やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE!   作:あぽくりふ

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17話

「―――ふっ!」

 

刃が走り、半瞬の間に空中で三回振るわれた刀が巨人を切り刻む。その全てにクリティカルが発生し、巨人はあっさりと砕け散る。

―――迷宮区のMobをたった三回の通常攻撃で撃破するとは、尋常ではない。《武神》の名が伊達ではないことを確認し、俺は顔をしかめながらも舌を巻いていた。攻略組中最強と豪語されるだけはある。とてもじゃないが、今の俺では勝てない。

歩法、抜刀の時機(タイミング)、そして刀術。あらゆる行動に無駄がなく、ぞっとするほどに洗練されている。何千回、何万回―――どれだけ抜刀の反復練習をしたのだろうか。

 

「おーい、どうした。行くぞ?」

「......ああ」

 

クラインに肩を叩かれ、俺は止まっていた足を再び進め始める。

前方でMobの排除を行っているのはユキノとアスナ、その後ろにキリトとエギル、そして最後に並んでいるのが俺とクライン、という縱二列の陣形で、俺たちは迷宮区を進んでいた。

 

―――キリトとの決闘から、丁度三日経っていた。

俺としてはフロアボス攻略戦なんぞ真っ平御免、のはずだった。だがユキノ(あの女)に言外に脅され、紆余曲折あって今ここにいる。

正直に言おう。あの場で俺は、ユウキとラン(予想外)の名前を出されたことで少なからず動揺していたのだ。あの決闘(デュエル)は受けるべきではなかった。あれによって俺の戦闘能力が―――自分でも驚くことに、キリトと同レベル程度にはあることが《攻略組》に露見してしまったことが痛恨のミスだった。

 

―――極論を言えば、ユウキとランは見捨ててしまっても構わないなのだ。彼女達の戦闘能力は俺と互角、もしくはそれ以上はあるのだから。

それに。万が一死んだとしても、俺には関係ない―――

 

「......なわけ、ねーだろ」

 

今ならリズベットの言ったことの意味がわかる。確かに、俺は甘くなった。どこぞの主人公の言葉を借りれば『人間強度が下がった』のだ。少し脅されただけで、動揺してしまうほどに。

本当に、弱くなった。

 

「............はぁ」

 

俺はただ、(小町)をユウキに投影してしまっているだけなのだ。下らない感傷(モノ)で、唾棄すべき感情(モノ)。妹の幻影をユウキに重ねて、自分を慰めているにすぎない。そんなのは(小町)からしてもユウキからしても御免だろう。

そんな醜悪な投影なんざ、願い下げに決まっている。

 

―――ああ、わかっている。このデスゲームという極限状況下で、俺は何かすがるものを求めているのだ。そうしなければとてもじゃないが、100層まで延々と死と隣り合わせで戦い続けることなんて出来やしない。嫌悪すべき偽物だとわかっていても、それでもすがらざるをえない。

 

 

......俺は。

弱すぎる俺が、嫌いだ。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「......さて。これからボス部屋に突入するのだけど、準備は良いかしら?」

 

感情を一切切り捨てたような声。俺はその言葉に肩をすくめた。どうやら他のメンバーも、小隊長(パーティーリーダー)に何も言うことはないらしく、無言。

―――キリト、アスナ、エギルが右の大剣を抑え、ユキノ、クライン、俺が左の槍を捌く。正直ボスの攻撃を弾き防御(パリィ)できるとは思えないが、上からのお達しでどうにかしろ、とのことらしい。正直馬鹿げているとしか思えないが、真正面からぶつかる以外に手がないのが現状だ。

 

......と。そこで俺はふと、沈黙の立ち込める前方を見て眉をひそめた。これは別に攻略に全く関係ない、ただの雑事なのだが。

 

「......なあ。あいつらって何かあったのか?」

 

俺は囁くように隣のバンダナ男に問い掛ける。するとクラインは首を傾げた。

 

「何かって、何が?」

「......いや、何でもない。気にするな」

 

何も違和感を感じてなさそうなクラインを見て、俺は話を切る。どうやらクラインの様子からすると、この状態は相当前かららしい。すなわち、クライン達《風林火山》が攻略組に参加した12層あたりから、だろうか。

―――気まずい雰囲気、とでも言うのだろうか。キリト、アスナ、ユキノの三人ともあまり目を合わせようともせず、会話も必要最低限のみ。あの三人はかつてパーティーを組んで行動していたと記憶していたが、喧嘩でもしたのだろうか。よく考えれば最近キリトは《月夜の黒猫団》に入り浸っているし、アスナは他のパーティーにたまに参加しながらもほぼソロ、ユキノもソロで活動しているらしい......というのをアルゴから聞いた覚えがあった。やはり、何かあったのか。

 

「それにしても、お前実は実は良いヤツだったんだな!攻略組がピンチ、ってことで助っ人参加なんだろ?強いみたいだし、心強いぜ」

「お、おう......」

 

......いや、クラインのエアリーディングスキルが単に皆無な可能性もあるが。

どうやら、ユキノは俺が善意で参加するのだと説明したらしい。エギルは俺とユキノとの間でどんなやり取りがあったのか薄々わかっていたようだが、何も言わなかった。大体の奴はクラインのように、俺が自主的に参加しているのだて認識しているようだった。

 

―――ユキノの行動は最悪に近いが、あれは言わば最終手段に近い。脅して強要するなどとんだノブレス・オブリージュもあったもんだが、裏を返せばそれだけ切羽詰まっているのだとも取れる。今回のフロアボスはそれだけの化物だということなのだろうか。

 

「―――もうこれ以上、犠牲は出さない!行くぞ!」

 

そんなリンドの声が遠間から届き、直後に無理矢理絞り出したかのような、プレイヤー達の咆哮が耳を揺らす。

 

「......はっ」

 

自嘲に似た笑みが浮かび、俺はマフラーを引き上げる。キリトは緊張した様子で背中の片手剣に手を伸ばし、アスナは細剣の柄に手を置く。エギルは泰然自若といった風情で前方を見据え、クラインは緊張を吹き飛ばすように無理矢理笑う。ユキノは感情を感じさせない、刃のような無表情で刀の鞘に指を這わせる。

 

―――そして、ついに25層のボス部屋へ繋がる扉が開かれた。

 

 

 

 

俺たちが足を踏み入れると、ボボボボボ、という音とともにボス部屋の周囲を囲む壁に備え付けられた松明に火が灯っていく。煌々と照らされた空間だったが、俺はふと頭上を見据える。―――高い。そして広い。2層フロアボスの部屋とは比べ物にならないほど天井が高い。だが、何故?

 

「おいハチマン、肝潰すんじゃねえぞ」

「は......?」

 

俺はどういう事だ、と隣のクラインを見返す。だがクラインはそれに取り合うことなく刀を抜き放った。美しい金属光沢が業物であることを語っている。

 

「見りゃわかる」

 

ほらよ、とクラインが目の前を顎でしゃくった。俺は怪訝な顔で前を見据える。―――と。不意に、目の前の空間が歪んだ(・・・)

 

「......?」

 

目を瞬かせるが、目の前の歪みは消えない。目の前の空間全て(・・・・・・・・)がどろりと歪んでいる。俺はそれに眉をひそめ、槍を構えた。

 

そして―――それ(・・)は現れた。

 

「........................は?」

 

正中線できっちりと白黒にわかれた身体に二つある頭。腰には鎖帷子のようなものを纏い、上半身には何も身につけていない様はトーラス族を彷彿とさせる。

そして、それ―――《ジ・オリジンジャイアント》はひたすらに巨大(・・)だった。

唖然としながらも回転する頭が弾き出した数値は、役18メートル。どこぞのモビルスーツレベルの巨躯は凄まじい覇気を放ち、その存在自体が威圧(プレッシャー)そのもの。肌をびりびりと震わせる存在感は、刃を向けること自体が無謀だと告げるかのようで。

 

「マジ、かよ......!?」

 

成る程。確かにこれは、原初の巨神(オリジンジャイアント)の名に相応しい。ポリゴンで構成されているとは思えないほどの存在の厚みは、こいつが今までのモンスターとは格が違うことを示している。

 

「―――ッ、A隊、B隊、C隊は右側面へ!D、E、F隊は左側面に回りこめ!G隊は遊撃として背後から強襲しろ!」

 

肌を泡立たせるような威圧感を吹き飛ばすようにリンドが吼え、他の攻略組のメンバーも一斉に動き出した。その声に、唖然としていた俺もようやく現実に戻る。怯んでいる場合ではない。

 

―――その様子を見ていたのか。巨神(ボス)が空を掴むような動作をすると同時に、黒い右手が大剣を、白い左手が長槍を召喚する。だが武器の大きさも尋常ではない。10メートルは軽くある大剣はもはや剣には見えず、長槍に至っては巨大な柱にしか見えない。それらをむんずと掴む巨大な腕は大樹か何かか。

そして、巨神は無謀な挑戦者に向けて残忍な笑みを浮かべる。直後、二つの口を大きく開いて咆哮した。

 

「オォォォオオオォォォオオオォォオ!!!!!」

「ッ―――!?」

 

大音量の威嚇(ハウル)は音や声の領域を通り過ぎ、衝撃となって攻略組に襲いかかる。もはやそれ自体が攻撃となっている咆哮は攻略組の足を僅かに止める。―――そしてそれは、巨神にとって格好の的だった。

 

ニィ、と笑みを浮かべて巨神は大剣を振りかぶる。不味い、と思った瞬間には、すでに大剣は振るわれていた。

―――だが。

 

「う、おおぉおおお!!」

 

キリトが戦列から飛び出し、全力でホリゾンタルを発動。横合いから振るわれた大剣に対して叩き上げるように黒剣が振るわれる。大銅鑼をぶっ叩くような鈍い金属音が響き、危ういところで大剣が軌道を逸らされた。攻略組の真上を通り過ぎていく大剣が凄まじい風切り音を放つ。

初っぱなからぞっとするものを感じながらキリトを見やると、キリトはあの一撃を逸らしただけで膝をついていた。―――ソードスキルを発動すらしていない攻撃だけでも、それだけ重いのだ。ボスの筋力がどうこう以前に、まず質量としての重さが半端ではない。あれでソードスキルを使用すれば、どれだけの破壊力なのか。

 

「......くそ。恨むぜ、アルゴ」

 

珍妙な髭のペイントをした金髪の巻き毛の少女の顔を思い出し、俺は引きつった笑いを浮かべた。いつも思うのだが、あいつは俺をちと過大評価しすぎちゃいないだろうか。

 

「総員、攻撃準備」

 

......ああ、もう四の五の言っても仕方がない。

愛槍を構えれば、その穂先は艶やかな光を反射してくる。巨神が嗤い、俺は深く身体を沈めた。

 

「―――突撃!!」

 

―――さあ、開戦だ。

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