第001記「思い信じて」
目が覚めると、僕は地面に寝ていた。
どこだろうかこの薄暗く竹が生い茂り深い霧が立ち込める場所は。
僕はここがどこなのかを思い出そうとする。でも、なぜ僕がここにいるのか。そもそも僕が何者なのかも思い出せない。
記憶喪失のようなものに罹っているらしい。
何か手がかりを探すように、あたりを見回しても霧が立ちふさがり1m先を見ることも難しい。
邪魔だな、と思ったとき、僕は思わず右腕を振っていた。
「――――――」
だが殴ったくらいで霧がなくなるはずもない。
自分でも何でそんなことをしたのかわからず、そこにおかしみを感じて僕は小さく笑う。
ただ何となく、霧が殴られて薄れたように思えたんだが、錯覚だろうと僕は思い直す。
とりあえず、歩いてみようか。
「山……、かな」
緩やかな傾斜。もし僕の推測が正しければ、降りるのが正解だろう。なにもわからずに遭難するのは勘弁願いたい。もうすでに手遅れかもしれなけど。
30分ほど歩いたのだろうか。いや1時間ほど。実際には5分も歩いていないのかもしれない。濃い霧のせいで、時間感覚がおかしくなっている。これは迷ったなと僕は思うが、そういえば最初から迷っていた。
そんなとき、視界の端にすばやく動く物体が。
「うわ」
イノシシだったりしたらどーしようか、と軽く身構えて視線で追っかけてみる。すると、霧のなかから溶け出すように、これまた真っ白なうさぎが姿をあらわした。
吐息一つ。体を戻す。僕は武術でもやっていたのかもしれない。
兎にも角にも、第一町民発見。
身体をしゃがませ、地面に敷き詰められた笹の葉を一枚拾い、僕は極めて友好的に捕獲にのりだす。
「ほーれ、餌だぞ~」
当のうさぎは、知るかこのアホンダラ、とでもいうかのような目をして、背を向けたあと僕をちらりと見返した。
ついてこい。ということだろうか。
ついてってやるぞコノヤロウ。
……声に出ていた。
ヤツは、もう知らん、とでも言うように、一目散に駆け出す。
「悪い、すまん、ごめんっ、もうしません――」
竹やぶを走りつつ、謝りつづける。20くらい言葉をつづけたところで、ようやくヤツは止まった。
いつの間にか、霧がかなり薄くなっている。近くの地面には道のようなものがあった。舗装はされていない。
「案内してくれたのか。ありがとな~」
僕が感謝を述べると、ヤツは、世話かけさせんなクズ、とでも言いたげな目をして竹林奥へと消えていった。
近頃のうさぎは人を蔑むことを覚えたんだなー、と思いつつ僕は道をたどりはじめる。
言葉が通じる人に出会えればいいけれど。
僕はとりあえず進める道を進む。
僕はなぜここにいるのかがわからない。帰るべき場所も見失った。
でも誰かが待っている。そんな気がする。
だから今は進もう。
「君よ――――」
見知らぬ誰かを僕は呼ぶ。
「君を知らぬ僕の名を、君は応援してくれるのだろうか」