やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE!   作:あぽくりふ

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14話

 

 

 

 

―――ユウキとランはコンビのプレイヤーだ。

 

コンビ、というのは特別な関係のことを指す言葉で、それらはただ同じギルドに所属する仲間を指すのでもなく、ただ漫然と同じパーティーを組んでいる仲間を指すのでもない。

『コンビ』というのはお互いの短所をお互いの長所が補い、何を言わずとも通じ合い、ただの一言も発することがなくとも完璧な連携(コンビネーション)を成すことができる関係だ。少なくとも、俺はそう捉えている。

 

俺がユウキとランと知り合ったのは9層でのこと。無謀にも安全マージンもろくに取らず、サブダンジョンで強引なレベリングをして死にかけていた、二人組の少女を助けてしまったのが始まりだった。

―――まあ盛大な勘違いで助けてしまったのだが、助けてしまった以上は一応の面倒は見てやらなければならない。結局一時的にパーティーを組み、Mobのタゲの取り方やソードスキルの利点や弱点、効率の良い狩場や複数対一の場合の対処法など―――すなわち生き残るための方法を叩きこみながら15層くらいまでは行動を共にしていた。......正直信じられないくらい甘っちょろい行動だが、声が小町に激似ということもあっていつのまにか頷いていたのだ。それが原因で勘違いしてしまって助けてしまったのだが。

 

......そして結果的にはユウキが予想以上の近接戦闘の才能を発揮し、ランは出所不明のエクストラスキルを使いこなすようになったため二人とも俺より強くなってしまったためパーティーは解散。今では《攻略組》に迫るレベルを持つハイプレイヤーであり、職業柄ちょくちょく顔を合わせることもある仲だ。

 

だがまあ、一時的とはいえ師事され、色々と教えていた時期があったせいか今でも『師匠』呼ばわりされ、つまり何が言いたいかというとだ。

 

「~♪」

 

結論を言おう。なんかなつかれた。

 

「......ユウキ。首が重いから離れなさい」

「やだ」

 

即答かよ。

一歩間違えれば首を絞めていると言えそうな強さでユウキが後ろから首に手を回しながらくっついてくる。子猫が親にじゃれついてくるようなものだが、いかんせん鬱陶しい。ひっぺがしてもまたすぐくっついてくるため、俺は死んだ目をしながら耐えるしかない。

ちなみに姉のほうは俺の前でひたすらドーナツをもっさもっさ食らっている。助けろよ。あとユウキさん、周りの目が痛いんでそろそろ離れていただけると嬉しいんですが。

 

「いや、お前ら強化素材狩りしてたんだろ?こんな所で油売ってていいのかよ」

「私はドーナツを食べねばならないのでな」

「ボクは師匠成分を補給しなきゃいけないからダメ」

 

もうやだこいつら。どうしてこうなった、と俺は内心で呻いた。

......このユウキ&ランの姉妹に助けられた後。俺は命の恩人とも言える彼女たちになんらかの謝礼をしようと申し出たのだが、そこでランには「では師よ、25層のドーナツが食べたいのだが」と言われ、ユウキには「ボクは何もいらないよ」と言われ。結果めったくそ高いドーナツを15個奢らされ、このひたすら首にかじりついてくる地獄が展開されたのだ。だから匂いを嗅ぐんじゃねえよ、犬かお前は。

 

「......ふぅ。美味だった」

「師匠の匂いだー」

 

ようやくランがドーナツを全滅させ、会話ができる状況になる。俺は首筋ですんすん鼻を鳴らすアホ(ユウキ)をひっぺがし、隣の席に座らせた。なんか不満そうにしているが無視。

 

「で、だ。どうしてあんな所で襲われていたんだ?我々が師と素材集めをする約束をしていなければ、おそらくあの殺人鬼になぶり殺しにされていたぞ」

 

確かに、と俺は頷く。正直ランとユウキが来なければ、俺は死んでいたか拉致られていたかの二択だっただろう。昨日メールで送られてきた誘いを蹴らなくて正解だった。それのお陰で、集合地点に来ない俺を怪しんでラン達がフレンドの位置検索でやってきてくれたのだから。昨日の俺を褒めてやりたい。

......ちなみに、今のところ俺がフレンド登録しているのはアルゴとランとユウキの三人だけである。

 

「......わからん。気付いたら突然殺しにかかってきていた、としか言えんな」

 

なんだそれは、とランが眉をひそめる。

考えられる選択肢としてはあいつが突発的にプレイヤーを襲う快楽殺人者なのか―――もしくは狙って俺を襲撃してきたのか、だ。どちらも考えられるだけに特定が出来ない。異常者の精神分析ができる、なんて特技を俺は持っていないのだ。通常の思考でないならば、それをトレースするのは難しい。

......というか、俺を襲撃する理由が見つからない。いや、そもそも殺戮に意味を見出だすのが間違っているのか?殺人鬼の思考は異常にすぎる。

 

「理由も不明、潜伏先も不明、謎の関節技を使うPK(プレイヤーキラー)......か」

 

厄介すぎる、とランはこぼす。俺は顔を歪めて右肘に力をこめる。―――システム上は回復している。だが、未だに動かなかった。

 

「......まだ痛むのか?」

「いや。けど動かせない」

 

骨が砕かれるあの痛みを幻肢痛のように思い出し、俺はぶるりと身体を震わせた。できればもう二度と味わいたくない。―――だが、これはよく考えたら異常なことだった。

 

このSAOには、《ペインアブソーバー》というシステムがある。これはVRゲームならばどれにでもあるシステムであり、有り体に言えば痛みを鈍くするものだ。これがなければ俺たちプレイヤーはモンスターに攻撃された際に現実となんら変わらない痛みを味わうことになる。当然そんなではとてもじゃないがゲームを楽しむなんとことはできないため、VRゲームならば必ず導入しているシステムだ。現に、今まで俺はモンスターに戦鎚(メイス)で胴をぶん殴られてもほとんど痛みを感じなかった。胃がひっくり返るような衝撃は受けたが。

―――つまり、俺がこれほどの痛みを感じたのは『ありえない』ことなのだ。考えられる可能性は二つ。一つ目は、あのPoHというプレイヤーがGM(ゲームマスター)、つまり茅場晶彦に近い人間であるが故にシステム管理権限を持っている可能性。二つ目は、そういうスキル―――つまり《エクストラスキル》である可能性だ。

......もしあの痛みを与えたのが《エクストラスキル》なのだとすれば、それはPK専用のものに違いない。悪趣味にすぎる。

 

―――だが、そういうスキルが存在するのは否定できない。現に、俺の目の前に『ありえない』スキルの持ち主がいるのだから。

 

「......ラン。【射撃】はどこまで上がった?」

「まだ300程度だが......どうかしたのか?」

 

人目につかず使える機会が少ないのだろう。レベルに反してかなり低いその熟練度を聞いて、俺は何でもないと手を振る。

 

―――【射撃】。それは『ありえない』はずの遠距離攻撃スキルである。

現在はランのみに発現しており、入手条件も一切不明なエクストラスキル。【射撃】というものの、適用武器は銃ではなく弓だ。威力自体はそこまでで、主に状態異常がメインな武器スキル―――だが、非常に強力だ。

なにせ、近接戦闘のリスクを負わず遠距離から一方的に攻撃を叩きこめるのだ。加えて『前衛』と『中衛』しかいないSAOで唯一『後衛』と言えるため、パーティーにいると連携の幅が大きく広がる。非常に強力な《エクストラスキル》だと言えるだろう。

 

「......考えられる線では痛覚を操作できる《エクストラスキル》、か。最悪だな」

 

『痛い』とわかれば、頭でどう考えたとしても咄嗟に身を引いてしまう可能性もある。戦闘においてそんな隙を晒すのは致命的であり、考えたくはないが―――もし奴と再び戦うはめになった時にはいかにそこを攻略するか、になりそうだ。まず純粋な格闘技術において劣っていることも問題だ。あの関節技(サブミッション)をいかにしのぐかも鍵となる。

できれば少しは格闘技術を向上させたい、のだが―――

 

「............」

「ん?ボクの顔になんかついてる?」

 

俺は頭ひとつ小さいユウキを見下ろし、どうしたものかと思案する。純粋な近接戦において天才なのはユウキだが、超接近戦―――それこそ蹴りや投げ技、関節技(サブミッション)がモノを言う戦いは素人だろう。......というか、SAOに関節技(サブミッション)のような対人限定な戦闘スキルはないため、そもそもそんな教えられるようなプレイヤーはいないのかもしれない。

 

「......なあ、ユウキ。俺がまた奴と戦うとして、どうやったら勝てる......いや、撤退できるだけの隙を作れると思う?」

 

そんな俺の問い掛けに、ユウキはうーんと唸って考えこむ。黒髪紅眼の天才剣士は少し考えた後、簡潔な答えを出した。

 

「多分ムリ」

「そうっすか......」

 

俺は若干凹みながら肩を落とした。今の俺じゃ逃走すら無理、ってことか。

 

「え、いや、それは今の師匠じゃ、ってことだから!別に可能性がないわけじゃないし!」

 

あんましフォローになってないフォローを聞きながら、俺は左手をぐーぱーしてみる。―――成る程、今の俺では自分の身一つ守れないということか。そこそこ強くなったつもりではいたが、まだ足りないらしい。

 

だからと言って何をしたらいいかはわからないが、とりあえずはPoH戦の反省を踏まえてさらにプレイヤースキルを磨く必要がある。......例えば、左手でも万全に槍を扱えるようにしたり。

思えばPoHに右に回りこまれたあの時、身体を半回転させながら斬撃を放っておけば右腕を折られるのは回避できたかもしれない。左手一本で短槍を扱うことに馴れていれば、あれを凌げたかもしれなかった。

 

「......まだまだ鍛えるべき点はあるな」

 

だが、別にあの戦いで確認できたのは己の未熟さばかりではない。あの投げナイフを完璧に捌ききったのは我ながらファインプレーだと思っている。昔、ランに弓を乱射して貰ってひたすら弾く訓練をした成果だろう。どこぞの街の一時的(インスタンス)マップの中で三日くらいやった覚えがある。

 

―――だが、足りない。

 

「......なあ、ユウキ。俺に稽古をつけてくれないか?」

「へっ?」

 

ユウキが驚愕し、目をぱちくりさせる。そして恐る恐る自分を指差した。

 

「え、ボクでいいの?」

「いや、お前以外に誰がいるんだよ」

 

俺は呆れて片眉を上げる。ユウキはなにやらあわあわしていたが、ランは当然そうなるだろうなと言いたげにコーヒーを飲んでいる。いつのまに注文したんだ。

 

「えええええ、でもボク以外にもキリトさんとかユキノさんとかいるでしょ?」

「馬鹿言え」

 

俺は鼻を鳴らし、そして堂々と二人に言い放った。

 

「―――俺は、ぼっちだぞ?」

 

あんなイケイケ共に話かけられるか。というかまともに話を聞いてくれるわけねえだろ。

 

そう言うと、双子の姉妹は「あっ(察し)」という表情をする。......いや、まあ別に話すこともあったりするけどね?《攻略組》のプレイヤーでまともに話せるのはクラインくらいのものだが。後はごくたまにアルゴがいなくて俺が応対するときがあったりする。俺は世間話はできないが、事務的な会話ならこなすことぐらいはできるのだ。中学時代からは大きな成長と言えよう。

 

だが、ふとユウキが首を傾げた。

 

「けど、前に話したときはキリトさんってかなり良い人っぽかったけどなあ......普通に頼んだら受けてくれそうだけど」

「む?そんな時があったのか、ユウキ?」

「うん、前に少し話しかけられて―――」

 

―――なんだと?

 

「ユウキ。その話を詳しく説明してくれ」

「し、師匠?」

 

なにやらユウキがビビッてるが、それどころではない。俺は場合によってはあの黒づくめ(ブラッキー)を処さねばならないかもしれないのだ。

 

「ね、姉ちゃん、師匠の目が怖いんだけど」

「そう怖がることはない。師は純粋にユウキを心配してるだけだろう。キリトさんは別名《女たらし》の異名を持つからな......」

「へ?でも、ボク別にアスナさんたちみたいに美人でもないし、違うと思うけど」

「......ユウキは自分の容姿についてもっと自覚を持ったほうがいいと思うぞ」

 

なにやら二人でこそこそ話し合っているが、それどころではない。あの羽虫め、大人しくしていれば見逃してやったものを......次に会ったらレーザーポインターで目潰ししてくれるわ。

 

―――と、そんな犯罪計画を脳内で組み立てていた時。ふと、ぽーんという電子音が響いた。見れば、メールの着信表示。

俺が指を振ってウィンドウを開くと、やはり差出人はアルゴだった。タイトルは『大至急』。なにごとか、と思いながら俺はメールを開く。

 

「..................」

 

そしてメールの文面に最後まで目を通し、俺は瞑目した。

 

「......悪い。少し用事が入った」

 

そう告げ、俺は席を立つ。すると、恐る恐るといった風にランが尋ねた。

 

「師よ、何かあったのか......?」

 

俺は一瞬言おうかどうか迷ったが、こいつらならば問題ないだろうと考え、頷いた。これはプレイヤー全体の士気を左右しかねない大問題だが、こいつらなら無闇に広めたりはするまい。

......全く、厄介事ばかりが重なってくるものだ。生き残ったと思ったら、すぐこれだ。

 

そして俺は、吐き出すように言った。

 

「―――25層フロアボス攻略戦が失敗した」

 

 

順調に来ていたはずのフロアボス攻略。

1層以来、犠牲者は出ていなかったフロアボス攻略で―――ついに、死亡者が出たのだった。

 

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