やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE!   作:あぽくりふ

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16話

 

 

 

 

―――決闘(デュエル)、というシステムがこのSAOには存在している。

 

そう、デュエルである。よく「デュエルしようぜ!」とかいうアレである。シールドをブレイクしたりトラップカードをオープンしたりコア増やしたり進化したり融合したりバーストしたりするアレである。......なんか色々混ざったな。

それはともかく、デュエルはデュエルだ。とはいっても、別にデュエルはポケモンバトルみたくなんでもかんでも解決できる万能な手段ではない。むしろ、方法にはよるが―――SAOにおいては非常に危険なものだと言えるだろう。

 

―――デュエル。それは本来ならば友人(笑)同士で行う腕試しのようなものだ。プレイヤー間で行われるそれは全部で三つのモードがあり、それが《初撃決着モード》、《半減決着モード》、《完全決着モード》だ。

だがこのSAOがデスゲームである以上、《完全決着モード》は論外。《半減決着モード》も万が一に当たり所が悪ければ死ぬ可能性もあるため除外され、結果主に使われるのは《初撃決着モード》である。これは最初に強攻撃をヒットさせるか、相手のHPが半減した時点で勝利する条件のモードだ。

 

 

 

 

―――だが。

 

「断る。俺はボス戦に参加するつもりはない」

「あら。あなたに拒否権があると思ってるの?」

 

そんなユキノの言葉に、俺は眉をひそめた。

「......ボスに参加するしないは任意だ。強制的なものじゃないし、だとしても俺は辞退する」

 

そう返すと、ユキノは床に視線を落とす。そして、囁くように言った。

 

「......そう。なら、仕方ないわ。だけど、それでは私たちも困るわね」

 

そう言って、ユキノは独り言でも言うかのようにぽつぽつと語り出す。

 

「......そうね。最近だと、中層でなかなか活躍しているプレイヤーがいるらしいし。彼女達(・・・)をヘッドハンティングするのもいいかしら」

 

―――まさか。

俺は瞠目する。まさか、この女―――!

 

「双子の少女。確か―――ランさんとユウキさん、だったかしらね?」

 

その口元に薄い笑みが浮かんでいるのを見た瞬間、俺はその思惑を遅まきながらようやく悟った。

 

「テメェ......!」

「あら、仮定の話よ?もし、何処かの誰かさんがパーティーから抜けたらとしたら―――のね」

 

このアマ、と俺は歯軋りする。《SAO最強の刀剣士》だと思っていたら、とんだ女狐だったということか。

殺意すら込めた視線をぶつけるが、目の前の女はそれを薄く笑って流した。

 

「自分の立場がわかったかしら?わかったなら、全力でキリトくんと戦うことね」

 

そう言い捨て、ユキノはくるりと背中を向ける。その背を睨むが、どう足掻いても選択肢は一つしかない。

 

「............下種(ゲス)が」

 

俺はそう吐き捨てる。すると、《武神》はぴたりと足を止めた。

 

「......何とでも謗りなさい。私は最善の方法を貫くだけよ」

 

そして凍てついた視線を此方にちらりと向け、宣言に似た言葉を放った。

 

「弱さが罪なら、強さは責任よ。強者はこのゲームをクリアするために戦わなければならない。逃げることは私が許さない」

 

かつて『全てを救うつもりか』と、俺は彼女を嗤った。そして今、その瞳を覗き、俺は悟った。

 

「彼女達を戦わせたくないのなら、己が頂点で戦い続けるに足る強さを証明しなさい」

 

こいつは、本気なのだと。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

 

―――今や攻略会議のためのホールは決闘場へと様変わりしていた。

テーブルは横へ寄せられ、部屋の中央では俺とキリトが対峙し、さらに部屋の隅では《攻略組》が野次を飛ばしながらこちらを見ている。いつのまに見世物になったんだろうか。

 

「......帰りたい」

 

ぽつりと呟いてみるが、群集のざわめきにかき消されて虚しく消える。そして表示される半透明のシステムメッセージ。

 

【キリト  から1vs1デュエルを申し込まれました。受諾しますか?Y/N】

 

「............」

 

発光する文字の下には【Yes/No】のボタンといくつかのオプションがある。全力で【いいえ(No)】を選択したくなる指先を抑え、俺はオプションで《初撃決着モード》を選択して受諾。ちなみにオプションでは何かを賭けることもできるらしい。

そして同時に60秒のカウントダウンが始まる。ウィンドウに表示される無情な数字を見つめ、俺は何度目かわからない溜め息を吐いた。この数字がゼロになった瞬間、デュエルが始まるというわけだ。

 

......勝てるのだろうか。だが、やるしかない。キリト対面した感覚では、PoHよりは強くないだろうと直感が告げている。アレほどのバケモノではない、ということだ。

 

俺は腹をくくり、いつのまにやら一桁となったカウントダウン表示を消す。見れば、キリトは片手剣を腰だめに構えている。それだけ見れば《ホリゾンタル》系統のソードスキルでカウンターを狙っているように見えるが、おそらくブラフ。ブーツの爪先のたわみからして、重心が前にかかっているのは見てとれる。おそらく本命は突進系ソードスキル、先手を取る気だ。目は爛々と輝いている。......完全に本気だ。

 

 

―――3。

 

槍を構える。あちらが先手を取るつもりならば、こちらは受け身の姿勢でカウンター......

 

―――2。

 

......と見せかけて同じく先手を取って潰す。もとよりユウキと同じスタイル、攻撃特化の片手剣士相手に受け身なのは自殺行為だ。勝とうとするならば、前へ出てひたすら殴りあうしかない。

 

―――1。

 

敵を懐に潜りこませるな。付かず離れず、槍が最も効率的に機能する間合いを維持しろ。

 

―――0。

 

『DUEL!』の文字が視界に表示されるのと同時に、俺は床を猛然と蹴った。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

先手を取ったのは、ハチマンだった。

 

「―――ッ!?」

 

青い光を纏う槍。キリトは驚愕しながらも横にそれを回避する。本来は《ソニックリープ》でこちらが先手を取るはずだったのだが、コンマ数秒速くハチマンが動いたために出鼻をくじかれたようになってしまっていた。

 

(......やるな)

 

突進系のソードスキルは優秀だ。威力は大きい上に防がれたとしてもノックバックが大きいために反撃しにくく、横に回避したとしても突進系故に間合いを取れるため、相手が攻撃してくるまでに体勢を立て直す時間は十分にある。開幕の一撃、そして仕切り直しによく使われるソードスキルだ。

 

つまり、最低限の戦闘の組み立てかたは分かっているということ。さらにこちらが《ソニックリープ》を使うと判断して潰してきたのだとしたら、驚異的な洞察力だと言えるだろう。

全力で戦うに値する相手だと判断し、短槍突進技《ソニック・チャージ》を回避したキリトは様子見ではなく一気に決着をつけるべく大地を蹴る。

その先にいるのは、濁った目を細めて短槍を構えるハチマン。対するキリトが繰り出したのはV字の二連撃。―――片手剣縦二連撃技《バーチカル・アーク》。

 

だがハチマンにとってこれは初見ではない。Mobから何度か食らったことのある剣技(ソードスキル)―――ただしキリトのほうが圧倒的に速いそれを、予備動作(プレモーション)だけで軌道を見切ったハチマンは悠々と回避する。

もちろん、キリトとてこれで決着が着くとは欠片も思っていない。スキル後の硬直を埋めるべく左の回し蹴りを放つ。側頭部へと放たれた蹴りを槍の柄で防ぎ、ハチマンは反回転させて下段からの斬撃。キリトは片手剣の側面―――いわゆる鎬でそれを防御。

鍛えあげられた金属同士が互いを削りあい、青色の火花が飛び散る。キリトは衝撃を利用して後方へと跳躍。だが、それは悪手―――否。そうなるように、誘導された(・・・・・)

 

「―――フッ!」

 

短く息を漏らし、ハチマンは猛然と反撃に出る。選択したソードスキルは短槍三連撃技《トリニティ・バースト》。速さ(スピード)に+5も振られた、黒い雷(ブラックライトニング)の名を持つ槍はシステムアシストを乗せて神速へと至る。もはや並みのプレイヤーでは視認不可能な速度。

 

―――決まった。ハチマンはそう思考するが、即座にそれを撤回する。

《黒の剣士》の名は伊達ではない。三連の刺突を正確に見切り、キリトはその全てを凌ぎきる。黒い片手剣が鈍く煌めき、反撃(カウンター)のソードスキルを紡いだ。―――片手剣三連撃《シャープネイル》。

稲妻を描くような、言い方を変えれば猛獣の爪を描くような三連撃は隙がなく、ハチマンの知るそれより数段速い。ハチマンは舌打ちしながらもそれを槍で弾くが、最後の一撃がわずかに胴をかすった。『強攻撃』の判定には全く届いていないが、ハチマンのHPバーが数ドット減少する。―――先制は、キリト。

 

(......さすがだな)

 

内心でキリトを称賛し、ハチマンは油断なくキリトの動きを観察する。―――決して考えることをやめるな。相手の思考を読め。意識を誘導しろ。剣技で叶わぬなら、体術が届かぬなら、千の思考と万の演算でその槍を届かせろ。

腕の構え、重心の動き、足捌き、視線の位置。仮想体(アバター)の隅々までを観察し―――脳裏に電撃が走った。今だ。

 

跳ね上げられた槍の穂先が上段から急襲する斬撃を的確に逸らす。キリトは瞠目し、そしてニッと笑った。ハチマンはさらにそれを利用して石突きで鳩尾を狙う。だがそれを回避し、キリトから返す剣で放たれる一閃。鋭い斬撃はまたも胴をかするが、交錯するように放たれた剃刀のような短槍の刃は、キリトの腕を僅かに切り裂いた。

―――まさに一進一退の戦局。キリトが凶獣の如き笑みを浮かべ、ハチマンは無表情で―――だが口の端を僅かに吊り上げ、剣と槍を交えていく。

 

......未だ25層、プレイヤー達はアインクラッド全100層のうちたかが4分の1までしか辿り着いてない。―――が、その技はすでに彼らの中で昇華されつつある。現実世界では有り得ぬはずの実戦は、彼らをこの短期間で、まだ未熟と言えども戦士へと育て上げていた。

 

「おオォッッ!」

「ハッ―――!」

 

無数の火花が飛び散り、じりじりと互いの体力ゲージが減少していく。互いの弱攻撃が時折ヒットし、段々と、着実にHPが削れていく。

 

「―――フッ!」

「ハァァァッ!」

 

天地左右から強襲する黒き雷を弾き逸らし回避し、反撃の黒剣が残像すら残して殺到する。それらを正確に見切り、回転する短槍がその全てを叩き落としていく。

互いの頬を僅かに刃がかすり、弱ヒットのエフェクトが散った。ハチマンは薄く笑い、キリトは獰猛に笑む。

 

―――剣と槍が。拳と蹴りが。何十何百と交えられる、互いを倒すための技。流転し続ける攻守の逆転はまさに舞踏。様々な角度から敵を打倒しうるべく放たれる攻撃の応酬は、もはや一種の芸術。闘争の中にのみ存在する凄惨な美は、それを見ていたプレイヤー達から呼吸することすら忘却させていた。

 

「......すげえ」

 

誰かがぽつりと呟く。だが、それはその戦いを見ていた人々の総意を代弁していた。完全に白昼した実力がこの絶景を生み出しているのは明白。つまり、キリトとハチマンの実力は全くの互角だった。

 

―――年齢も、武器も、立場も、性格も、なにもかもが異なる。だがその戦闘能力は互角。全力を振るうに足る、好敵手(ライバル)と呼ぶべき存在を知覚した互いの魂は歓喜に吼え、その意識はかつてないほどに加速(アクセラレート)していく。もっと速く。もっと先へ。相手の思考も速度も全てを越えて打倒するべく、ただ純粋に相手へ斬撃を届かせることを渇望する。

刃だけが真実、闘争こそが真理。今この瞬間(とき)のみが全て。

そして互い以外を認識することのない二匹の獣は、ついに終止符となる技を繰り出すべく武器を構えた。

 

―――黒の剣士。キリトが放つは片手剣七連撃技《七大罪(デッドリーシンズ)》。黒き片手剣が血の色に染まる。

 

―――蒼き槍兵。ハチマンが放つは短槍七連撃技《断罪槍(ジャッジメント・ピアッサー)》。捻れた刃が鮮烈な蒼と金の光に包まれる。

 

奇しくも、互いが選択したのは七連撃のソードスキル。現時点で己が発動可能な最強の剣技に全てを賭け、二人は咆哮する。

 

「るオおォオオオオオォォォオオオオッ!!!!」

「らアアアアアアァアァァァァアアアッ!!!!」

 

衝撃波を撒き散らし、一撃、二撃、三撃―――と。斬撃と刺突が衝突し、互いを相殺していく。四撃。五撃。音すら置き去りにした攻撃がぶつかりあい、激しく弾かれる。だが終わらない。まだ終われない。

六撃。やはり相殺。凄まじい衝撃に弾き飛ばされかけ、互いにギリギリで踏み留まる。

 

 

そして、最後に繰り出された七撃目。

鮮血の光を纏いし漆黒の斬撃と、聖なる蒼金を纏う雷霆の刺突が交錯(・・)し。

―――互いの心臓を貫き、その身体を吹き飛ばした。

 

同時にハチマンの視界に、発光する文字が閃く。衝撃に息が詰まる中、視界中央に表示されたのは。

 

 

【Draw!】の文字だった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「っ......てぇ......」

 

チカチカと瞬く視界の中、俺はふらふらと上体を起こす。すぐ後ろには壁、どうやら部屋の隅にまで吹き飛ばされてしまったらしい。

......惜しい、と思ってしまうのは慢心だろうか。あと少し。あとゼロコンマ数ミリ速ければ。ゼロコンマ数秒早ければ。

 

「くそ......」

賭け値無しの全力だった。あまねく、あらゆる、俺がこの世界に立ってからの全ての知識と経験を総動員した総力戦。途中から、勝敗の意味も全力を出すリスクも全てが頭から消し飛び、ただひたすらに(キリト)の思考を演算し、その上を行かんと槍を振るっていた。

今自分の身体を焼いていたこの熱は、理性を砕き感情を壊すこの衝動はなんだ。敵を倒せと突き動かす、理解不可能な咆哮は。

 

俺はふらふらと、熱に浮かされたような頭を上げる。見れば、同じように壁に叩きつけられていたキリトが視界の中央に写る。その眼には狂気に似た熱が浮かび、目が合うと口は円弧を描いた。

 

 

―――剣に魅せられた愚か者どもの、血塗られた世界へようこそ。

 

 

その瞬間、俺は廃ゲーマーという存在の意義の全てを理解した。ただ強く、ひたすらに前へと向かう、今までならば理解不能だった領域を前に、深く息を吐く。

 

―――成る程。今、このマガイモノだらけの世界で......俺は確かに生きている(・・・・・)

 

そんな狂った実感を魂に刻みこまれると同時に。

俺の、25層フロアボス攻略戦のメンバー入りが確定したのだった。

 

 

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