前回言ったことが嘘にならなくて、作者はホッとしています。
えー……今回の話は三人称で戦闘があるのでだいぶ読みにくいと思います。
一応、分の最初に主語と言うか、誰が動いているのか書くように心がけたのですが……。
目安として、文頭の空白から改行までが一塊だと思って読んでいただけると、読みやすいと思います。……たぶん
さらに、この話は七千字弱と大変ボリューミーになっております。
長いうえに読みにくいと言わず、最後まで読んでいただけたら作者は嬉しいです。
それでは25話です。どうぞ
「すまない……悪かった……赦してくれ、グリセルダ!」
聖龍連合――通称DDA――のトップであるシュミットは地面に額をこすりつけながら叫んだ。
シュミットは《黄金林檎》の元メンバーであり、今回の一連の事件は死んだグリセルダが起こしたものだと思い込んでいた。そして、指輪売却に反対した元ギルメンであるカインズ、ヨルコが殺されたことで、次に殺されるのは自分なのではないかと危惧している。
それを避ける方法として、『あの時』のことを全部告白するしかないと思った。だからこうしてグリセルダの墓の前で謝罪をしているのだ。途中でグリセルダとグリムロックの幽霊が出てきた時は心から恐怖した。それでもシュミットは何一つ隠さずに話した。
そして、すべてを告白した後、
「全部録音してわよ、シュミット」
「………ヨルコ………?」
グリセルダの幽霊だと思っていた存在は、数時間前に目の前で死んだはずのヨルコが目の前にいた。続いてその横にいたグリムロックの幽霊はカインズだった。
「…………カインズ」
そこでシュミットは全て理解した。この事件が誰によって起こされたのかを。目の前にいる二人が何をしたかったのか。
そこでシュミットは安堵した。自分は殺されることはないんだと。リーダーの亡霊などいなかったんだと。そんな心情で回りの警戒などできるはずもなく―――もともとする余裕はなかったが―――背後から響いた突然の金属音に、心臓が止まるのではないかと言う程驚いた。
シュミットは振り返る前にHPが減少しないギリギリの強さで蹴られ、前方のヨルコとカインズがいる場所まで跳ばされる。やっとのことで振り返ったシュミットの目には、同じ攻略組のマキ――珍しいソロプレイヤーなので覚えていた――と《
* * *
音を出さないように木の枝を足場にして跳ぶ。グリセルダさんの墓の周りの木の枝に足を掛けるのと、シュミットさんの背後から《ジョニー・ブラック》が近づいてくるのはほぼ同時だった。
俺はシュミットさんの真上へと跳び、あらかじめ抜いてあった剣でジョニーのソードスキル《アーマー・ピアーズ》を弾く。そのまま剣を振り抜いた力を利用して空中で一回転。その途中でシュミットさんをヨルコさんの方へと蹴り飛ばす。
俺の着地と同時に距離をとるジョニー。互いに剣を構える。と言っても、ジョニーは短剣だが。
数秒の後、奥から砂利を踏みしめる音が二つ聞こえてきた。その正体はもちろん、ザザとPoHだった。
「うそ……《
後ろからヨルコさんの泣きそうな声が聞こえる。気持ちは分からなくもないが。
「よう、久しぶりだな」
警戒はしたまま場違いな声で話しかける。Poh達はしばらく黙っていたが、何秒かしてようやく口を開いた。
「おめぇ、格好良く登場したのは良いが……一人で相手する気か?」
「そっちこそ、半年前のこと忘れたの?」
あの時は5人がかりでも勝てなかったくせに。
俺の言葉が気に障ったのか、PoHとザザも臨戦態勢に入る。
「俺達があれから何も変わってねぇって思ってんなら……いいぜ……殺してやる」
ジョニーは毒の塗られた短剣を、ザザは
* * *
どどどっ、どどどっという音を鳴らしながらキリトはグリセルダさんの墓へと向かっていた。もちろんキリトの走る音ではなく、キリトが乗っている馬が鳴らしている音だ。
この世界にはNPCから馬やら牛やらを借りられる町がたまにある。その一つがこの層にもあったのだ。操縦が難しいと言われる馬の騎乗に、昔かなり時間をかけたことがこんなところで役に立つとは思ってもみなかった。
馬に乗るキリトはかなり焦っていた。今回の事件ににレッドプレイヤーが関わっているから、と言うことも理由の一つだが、それと同等もしくはそれ以上のものがあった。
馬の足音で分かりにくいが、微かに金属がぶつかり合う音が聞こえるのだ。しかも連続的に。これは誰かが戦闘をしている証拠だろう。
しかも音の間隔からしてかなりの高速戦闘、もしくは多対一。キリトは後者だと予想する。それに加え、目的地にいるであろう場所に戦えるプレイヤーはシュミットだけ。
しかし、この戦闘音は盾ではなく剣で弾く音だ。タンクのあの人にできることとは思えない。
つまり、あの場所にはもう一人誰かいる。キリトにはその誰かが予想できていた。それもキリトを焦らせている理由の一つだ。
―――――いくらアイツでも、レッドとの乱戦なんて無茶だ!
キリトは乗っている馬に加速を命じる。目的地まであと十数秒だろう。いわゆるラストスパートだ。
計算通り、すぐに目的地に着いた。そこで急ブレーキをかけてしまい、馬から転げ落ちる。勢いよく起き上がったキリトの目に飛び込んできたのは、《
「ぐっ………!」
さすがにこのレベル相手との三体一はなかなかキツイものがある。マキは頭の中で悪態を吐いた。
高速攻撃のザザは少しくらいなら攻撃をくらっても問題ないが、短剣に毒を塗っているジョニーはもちろん、《魔剣》を使っているPoHの馬鹿デカい一撃もくらう訳にはいかない。
現在ラフコフ三人のHPはそれぞれ一割減っている程度。対してマキは三割ほど削られていた。
三人の戦闘は、主にザザで俺の注意を引き、隙ができたところをジョニーが狙い、PoHがマキの攻撃をパリィ、隙ができたら一撃、といったスタイルだ。おそらくこういった場面のために事前に決めておいたのだろう。
マキは目の前のザザの高速三連突きを火花を散らしながら弾き、逸らし、躱す。最後の一撃と同じタイミングで背後から迫りくるジョニーの一撃を、目を向けずに剣を逆手に持ち替えて弾く。ザザとスイッチしたPohの振り下ろしを剣の柄で《
痺れを切らしたのか、ザザがヨルコ達の元へ駆け出すのがマキの目に入る。マキは剣を持ち直しながら左手で後ろ腰に差しておいた短剣を人差し指と薬指の間に挟む。それと同時に、その場で一回転して後ろからのジョニーの追撃を弾いて回転の勢いを乗せながら短剣をザザに投擲する。
短剣は音を立ててザザの肩へと突き刺さり、その体勢を崩す。その瞬間にマキは地面を蹴ってザザを追いかけて走り出すが、Pohが割って入りこれを邪魔する。
マキはまたも腰の後ろへと左手をまわし、今度は短剣ではなくベルトに挟んでおいた麻痺毒塗りのピックを指の青打に挟み三つ取り出し、投げつける。
PoHはマキがピックを取り出す瞬間に毒が塗ってあることに気づき、二つは弾き落とすがあと一つは避ける他なかった。
マキはピックの後を追うようにPoHの横を駆け抜け、ピックに気づいたザザはそれを
マキはしゃがむことでザザの突きを回避し、そのまま回し蹴りでザザを後方へと蹴りとばす。
同時にピックを投擲するが、PoHとジョニーによって全て弾き落とされてしまう。
「……なかなかやるじゃねぇか」
PoHが軽口を叩くも、マキは何も言わずに剣をこちらに向ける。
「チッ……会話もしたくねぇってか?……まぁいい」
再び四人が動き出す。キリトは助けに入ろうか悩んだ。自分が行けば、少なくとも三体一の状況よりはマシになるだろう。だが、キリトが動き出す前にPoHと剣を打ち合っているマキが叫んだ。
「キリトは三人を頼む!」
三人とはもちろんラフコフのことではなく、後ろでおびえているヨルコ達のことだ。
キリトは剣を抜き、四人が戦っている中へ身を晒した。迂回しては誰かがまたヨルコ達の元へ行ってしまうことを考えてのことだ。
キリトはマキの後ろから近づいているジョニーの攻撃をパリィし、マキはPohから離れてキリトに攻撃しようとしているザザの前へと立ち位置を変える。
キリトは無事にヨルコ、カインズ、シュミットの元までたどり着き、剣を後ろに引いていつでも攻撃できる体制だいる。
これでマキは後ろを気にせずに戦うことができる。つまりはやっと本気を出せるという訳だ。
ラフコフの三人は今度はマキを取り囲む様に陣取る。一瞬だがこの場に静寂が訪れる。マキは息を大きく吐くことで更に集中を高める。
先に動いたのはマキだった。右斜め後ろにいるジョニーへと斬りかかった。
当然、ジョニーはこれを受け止める。その瞬間にPohとザザも動きだす。
マキは後ろから切りかかられる前に後ろに跳躍する。Pohとザザは仲間を傷つけまいと途中で攻撃を中断する。一瞬だがザザは硬直してしまったが、Pohは地面を蹴って体の向きを変え、横薙ぎに剣を振るってくる。
それをマキが剣で一際大きな金属音を鳴らしながら叩き落とした瞬間、マキの握る剣が青いポリゴン片となって砕け散った。三体一で《魔剣》とも斬り合っていたのだ。マキの剣の耐久値は恐ろしいくらいに減少していたのだ。
ザザはこれを好機と見て距離を詰める。ザザの連続攻撃を、マキは地面を転がることで回避した。
だが次の攻撃は避けられまい。ザザは勝利を確信した。しかし、それは一瞬で驚愕へと変化した。
誰だって驚くだろう。地面から起き上がったマキが、先ほどまでとは別の剣を握ってたとは。しかも、システムウインドウを呼び出す暇はなかったはずだ。
マキは素早く起き上がりザザの攻撃をパリィする。驚き、後退してPoHとスイッチするザザにマキは地面を蹴り上げて大量の砂利や土をまき散らした。
目くらましか、とザザは思ったが巻き上がる土に紛れて片手剣が飛んでくるのを見逃さなかった。
それでようやくマキが武器を握っているトリックが分かった。どうやら土の下に武器を埋めておいたようだ。耐久値の問題はどうにかして。
何を隠そう、これこそがマキが昨晩エギルと共に作った仕掛けである。
PoHはタネが割れてしまえば恐れることはないと言わんばかりにマキに斬りかかる。
マキは振り下ろされるPoHの短剣に握っている片手剣を横から叩きつけようとし、その直前で手を離した。
PoHは来るはずだった衝撃に備えていたせいでバランスを崩す。だが、マキはこれで攻撃手段を待たず、ダメージをくらうことはない。
そう思っていたPoHの懐に潜り込んだマキは地面に埋まっていた短剣を蹴り上げる。瞬間、PoHのお顔が驚愕に染まる。マキは不敵に微笑みながら胸元でくるくると回る短剣を掴んで突き刺す。
しかし、それは割って入ってきたジョニーによって防がれる。そのままジョニーとマキは短剣を火花を散らしながら打ち合うこと数合。
短剣使いのジョニーはそれだけで分かった。どうやらマキは片手剣だけでなく短剣も使えるらしい。
ジョニーは一旦距離を取り、PoHとザザはジョニーがマキと斬り合っている隙にマキの後ろへと回り込んだ。
マキも、追い打ちをかけず同じように後ろへ跳躍し、その途中で先ほど手放した片手剣を足で蹴り上げキャッチ。着地と同時にザザとPohへと投擲する。
ジョニーはマキが後ろを向いた一瞬の内に駆け出す。短剣を横薙ぎに振るう。例え躱されても左右へと逃がさないためだ。
マキはそれを、ジョニーの予想通り腰を落として回避し、両手を地面の中へと沈める。ジョニーにタックルしながら手を抜く。
マキは両の手にそれぞれ一本づつ片手剣を握っていた。普通なら信じられない様な事だろうが今までの戦いを見ていたならさほど大きな驚きはない。
マキはジョニーに追撃を仕掛けるべく一歩踏み込むと、そこから勢いよく大剣が起き上がった。ジョニーにとってはいきなり壁が現れた様に見えただろう。
マキは大剣ごとジョニーを蹴り飛ばすと、すぐに振り向きざまに左の剣で《ホリゾンタル》を放った。それは突きを繰り出していたザザの
しかし、PoHは初期ソードスキルの僅かな硬直の間に渾身の一撃を入れようと、《
何故。タイミングはカンペキだった。ヤツはソードスキルの硬直で動けないはず。なのに……。そんな疑問がPohの頭の中を支配する。いや、それを見ていたキリトやシュミットもそうだ。
マキが何をしたかは単純だった。ただ単に《スラント》でPohの腕を切り落としただけだ。ソードスキルの硬直中にソードスキルを発動させて。
システム外スキル《
この瞬間に《
ザザは地面から適当に片手剣を拾うとマキへと斬りかかった。が、当然敵うはずもなくPohと同じように腕を切断される。
その隙にPohとジョニーは姿をくらまし、ザザが木々の奥へ逃げようとし、マキが追いかけようとするが、どこからともなくジョニーの短剣が投擲される。マキはそれを避けるわけにもいかず弾き落とすが、その時には三人は影も残っていなかった。ご丁寧に《
「はぁ……」
―――――また逃してしまった。
ため息を吐きながら右の剣で肩をトントンと叩く。それだけで緊張していた空気が一気に弛緩する。
マキは両手を力なくぶら下げてから思い出したかのようにキリトたちの方へと振り返った。
「みんな、怪我は無い?」
* * *
戦闘の後、アスナがグリムロックさんを連れて出てきて事の動機を全部吐かせた。ちなみにグリムロックさんはここに来る前に俺がロープで木に縛り付けておいた。自分で外せないように手をぐるぐる巻きにして。
グリムロックさんの身柄は元《黄金林檎》のメンバーたちで預かってもらった。うん、俺もそれが最適だと思った。
「…………ねぇ、キリト君。もしきみなら……仮に誰かと結婚したあとになって、相手の隠れた一面に気付いたとき、きみならどう思う?」
ヨルコさん達を見送った後にアスナがつぶやいた。ちなみに俺は地面に落ちている武器の回収中だ。
「えっ……うーん……ラッキーだった、って思うかな」
アスナが不思議そうな顔をする。俺にとっては……まぁ分からなくもないかな。
「だ……だってさ、結婚するってことは、それまで見えてた面はもう好きになってるわけだろ?だから、そのあとに新しい面に気付いてそこも好きになれたら……に、二倍じゃないですか」
「ふぅん、変なの……マキ君は?」
うーん……どうだろうなぁ……。
武器回収を中断して立ち上がる。腕を組んで数秒の沈黙の後、
「いいんじゃない?結婚したって隠し事の一つや二つあって当然だし、いちいち突っかかってたら幸せになんて暮らせないでしょ」
なんだか微妙に答えになっていない気がするが、これでも真剣に悩んだ結果なのだ。
「そっか……」
圏内事件もこれにて一件落着。さて、そろそろ帰ろうか、と言った感じで歩き出したキリトの肩をアスナが掴む。
何事!?と言った感じで驚いたキリトであるがそれ以上に驚くことが目の前で起こっていた。もちろん、俺も大いに驚いた。
グリセルダさんの墓標の傍らに、薄く金色に輝く半透明のグリセルダさんの姿があった。
人を殺してまだ精神が不安定だった俺に、それでも優しくしてくれた時のことを思い出す。
「あの時は……ありがとうございました。俺は…俺達は、絶対に諦めないから」
「あなたの意思は……俺たちが、確かに引き継ぐよ。いつか必ずこのゲームをクリアして、みんなを開放してみせる」
「ええ、約束します。だから……見守っていてください。グリセルダさん」
グリセルダさんは、あの時のようににっこりと大きな笑みを浮かべ―――次の瞬間には、もうそこには誰もいなかった。
「んー……色々ありすぎてお腹すいちゃった。なんか食べに行こう」
アスナが両手を上げて体を伸ばしながら歩き出す。
「じゃ、あれにしようぜ。アルゲード名物、見た目はお好み焼きなのにソースの味しかしないという……」
「却下」
キリトもそのあとに続く。却下されて落ち込んだのか、肩を落としながら歩いて行く。
アスナは数歩歩いた後に振り返って俺に向けて言った。
「ほら、マキ君も……色々と聞きたいこともあるしね」
―――確かに何も言わすに今日の約束を破ったのは悪いと思ってるし、さっきの戦闘について説明を求められるのも止むを得ないとはおもうけどさ……
当然、地面に落ちたり埋まっている武器と《ベンダーズ・シーツ》――――――これは《ベンダーズ・カーペット》と違い、圏外でも使える代わりに上に置いてある物をまとめられないというデメリットがある。そのため、商品は現地調達かストレージに入れておくしかない上に、《ベンダーズ・シーツ》そのものには耐久値があるため永遠には使えない。と言っても、他のアイテムと比べるとかなり多い耐久値だが――――――を回収してからと言うことになるのだが
「ひ、人目の付かない場所でいいですか……?」
補足です。
何故、地面に埋めておいたのに武器の耐久値が減らないかと言うと、《ベンダーズ・カーペット》のおかげです。
《ベンダーズ・カーペット》とは、プログレッシブ2巻で出てくる、商売用のアイテムです。
簡単に言ってしまえば、その上に置いたアイテムは耐久値が減ない。ただしアイテムストレージに仕舞えない、と言ったものです。
一面に敷き詰めた《ベンダーズ・カーペット》の上に武器を置いて、その上に土や砂利を乗せてカモフラージュさせた。ということです。
そんなことしたら、その上を歩くだけで気づくんじゃないの?と思った方。そこには目を瞑っていただけると幸いです。
一応それらしい言い訳をしておくと、ゲームだからシステムが地面と認識したところは下に何があろうとただの地面と同じ感触になる。ということでお願いします。
※《ベンダーズ・カーペット》が圏外では使えないという指摘をいただき、その通りだったので圏外でも使えるオリジナルアイテム《ベンダーズ・シーツ》に変更しました。ちなみに耐久値は二日ぐらいでなくなる上、回復する手段が一切ないため、アインクラッドではほとんど使われていません。
今回出てきたシステム外スキル《
すみません!前も「次回説明します」とか言っておいて、結局しないままで。
必ず!次回説明しますので、どうか許してください!
これも無理があるかもしれませんが、受け入れてくださると作者にとっては嬉しいです。
それでは、誤字脱字があったら報告していただけると幸いです。
質問等があったら気軽に言ってください。
感想、待ってます!