時賭 壱の國編   作:かめのこばっくまん

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この世界では国毎の序列を決める戦いが10年に1度行われる。参加者はその能力の特殊性から「時賭」と呼ばれる。この世界は区分上、7に別れており、戦いの結果順に国には壱から七の数字が与えられ時限の神のあらゆる恩恵が与えられる。豊作、王家の繁栄、英雄の誕生などがこれにあたる。つまり出雲王家の納める国は前回の勝利者である。時賭は全ての国を巡礼し、その国の秘境、迷宮、魔境といった特殊な場所にある「時限の神の雫」と呼ばれるものを手に入れ、7つ全てを最も早く集めた者が勝利者となる。なお、「時限の神の雫」の形状は一切不明である。過去の伝承は諸説あるが、無意味である。何故なら大会毎に時限の神が「時限の神の雫」を設置場所、形状を変えるからである。完全にきまぐれ。過去にはビールの空き缶、使用済みコンドームなどがそうであった場合もあったという。旅には徒歩であることが強いられる。理由は時限の神にとってその方が面白いからである。過去、ルールを犯した者には須らく死が与えられた。王の寝室に同行した時賭のものと思われる陰茎を咥えさせられた状態の王女の生首が置かれていたこともあったという。時限の神が何者なのかについては一切知られておらず、禁忌に触れようとする者にも絶望が与えられていた。


第1話

湿った風が吹き抜ける。流石に喉を焼くとまではいかないが、それでも暑さを感じるには十分なものだった。流石は壱の國の誇る出雲湿原である。この長い湿原は壱の國の東に位置しており、国防には非常に貢献していた。しかし今の2人にとっては明確な障害である。

「今日も暑いですね。」

黒い長髪のなびかせながら、悠里は言う。出立式のときに来ていたドレスと打って変わって、今はさながら冒険者風の格好をしている。実用性重視、咄嗟のときに動ける姿である。一応短刀は腰に差していたが、特に彼女の腕に期待はしていない。

「ああ。」

そう短く返すとまた2人は歩き出す、壱の國の王宮を出発して3日間、ずっとこのような内容のない会話している。王位継承権の低い悠里を真司が護衛することもなかったため、お互いに面識がなく、さらに付け加えるなら真司が元来無口な男であること、第7王女とはいえ今までであれば周囲からいくらでも会話を広げてもらえた悠里が、不器用に会話のアプローチをしていたことがそれに拍車をかけていた。馬で移動出来れば会話がなくてもいいのだろうが、時賭は徒歩で旅せねばならないというルール上、それは無理な相談なのだった。

「日も陰ってきた、今日はここで野営をしよう。」

湿原で夜間も移動し続けるのは愚かな判断である。湿原には夜行性の獣も多い。さらには、盗賊が徘徊していることもあった。

「わかりました。私が諸々準備するので、真司さんは休んでいてください。」

熟練とは言わないまでも、手慣れた手つきで悠里は野営の準備をする。旅の前に散々仕込まれたのだろう、こうして寝床を得ることが出来ているのだ。その努力には頭が下がる。

「わかった、俺は少し食えるものがいないか探してくる。」

真司はたしかに時賭の戦士ではあったが、パートナーが働いているのを見て1人で休んでいられる程、無神経な男ではなかった。真司がいない間に悠里が襲われるのではないかという懸念もあるにはあるが、真司の持つ「黒龍」には一定距離内の悪意を持つ存在を探知する能力があるため、遠くに行かなければ悠里が襲われる前に危険を排除することも簡単に思えた。

「本当に休んでいてもいいのに、真司さんは律儀な人ですね。」

真司より少し若い悠里は、人を観察するのに長けていた。もちろん悠里には「黒龍」の恩恵は及んでいない。彼女のそれは20年もの間、王宮の薄汚い連中の様々な思惑に付き合わされていた結果であろう。しかし、真司としては丁寧な口調で自分に話してくれるものの、自分の腹の内を見透かされているようで、なんとも言えない感情をもっていた。気のせいか、背中に帯びる2本の剣が重い。

「とにかく、行ってくる。なにかあれば大声を張り上げてくれ。必ず助けに来る。」

「わかりました。期待してますよ、出雲最強の戦士の働きに。」

食えない女だと真司は思う。これからこの会話にずっと付き合わされるのかと思うと気が重かった。短く別れを告げると真司は少しばかり歩を進める。30分程歩いていると背後に気配を感じた。

「死にたくなかったら荷物を置いて失せろ」

盗賊は5人程の編成のようだった。しくじった。真司はそう思った。「黒龍」はこの男が背後に迫るまで反応しなかった。詰まる所、「黒龍」は真司もしくは真司の守るべきものに悪意が向けられた場合に反応するのであり、今回のようについ数秒前まで真司のことを知りもしなかった盗賊に対しては反応しないのである。とはいえ…

「哀れなやつらだ。彼我の実力差もわからんとは。5人いれば簡単に殺せると思ったか、俺に剣を向けたのだ、1人も生かしてはおかんぞ。」

「一閃一殺」、近衛兵時代に真司が付けられていた異名である。その名の通り、1度剣を振れば1人殺すというものであるが、厳密に言えば大抵の場合、1度の剣戟で3、4人くらいは死んでいた。

「なにを馬鹿な、お前ら、やっちまえ。」

盗賊達が襲いかかる。それに反応するように、真司は大剣を抜刀する。真司の持つ2本目の剣だ。名もなき名刀。この程度の敵に黒龍は抜かない。むしろこの剣でも勿体無いくらいだった。大男1人分はあるその剣を、真司は一閃する。

「馬鹿な、そっちは威張り散らすための飾りじゃねえのかよ。おいちょっとま…」

それがこの男の最後の言葉だった。胴のあたりに大剣がめり込み、肋骨が無惨に砕け散り、肺が少しばかり飛び出したと思うと。そのまま脊椎の抵抗も全く意に介さず、そのまま盗賊の体を横一閃に両断した。たしかに王国兵士の中には己の強さを誇示するために、振るえもしない大剣を帯びるものもいた。しかし真司の筋力は大抵の男が冗談だと思うような大剣を振ることを可能にしていた。一閃、さらに一閃、もう一閃。5人いた盗賊は4つの死体と1人変わった。

「嘘だろ…くそがあぁ‼︎」

頭目らしき男が突っ込んでくる。瞳には死に対する絶望と、もしかしたら一太刀入れられるかもしれないという希望が浮かんでいた。そこに大太刀をさらに一閃。次の瞬間、男は骸に変わっていた。

「他愛ない」

そう呟くと戦士は盗賊の荷物から食物を漁り、あるべき鞘の元に帰るのだった。

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