やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE!   作:あぽくりふ

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6話 そして彼は何処か抜けている。

 

 

 

 

「ブルモオオオ!」

「ちィッ―――」

 

脇腹に走る鈍痛。俺は舌打ちして反転し、体力ゲージを確認しつつ短槍を再び構える。一割も削れていないが、ただ角がかすっただけで5%以上削られた、ということでもある。

あの突進はやはり厄介か、と牛型のMob―――《トレンブリング・オックス》を見ながら、俺は思考した。

 

「ブルルルモオォォォオオ!」

 

《トレンブリング・オックス》。その特徴は至極簡単である。―――でかい、速い、そしてしつこい。この三つに限る。その巨体に見あうだけのタフさと攻撃力の高さ、そして突進時の速さが厄介なモンスターだ。

加えて一度タゲを取られたら、何処までも―――それこそ街に入るまで延々と追ってくる悪夢のようなMobだ。

だがまあ、一対一ならば簡単に倒す方法もあるにはある。

 

「シッ!」

「ブルォ!?」

 

再び突進をかましてくる巨牛。右にステップしながらそれを避け、俺は交錯した瞬間に短槍を振るう。―――後足にヒット。勢い余って《トレンブリング・オックス》は地面へと突っ込み、派手に横転。

......突進の速度が速いということは、少し誘導するだけでそのままの勢いで地面へと激突する。加えてその巨体だ、起き上がるにはしばらく時間がかかる。

 

「さて、後は作業だな」

 

まあ、もともと狩りゲーなんてものは、慣れれば作業だ。

地面に倒れてじたばたともがく牛を見下ろし―――俺は、無慈悲に短槍を振り下ろす。

刺す。刺す。刺す。ひたすら刺す。検証作業も兼ねて、様々な箇所を刺し続ける。

 

「よっ、と」

 

そして、眼窩を貫くようにして槍が頭蓋を貫き―――ついに、雄牛(オックス)はポリゴンの集合体となり、砕け散った。

 

「ふう......」

「ブルォ」

 

槍の穂先を肩に置き、俺は一息吐く。まだレベルは全然上がってないが―――って待て。......《トレンブリング・オックス》はさっき倒したはず。なのに、なぜ背後から牛の鼻息が聞こえるんだ?

俺は恐る恐る、背後へと顔を向ける。すると、そこには。

 

「ブルォ」

「......Oh」

 

《トレンブリング・カウ》。雄牛(オックス)ではなく雌牛(カウ)だが―――その体の大きさは、ただでさえでかい《トレンブリング・オックス》の二倍であるというMob、というかもはやちょっとした小ボス扱いされているモンスターだった。

見上げれば、その肩までの大きさは驚異の四メートル。でけえよ。

......そしてよく考えれば、こいつの視点からしたら俺は同族をめった刺しにしてる極悪人なんだよな。そんなことを考えたものの、Mobにそんな知性などあるはずがない。

......が、この《トレンブリング・カウ》の目が憤怒に染まっているように見えるのは俺の気のせいなのか。

 

とりあえず。

 

「......ごめんなさい?」

「ブルモオオオオォォオオォォオオ!!」

 

ですよねー。

 

俺は自分の不運に乾いた笑いを浮かべながら、再び槍を構え―――激怒する《トレンブリング・カウ》との闘いに身を投じるのだった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「......なんか疲れてるのカ?ハッチ」

「ああ、うん......ちょっと闘牛士の真似事してな」

 

俺は溜め息を吐き、グラスに注いだミルクを煽る。......あ、美味いなこれ。

 

―――1層ボス撃破から4日ほど経った。現在俺たちがいるのは2層主街区《ウルバス》。通りには4日前と変わらず大量のプレイヤーがさ迷っており、そしてそれは中ボス、というかフィールドボスである《ブルバス・バウ》を撃破するまで続くだろう。

さっさと次の村―――《タラン》に行きたいものだが、トップランナー達が撃破するまでは通れない。層の構造上、こればかりはどうしようもなかった。《ウルバス》と《タラン》の間には《マルメ》の村があるにはあるが、そこまで大きくもない村にいるよりは主街区である《ウルバス》のほうが余程快適だ。《タラン》のすぐ次には2層の迷宮区が存在しているため、攻略の面からしても《ブルバス・バウ》は早々に排除すべきだろう。

―――1層でもそうだったように、主街区から迷宮区に辿り着くまでにはいくつかのステップが必要になる。いくつか配置された障害物―――すなわちフィールドボスを撃破していかなければ、迷宮区には辿り着けない仕様になっているのだ。すなわち、2層主街区である《マルメ》の村から先にある《タラン》の街に進むには、間に存在するフィールドボス《ブルバス・バウ》を排除しなければならない。

 

「......めんどくせえ」

 

そう考えると、100層なんて夢のまた夢、といった感覚だ。この遥か上、浮遊城アインクラッドの頂点に達するにはどれ程の時が必要となってくるのだろうか。

 

―――と、若干鬱になりつつある思考を妨げるようにして、アルゴがひょいっとグラスをかっぱらう。

 

「これ、美味いのカ?」

「あー、まあ美味いぞ。《トレンブリング・カウ》のドロップだ」

 

そう返すと、アルゴはヒュウ、と感心したように口笛を鳴らした。

 

「めっずらしいナー。ハッチがあの滅茶苦茶でかい牛に挑むだなんて」

「不可抗力だっつの。俺がわざわざあのデカブツに挑むわきゃねーだろ」

「ふゥン」

 

意外そうにそう返し―――アルゴはグラスを煽る。

 

「おい」

「―――ぷはぁ、確かになかなか美味いナ、コレ。苦労に見合うだけはあるヨ」

 

止める間もなくアルゴはグラスに入ったミルクを飲み干し、俺はどんっとテーブルに置かれた空のグラスを見て、どう言えばいいのかと閉口した。

......色々言いたいことがありすぎて、何から言えばいいのかわからない。これって間接的なアレになってるわけなんだが、アルゴも気にしてないしスルーすべきなのか。というかゲームだしあまり関係ないのかもしれない。

 

―――そうだ、ゲーム内だから気にする必要性もない。そう脳に刻み込み、俺は迷宮入りしそうになる思考をぶったぎる。多分これは、気にしたら負けな類いのアレだ。

 

「?」

「......なんでもねえよ」

 

挙動不審な俺を見て不思議に思ったのか、アルゴはこてんと首を傾げる。アルゴの小柄さも相まって小動物的な可愛らしさを発揮するそれから目を逸らし、俺はぶっきらぼうに返した。

 

「で、何かあったのか?」

 

誤魔化すように言った俺の問いに、アルゴは「あー、そうだったナ」と呟く。

 

「そろそろ《ブルバス・バウ》が倒されるころだろうし、《タラン》に行くゾ。ちょっとした待ち合わせもあるしナ」

「そうか。じゃあ、俺は《タラン》についたら《迷宮区》に行っとくわ」

「ダメだ」

 

何故か俺の提案はばっさりと切り捨てられ、なんでだよ、と俺はアルゴに視線を向けた。

 

「ハッチにも来てもらうヨ。ちょっと厄介な問題が起きてネ」

「はあ......?」

 

ひょっとして働かねばならないのだろうか。いや、レベリングや検証作業も仕事だし、なんなら常に仕事しているまであるが。なにそれ何処の社畜?

 

「護衛だロ?」

 

そう言って、アルゴは席を立って歩き出す。グラスを店主に渡し、俺は慌ててその背を追った。

 

......というか、圏内なら護衛っていらなくね?そう一瞬思ったが、ついぞそれは口から出ることはなく―――俺はやたら速い雇い主を、必死に追うのだった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

どうしてこうなったのだろうか。

 

「それじゃ......第2層迷宮区到達を祝って、乾杯!」

「かんぱーイ!」

「乾杯......?」

「......乾杯」

 

四者四様、色々とニュアンスは違うものの乾杯し、エールを煽る様子を見ながら―――俺は深く溜め息を吐く。

今俺がいるのはアルゴの後ろ。壁によりかかるようにして立っているのだが、誰も俺に気付く様子はない。

だが、それもそのはず。今の俺は、マナー違反とわかっていつつも《隠蔽(ハインディング)》スキルを発動しているからだ。

 

......目の前で「ぷっはァ~!」とおっさんみたくエールをジョッキ丸ごと一気飲みして息を吐くアルゴを見下ろし、俺は再び溜め息を吐く。視界の端には《74%》という数値が表示されていた。

―――この数値は《隠蔽率(ハイドレート)》 と呼ばれるものだ。この数値が0になれば隠蔽(ハインディング)状態が解除、すなわち看破(リビール)されてしまう。《隠蔽率》自体は様々な要因によって計算され算出される。つまりこの人目につきやすい場所で《74%》もの確率を叩き出しているのは驚異的なのだが―――俺の《隠蔽》スキルの熟練度はすでに100を越えるという偉業を成し遂げていたのだ。

 

......四日前、《投剣》スキルを捨て、《隠蔽》を取得した俺は三日に渡ってひたすら《隠蔽》を使い続け、ついに《短槍》スキルの熟練度すら越えて熟練度100へと到達。はたから見ればただのアホだが、当時、というか昨日の俺は錯乱していたのだろう。いわゆる深夜のテンションと同じだ。徹夜して《トレンブリング・オックス》とかくれんぼしていたのは今となってはいい思い出だ。昨日のことだけど。......馬鹿じゃねえのか、俺。

 

「アルゴ、これ1階と2階のマップデータだ」

「いつも悪いナ、キー坊」

 

小さく丸まったスクロールをアルゴが受け取る。―――マップデータ。つまり、あれが《キリト》か。

 

俺は思考を中断し、手渡した少年―――《キリト》をじっと観察する。―――黒髪黒目、どちらかと言えば女顔。まだ幼さが抜けきらないその顔と背丈から推測するにリアルでは中学生か。鎧の類は身に付けず、戦闘衣(バトルクロス)にも似た防具とコートのみ。武器は片手剣を背負っており、そこから類推するに戦闘スタイルは回避特化型の片手剣士。ヒットアンドアウェイを繰り返すタイプだろう。なかなかリスキーと言えなくもないが、防御重視のタンクでも鈍重さにつけこまれて削られれば終わりだし、そうでもないかと俺は首を振った。

 

そしてその隣に座る二人―――《アスナ》と《ユキノ》を見て、俺は目を剥いた。理由は簡単だ。どちらも、そこらじゃ見かけないであろうレベルの美少女だったのだ。

......心の中でキリトとやらに親指を下に向けつつ、俺は他二人も静かに観察する。まあキリトくんには死んで欲しいが、代わってみたいかと聞かれれば即座にノーだ。絶対目立つし、そもそも俺は女子と会話などできるわけがない。ちなみにアルゴは除外だ。あれは《鼠》だし。

 

―――事前情報から、茶髪の少女が《アスナ》で黒髪の少女が《ユキノ》であろうことは判断できる。細剣(レイピア)使いのアスナと、三日月刀(シミター)使いのユキノ。だが―――このパーティーの全員が全員とも軽装というのは、いかがなものなのだろうか。少なくとも一人くらいは盾役(タンク)が欲しそうな気もする。

 

―――そんなことを考えているうちに、話はどんどんと進んでいく。はっ、と俺が我に返った時にはすでにひととおり話は終わっているようだった。......しまった。

 

「―――じゃあ、ユキノんもなんか依頼があるのカ?」

「......ええ。というよりはちょっとした頼みごとなのですが―――」

 

と、そこでユキノんもといユキノは言葉を切り、そして言った。

 

「あなたと一緒にいる、あのぬぼーっとした人に会わせてくれませんか?」

 

ぶふぉ、という音と共にアルゴがエール酒を噴く。俺は一瞬それが誰を指しているのかわからず―――直後にそれが俺だと悟って思わず閉口した。同時に―――この少女は俺になんの用があるのだろうか、と疑問を浮かべる。いや、ここまで目立つ奴ならそうそう忘れることもない。正真正銘赤の他人のはずだが―――

 

「ど、どうして......ぷくく、ハッチに会いたいんダ?」

 

堪えきれず笑いを噴出させながら、アルゴはユキノに問う。すると、腰まである黒髪を揺らし―――目を逸らしながら、ユキノは答えた。

 

「いえ......以前、迷宮区で少し、その、迷っていた時に、案内して貰ったというか―――」

 

―――あ。

 

その言葉で、俺のなかで全てが繋がった。つまりこいつは、あの時の―――

 

「あの時の謎ローブか」

 

思わず口をついてでた言葉。直後しまった、と口を紡ぐが―――もう遅い。

三人の視線が俺に集中し、凄まじいスピードで隠蔽率が減少、0に。アルゴがあちゃー、と呟き、額に手を当てた。

 

「............」

「............」

「............」

「............」

 

さて、どうしよう。

 

俺は冷や汗をだらだらとかきながら......ついに、キリトと愉快な仲間達と邂逅を果たすのだった。ただし、最悪な形で。

 

 

 

 

 






中途半端な形だけど、ここで区切ります。
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