FLOWERS Another S   作:抱き枕50

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本編は前半の共通パートになります。
この後、SパートとRパートに別れて進みます。


Common part

今夜はオリオン座流星群の極大の日である。聖アングレカム学院の一年生、私『中田蛍』が所属する天文部ではこの期を逃すまいと準備に追われている。幸い観測の障害になる満月とかち合わず天気も晴れてくれた。学院の秘密兵器である高感度なビデオカメラが複数台空に睨みを効かせている。目視観測用の定番、7×50の双眼鏡も各自用意されていてる。費用も相当だが、正規の部ならではの学院からの支給で部費は皆無。それは私の様に、お嬢様では無い一般家庭出の身としては本当にとってありがたいの一言だ。個人では双眼鏡一つがやっとだろう。天文部から見れば定例的な流星観測であるのだけど、今回の流星観測は私にとっては特別なのだ。何故かって?それは私が選んだ、姉の様に慈愛に満ち、妹の様に甘え、尚恋人の情愛を持つ人と共に夜空を眺められるという至福の時を過ごせるのだから。

 

7月、私は家庭の事情からこの学院に転校してきた。都会に生まれずっと都会で育った私。家族で海外転勤した中国北京も、公害で星など見えなかった。PM2.5等北京の公害は特に酷く、両親が心配して私だけが日本に帰って来ることになり、この聖アングレカム学院に転入した。中途転入は私一人かと思っていたら、芸能活動していたと言う,孝崎さんを始め6人も転入するんで驚いた。もちろんいい意味で。同期ってやはり心強く感じるからね。アミティエ試験で孝崎さんだけ外れたけど,他は私も含めて転入生どうしでアミティエになった。

 

それにしても向こうでは考えられないほど空気が美味しい。そして夜の星の見え方!一面の星、星、星。ただただ感動。街中でなく光害の無いということが要因なのであろう。学院案内を見て一も二もなく天文部に入った。設備も凄いし先輩もいい人で適切に指導してくれる。月に一回の定期夜間観測、今回のような天文イベントに合わせての観測。そして新入部員は昼休みの太陽黒点観測がそれにプラスされる。最近はあまり薦められないとのことだが、サンプリズムと口径絞った専用の望遠鏡で、太陽を直接見ながらスケッチする。一年生では天文部に席を置くのは私だけで、お昼時に観測場所に向かう姿はクラスで不思議がられた。

 

そのことを問いただしてきた級長の花菱さんに子細を説明すると、天文部なのに部活動は夜だけじゃないのね。と感心しきりだった。花菱さんはどうも夜は苦手らしい。

「あのね委員長は怖がりさんなんだよ~中田ちゃん」

沙沙貴苺さんがこっそり耳打ちしてくれた。ムードメーカーの双子さんの姉の方だ。転入して右も左もわからない私たちを早く学院に馴染める様に、花菱さんは色々な事を丁寧に教えてくれた。3人のアミティエが基本な中で、私達は転入2人組の学院を知らない同士のアミティエなのだ。そのためか暇見ては

「問題ないかしら?」

と花菱さんは部屋を訪ねてくれた。私のアミティエはバレエがやりたくてこの学院に転入してきたらしく、バレエが得意な花菱さんが部屋に来るとアミティエは立花さんに質問責めである。そこがなんとも微笑ましく、でも私もお話ししたい事色々有るのにな・・・とちょっと複雑な感情が沸き立つ。

 

一緒に転入した孝崎さんはここに来るまで芸能活動していたとのことで、歌がとても上手で感心させられた。でもそのことが発端になり神聖な聖堂で、孝崎さんと花菱さんが、匂坂さんの事で諍いになってしまった。匂坂さんの事は知らなかったんで4月組の子に聞いたら花菱さんと白羽さんのアミティエで、私たちが入ってくる前に退学したと言う。そして

「匂坂さんは白羽さんとお付き合いをしていたの」

と言うから耳を疑った。「えっ? 」驚いて言葉が出ない私に、

「凄くお似合いの二人だったのよ。聖母祭の時とか画になってててね」

彼女は女同士とか全く触れずに自然に語った。

「白羽さんてね、匂坂さんの前に立花さんともお付き合いしていたのよ」

これもまた衝撃だ。

「立花さんが白羽さんをふってその後乗り換えたと言うわけ。あの美貌であの見事な黒髪」

「またレオタード着てるとスタイルが凄いのまるでモデルさんみたいよ。隣に立たれでもしたらまるで、公開処刑」

「性格はやさしいし頭は切れるしガーデニングにも詳しいし、料理部で料理も得意」

 

「ピアノも上手で聖母祭の時、演奏者に抜擢されて・・・・・・」

白羽さんのことを答える彼女は、

「白羽さんのウイークポイントはバレエくらいしか無いわよ・・・・・・」

とやれやれといった感じだ。。

「また立花さんと白羽さん、焼け棒杭に火がつくんじゃない? 匂坂さんはもう居ないんだし。二人はアミティエでお似合いだしね」

なんだか途中から言葉が頭を素通りしていった。あの美人が相手では、誰も太刀打ち出来ないじゃないとため息である。

 

匂坂さんの一件から、明らかにクラスの雰囲気が変わってきてしまった。孝崎さんは孤立し花菱さんも笑顔が少なくなった。そしていさかいの罰として、孝崎さんがアミティエと世話していたうさぎが失踪し、事件が解決するまではクラスの空気は色を失った。孝崎さんのアミティエである八重垣さんが、うさぎ失踪事件を解決してくれてやっとクラスに色が戻ってきた。とはいえすぐに定期試験が迫っていて皆試験勉強に必死である。もちろん私も必死に頑張る。

 

試験が終わり7月終わりの収穫祭を前に、私にとって初めてのお茶会が開かれた。場所は ”いつもの場所”と言われる東屋である。主催者である花菱さんも笑顔を見せている。皆も試験が終わり解放感で楽しんでる様だ。私は成績的には喜べるレベルじゃ無いけど、補習地獄の赤点でなくてとりあえずホッとした。アミティエと並んで座り菓子を摘む。見回すと白羽さんがどうにも元気がない。憂い顔の白羽さんは女の私でもドキっとさせられてしまう程の美人だ。まるで女優さんの様で上級生にファンクラブがあるという噂も。その憂い顔は、退学してしまった匂坂さんの事をまだ引きずっているだろうか。お茶会の前に、こっそりと教えてもらった相合い傘の傷を見て改めて二人の関係を思い浮かべた。だとするとまだ花菱さんとはヨリが戻ってないんだろうなと邪推する。

そんなこと考えていたら心が声が漏れたのか、花菱さんが紅茶を淹れに来てくれた。聖堂での一件やら色々有ったであろう彼女だけど、この場ではそんな素振りは露と見せない。やさしくて面倒見のいい憧れの彼女が側に居るだけで、どうにも意識して会話がぎこちなくぎくしゃくしてしまう。アミティエは普通に話をしていて羨ましく思う。私もどうにかクラスメートとしてお近づきしたいのに。ちょっと彼女に嫉妬した。花菱さんは私との会話もそこそこに他の級友のとこに行ってしまった。どうにも先に進めない自分に自己嫌悪だ。

 

そうだ、交換日記、もとい交換ノートはどうだろう? 私は物書きは部誌で慣れてるし、委員長職や合唱部で多忙な花菱さんの時間を有効に使えそう。アミティエには内緒で良いかなと思慮した。秘密の持つと言うのはちょっとしたスパイスに思えたからだ。思い立ったが吉日。早速購買部で少しおしゃれなノートを買ってきた。

「あっ、まだ花菱さんにOKもらってないわ」

思いっきり舞い上がってる。反省反省。面と向かっては恥ずかしいから明日手紙でも渡そうかな。ベッドに入りそんなこと考えていたら、寝ぼけた声で上のベッドから

「ねえねえ? なにブツブツ言って寝返り繰り返してるの? 」

と。どうも心高ぶっていて普段と違うようだ。それにしてもこのドキドキ感はいったい・・・。寝つけたのは夜も更けてからだった。

 

始業前にノートの事切り出そうとするも、クラスの中心人物である彼女は人だかりで転入して日の浅い私は気遅れして断念。仕方ないので授業中に手紙をしたためることにした。万が一を鑑みノートともに購買で封筒と便箋を買っておいたのは正解だった。平常心とはいかなかったけど、読んで恥ずかしくないように書けたかなと想う。後は手渡しするかこっそり鞄に入れるかだ。

思慮するもこの二択はなかなか答えが出なかった。午後に入り、バレエの授業で皆が教室を出た時に、途中から一人教室に戻ってこっそりと鞄に手紙を入れることができた。なんだかもうその後の時間は放心状態に近かったのだろう、ダリア先生から怒られてばかりで用向きを戴いてしまい、がっくり反省。荷物を運んだり、プリントをコピーしたり、植木の手入れもさせられて随分遅くなってしまった。そして試験の最中は休部だった天文部の部室に顔出しをし、黒板の私宛連絡事項を確認し一人淋しく寮に戻ってきた。

 

部屋に入るとアミティエが

「あれ、委員長が今来てたのよ? 会わなかった? なんだか話があるんだって」

と口を開いた。刹那、どういうことか理解し顔は硬直した。

「どうしたの? 委員長もなんか変だったわよ? また来るって言ってたけど」

アミティエに生返事で答え、鞄を置いた。なにかしてないと気がどうかしてしまいそう。とりあえず宿題して時間をつぶすことにした。

 

食事の時、花菱さんにメモを渡された。どもってしまい普通ではない私を見てアミティエは何かしでかしたのかと邪推し、

「なにか委員長が怒るような事しちゃったの? 」

と小声で話す。不審がられ無いように

「うん、そうなの」

と話を続けた。メモ見たら、手紙拝見しました。ノートの件はOKです。詳細は食事の後部屋に来てと。瞬間脱力し椅子から落ちそうになってしまった。皆がこっちを見、恥ずかしかったけどもその視線すら祝福しているように思えた。その後の食事は記憶がない。

 

一旦部屋に戻り、鏡見て笑顔の練習して身だしなみ整えて、不思議がるアミティエを余所に私は花菱さんの部屋に行った。廊下でエプロン姿の白羽さんと双子の沙沙貴さん達とすれ違う。料理部の部活中の様だ。それにしても相変わらず図抜けた美人だと思う。ふー。深呼吸をしてノックをする。

「どうぞ」

花菱さんの声を聞き部屋に入ると、笑顔で出迎えてくれた。緊張する私に

「いらっしゃい・・・今、紅茶淹れるからそこに座っててね」

 

そう、

「最初は私からね」

と立花さん。

「慣れるまではちょっとかかるからあんまり焦らせないでね」

立花さんの笑顔にうなずくのが精一杯の私。

 

お茶を淹れて頂き恐縮してたら、白羽さんが戻ってきた。いらっしゃいと声をかけてくれた。白羽さんとは初めてお話をした。お話しすると結構気さくで驚いてしまった。校内でも一、二を争うような美貌なのに驕ることも鼻にかけることも無い。上級生にも人気で、特にカリスマ的人気を持つニカイアの会の会長と副会長も、白羽さんととても親しいと聞いた。そんな白羽さんだけど、不思議なことに、何故かクラスメートとあまり話しないのだ。話してみると気さくな人なのに。本人はどう思うか判らないけど、白羽さんが会話に積極的になったら、ハーメルンの笛吹き男宜しく学院の皆がごっそりとの彼女の後ろに続き、洞窟に引きずり込まれてしまうかもしれない。ふとそんなことを考えてしまった。

 

収穫祭も終わり、転入組の私たちもクラスのみんなと仲良くなった言うか、孤立しなくなってきたと言うべきか、それなりに会話を楽しめる様になってきた。学内のこと、趣味とか、スイーツなんかもそうだし、もちろん女子の定番である恋話も。数日後、立花さんからノートが帰ってきた。私の転入前の様子が色々書いてあって楽しく一気に読んでしまった。特に聖母祭はこと細かに書いてあり、まるでその場に居るような感覚になってしまった。匂坂さんの歌を私も聴きたかった・・・。すぐに私は感想をしたため、部活やお茶会での紅茶のこととかを書き込み、ちょっと自慢のイラスト書いてみた。そして紐綴じの封筒に仕舞い、鞄に入れて朝を待つ。なんだか落ち着かない。でもこういうの悪くないなと思えた。

 

浮ついているとなかなか思う様にはいかないと言うのを実感してしまった。朝寝坊である。運悪くアミティエも一緒だ。今から食事は間に合わないので、断腸の思いで食事を抜き、着替えして鞄を持ってダッシュで教室へ向かう。そんなこんなでノートは渡せずに授業に入ってしまった。立花さんとは席が離れているので、授業中に渡すのは無理。悶々として一時限終了。やっと立花さんの元に赴きノートを渡すことが出来た。立花さんは笑顔で受け取ってくれた。天にも舞い上がる気持ちとはこの事だろうか? 沙沙貴さんたちが、そんな私を見て、

「蛍ちゃんなに赤くなってるの? 」

と笑う。

「何でも無いのよ」

と私。その時、私のお腹が鳴ってしまった。沙沙貴さんたちは大笑いし立花さんも釣られて笑った。真っ赤になって席に戻った。早くお昼にならないか照れ隠しの意味を込めて腕時計を凝視した・・・。

 

突然の朗読会の話に驚いたりと色々あったけど、今日も無事に授業も終わり部活して寮に帰ってきた。アミティエは一旦戻った後バレエの練習に行ったみたいで荷物だけが帰宅を物語っている。私は明日提出の課題に取りかかるのだが机に向かってもなかなか集中できない。ダリア先生が音頭とっての朗読会メンバー選定をつい思い出してしまう。八重垣さんに推挙されて、強引に選ばれた白羽さんが真っ赤になってて可哀想と思いつつも、ほんとに綺麗で可愛らしく思い出しては相好を崩してしまう。部屋に一人だから良いけど、アミティエが居たら呆れられてしまいそう。遅々として進まない課題をこなしながらも頭の中は、立花さんはあんな美人と交際していたの? どうして別れちゃったの?でも今でも好いているわよねぇ? よりを戻したりしないの? 匂坂さんとの事は? 等々思考の迷路に嵌まってしまい頭の中はぐちゃぐちゃ。ここに居ても悶々としてイライラするし何処か行こうかな。そうだウサギ小屋に行ってみよう。彼処なら癒してくれそうだから。

 

 そこには先客として沙沙貴さんたちが居た。料理部の食材の端材をあげに来たのだという。私もそれをもらって食べさせた。トークの達者なこの二人と一緒なら私は聞き役である。彼女たちは思う存分語って双子ならではの二人の会話はズレ無く楽しい。

「蘇芳ちゃんも時間とられちゃって話もあまり出来てないし、朗読会が終わるまでは合唱部も聖堂使えないから立花ちゃんも所在無いらしいよ」

と苺さん。

「小御門先輩も居ないから合唱部も開店休業だよね」と林檎さん。

「立花ちゃんはうさぎにちっともモテないんだって」

「自転車乗れないのにはびっくりしたよね」

等々意外な事実がわかったりしてイライラも次第に霧散して行った。

 

 朗読祭の朝、立花さんからノートが帰ってきた。立花さんは私のイラストがことの他気に入った様で、今度はもう少し大きいの描いてくれないかな? とリクエスト。もちろん断る理由無いし期待されるのはうれしい。放課後、感動しまくりの朗読祭の話題折り込んだりして一気に書き上げてしまった。イラストはノートに書くのではなく別に描いて同梱する事にした。絵柄は朗読祭の蘇芳さんにしてみた。立花さんが喜びそうだから・・・。

 

 今日から学院の授業が増える事になっている。第二外国語とガーデニングかバイオリンの選択科目でだ。私は結構語学は得意で中国にいる時も割りと早く話す事が出来た。そちらは良いと思うのだけど選択はどちらも苦手である。ただガーデニングには不可欠なものを欠く私は、成績がつくという事実で授業としてのガーデニングを除外せざるを得ない。残るはバイオリンである。ピアノをバイエルで投げ出してしまった過去がある私は楽器が苦手であるのだが・・・・・・。でもしかたがない。救いなのはアミティエもバイオリンを選択してくれた事。うれしくって手を取り合ってしまった。

 

 イラストに手間取りやっとノートを立花さんに手渡せた。蘇芳さんのだけでなく立花さんのも描いていて遅くなってしまったのだ。立花さんはお茶会のイラストにしてみた。そこには笑顔の彼女が居るから。ノートこそ行き来するも教室ではそんなに立花さんとは親しく話をしていない。ノートの存在を知ってるアミティエですらただの連絡帳としか認識してないし、立花さんもそうかもしれない。おそらくそうであろう。何しろ彼女は級長で皆に公平に接する。それは私とノートを交わしても変わらない。クラスでの立花さんと私はただの級友でしかない。皆も私が立花さんに特別の思いを持ち始めているとは思っていないだろう。でも私は・・・・・・立花さんのことを・・・・・・。

 

 お茶会で蘇芳さんが秘密の泉での水遊びを提案して立花さん等、暑中休暇に実家に帰らない人はおおむね参加する様になった。私は、両親が赴任先の中国から会いに来るので学院を離れることになり、断腸の思いで不参加である。アミティエは参加するらしい。参加できない事をノートで立花さんに愚痴ってしまった。そうしたら入浴時に

「ご両親に会うんだからそんな事言わないの」

と口頭で窘められた。

「ノートにはきっちり書くから拗ねないで」

と、頭をなでられてしまい思わず涙ぐんでしまった。何人かに見られてしまった様だけどそんなことはもう意識になかった。彼女の柔らかく温かい手の感覚だけが私のすべてだった。

 

 短い暑中休暇が終わり私は学院に帰ってきた。久しぶりに会ってみれば両親はやさしく私を受け止めてくれて我が儘も聞いてくれた。この数日私はお姫様として過ごしていた。それは楽しかった。でも何かが足りない、何かが違う、そう花菱立花。彼女の存在だ。前日夕方に寮に帰ってきて、いの一番にアミティエにお土産を渡して、次に立花さんの部屋にお土産を渡しに向かう。ノックをしたら

「はい。どなた?」

懐かしい声が耳に飛び込む。沸き立つ心。ああ。やっぱり、私は立花さんのことが・・・・・・。お土産を渡して戻ろうとすると、立花さんが紅茶は如何?と声をかけてくれた。好意に甘えたかったけど、先約のアミティエが部屋で待っているのから・・・・・・。後ろ髪を引かれる思いで戻ることにした。しかし手には二人の大切なノートが・・・・・・。

 

 時計は0時を回っていた。用事や課題をこなして、やっとノートに向き合えた。そこには私の知らない立花さんが居た。秘密の泉での水遊びの事である。八重垣さんと孝崎さんが仲直りした事、その為に白羽さんと立花さんが手を尽くした事

もちろん水遊びの事も。読み終えて立花さんらしいなと想う。級友が仲違いしているのを座視出来ない生真面目さ。そしてそれを正してしまう実行力。お手伝いした白羽さんの存在。そしてそこにいない私。私も立花さんのお手伝いをしたいなと切に思う。私で良ければ何でもお手伝いするのに! と。

 

翌日、私の暑中休暇の顛末を書いたノートを、イラスト添えて立花さんに手渡す。相変わらず紐綴じの地味な封筒入りである。その様を沙沙貴さんたちが目にして、

「なになに? その封筒。もしかして乙女の秘密の交換日記なのかな~怪しいなぁ」

と茶化す。立花さんは

「馬鹿な事言わないの。これはもっと真摯な連絡ノートなのよ。沙沙貴さん」

とぴしり。こっちはダメだとばかり、沙沙貴さんたちが私に目を向けたので

「途中転入で知らない事多いから教えてもらっていたの。それだけよ苺さん,林檎さん」

二人はまだ納得がいかない様だったけど、追求は授業開始のチャイムの音ともに終了と相成った。

 

 アングレカム学院では体育は全部クラシックバレエである。入る前から知っていたとはいえ、実践してみるととても難しい。経験者の孝崎さんや立花さんは、もう別次元で見入ってしまう。学院に来る前、未経験者だったという沙沙貴さん達も上手だ。クラスメートもバレエの授業が目当てで入学した子も多いという。そう言えば私のアミティエもその一派。バレエの授業はいつも楽しそうにしている。私はというとバレエは苦手。付けすればランク付けすれば正直どべの方である。体育自体が不得意だし、身体も硬い。そしてレオタード姿がどうにも様にならない。容姿と言えば白眉は白羽さんである。なんというか立っているだけで絵になっていて、楚々とした佇まいは神々しい。薄手のレオタード越しに判る身体の起伏は隣に立つのを躊躇させる。ただ彼女もバレエは苦手でこんな完璧に見える人にも不得意なものが有るんだな~と親近感を持つ。身体の硬さは私以上かもしれず、柔軟では私と二人でダリア先生にしごかれっぱなしである。彼女が苦痛に絞り出す声はなんともセクシーで同じ女性の私ですらどぎまぎさせるのだ。皆も気になるのか心なしか静かになり耳をそばだてている気がする・・・・・・。

 

 「今度バレエの発表会があります」

ダリア先生の発言から一気にざわつく。皆も青天の霹靂と言った感じだ。もちろん私も寝耳に水で驚く。沙沙貴さんや八重垣さんが相次いで質問する。演目は眠れる森の美女だそうだ。しかし心得の無い私はへぇ?・・・・・・。そんな感じである。三日後に配役の試験を実施します。と発表されたら皆が嬌声をあげ、逆に私は縮こまってしまう。立花さんはそんな私に気づいたのか、

「そんなに萎縮しないの大丈夫よ 」

と声をかけてくれた。やさしさが身に沁みる。思わず泣きそうになってしまい、声が出ない。悟られない様に頭を下げた。選考試験の日、私は完調には程遠く、結果は推して知るべきである。もとより役を貰うなんてあり得ないし、今更落ち込むとかは無い。しかし厄日だったのだろうか、そんな事が吹き飛ぶ様な事故が起きてしまったのだ。立花さんが試験中に脚を怪我してしまったのだ。私は色を失ってしまった。一緒に保健室に連れってあげたかった。私はたた佇むだけ。声をかけたかったけど、場の緊張感がそれを阻む。手を組んでひたすら無事を祈った。

 

 翌日のお茶会で,怪我は軽傷だと立花さんが語り、皆の間にホッとした空気が流れた。もちろん私も心底安堵した。しかし、一緒に保健室に付き添った蘇芳さんのことを八重垣さんに問われて、赤面して照れて蘇芳さんのことを話す彼女に、私は苛立つ。だって立花さんからフったんでしょ。その後、蘇芳さんはマユリさんとできてたんでしょ。なのにどうしてそんな顔で話すの? まるで恋人みたいな・・・・・・。 どうして? ・・・・・・。そんな私を見てアミティエが、

「どうしたの?そんな怖い顔して」

「あなたには似合わないわよ。そういうの」

と声をかけてきた。しまった。悟られたか。と彼女を固さの残る笑顔で見返す。

「えーそんな顔してたかしら? 」

と軽口をたたく私。

「うん」

と彼女。

「あなた、委員長のこと好きなんでしょう? 」

直球である言葉に。どぎまぎした。やっぱりね。前から思ってたから。

「白羽さんが相手では分が悪いけど、あなたを応援するわよ」

とアミティエ。

「玉砕したら骨を拾ってあげるからね! 」

戸惑った私に、立花さんのカップを鳴らす音が耳に入る。沙沙貴さん達の、

「また恋人宣言? 」

にビクッとするが、

バレエの発表会の未決の配役の事とダリア先生のお誕生日会のことで、私は一気に脱力する。それを見てアミティエは、私のわかり易い反応に苦笑している。

 

 バレエの発表会に邁進とならないといけないのに、碧身のフックマンという問題がクラスを惑わす。ニカイアの会からの情報で、何でも学院に男が出没するのだという。オカルト的な話なら気にもしないのだけど、変質者ならそうもいかない。ここは男子禁制である。部活では夜に学院内に出向くことがあるから尚のことである。なにしろソースはニカイアの会なのだから凡百の噂とは比べ物にならない。

 

 ちなみに私は幽霊等なら宇宙人の方がよほど怖い。夜、一人で星を見ていて瞬く様が、UFOに見えて慌てたことがあるのだ。昔、子ども向け怪奇本で見た10フィートの宇宙人は、いまだにトラウマである。閑話休題。

 

 バレエの発表会。私はイラスト能力を買われ衣装係のデザイン担当となった。それが終わると大道具のお手伝いに回る予定だ。衣装は役と演者と制作側の合議で作る事になり、私も積極的に意見を出してデザインをまとめた。この先はお針子部隊の担当である。経験がなく大変な作業だったけど、私は皆に絵を褒められてうれしかった。衣装係に推薦した立花さんは,私が絵を描くのを知ってたけど他のクラスメートは初見だったのか大いに驚かれて面映かった。私は女性には珍しい色弱で色塗りは不得意である。小学校に通ってる時、クラスの子に肌の色等でさんざにからかわれてから、皆の前で絵を描くのを控えるようになっていった。でも素描ならハンデも無いので昔から得意にしていた。そんなに上手なら美術部に入ったらいいのにと言われたけど、既に天文部に入ってたし、兼部で入るにしても入部となると素描だけでなく多岐にやらねばいけないと言う事で断った。部費の無い天文部と違い、部費も高かったし・・・・・・。

 

 大道具の作業はギリギリまでかかってしまい、練習の様とかはあまり見たりすることが出来なかった。やっと今日のゲネプロで見られる。制作に携わった衣装はまだ未見だ。あの絵がどう変わって完成品の衣装になったのか興味津々の態である。準備の終わった私たちは客席で開始の合図を待つ。

 

ゲネプロが終わった。演者も私たちもあちらこちらで反省会である。全員頑張ってはいるのだけど、どうにも空回りしているのが現状。ミスを重ね不調の孝崎さんは、演出のの八重樫さんが直々にフォローに回った。全体の流れはダリア先生が見て指導する。

本来は全体を見る立場の八重垣さんだけど、孝崎さんは八重垣さんでないと話聞かないしね。と周りも納得だ。そして立花さんはバレエの苦手な白羽さんに付きっ切りで指導している。白羽さんは赤ずきん役。しかし主役を食う美しさに羨望・・・・・・。

 

いよいよ当日、上級生も教職員も客席に座る。準備も滞り無く進み時を待つ。時間である。空気が引き締まる。皆いい顔をしている。ミスだらけだったゲネプロが嘘の様だ。そして大拍手のなか幕が下りた。鳴りやまぬ拍手が出来を物語る・・・。

 

 袖で泣いている私をアミティエが抱きしめている。恥ずかしいくらいの大泣きである。正直バレエにこんなに感動するとは思わなかった。演者では無いけど発表会のその一端に私が居るのだという事が、より深く心に沁みたのだろうか。言葉にすると陳腐かもしれないけどちょっと前まで全くの他人だったのに一致団結してここまでのものが出来るというのが、仲間、同士、絆というものなのだろうか。

 

 少し落ち着いたので、周りを見回すと立花さんと目が合った。こちらに近づいてきて

「もうおさまったかしら? そんなに良かった? 」

と声をかけてきた。無言で頷き、立花さんの目をしっかり見据える。そしてまた泣いてしまう。今度は立花さんが抱きしめてくれた。予想外の展開に、硬直してしまう。

「あらあら本当に泣き虫さんなのね、これ使って」

とハンカチを手に握らされた。涙を拭うと立花さんは私の前で微笑み、まるで姉が妹を見るような慈愛の空気の中で佇んでいたのだった。

 

 興奮覚めやらぬまま時間が流れ、消灯になってもどことなく騒々しい。私たちもいつも以上に饒舌だ。照明担当だったアミティエは通しで上から見てるので劇の流れを詳細に語ってくれた。私はセット替えの準備とかで全部は見られなかったのだ。

彼女は孝崎さんと八重垣さんがキスしたのを見たと言った。驚いたけどあの二人いい感じだったものね、あれは有りかなと肯定した。

「蛍も委員長に抱きしめられてたわよね。どうだった ? 」

と彼女。

「ど、どうって? 」

と私。突然の指摘にしどろもどろで返事する。

「前にも言ったけど、蛍は委員長のこと好きなんでしょう? 」

「キスしたくなったりした? 」

「それとももう済ませてしまった? 」

と畳みかける。

「立花さんのことは好きよ。やさしいしお姉さんみたいで。恋人とかでは・・・まだ違うわ。それは・・・・・・」

それ本心じゃないでしょと彼女。

「蛍が白羽さんを見る目が、ここ最近普通じゃないもの。三角関係のライバル見るみたいよ、まるで」

想像だにしなかった言葉に混乱する。立花さんは白羽さんが好き。これは皆が知ってる周知の事実。別れたというのも事実。白羽さんが匂坂さんをまだ忘れていないのもおそらく事実。だからこそ今の微妙な関係なのだ。で私は立花さんが好き。でも立花さんはどう思ってるのかな。友達としての認識でしかないのかな。今が一歩踏み出す時なのかもしれないと思った。

 

「ねえ。蛍。告白しなさいよ。委員長に。交換日記も良いけどもう潮時だと思うわ。このままだと良くない」

えっと焦る私。

「一応フリーなんだから委員長。既成事実作って出し抜くのよ。心の中の白羽さんを消しちゃうのそれしかないわ」

アミティエの

強い言葉にたじろぐ私。続けて

「やる気があるなら一人でここを使ってことに及んでも良いわよ。その時は私は他に行くから」

「蛍だって美人なのだから自信持ちなさい。あなたを意識している子結構居るのよ。私もその一人なんだから! 」

「失敗しても骨は拾ってあげるから、ね、蛍」

 

 そんな世辞を聞いていたら奇妙な自信が湧いてきた。そうだ、今度の流星観測にお誘いしてみよう。寝袋で見てる時に告白してみよう。思考に結論を出しやっと落ち着いてきた。そして立花さんのことを思い描きながらやっと就寝。時計は既に午前2時を回っている・・・・・・。

 

 

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