やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE! 作:あぽくりふ
では、遅くなりましたが5話。
「......ディアベルが、死んだあ?」
俺は思わず聞き返す。んなアホな、というのが正直な感想だ。
俺の経験上、ああいう上っ面が完璧な奴等は必ずと言っていいほど抜け目がない。強か、と言ってもいいかもしれない。
......つまり、考えられるのは俺の観察眼が鈍ったか―――もしくは、予測不能な事態が起きたかのどちらかだ。
いや、こいつが嘘をついている可能性もあるにはあるが、それを行ってもメリットはない。故に可能性はゼロに等しい。
「それ、マジか?」
「マジ。【生命の碑】でも確認してきたヨ」
はぁー、と俺は溜め息を吐いた。......不味い。何が不味いって、ディアベルが所属していた組織が不味い。
全体の約三割、すなわち3000人ほどが所属している組織―――名前はまだないため、俺とアルゴが『共同体』と呼んでいる―――は、現時点で最も巨大な派閥だ。
名目上は『協力して前向きにサバイバルを目指す』というもので、日本国内でも最大級のネトゲ情報サイトの管理者である男が率いているのが『共同体』だ。プレイヤーはいくつかの集団に分けられ、獲得したアイテム等を共同管理し、情報を集め、《迷宮区》の攻略に乗り出している。リーダーのグループは《はじまりの街》の中央広場に面した《黒鉄宮》を占拠し、物資を蓄積して配下に指示を飛ばす、というシステムを取っていた。
だが、そのあまりの巨大さ故に、一枚岩とはとても言い難い。内部ではすでにいくつかの派閥が出来上がっており、抗争とまでは言わないが小競り合いも起きているらしい。
―――そしてディアベルというプレイヤーが死んだ今、それは一層激化するに違いない。組織のナンバーツー、迷宮区攻略に乗り出していたトップグループのリーダーを務めていた奴が死んだのだ。その後釜争いが勃発するのは想像に難くない。
「遅かれ早かれ誰かが死ぬのはわかってたが、まさかあの騎士サマだとはな......」
何があったんだ?と俺は目線でアルゴに問う。彼女は首をすくめ、ジュースをずずずっと吸って答えた。
「―――なんでも、ボスのLA狙って単身飛び出したところを、カタナのスキルで滅多打ちにされたらしいゼ」
「はあ......?」
アホなのか。
そう思ったが、いやそうじゃないと否定する。違う、問題はそこじゃない。
LA―――すなわちラスト・アタック。フロアボス、フィールドボス、そしてその他の
―――だが、そのシステムは《ガイドブック》には載せていなかったはずなのだ。
何故なら、
―――故に、生存面でもゲーマーとしても、LAを狙うプレイヤーは多いだろう。そしてそれはプレイヤーから思考のリソースを確実に奪い、冷静な思考をなくさせ、無謀な突貫を促進するに違いない。
だからこそ、俺は死者の続出を危惧して《ラスト・アタック》の概念を載せないようにアルゴに頼んだのだ。別に他人がいくら死のうが知ったことではない―――が、さすがにこのせいでトッププレイヤー達が全滅した、もしくはそれに近い被害を被ったとなれば寝覚めが悪い。いずれは公開しなければならないだろうが、攻略のサイクルすら定まっていない今知らせるべきではなかった。
だから、一般のプレイヤーはこの概念を知らないはずなのだ。そう、一般のプレイヤーは。
つまり、導き出される結論は―――
「ディアベルは、元βテスターだったのか......!」
「そう見て、ほぼ間違いないだろうナ」
大した策士だったヨ。
そう呟き、アルゴは肩をすくめた。同時に俺は舌を巻く。アルゴが気付かなかったということは、βテスト時とは名前を変えていたのだろう。......なにより、あれほど元βテスターを憎んでいたキバオウの横でなに食わぬ顔をして指示を飛ばし、あまつさえ常に笑みを絶やさなかったその精神力が恐ろしい。
いや、もしかするとキバオウの憎悪を煽ったのはディアベル張本人である可能性もある。もしそうだとすれば―――彼はまさしく、人の上に立つ才覚を持っていたのだろう。
「......チッ。他の奴が死ねばよかったんじゃねえの?」
「おい、それオイラ以外の奴の前で言うなヨ?袋叩きにされるゾ」
舌打ち混じりに呟いた俺の言葉に、アルゴが呆れた風に返す。
「アホか。お前以外の奴の前で、こんなこと言うわけねえだろ」
「............」
鼻を鳴らしてそう返したが、返事が返ってこない。うん?と俺はアルゴに視線を向けると、何故か彼女は閉口しながらこちらを見ており―――視線が合うと、溜め息を吐いた。おい。
「んだよ?」
「......ああ、うん。ハッチがそーゆー奴だってのはわかってたヨ。......はぁ」
「はぁ?」
俺はアルゴの言葉が理解できずに眉ひそめるが、アルゴはさらに深く溜め息を吐いた。解せぬ。
......まあ、わからないものはしょうがない。どうせ聞いたところで答えてはくれないだろう。ソースは小町。「これだからごみいちゃんは......」と小町が言うときと同じベクトルのものが混じっている気がする。
「......んで、次のキリトくんとやらについてなんだが」
「あー......どう思う?ハッチ」
強引に次の話題に切り替え、俺は1層フロアボス攻略戦の
まあ、結論からすれば―――
「こいつ、バカなのか?」
「直球だナ」
いやだってさ、と俺は続ける。
「どう考えてもバカだろ。あれか、こいつひょっとして自殺願望者なのか?」
俺は呆れて嘆息した。このキリトとかいうプレイヤーは、余程腕に自信があるバカか、自己陶酔したただのバカに違いない。アホかこいつは、わざわざ敵作っただけじゃねえか。
......というか、その前の会議での俺の言動があるから、こんなことしなくても良かったんじゃねえのか。だとすれば、こいつは底無しのお人好しなバカ、という線もある。
「それ、ブーメランな気がするんだけどナ」
「ばっかおま、俺とこのバカを一緒にするんじゃねえよ。俺ならこんな甘いことはしねえよ」
甘い。マッカンを三倍濃くした並みに甘い。やるならもっと徹底的に、高圧的にやるべきだ。
そして―――
「そもそも、βテスターだと露見したとしてもデメリットは少ない。βテスト時には10層までにしか到達してないんだろ?なら、それから先になればアドバンテージは失われるってわけだ。加えてβテストとは変更点は多々ある、むしろ危険なのは慢心した元βテスター達だろうな」
実際問題、元βテスターの約四割は死亡し、他のMMOでトッププレイヤーだった連中とやらは軒並み死んでいるのだ。この事実は、最も恐ろしいのが『慢心』であることを示している。
「......そうだろうけど、みんなそんなことを知ってるわけじゃないだロ?」
「おいおい、何のためにこれがあるんだ」
俺はひらひらと《ガイドブック》を目の前で揺らした。アルゴははっ、と目を見開いた。
「情報屋にとしての権威はすでに得た。他の情報屋は軒並み廃業に追い込まれつつある。俺たちはもはや、SAO全体の情報をコントロールできる唯一の存在だと言っていい」
情報とは力だ。情報は現代社会において必要不可欠なもの。
そして、今やそのほぼ全ての情報をコントロールできるのは俺たちのみ。
「つまり、だ。―――今や、俺たちが流す情報が、真実なんだよ!」
フゥーハハハ!と俺は高笑いする。そんな俺を見て、アルゴは愕然とし、そして戦慄しながらもドン引きしていた。
「......ま、情報屋としての信用のためにも嘘は流せねえけどな。適度に情報操作して、世論をコントロールするくらいならできるが」
「それでも充分脅威的だと思うんだけどナ......」
未だにドン引きしながらも、アルゴは確かに、と頷いて羊皮紙にさらさらとペンで書き込み始める。次の《ガイドブック》に載せる情報を整理し始めたのだろう。
「............」
そんな彼女を見て、俺は店の外に視線を向ける。―――今俺たちがいるのは2層。先程開通した―――おそらくキリトというプレイヤーによって開かれたであろう―――2層の転移門をくぐってきたのだ。店の外にはプレイヤーが溢れかえっているが、2層に着いて早々仕事の話というのも俺らしい......のだろうか。
―――ディアベルが死んだ。その事実......というよりは、カタナのスキルが使用された、ということがどのような影響を与えたのかが気になる。
万が一、ということで、あの場でヘイトを集めてまで予防線を張っていたのが幸いした。いかにキリトとやらが悪ぶったとしても、ディアベルが死に、それが攻略本に載ってない行動パターンによるものだという事実は変わらない。そして、それは容易くアルゴへの憎悪に変換される。
......が、そのアルゴに情報を流していたのが俺ならば?当然ながら、全てのヘイトは俺へと流れ込む。すなわち、アルゴが情報屋として生きていけなくなる、という最悪の事態は回避されたわけだ。
そしてその代わり、というよりは必然的に俺の危険は跳ね上がる。パーティーを組めない、ギルドに入れないというのは別にデメリットにはなり得ない。もとより信用すらできないのだから。ただ単純に、襲撃される可能性。MPKされる可能性。それらが増え、そして俺というプレイヤーの社会的信用性が失われるのがデメリットだ。
―――結論を言おう。強くなる必要がある。
最低でも、ほとぼりが冷めるまでは力が必要だ。フロアボス攻略を目指すトッププレイヤーと同等、もしくはそれ以上のレベルは最低条件だ。それと並行して、プレイヤースキルも磨いていく必要がある。
「......はっ」
自嘲するように、俺は笑った。なんだ、現実となんら変わらないじゃないか。やはりゲームの中でも『力』が必要なのだ。権力、魅力、腕力、知識力。全てにおいてチカラが要る。力がなければ自分を通すことすらできやしない。他人を守るなんぞもってのほかだ。
今の俺の実力は、精々このキリトとやらの半分程度だろう。当たり前だ、VRゲーム初心者と経験者では大きな差がある。このレポートを見る限りでも、このバカプレイヤー―――キリトは、自分の実力に余程自信があるのだろう。今後必要となってくる戦力になるだろうと書かれている。バカなことをしでかすだけの実力はあるということだ。
「『キリト』に『アスナ』......」
片手剣士のビーターであるキリト。そしてそれとパーティーを組んでいた神速の
そして、もう一人。圧倒的な制圧力を持つ曲刀使い、キリトのパーティーメンバー―――
「『ユキノ』、ね」
その名前を口のなかで転がし、俺はレポートを閉じる。うん、ちい覚えた。
―――ユキノ。このプレイヤーが、1層迷宮区で驚異的な方向音痴を披露した、あの黒ローブであることを俺が知ることになるのは―――もう少し先の話である。