やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE!   作:あぽくりふ

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5話

 

 

 

 

 

「―――ないヨ。そんなスキルは何処にもない」

 

ばっさりと切り捨てるようにアルゴは言った。

 

「同時に八本もナイフを飛ばすなんて、荒唐無稽もいいところダ。......本当に、ソードスキルだったんだナ?」

「ああ。......多分」

 

俺は曖昧に頷いた。アルゴが呆れたように眉を上げる。

 

「多分ってなんだヨ」

「いや、そう言われると少しな......」

 

もしかしたら、ソードスキルではなかったのかもしれない―――いや、あのライトエフェクトはソードスキルだった、はずだ。

 

「......まあ、オレっちが知らないスキルがある可能性もあるしナ。こっちでも色々調べておくヨ」

「是非そうしてくれ。それと、あいつらの行動パターンは割り出せたか?」

「全っ然。統計使ってもダメ、相関はなし。なによりサンプルが少なすぎる」

 

だろうな、と首肯する。PKは多いと言っても数十件、事件としては多いが神出鬼没なあいつらの拠点(アジト)を割り出すには些か頼りない数だ。

 

「まア、候補は大体絞り込めたんだけどネ」

まず、とアルゴは指を立てる。

 

PK(あいつら)犯罪者(オレンジ)ダ。だから街には侵入できないし、だからと言って《圏外村》に潜伏するほどバカじゃない」

 

一応ユキノんに頼んで巡回はさせてるけどナ、と言ってアルゴは話を続けた。

 

「そして、それなりにレベルが高いということから下層が拠点である可能性は低いだろうナ。......PK(プレイヤーキル)で膨大な経験値が手に入った、って報告はβの時もなかったし、多分この予想であってると思うヨ」

「そうか、つまり―――」

 

―――奴等は中層、それもサブダンジョンを拠点としている。

 

「そういうことダ。十中八九ダンジョン内の安全地帯を使ってるんだろうヨ」

 

......成る程、確かにその可能性が最も高いだろう。

だがそう言って肩をすくめるアルゴを見て、俺は最大の問題を口にした。

 

「けどよ。......それっぽいサブダンジョンって、全部で200近くあるぞ?」

「そこなんだよなア」

 

しらみ潰しに探すしかないが、如何せん人手が足りない。

我らが《軍》は3000を越えるプレイヤーが属する超巨大ギルドだが、その中で戦力と成りうるのは三割ほど。そしてそこから中層プレイヤー達をさっ引けば一割にも満たない。加えてあの怪物染みたPK達に対抗出来るだけの戦闘能力を持つ、即ち《攻略組》レベルのプレイヤーに至っては20人もいないだろう。

つまり、《軍》全体の1%にも満たないのである。

 

「こりゃ確かに、ユキノが戦力増強したがるのもわかるな......」

 

そうごちて、俺は襟首のバッジを撫でる。メールは送っておいたが、ユキノにも報告しなければならない。

 

「んで、そのPKはどんな姿をしてたんダ?」

「ああ、そうだったな。......端的に言えば、頭陀袋を被った子供だな」

「子供、ネ」

 

あの純粋な悪意は、「子供」と形容するのが最も適している気がする。外見的な面だけではなく、精神の在り方自体が子供の無邪気さを内包しているのだ。

故に、最も質が悪いとも言える。理由のない純粋な邪悪など、更正や説得の余地などない。言葉が通じない相手というのはそれだけで厄介だ。

 

「まあ、雰囲気があれだからすぐわかると思うぞ。後は、そうだな―――」

 

と。そこで思い当たり、軽い調子で言い放った。

 

「―――ジョニー・ブラック。そう名乗ってたな」

 

その瞬間、陶器が割れる音が部屋中に響きわたった。

俺は驚きに目を見張り、コーヒーカップを落とした本人を見つめる。だが、アルゴの様子は異常だった。

 

「おい、どうした?」

 

眉をひそめてその顔を覗きこむ。アルゴは真っ青な顔で唇を震わせていた。

 

「......ジョニー、ブラック。そう、名乗っていたの?」

「ああ......お前、だいじょぶか?」

 

その焦点の合わない瞳を見て、俺はようやくアルゴの様子が尋常でないことをはっきりと認識した。

 

「―――ごめん。今日は、帰って」

 

弱々しい声。いつものような仮面(キャラ)すらも剥がれた、完全な素の声。俺は呆然とその様子を見ながらも、自然と頷いていた。

―――このまま、帰ってもいいのだろうか。

一瞬そんな考えが脳裏を過る。放っておけば、それこそ死んでしまいそうなほど弱々しいその様子に躊躇いが生まれる。が、俺に出来ることはない。これは彼女自身の問題であり、俺が容易く踏み込んでいいものではない。

 

......だから。

 

「.....何も聞かない。だから、話したくなったら、話してくれ」

 

俺は、待つことくらいしかできない。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「―――ジョニー・ブラック、か」

 

ぽつり、とその名を呟く。あの反応からして見知った人間であることは間違いないだろう。ともすれば、現実で近しい人間である可能性すらある。

......だが、それを言えば。PoHとユキノの関係もまだ判然としていない。

 

「............」

 

言うべきか、言うまいか。このまま放置というのは無理だろうが、いつ言うべきかの時機(タイミング)が掴めていなかった。ただでさえ忙しいのだ、これ以上心労を増やすべきではないのだろうが―――。

 

「はぁ......」

 

自然と溜め息が口から漏れる。息は温度設定に従って白く染まり、ふと頬に感じた冷たさに空を見上げれば。

 

「―――雪、か」

 

そう言えば、もう現実(リアル)では11月の末。12月に差し掛かりつつある。生き残るために必死だった日々はめくるめく過ぎて行っていたため、もう七ヶ月も経ったのかという驚きを隠せない。

 

......例えば。仮の話だが―――もし、俺がこのゲームに閉じ込められなければ。俺は、どのような生活を送っていたのだろうか。安穏とアニメやゲームに囲まれながら過ごしていただろうことは容易く想像できる。小町に貶されたり怒られたり、カマクラに飯を催促される俺の姿。今までとなんら変わらない、内側だけで完結した俺の在り方。

 

―――それとも、何か変わっていたのだろうか。

悩んで、苦しんで、誤解して。理想を押し付けて、期待して、失望して。

ぬるま湯に浸って、その心地良さに抗えないで。それでもそれが許せなくて。欺瞞と虚構を否定して。

 

その果てに―――俺が求めていた「本物」を掴む。そんな、ハッピーエンドの未来(物語)があったりするのだろうか。

 

「......なんてな」

 

ふ、と笑みを浮かべる。

失ったものは戻らないし、過ぎさった時は巻き戻せない。既に起きた事象は改竄できないし、一度出した答えは覆せない。

 

......また例え話だが。もしも―――そう、もしもの話である。

もしも、人生をゲームのようにセーブ地点からやり直せるとして。果たして何か変わるのだろうか。それは意味があることなのだろうか。

 

―――答えは否だ。

人生はやり直せない。いや、やり直したとしても常に同じ選択をするから意味などない。限られた選択肢の中から最善を選んできたのだ、何度選ぼうと同じものを選択するに決まっている。よってこの「もしも」に意味はない。少なくとも、俺からすれば意味を成さないのと同義だ。最初から選択肢などないのなら、その仮定は無意味で無価値。故に後悔などない。

 

......いや。より正しく言うならば、この人生のおよそ全てに悔いている。

 

「............」

 

俺は無言で無人の路地に立ち尽くす。街灯の下、雪が深々と降り積もっていく景色はそれだけで幻想的だ。雪などここ数年は見ていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そうして、ひたすら無心で空を見上げてどれ程経ったのだろうか。

 

「―――ほむん。ラピュタでも浮いてるのか?」

「......?」

 

ざくざくと雪を踏む音。さらにかけられた男の声に、俺は胡乱げに振り向いた。

 

「いい夜だが、それでは些か冷えるのではないか?同志よ」

「......ナンパなら女にしとけ。少なくとも俺にそんな趣味はねえよ」

 

俺のそんな言葉を聞いて、男はふっ、と笑った。

 

「我が人生にか弱き女子など不要。弱さを自ら抱え込めるほど我は強くない。......というか、女子に話しかけるとか無理ですしおすし」

 

......なんだろう。少し親近感が湧いた、気がする。

 

「じゃあ何の用だ?」

「いや、その制服が目に留まってな。それは《軍》のものだろう?然らば我と貴殿は同志ということだ」

 

ニッと笑みを浮かべる男は、俺と同じように軍服めいた制服を纏っている。即ち、所属は同じ《軍》。だからこそ、声をかけたのか。

 

「して、貴殿の名は?」

「......人の名前を聞く際には自分から、って言葉を知ってるか?」

 

それもそうか、と男は頷く。そして、胸を張って堂々と言い放った。

 

「―――我が名は剣豪将軍義輝。階級は中佐だ、よろしく頼むぞ!」

「けんごーしょーぐん......?」

 

中佐。つまり俺と同じ階級だということにも驚いたが、その前にまず名前が聞き取れない。ワンモアプリーズ。

 

「《剣豪将軍》よ。そら、この名を見るがいい!」

「......うわ、マジかよ」

 

ポップしたウィンドウに表示された名前は《剣豪将軍(Sword Master General)》。マジでそんな名前だったのか。

......恥ずかしくないのだろうか。そんな視線を剣豪将軍に向けるが、当の本人はふんぞり返っている。なんかうぜえ。

 

「ふ、そんな視線などとうに見飽きたわ。この名は我が誇り!蔑まれようが陰口を叩かれようが、塵を見るような目を向けられようが変えることはしない......うん、しない」

 

言ってる途中からどんよりと肩を落とす剣豪将軍を見て、俺は思わず苦笑いした。下層で一度だけだが名前を変更できるアイテムがあったはずなのだが使わなかったのだろう。厨二全開な名前だが、それだけ思い入れでもあるのだろうか。ないのであれば、大したメンタルである。

 

「では、貴殿の名を聞こうか」

「......ハチマン。階級は中佐だ」

「なんと、同じ中佐であったか!」

 

ではよろしく頼むぞハチマン中佐!と背中をバシバシ叩いてくる剣豪将軍。鬱陶しいことこの上ない。

 

「......ふぅむ。では、例のあの人が言っていた『残りの一人』は貴殿であったか」

「例のあの人って何処のヴォルデモートだよ......残りの一人?」

 

すると、すっと無言で剣豪が襟首を指し示す。そこに輝くのは、雪の結晶のようなバッジ。

 

―――それはつまり、ユキノの配下である証だ。

 

「......お前もあいつの部下、ってことか」

「いかにも。我らは運命共同体ということだな」

 

......こいつはいちいち厨二用語を出さなきゃ会話できないのだろうか。

 

「んで、残りの一人っつーのはなんなんだよ」

 

俺は急かすように剣豪に問うた。

 

「......ほむん。答えてもいいが、此処は少し冷えないか?」

「あー......まあ、そうだな」

 

確かに、いつまでもここにいるのもあれだ。この軍服が高性能と言えども、さすがに冬の夜の凍てつくような寒さを完全に防ぐことは出来ない。

 

「して、ハチマンよ。貴殿は既に夕食は取ったのか?」

「いや、まだだ」

 

あの後28層の主街区に転移し、キリト達と別れてから何も食べていない。よく考えたら昼飯もすっ飛ばしていた。

すると、ならば丁度良い、と剣豪将軍は呟き―――こう提案してきたのだった。

 

「―――最近良いラーメン屋を見つけたのだ。夕食を共にしないか?」

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