やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE!   作:あぽくりふ

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8話

8話

 

 

 

 

 

 

 

―――俺が持ち得る武器とはなんだろうか。

基本的に俺は凡人だ。凡庸でありノーマル、それは通常の枠を逸脱することはない。才能など皆無であり、俺の特技と言えばぼっち故に磨かれた視線感知能力、先天的に存在感が薄いこと、そして暇な時間を潰すために生まれた妄想力もとい思考のリソースくらいだ。あとは目が腐っていることもあるが、それはむしろデメリットだろう。前者二つにしても「ぼっちになる」という壊滅的というか人としてアレなデメリットがもれなくくっついてくることになる。......ヤバい、ちょっと泣きそう。

とまあ、何処までも凡庸な俺が出来るのは努力くらいのもの。それでも才能が無い俺は限界まで努力したとしても、所詮は二流、よくて一流止まり。限られた人間のみが至れる超一流にはなり得ない。

 

―――キリトは剣士としての才覚はない。純粋な剣技のみで見れば平凡という言葉が最も似合う。だがそれを補って余りある才能が、奴の異常な反射速度だ。時折手合わせをするが、至近距離で放たれたソードスキルを見てから回避するなど異常にすぎる。俺にそんな怪物じみた反射神経はない。

―――ユウキは未だ未完成の大器だ。ユウキを表すのに最も適しているのは"天才"の一言だろう。ほぼ独力で磨きあげた剣技は恐ろしい完成度であり、まさしく天才と言うに相応しい。近接戦闘で彼女と互角に撃ち合えるのは片手の指で事足りる。勿論俺がそのなかに入っているわけがない。

―――ユキノは常に進化し続ける"武神"だ。要は模倣、そして再現することが異常に得意なのである。一度見た技は彼女の中に記録され、そしてユキノ専用に最適化される。そして彼女の中の技の蓄積(ストック)は常に更新され続けていくのだ。一度見た技に対して耐性がつくなど、何処のヘラクレスだと文句を言いたくなる。

 

......これらのいわゆる"天才"と渡り合うには、ただ漫然と努力するだけでは全く足りない。そもそも才能の差が天と地ほども離れているのだ―――まともに戦っていては話にならない。奴等の一歩先へと行かなければ障害物にすらなれない。

 

 

―――嗚呼。だがそれでも奴等を―――天賦を倒したいと望むのなら。凡人が天賦を越えようと吼えるのなら。

ならば足掻け。経験と計算と学習を積み重ね、推測を確信へと変えて反射のその先へ行け。反射速度で劣るのならば、その先(未来)を支配しろ。格闘のセンスで足元にも及ばないなら、何千何万と繰り返すことで反射的に戦闘を行えるようになれ。不意をつけ。心理を誘導しろ。ありとあらゆる手段を用いて、ようやく凡人()は同じ地平を見ることができる。

 

「ぐ、がッ―――!」

「いい槍捌きだね。何千、何万とその槍を振るってきたんでしょ?さすがだよ、ハチマンは」

 

......そうだ。そうしてようやく、俺は天才と同じ場所に立てる。

だが―――もし、その天才すら遥かに越える怪物がいるとするならば。

 

「―――だけど、私には届かない」

 

果たして、凡人はその領域に至れるのだろうか―――?

 

「いいね。その判断、悪くないよ。だけどもう少し踏み込んだほうがよかったかな?」

「黙れ......!」

 

槍を跳ね上げ、叩きつけ、さらに回転させて刺突。そこからユウキに叩きこまれた近接格闘技術―――蹴りをメインとした体術と槍術の連続技(コンボ)を炸裂させる。完璧な連繋。回避不可能なタイミング。

 

―――だが、それでも届かない。天賦の怪物は静かに嗤った。

 

「強い強い。私が見た中では五指に入る強さだよ。強いねぇ―――凡人にしては」

 

キリト並みの反射速度に、ユウキに匹敵する格闘技術、さらにユキノと同じ超学習スキル。

そして―――俺を越える演算能力。

 

「よく頑張ったね。誉めてあげるよ」

「かはっ......」

 

鳩尾に突き刺さる蹴り。俺の攻撃全てを悠々と避わしきったPoHはくつくつと笑いながら、包丁に似た短剣を降り下ろした。

 

「......ッ」

「あはははは!痛い?痛いよね?凄いね―――ぞくぞくしちゃう」

 

上腕に走る痛み。それを無言で堪えて槍を旋回させることでPoHを引き離す。......やはり、奴は痛覚を復活させるなんらかのスキルを持っている。この疼くような痛みは幻痛では有り得ない。

 

「あは―――痛いならさ。痛いって言っていいんだよ?」

「......、」

「ねえ、なんとか言ったらどう?それとも痛くないのかな?」

 

す、とPoHが目を細める。そして次の瞬間、その蛇めいた瞳から濃密な殺意が溢れだした。

 

「―――ふぅん。じゃあさ、これはどうなの?」

「――――――ッッッ!?」

 

一瞬。まさに一瞬だった。切り落とすように俺の槍を叩き落とし、PoHが懐へと入り込む。交錯する視線。不味い、と直感するがすでに遅い。爬虫類のような瞳が笑みの形にに歪められる。

―――そして。短剣が俺の腹を深々と貫き、いっそ芸術的と言えそうなほど鮮やかに。ぐるりと肉を抉りながら回転した。

 

「が、ああああああああァァァアア!!!!」

 

焼けるような痛み。生きたまま臓物を刺された挙げ句シャッフルされる苦痛をダイレクトに与えられ、激痛と生理的嫌悪感に咆哮する。遠くから哄笑が響いているような気がしたが、文字通り七転八倒するほどの痛みの嵐の中では判然としない。嘔吐感と苦痛からの解放を祈る懇願と呪詛が一緒くたに口から吐き出され、極彩色の世界で様々な音が脳を揺らした。土の味が、草の匂いが吐き気を催す。神経を直接鑢で削るような痛みが直接脳に叩き込まれ、世界が反転した。

 

「あ......が......」

「あはっ、凄い顔。痛い?痛いよね?」

 

......腹が、熱い。短剣が引き抜かれたのか激痛の直後に痛みが消えるが、再び短剣が腹を深々と貫く。痛い。熱い。よろめきながら槍を振るうが叩き落とされ、再び腹を抉られる。

 

「へえ、まだ意識があるんだ。その精神力にはおねーさん感心するよ、っと」

 

今度は肩に痛みが走る。見れば、三本のナイフが左肩に突き刺さっていた。それに気を取られて蹴りが腹に突き刺さり、さらに横一文字に切り裂かれる。

 

「......うーん。まだ立ってられるっていうのは凄いねえ。じゃあこれでどう?」

 

ガガガガガ、という音と共に左腕にナイフが一寸刻みで突き刺さる。呻きながら槍をふらつく腕で突くが当然避けられ、顎をぶち抜くような蹴りを食らってついに膝をついてしまう。

 

「あ......う......」

「ふふ。何か言いたいことでもあるの?」

 

朦朧とする意識の中、口から意味を成さない言葉が垂れ流される。それを見て笑みを深めたPoHが至近距離まで近付き、耳を澄ませた。

 

「......、......」

「うん?なに?」

 

吐き出される言葉は祈りか呪詛か、懇願か絶望か。そして、俺の口から発されたのは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きろ、【無限槍】」

「......え」

 

直後、右肩と胸と腹をぶち抜くようにして紅い何かがPoHを吹き飛ばした。俺は苛立たしげに舌打ちし、襲い来る痛みの猛攻に耐えながら左腕に突き刺さるナイフ群を引き抜いて放り捨てる。くそったれが、後遺症残ったらどうしてくれんだ。

 

「がは......!」

「形勢逆転だな、PoH」

 

ふらつく膝に鞭打って立ち上がり、俺は殺人鬼を睨み付けた。大木に張り付けられるように叩きつけられたPoHは、信じられないモノでも見るような目を向けてくる。

 

「......なに?今の、全部演技だったの?」

「アホか。痛かったに決まってんだろクソアマ」

 

懐のポーチから取り出した回復結晶を二個まとめて砕き、赤に突入しかけていた体力を回復させる。

 

「......にしても、やはり予想通りか」

 

PoHを貫くようにして大木に突き刺さるのは三本の紅槍。そして、PoHの顔は驚愕以外の何かによって僅かに歪んでいた。

 

「―――お前も痛いんだろ」

 

それは確信だった。痛覚を操作する能力(スキル)は対人において非常に強力だ。だが、そんなに強力なスキルにデメリットがないということが有り得るだろうか?

無論、茅場昌彦がゲームバランスというモノを考慮しない無能ならばその当ても外れる。というか、外れる可能性のほうが余程高かっただろう。だが、今の状況を見るに俺の推測―――八割方希望的観測の推測は確信へと変わった。

PoHは他者の痛覚を操作できる。だが、自身の痛覚までONになるのだ。

 

「ふ、ふふ......」

 

PoHの顔の歪みが深まる。だがそれは痛みからのものではない。獣じみた笑みが広がっていく様を見て不安を覚えた俺は、さらに槍を打ち込もうと言葉を発する。

 

「《無限槍・壱式》......終わりだ、殺人鬼」

 

虚空に赤雷が走り、半透明の紅槍が生み出される。それを左手で掴み取り、俺はぐっと引き絞るように背後へと引いた。

 

―――だが、その槍が放たれることはなかった。

 

「ッッ!」

 

迸るような殺気と飛翔音。右手にある本物(オリジナル)の槍―――《太極矛盾(ブラック・アンド・ホワイト)》を回転させて無数のナイフを叩き落とす。

 

「......《ジョニー・ブラック》ッ!」

「ちィ、なァにやられてンだよ頭領(ヘッド)ォ!」

 

溝鼠かゴキブリを彷彿とさせる素早さで走り抜けるずだ袋。その姿を認め、俺は顔をしかめながら二本の槍を未だ拙いながら振るった。

 

「......おいおいおい。二本の槍とかどォいうことだよ?うざってェなァ!」

 

瞠目しながらジョニー・ブラックがナイフをさらに投擲する。同時に5本放たれ、なおかつその全てがソードスキルを発動していた。かつて度肝を抜かれたそれを、俺は左手に握る紅槍で弾き飛ばす。速いには速いが、ランの六連狙撃よりは遥かにマシだ。

 

「―――ボス!」

 

だがさらに忌々しいことに、大剣を持った骸骨面―――《ザザ》とやらが俺とPoHの間に割り込むようにして乱入する。どうやら剣豪とサイカを無視してこちらに来たらしい。

 

「......PK風情が、友達ごっこか」

 

そう吐き捨て、俺は黒白赤、と三拍子揃った双槍を構える。成功率は四割―――分の悪い賭けだ。だが、そのリスクを負ってでもこいつ(PoH)はここで殺す。切り札も切った以上、生け捕りが不可能ならば最低限殺さなければならない。

 

「そこを、退け―――!」

 

吼えると同時にライトエフェクトが左右両方(・・・・)の槍に宿る。タイミングは限りなくシビア―――だが行ける。

 

「なに......!?」

 

ザザが愕然として目を見開いた。

まず放つのは左手モーションの《ストライク》。そこからさらに滑りこませるように《トリニティ・バースト》を起動し続けざまに《ツイン・スラスト》を左の動きで放つ―――。

 

「う......おおおおおおおおお!!!!!」

 

―――剣技連繋(スキルチェイン)/双槍奥義《無限葬槍(ブリューナク)》。

 

これは厳密にはソードスキルではない。これはただ、「短槍のソードスキルをひたすらに繋げる」ことで完成する無限の槍撃だ。

成功率はよくて四割。原理はただひたすらに左右の槍でソードスキルを交互に発動し、ソードスキルの初動モーションによってソードスキルの技後硬直(ポストモーション)を強制的に上書きするというもの。無限にソードスキルを発動し続けるという究極技だが、求められるソードスキル発動のタイミングがシビアすぎることと、左右の両方でソードスキルを撃てるという条件、そしてソードスキルのクールタイムの緻密な計算が必要となる絶技でもある。しかも僅かでもずれて失敗すれば莫大な硬直時間が課せられるというデメリットがあった。

―――だが。そのデメリットを上回る爆発力がこの技にはある。

 

「が、ぐぅ......!?」

 

防げない。防ぎきれるわけがない。

神速と化した双槍の乱舞は生半可な防御など一瞬で食い破る。軋む仮想体(アバター)に歯を食い縛り、俺はひたすらにザザ目掛けて槍を振るい続けていく。

 

「―――らあああああああああああああァァァアア!!!!!」

 

極限まで研ぎ澄まされた集中に時間が引き伸ばされ、凄まじい加速感の中でザザの大剣を弾いた。そのままその胸をぶち抜き、衝撃と共にその長身の体を吹き飛ばす。そしてようやく開けた視界のその先にいたのは、ぎらつく眼をしたPoHの姿。無理矢理槍を引き抜いたのか、すでにその体に紅槍の痕跡はない。

そして。互いの視線が交錯しーーー俺とPoHは全く同じタイミングで攻撃を繰り出した。

 

「「ッッッーーー」」

 

PoHの斬撃が俺の左腕を切り裂き、俺の刺突がPoHの左腕を抉り飛ばす。灼けるような痛みに互いの顔が歪み、俺は咄嗟に引いてしまいそうになる体を無理矢理前に倒した。

ーーー怯むな。ここで止まれば全てが終わる。

 

「あーーーあぁああああアアアアアア!!!!!」

 

歯を食い縛り、痛みに悲鳴を上げる体に鞭打って二本の槍をひたすらに繰り出す。軋むような金属音と火花が散り、《ストライク》が軌跡を逸らされた。僅かな軌道の逸れによって連撃が止まりかけるが、寸でのところで左手に握った【無限槍】によって生み出された槍で短槍四連撃剣技《フォース・トルネイド》を捩じ込むことで強制起動する。

ーーーおそらくこれで最後だ。無茶なタイミングで捩じ込んだ弊害であり、この一撃が届かなければ致命的な硬直を課されることは間違いない。

 

「る......おおおおおおおおオオオオオオオオ!!!!!」

 

殺意と祈りを乗せて吼えた。神速の四連撃が大気を引き裂いてPoHへと殺到する。

ーーー一撃目。首を傾けるようにして回避される。僅かに頬を裂くが、それだけ。

ーーー二撃目。初撃から切り下げるように繋がった斬撃が右足を抉った。PoHの顔が焦りに歪む。

ーーー三撃目。回避不可能なタイミングで放たれた切り上げが包丁型の禍々しい短剣を弾き飛ばす。執念の一撃がついに実を結び、ようやくPoHの体の正中線上から障害物が消滅する。もはや邪魔するものはなにもない。

 

「......ああ、ようやくーーー」

 

PoHが諦感と感嘆がない交ぜになったような笑みを浮かべ。

紅の槍がーーーその心臓を貫いた。

 

 

 





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