やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE! 作:あぽくりふ
自分に、『自分』など存在しない。
私はその事実を認識して自嘲する。思えば、全ての間違いは幼少期にあった。
......私は幼い頃から『完璧』を強いられてきた。
いや、強いられてきたというのはおかしい。ただ私が勝手に期待され、その期待の全てに答えてきた結果、さらなる期待を持たれるというスパイラルに陥っただけ。
普通ならば途中で挫折し、そのスパイラルは止まるだろう。止まるはずであり、止まるべきだった。
―――だが私は、天才だった。
それは事実であり真実だ。今まで私が積み上げてきたもの全てがその事実を肯定している。才能が、この身に満ちていた。
......だから、私は全ての期待に答えてしまったのだ。
全てを『完璧』に。求められるがままに、ただ一度の失敗も敗北もなく。ただ両親に失望されたくなくて、がむしゃらにその呪われた才能を発揮した。
文武においてはもちろんのこと、それは『外面』にまで至った。両親の職業上、私は『娘』としてパーティーに招かれることなども多々あり、両親の面子を潰さないためにも私は必死で外面を取り繕った。始めは違和感が少しあったそれは、年を重ねるごとに磨きがかかっていった。
―――私自身ですら、『外面』と『ホンモノの自分』の区別がつかなくなるほどに。
これは私が望んでいることなのか?他人に好意的に見られるように計算した行動なのか?それともそのどちらでもあるのか?
もう何処からが私なのかわからない。皆に望まれる理想のワタシとホンモノの私が混じってしまって区別がつかない。それはまるで、皆の理想を無理矢理同じ枠に納めたような、イビツなワタシ。歪んだ
唯一私が異常であることを見抜いたのは私の妹と、その幼馴染みだけだ。だがその妹も私と違った形で歪み、幼馴染みも私と似た道を辿った。よくある少女漫画のように、都合よく救われる物語など有り得ないのだ。
......もうどちらのワタシが私なのかわからない。ホンモノもニセモノも区別がつかない。自分自身の真偽すらわからない壊れたマガイモノ。そして当然、そんなマガイモノが見る世界は、全て醜悪なニセモノにしか見えなくて。
―――だが、そんな私が唯一ホンモノだと感じられるのが、闘争だった。それはこの世界に来て見つけた唯一の真実だ。
互いの命を平等に賭けた殺しあい。苦痛が、呪いが、慟哭が私を生きていると実感させる。こんな何の意味もない、欺瞞と偽りに満ちた世界でそれだけが真実。意思のないAIを殺すのはただの作業だ。だが、互いの裏をかこうと足掻くヒトの闘争は、私が確かにここにいることを教えてくれる。私の存在を肯定してくれる。こんなに胸が高鳴るのだから、私は確かにホンモノなのだと。
現実など知ったことか。
―――だが、ふと思った。
本当は......ワタシは、私を殺してくれる誰かを探しているのではないか?
※※※※※※※※
「レッドプレイヤー?」
「そうダ。有り体に言えばプレイヤーキラーだナ」
「なんで今さらそんなもんが出てきてるんだ......?」
俺は顔をしかめた。理解出来ない、というのが俺としての感想だ。倫理的な問題はさておき、まずメリットがない。別にプレイヤーを殺したとしても劇的にレベルが上がるわけでも熟練度が上がるわけでもなく、アイテムや装備が数個ドロップして終わりである。つまり、快楽目的で殺人を犯していることに他ならない。
「しかも、段々規模が拡大してるみたいでナ......」
......確実にPKだと思われる事件の発生数は、15層で初めてPKが確認されて以来増加傾向にあり、集団で行動しているのはほぼ間違いない。
そう言って、アルゴは溜め息を吐いた。
「......対処しにくい問題だな」
―――デスゲームが始まって6ヶ月、現在最前線は25層。俺はレベル42となっていた。
「行動範囲とかはわからないのか?」
「層も時間も全部バラバラ。あとデータ量が足りないナ。騒ぎになってない事件も含めれば、おそらく......ざっと現在の三倍はPKが起きてるだろうヨ。こいつら、口封じが上手いゼ」
「頭が回る実力派の殺人鬼集団とか、厄介とかいうレベルじゃねえぞ」
俺は呻く。いくらレベルが高くとも、一人では対処する方法はいくらでもあるのだ。麻痺薬を塗った短剣を刺して転がして、武器を刺しっぱにして継続ダメージで殺すことも可能だ。―――殺人の忌避感がない連中は、そこらのフラグMobより恐ろしい。
「......最低でも、《攻略組》クラスのレベル帯が六人パーティー、それが五組は欲しいな」
つまり、《攻略組》を最低でも三十人導入しなければいけないということだ。現実的な数字ではない。
やるとすれば、
「そいつらの巣を叩ければそれにこしたことはないんだが......」
「だろうナ。目下捜索中だけど、あまり芳しくはないヨ。サブダンジョンの情報は集めにくいんダ」
犯罪者を示す
つまり必然的に、
「......所詮は中層プレイヤーだからな。
最近になって出現してきた《中層プレイヤー》。彼らは《はじまりの街》で延々と待機しているわけでもなく、《攻略組》のように最前線で命をかけて戦い続けるわけでもなく、安全マージンをたっぷりとった上で適度にこのSAOを楽しんで、クリアされるのを待とう、という連中だ。一番かしこい選択肢ではあるのかもしれない。
......だが、その中でも
「キリトは、まだあのギルドに入り浸っているのか?」
「《月夜の黒猫団》ナ。ここ最近で、かなりの勢いでレベルを上げてるヨ」
......どうなのだろうか、と俺は腕を組んだ。
ぬるま湯に浸かっていれば剣の腕が鈍る、なんてことを言う気はない。そもそも《攻略組》ですらない俺がそんなことを言う権利はないのだ。
ただ、最近はあの三人組を見ていなかった。
「............」
俺とキリトの関係性は、せいぜい顔見知り、といった程度のものだ。
2層ではかなり険悪な空気になったものの、お互い触れることすらしなかったので風化ている。
故に、俺がキリトのことに顔を突っ込む義理はないし権利もない。だが―――少し気になるには気になった。
「なあ......もしそいつらが適正レベルまで上げて攻略組の仲間入りしたとして、戦力になると思うか?」
「............」
アルゴは逡巡する。だが、その行動がもはや答えだった。
おそらく、キリトが行っているのはパワーレベリングというやつだ。
キリト自身は彼らより20以上もレベルが高く、ここより10層も下で狩りをしたとしてもなんの足しにもならない。キリト自身は防御に徹し、ギルドのメンバー達にひたすら攻撃させるというスタイルなのだろう。確かに、レベリングとしては正しいのかもしれない。
―――だが、それが即ち『強さ』に直結するのだろうか?
攻略組の連中は独力のみでレベルを上げ続け、それに伴う技術の向上、恐怖心の克服などを可能としているのだ。攻略組と中層プレイヤーでは、レベル差もそうだが―――心の在り方、剣の重さの次元が違う。すでに攻略された層のサブダンジョンを攻略していくのと、常に死線に身を置いている者の差。後者ならば、その剣術、槍術、斧術は嫌でも高い次元へと押し上げられていくのだ。
おそらく、急激なレベルアップによって《月夜の黒猫団》は慢心しているだろう。傲り、もしかするとモンスターやトラップ相手に油断するという愚を犯す可能性もある。そこはいかにキリトが手綱を持つことができるかによるが、あまりにも危うい行為だということはわかる。
「......とりあえず、目は離さないようにしといたほうがいいな」
「わかってるヨー。ハッチは今日はどうする予定?」
ふむ、と俺は考えこむ。今日の予定としては強化素材集めでもしようかと考えていたものの、昨日のドロップ運がやけによかったので規定の数までは集まっているのだ。つまり今日は―――
「コイツを強化した後、慣らしてくるわ」
「りょーかい、帰ってきたら新聞の原稿考えて貰うからよろしくナ」
「お、おう......」
働くのは確定なんですねわかります。
俺は内心で溜め息を吐き、主街区の中央にある転移門目指して歩きだすのだった。
※※※※※※※※
アインクラッド17層、というのはあまり特徴のない層だと俺は記憶している。
1層は《はじまりの街》があり、3層はキャンペーンクエストの発生地点だった。4層は水路が無数に張り巡らされた層であり、一見する価値はある。7層は俺がポーカー50連勝して一財産築いた賭博の街があり、9層には二つ前の相棒だった《クイーンズ・ナイトランス》を下賜してくれたダークエルフの女王がいる。15層はドワーフの街があり、22層はMobの湧かない
17層は、例えるなら熱帯雨林である。
ジャングルや湿地、そして古代遺跡に似たダンジョンなどが広がる17層はひたすら蒸し暑い。それだけの層であり、フロアボスも豹に似たボスだった覚えしかない。そこまで特筆すべき行動もなく、あっさりと撃破してしまったはずだ。
ならばなぜ、俺がこんな層に降りてきているのか。それは―――
「......お、いたいた」
カァン、カァンと金属をぶっ叩く音が響いてくる。中層プレイヤーやNPCが行き来する通りを抜け、俺は音が響いてくる区画に歩いていく。
......白のシャツに茶色の繋ぎ。手袋をした手には《ブラックスミス・ハンマー》系のハンマー。左手でぐいっと汗を拭う様子はまさに職人である。
「よう、リズベット」
「ん?......あー、いらっしゃい」
無造作に結んだ茶髪のポニーテールを揺らし、こちらを振り向いた
適当すぎる彼女の接客態度に、俺は苦笑するのだった。