やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE! 作:あぽくりふ
「よう、ハッチ。遅かったナ」
「何言ってんだ、時間ぴったりだろ」
「おいおい、社会人は五分前集合が基本だゼ?」
からかうようにそう言うアルゴに、はっ、と鼻で笑って返す。かなりの人数―――とは言っても40人ほどだろうか―――が、この噴水前の広場に集まっていた。
......というか、さっき社会人があーだこーだ言っていたが―――まさか、な?
横目でアルゴを見た後、俺はかぶりを振った。うん、ないない。この見た目で社会人とかないわ。
「......で、まだ始まらねえのか?」
「まだ集まりきってないんだろうナ。あとハッチ、その目で睨むのは止めとけ。かなり引いてるぞ」
見れば、周りの群衆のうち、こちら側にいる連中が引いてる......というかびびっている。......いや酷くね?多少不機嫌になった感はあるが、俺としては睨んでる気はないんですが。
「......そこまで酷いか?俺の目」
「ああ。そこらのゾンビよりよっぽど目が腐ってるぞ」
「そこらへんにゾンビはいねえよ」
いや、いずれ出てくるのかもしれないが。
俺は若干傷つきながらも「もうお前、目閉じとけヨ」というアルゴの言葉に従って、目を閉じて近くの木に寄りかかった。
「......そろそろだぞ」
少し経ち、アルゴの囁きを捉えた俺は閉じていた目を開く。見れば、青い髪をした男が噴水の縁に立っていた。
ぱんぱん、と男が手を叩いて衆目を集める。どうやら、この男がこの会議の主導者らしい。随分と二枚目だな、と思いながらも俺は静かにその男を観察する。
「はーい!じゃあ五分遅れだけど、そろそろ始めさせて貰います!今日は、俺の呼び掛けに応じてくれてありがとう!知ってる人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!俺の名前は《ディアベル》。職業は気持ち的にナイトやってます!」
このSAOに
故の冗談だったのだろう。笑い声がちらほらと聞こえてきた。もちろん失笑とか嘲笑ではなく、プラス方向のそれだ。
......ふむ、あいつからはザ・ゾーンを感じるな。ちなみにザ・ゾーンというのはイケメンのリア充のみに許されたイケイケリアリアの空気を作り出す固有結界にも似た別の何かである。
こんな重度のゲームオタクの連中の中にもザ・ゾーンの持ち主がいるんとは......と半ば戦慄しているうちにも、話は進んでいく。
「今日、俺たちのパーティーがあの塔の最上階でボスの部屋を発見した」
いや、それは知ってるから。じゃないとボス攻略会議じゃねえから。俺はそう内心でツッコミを入れたが、どうやら周囲のプレイヤー達は素直なのかアホなのか、「マジかよ」「すげぇ」「パねェ」とかいう声があちこちから聞こえてきた。おいおい。
「一ヶ月。ここまで一ヶ月かかったけど、俺たちはボスを倒し、このデスゲームもいつかは攻略できるってことを、はじまりの街で待っているみんなに伝えなきゃならない!それが、今ここにいる俺たちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」
......義務か。俺はディアベルとやらの声を聞きながら苦笑する。悪いが、俺はその対極をいくスタンスだ。第一俺はトッププレイヤーとやらではない。
だから―――お前は、その義務感とやらを胸に抱いたまま死んでくれ。俺の、俺たちのために。
そんな俺の内心とは裏腹に、ディアベルはにこやかに笑いながら話を続けようとしたが―――
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
不意に。濁声がザ・ゾーンを破った。
見れば、謎のサボテン頭をした小柄な男が、ディアベルの目の前に立っていた。
「そん前に、こいつだけは言わせてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな」
......仲間ごっこ、か。
俺は存外に的を射た言葉だと感心した。いくら仲間だ友達だと嘘くさい言葉を並べようと、本心では―――生きるためならば容易く踏み台にする。まさにごっこ遊びだ。
「......こいつっていうのは何かな?まあ何にせよ、意見ならば大歓迎さ。けど、発言するなら一応は名乗って貰いたいな」
唐突な乱入に加えての『ごっこ』呼ばわり。だがディアベルはその表情を歪めることなく応じる。
小男はそんなディアベルを一瞥すると、フン、と息を吐いてのしのしと噴水に近付く。そして一歩手前にまで来たかと思うと、くるりとこちらに振り向いて、言った。
「わいは《キバオウ》ってもんやが―――ボスと戦う前に、言わせて貰いたいことがある」
何処かポケモンのような名前を名乗ったモヤットボールは、ぐるりと広場全体を睨み付けるようにして見回し、口を開く。
「―――こん中に、今まで死んでいった二千人に、詫びぃ入れなあかん奴がおるはずや」
喧騒がぴたりと止んだ。そしてそんなキバオウの言葉を理解した俺は、隣に視線を向ける。見れば、地味なレザーアーマーを着こんだ少女は僅かに顔を強張らせていた。
「キバオウさん、君の言う奴等とはつまり、元βテスターの人たちのことかな?」
「決まっとるやないか!」
吐き捨てるように告げられた言葉。憤怒にまみれたそれに、俺の雇い主はびくりと肩を震わせた。
「β上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日に九千何百人のビギナーを見捨てて消えよった。奴等はウマい狩り場やら、ボロいクエストを独り占めして、その後もずーっと知らんぷりや。こん中にもおるはずやで、β上がりっちゅうことを隠して、ボス攻略の仲間に入れて貰おうと考えとる小狡い奴等が!そいつらに土下座さして、こん作戦のために溜め込んだ金やアイテムを吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし、預かれん!」
―――その通りだな、と。俺は他人事のように思考する。
βテスターのほとんどは、
......このキバオウとやらが言っていることは真実だ。何の否定もできない。テスター達は容赦なく
―――で、それがどうした?
俺ははっ、と嗤う。キバオウを。そしてアルゴを。―――
くだらない。本当に、くだらない。罪悪感?良心?そんなものは溝にでも棄ててしまえ。他人がどうした?そんなモノ知ったことか。生きるために、最良の選択をしただけだろうが。そこに善悪もクソもない。一番タチが悪いのは、勝手にその選択を美化することだ。
俺はβテスターではないが、切り捨てたのは同じだ。見捨てたのは事実だ。だが、それは自分自身の選択した行為なのだ。勝手に罪悪感を抱いて悲劇に仕立て上げて美化してんじゃねえ。受け入れろ。俺たちが2000人のうちのいくらかを殺したとも言えるのは事実なのだ。
今さら後悔なんざするな。悔やむくらいなら今ここでアイテムも
内心でそう吐き捨て、俺は溜め息を吐く。......まあ、俺のように開き直れない連中もいることはわかっている。隣で俯いている少女が、金にがめついものの、人並みの罪悪感と良心を持っていることも。
......だが、こんな所で折れてしまっては困る。遅かれ早かれ、アルゴが元βテスターであることはバレるだろう。でなければ、こうまで先読みして情報を供給することなど出来やしない。そして、今のこの空気でそうだとバレたならば―――槍玉にあげられるのは目に見えている。
それは、避けなければならない。協力者としても、このSAOを攻略しようとしているプレイヤーとしても―――こいつの能力が失われることは惜しい。この情報収集能力と記憶力がこれからの攻略にも必要であろうことは、こいつの仕事っぷりを見た奴ならば即座に理解できるだろう。
......だから、これは―――必要なことだ。
「......発言、良いか?」
す、と。俺は挙手しながらそう言い、返事も聞かずにするすると前へ出る。そして、小男を見下ろすようにして立った。
「俺の名前はハチマンだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、元βテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ。その責任を取って謝罪、賠償しろ―――ということだな?」
「そ......そうや」
じっとキバオウの目を見つめながら、確認するようにそう呟く。すると、そんな俺に気圧されたようにキバオウは一歩下がった。......おお。この腐った目がプラスに働いたのは人生初かもしれぬ。
だが、その呪縛を振り切ったのか、キバオウはすぐに前傾姿勢に戻り、爛々と光る目でこちらを睨め付ける。おお......この俺の魔眼(腐)を破るとは、こやつやりおるわ。......うん、いやマジで初めてな気がする。俺の魔眼強すぎだろ......。
「あいつらが見捨てへんかったら、死なずにすんだ二千人や!しかもただの二千ちゃうで、ほとんど全部が、他のMMOじゃトップ張ってたベテランやったんやぞ!アホテスター連中が、ちゃんと情報やらアイテムやら金やら分け合うとったら、今頃ここにはこの十倍の人数が......ちゃう、今頃は2層やら3層まで突破できとったに違いないんや!」
キバオウの叫びを受け止め、俺は薄く笑う。......さて、ここからが本番だ。上手く行くかどうか。
「―――βテスターは合計で1000人」
「は......?」
唐突な俺の呟きに、なに言ってんだこいつ、みたいな視線をキバオウが向けてくる。だが無視し、俺は続けた。
「その全部が全部、このSAOにログインしているわけでもないだろうな。つまり、当初のβテスターの数はその八割、約800人と概算しようか」
そして―――と、俺は周囲を見回す。さて、ここから誤魔化してちょろまかせれば俺の勝ちだ。詭弁と屁理屈ならば、ぼっち特有の思考リソースをフル活用する俺の右に出るものはいない。
「―――現時点での死亡者2000人のうち、βテスターと類推されるのは300人。つまり、βテスターの40%はすでに消滅していることになる」
「な......なんでそんな事がわかるんや!?」
唖然とし、そして突っかかってくるキバオウ。そんなキバオウを見下ろしながら、俺は薄く笑い―――言い放った。
「......決まってんだろ?俺が、βテスターだからだ」
「なッ!?」
βテスターを憎む本人の前での爆弾投下。通常ならば決してやらない真似だが、《アンチクリミナルコード有効圏内》である此処ならば、万が一が起こったとしても死ぬことはない。
「ちなみに言っておくがこの300人って数は『最低で』、だからな。少なくとも俺が【生命の碑】で数えた限り、βテストで見た名前は300あった」
もちろん嘘っぱちである。アルゴが概算で叩き出した数字に適当にそれっぽい理由をくっ付けただけだ。......もしかしたら本当に数えたのかもしれないが。
「ああ、あと言っておくが、金やらアイテムは共有してなかったが―――『情報』なら共有してるはずだぜ?」
騒然とするその場を再び見回しながら、俺は懐から、羊皮紙を三枚ほど束ねた冊子を取り出す。―――鼠印の『エリア別攻略ガイドブック』だった。
「お前らが新しい街や村に着いたとき、これは必ず道具屋に置いてあったはずだ。おかしいとは思わなかったか?早すぎるとは思わなかったか?」
俺はキバオウにそれを見せつけるようにして、言った。
「―――そりゃそうさ。なにせ、俺たちがわざわざ情報屋に言って、置いてやってたんだからなあ?」
「ッ......」
恩着せがましく、嫌らしく笑いながら俺は続ける。
「しかも、出血大サービスの無料。本当ならぼったくってやってもよかったんだぜ?だがまあ、俺にも人並みの良心ってのもあるんでね。助け合いの精神ってことで、わざわざ無料にしてやったんだ」
そして俺は、『嘲笑』を顔に貼り付け―――トドメの一言を告げた。
「―――それとも何か?お前らは、俺たちからさらに加えて、金やアイテムを
「ッ―――!!」
ゲーマーとしての
「俺としては、むしろ感謝して欲しいんだがなあ?情報の正確性についてはわかってるだろ?それだけの情報を
はっ、と馬鹿にするようにして笑う。
「要するに、今まで死んだ二千人は、ただの無能だったんだよ。死ぬべくして死んだだけだ。......ああ、βテスターも半分近く死んだんだったな。ま、所詮そんなもんだろ。これだけお膳立てして死んだのなら、どうしようもないな」
「くッ......」
「ああ―――そうだな、俺も別に鬼じゃない。人が死ぬのを見るのは良心が痛むんでね」
「
※※※※※※※※
「......ハッチ。なんであんな真似した?」
背後からの怒気を孕んだ声に、俺は肩をすくめた。はて、なんと答えたものか。
アルゴのため?違う。
βテスターのため?それも違う。
強いて言うなら―――
「......仕事だから、だな」
「は?」
結局は自分のため。俺がアルゴと一蓮托生である以上、アルゴが情報屋として食っていけなくなることは避けたい。俺がβテスターである、という偽のレッテルが貼られてしまったのは痛いが、ゲーム自体が進めばそれらも解消されていくだろう。もともと情報さえ共有すれば、対して差異も無いのだ。βテスターの全員が全員、隔絶したプレイヤースキルを持っているわけもないだろう。
当座さえ凌げば、βテスターに対する不満は沈静化するはずだ。ダメなら街に引きこもればすむ話である。だがここまでヘイトを集めてしまったのだ、今まで以上に警戒しなければならないのは当然だろう。.....早急に《索敵》スキルの熟練度を上げる必要がある。
「別にお前のためにやったわけじゃない。いずれは対処しなければならない問題だったし、むしろいい機会だった。これでβテスターと一般プレイヤーの確執に関しては、当分の間は問題にならないだろ」
ちょこちょこ不満は流出するだろうが、あの場で正面から論破した以上は当分は大丈夫だろう。詭弁とはったりをかましただけだが、多分通用しているはず。......してるよね?してなかったら俺の行動が無駄なんだが。
「......おい、どうした?」
俺はうんともすんとも言わないアルゴに振り向く。すると、アルゴは呆然としてこちらを見ていた。
「おい」
斬新な無視の仕方だなー、と思いながら俺は目の前で手を上下させる。
「......はぁ」
と。アルゴは溜め息を吐いてフードを被り、足早に歩き出した。俺はそれを慌てて追っていく。
「......少し、ハッチのことがわかってきた気がするヨ」
「はあ?」
小さすぎて聞き取れなかったアルゴの呟きに俺は聞き返したが、アルゴはそれを無視して進んでいくのだった。
―――そして数時間後。俺たちは1層ボス撃破と、ディアベルの死を知らされることになる。
結局、言うこと言った後はステルスヒッキー全開で逃走した八幡。ボス戦には参加しませんでした。