転生者「神を本気で殴り飛ばす」 作:トマトル
あれから時は流れ少年は青年になった。
高校は両親への負担がかからないように地元の高校を選んだ。
選ぶ際に注意したことは学びに適した環境があるか、運動部に強制参加させられないか、学費が安いかの三点だった。
それを吟味していった結果、最後に残ったのがここ駒王学園だった。
偏差値が高く、入学も難関といわれている駒王学園だったがスポーツ以外で努力するしかなく、勉学に励んでいた青年にとっては大して難しくはなかった。
私立ではあるが中学の通知表の点も良く、入試での点数も良かったために特待生として学費も大幅に免除されることになった。
それに、ついでと言ってはなんだが松田や元浜などの学友も同じ高校に来たので特に寂しさを感じることもない。
いや、一つだけ寂しく感じていることが青年にはある。
それは今までずっと一緒だったイリナと離れてしまったという点だ。
イリナは中学の卒業を機に母親と共に海外に単身赴任していたトウジの元に本格的に身を寄せた。
青年は知らないが実はもっと早く移住する予定だったのだが、トウジが以前の怪我をした件で完治するのに予想外に時間がかかったことや、悪魔側との説明や交渉のゴタゴタに巻き込まれて動くに動けずに先延ばしになったのだ。
その間にイリナが中学に進学してしまったので卒業までは日本でと話し合い、トウジ一人が先に移住していたのである。
その為にイリナとは離れ離れになってしまったのだ。
と、いっても去年の夏休みと冬休みに帰って来た時に顔を合わせているのでそこまで長い間、会っていないわけではないのだが。
ただ、青年が駒王学園のことについて話すと何とも言えない顔をするので裏の世界について詳しくなったのをうかがい知ることは出来る。
駒王学園は悪魔であるグレモリー家の所有物で学園のトップもほとんどが悪魔関係者で占められている。
青年も最初は知らなかったがドライグが学園に悪魔がいると教えてくれたことで気づくことが出来たのだ。
もっとも、敬虔なキリスト教徒であるイリナと違い青年は神など信じていない、と言うよりも恨んでいるために悪魔が居ても何とも思わないのだが。
あちらもあちらで青年が
相手がちょっかいを掛けてこない以上は無視するという方針は今も曲げていない。
だからこそ、何事もなく平穏普通な高校生活を送ることが出来ていたのであるがついに青年の身にある転機が訪れてしまう。
「私……ずっとあなたのことが好きだったんです。だから、その……私と付き合ってください!」
青年は愛の告白を受けていた。
困惑する青年をよそに返事を今か今かと待つ艶やかな黒髪を背中にまで伸ばしたスレンダーな女性、天野夕麻。
これが普通の
だが、この女性は人間ではなかった。
(相棒、分かっているかもしれないがそいつは堕天使だ)
(やっぱりか……何が目的なのやら)
心の中で大きな溜息を吐きながら青年は天野夕麻の目を見つめ返す。
第三者から見れば中々に甘く、ロマンチックな光景かも知れないが青年の心には愛も感動もない。
ただ、どう言って断ろうかと考えているだけだ。
正直の所、胡散臭くて告白を信じる気は一切起きないのだが万が一にも本気の告白という可能性も捨てきれないので出来るだけ傷つけない言葉を探す。
と、言っても青年には前世も含めてほとんど女性経験がないのでありきたりな言葉しか出て来なかった。
「すまないが……君とは付き合えない」
結局の所ストレートに言う事しか出来ずに少しだけ申し訳ない気持ちになりながら断る青年。
天野夕麻は悲しそうに顔を俯け、何事かを小さく呟き始める。
「そう……じゃあ―――死んで」
冷たい言葉が紡がれた次の瞬間、青年に向けて光の槍が投擲される。
その光の槍を青年は間一髪の所で避ける。まあ、本人的には相当の余裕を残しての回避であるのだが。
天野夕麻は避けられたことに苛立ち、小さく舌打ちをしてその姿を変える。
黒いカラスの様な翼に、肌の露出を限界まで高めたかのようなボンテージ。
堕天使としての本来の姿である。青年は、存在は知っていても実際に見るのは初めてだったので思わず、マジマジとその姿を見てしまう。
それを天野夕麻は驚いていると勘違いしたのか自慢げに語りだす。
「驚いたかしら? 私は堕天使でこれが本来の姿よ。あなたは私達にとって危険因子なの。だからここで始末させてもらうわ。恨むんなら、その身に神器を宿させた神を恨んでちょうだいね」
すでに恨んでいるよ、と心の中で愚痴り。
自分が負けるなど一切考えていない発言に少し、カチンときた青年だったがそこは怒りを抑え込み、静かに我流の構えを取る。
天野夕麻はそんな青年の様子に驚き、嘲笑しながら戦うつもりかと問いかける。
青年は彼女の再三の挑発にも感情を表に出すことなく淡々と告げる。
「今、手を引くならこっちからは手を出さないぞ?」
「あはははは! 人間風情が大きく出たものね。それともジョークかしら? そうだとしたら殺すのが惜しいぐらいのセンスね」
青年の最後の忠告に対しても全く意に介すことなく甲高い笑い声を上げる天野夕麻。
そんな弱い者の前でしか大きく出れないであろう三流の堕天使を青年は少しだけ憐みを込めた眼差しで見つめる。
だが、すぐに瞳から憐みを消して相手への認識を必ず倒すべき相手と認識を引き上げる。
「笑わせてくれたお礼に私の本当の名前を教えてあげるわ、レイナーレよ。感謝しなさい」
どこまでも相手を見下した発言をしながら先程のように光の槍を投擲してくるレイナーレ。
青年は、今度は避ける素振りも見せずに無言で右手を振り上げ―――1撃のもとに消し飛ばす。
「……え?」
「どうした。まさか、今ので終わりと言うんじゃないよな?」
「言わせておけばっ!」
青年のあからさまな挑発に乗せられてレイナーレは怒りのままに光の槍を創り出しては投げ続ける。
だが、そんな何の工夫もない稚拙な攻撃が青年に届くはずもなく、拳から放たれる拳圧だけで全て打ち消されていく。
そんな現実離れした光景に若干涙目になりながらもレイナーレは人間を見くだしているプライドの高さからか逃げるという選択は取らずに躍起になって光の槍を投げ続ける。
「当たれば…! 当たりさえすればこんなやつ!」
「当たってやろうか?」
青年の申し出にギョッとするレイナーレだったが、張本人である青年は腕を組んで防御の姿勢すらとらない。
その傲慢な態度に我慢できなくなり、レイナーレはすぐに今までのどの槍よりも大きい光の槍を創り出す。
「あの世でその愚かさを後悔しなさい!」
吐き捨てるように叫びながら投擲する。
光の槍は風を切りながら真っ直ぐに青年の頭部目掛けて飛んでいく。
そして、無防備な青年の頭に直撃する。
次の瞬間、爆発が巻き起こり青年は爆煙の中に消えていく。
レイナーレはその様子に確実に殺したと確信して高笑いを上げる。
「あーはっはっは! 人間が調子に乗るからいけないの―――」
「まったく……。少しは慎ましく振る舞ったらどうだ」
「う……そ? 何で…生きて……」
だが、レイナーレの笑い声は煙の中から無傷で現れた青年の声によってかき消される。
自身の姿に茫然とするレイナーレをよそに服に着いた埃を払いながら青年は一歩ずつ前へと進み出てくる。
そこでようやく青年の圧倒的な強さに気づき、震えながら後ずさりする。
そんなレイナーレを見ても青年の顔には失望以外の色は見つからない。
「やはりこの程度か……。もう、終わりにしよう」
「ま、待って。お願いだから見逃して……な、何でもするから!」
「警告はしたはずだ。慈悲は無い」
命乞いするレイナーレに対して冷たい声で返事を返しさらに一歩近寄ると恐怖で耐え切れなくなったレイナーレは空に飛んで逃げようとする。
だが、飛び立とうとした瞬間には既に青年が懐に入っており右の拳を振り上げていた。
「じゃあな」
「ひっ!?」
本人にとっては緩慢な動作で、他者から見れば目にも留まらぬ速さで繰り出された“ただのパンチ”はレイナーレの胴体に当たると凄まじい衝撃音を響かせ、ものの見事に一撃の元に葬り去ってしまった。
一方的すぎる戦いとも呼べない戦いの跡地には肉片すら残らず、ただ儚げに揺れる堕天使の羽だけが残った。
青年はどこか虚しげに、自分の手と堕天使の羽をボーっと見つめていたがそれもすぐに終わり振り向くことなく立ち去って行くのだった。
青年が立ち去ってまだ間もない時に戦いの跡地の静寂を荒らすように魔法陣が浮かび上がり中から燃える様な赤色の髪をした女性が現れた。
女性は周囲に誰もいない事に若干の驚きを感じていたようだったが、すぐに一枚の羽を見つけて整った顔をしかめる。
「堕天使の羽で間違いないわね。問題は一体どこの誰が殺したのか……」
女性は羽をポケットにしまい込みもう一度注意深く辺りを見渡す。
だが、やはり人の気配はない。そのことに少し溜息を吐くがすぐに気を取り直して顔を引き締める。
「どこの誰かは知らないけどこの土地の管理者として放っておくことは出来ないわ」
女性、リアス・グレモリーは堕天使を始末した犯人を捜し出すことを決意して再び魔法陣の中に消えていくのだった。
大した見せ場もなくワンパンで退場するレイナーレさん(´・ω・`)