フェンサー)の少女―――アスナだ。だが、注目すべきはそちらではなく、短槍使い(ランサー)の男。

 

「......さすがだネ、ハッチ」

 

一見すれば完璧なコンビネーションのように見える。刺突に次ぐ刺突、一方がもう一方の死角を潰す。だが、よく見れば―――アスナは短槍使い(ランサー)の男、ハチマンの動きを考慮していない。

そう、ハチマンは完璧に、アスナの動きに合わせていた(・・・・・・)

 

「......ッ!」

 

アルゴは静かに称賛し、キリトはその一挙手一投足に目を離せない。まさに絶技。パーティーを組んだこともない相手の調子に合わせ、その動きを予測し、一方的に完璧な連携を完成させている。その動きは、まさに(アスナ)に付き従う影。

 

―――だからこそ、惜しい、とキリトは感じた。

一見完成されているが、あれはハチマンが一方的に合わせているだけ。アスナが背中を預けているだけ。ならば、もしアスナがハチマンの動きを把握し、ハチマンがアスナに背中を預けたならば。

―――おそらく、完全無欠の連携(コンビネーション)が完成するに違いない。それこそ、数千の敵を前にしても、一歩も引かない程の。

 

「............」

 

ユキノは無言でその様子を見つめる。その眼に写っていたのは、自分を殺し、『影』と化した男の姿。彼女の理想を切り捨て、無駄だと否定した男の背中。

―――だからこそ、彼女の胸中で対抗心が燃え上がった。

 

「立ちなさい、キリトくん。いつまでへたりこんでるつもりなのかしら」

「あ、ああ」

 

麻痺から回復したユキノは、同じく回復したキリトを引っ張り上げるように立たせ―――戦場へと身を投じるのだった。

 

 

 

 

―――一方、アスナは細剣(レイピア)を振るいながらも舌を巻いていた。『合わせる』と豪語していただけはある。さすが、と言うべきだろう。アスナ自身は、ハチマンに言われた通り『好きに』動いているが、それをサポートするような形でハチマンは槍を振るっていた。彼女の隙を埋めるようにソードスキルを放ち、かと言ってアスナの動きを邪魔するようなことは一切ない。そろそろ交替(スイッチ)するべきか、とアスナが思考したと思ったら、彼はそれを見越していたかのように前へ出てくる。逆もまた同じで、初めて共闘しているというのに連携が取れている。割と本気で「心を読んでいるのではないか」と彼女は疑っていた。

 

―――だが、ふと。もし彼が敵に回ったとしたら、とアスナは考えてしまった。

彼は、味方であるならば非常に心強い。背中を預ければ完璧にこちらをサポートし、即席の連携も組める。今の彼女は過去一ヶ月と少しの中でも絶好調であり、それも全てはハチマンの的確なサポートによるものだろうと考えている。

 

......だが、もし、彼がアスナの敵に回ったとしたら?

おそらく、何もできないまま封殺されるだろう。此方の攻撃は掠りもせず、彼方の槍が彼女の心臓をいとも簡単に貫く様子がありありと想像できる。意識的にしろ無意識的にしろ、彼の読心に近い未来予測は対人戦において絶対的なアドバンテージとなるだろう。もし彼に勝とうとするならば、まず初手で圧倒し、手を打たせないままに倒すしか―――

 

「......!」

 

なにを考えているんだ、とアスナは最悪の想像を振り払う。まずその状況設定が有り得ない。その状況ならば、彼はまるで―――PK(プレイヤーキラー)ではないか。

 

―――と、そんな思考をしている間に、共闘の時間は終わる。

 

「......十分に時間は稼いだ。そろそろ引くぞ」

「え―――」

 

彼女は一瞬彼が何を言っているかわからず、そして抵抗の意を示そうとし―――はっとする。今自分は、『もっと戦いたい』と思ったのか?

 

「どうした、引くぞ?」

「え、あ、はい」

 

自分の思考が半ば戦闘狂になりつつあるのに気付き、アスナは少し赤面する。そしてアステリオス王に突っ込んでくるA隊、D隊と入れ替わるようにして、撤退するのだった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

疲れた。

 

俺はボス部屋の壁際にまで退避し、げんなりとする。今の俺は普段の五割増しで目が腐ってるに違いない。

―――というか、張り切りすぎじゃないですかねアスナさん。サポートするこっちの身にもなれよ。もう滅茶苦茶疲れた。しかも跳んだり跳ねたり色んな意味で危なかったんですがね。

 

「大健闘だったナ、ハッチ」

「もう二度とやらん。というか帰る。今すぐ、あずすーんあずぽっしぶる」

「まあ待てって」

 

ボス部屋から離脱せんとする俺をアルゴが引き留める。いやもう帰って寝たい。なんか皆さん揃って《アステリオス・ザ・トーラスキング》をフルボッコにしてるけど、俺はもう帰りたい。というかまた参戦してるし元気ですねアスナさん。フロアボス攻略戦って毎回こんなに疲れるのかよ?

 

「ついでにLA取って帰ろうゼ」

「なに言ってんのお前」

 

さらっと無茶振りしますね、この娘。

俺はニヤニヤと笑うアルゴから逃げ出そうとするが、アルゴはしっかりと俺のコートの裾を握っている。ついでにマフラーも引っ張り......いかん、首が絞まる。

 

「ほら、ここから狙えるんじゃないのカ?」

「いや無理だろ、さすがにここからじゃ......あ」

 

......うん、やれないことはない。

俺は目を凝らし、《アステリオス・ザ・トーラスキング》を見据える。狙うとすれば額の王冠だろう。

 

「よしやれやれハッチ!」

 

お前ならできル!と適当なことを言って囃し立てるアルゴを無視し、俺は《アイアンランス》を片手で持ち、弓を引き絞るようにして構える。さて、当たるか―――。

 

「―――フッ!」

 

親指と人差し指で引っかけるようにして投擲。さらにそれはオレンジ色のライトエフェクトを纏って加速。―――短槍遠距離投擲技《ジャベリン》。文字通り投げ槍だが、あまり使い道のないソードスキルだ。威力はそこそこ高いが、これ使ったら手元の武器がなくなるのである。完全に死にスキルな気もするが、どう転ぶか―――。

 

そんなことを考えている間にも、俺の投擲した《アイアンランス》はオレンジ色のレーザーのごとく飛翔する。そして、一際高いところにある《アステリオス・ザ・トーラスキング》の頭に―――

 

「「あっ」」

 

ズドン、と突き刺さり―――残り五ミリくらいあったゲージが消滅。アステリオス王は膨張、爆発四散。

 

......流れるCongratulation!の文字。そして表示される《You got a Last Attack!》の英文。さらに加算される金、経験値、そしてドロップアイテム。遠目に見えるのは唖然としてこちらを見てくるプレイヤー達。

 

「......」

「......」

 

―――やっちまった。

 

完璧にとんびに油揚げをかっさらわれた的なアレだ。

俺はアルゴと顔を見合わせ、乾いた笑いを漏らすのだった。




《読心》はシステム外スキル。ただし《閉心》の持ち主には通用しないとか......?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。