転生者「神を本気で殴り飛ばす」   作:トマトル

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五話:信じるもの

 ―――教会。

 

 それは神に祈りを捧げたり、結婚式や葬式を行う神聖な場所。神の家とも呼ばれる。

 青年にとっては神など信じるに値しないもの、というよりも憎むべき存在として認識しているので普段は足を運んだりなどしない。

 もっとも、イリナが居た時には仕方なしに足を運ぶことも多かったのだが。

 しかし、今回は何となしに彼女との思い出を思いだして町の教会に足を運んでみたのだが、青年は面白い相手と出会った。

 それは―――

 

「いんやー。ここに来る奴はどいつもこいつもろくでもない神様ラブの馬鹿ちんばっかりだったからさ、ちみみたいな子が来てくれて俺っちサイコーにハイってやつ?」

「信じる人間を馬鹿にするのはどうかと思うが……神がろくでもない奴だというのには賛成だな」

 

 白髪の神父だった。神父の名前はフリード・セルゼン。

 何でも上司の命令で最近この教会に赴任してきたらしいのだが明らかにまともな神父ではない。

 だが、青年はそこが気に入った。人としてどうかと思うような性格ではあるが神はろくもない奴だということで意見が一致したために話があった。

 イリナがこの光景を見れば卒倒しかねないが今はいないので気にしない。

 

「大体ね、神様ってのは物事に対してまじめにやらなさすぎ。世界作るのに最後の一日を休息とか舐めプしすぎでしょ? 普通は見直しとか手直しするでしょーが。年中無休で開いてるコンビニを見習えってっんだよ」

「全くだ。全知全能を語るわりには肝心な所でミスばかりするしな。大体なんだ? 知恵の実を食うなと言うなら柵でも何でもつければいい。というか、本当に全知全能なら何もかも防げるだろ」

「バカな神様信じたって腹減ってデスりそうな子どもの腹は満たされないんすよ、これが。信仰心が足りないー? ハッ、お子ちゃまより純粋に神を信じてる奴、俺は見たことないわ。神なんかより鉛玉一発の方が余程信じられますわ」

 

 もはや、言いたい放題である。

 普段はそこまで口数の多くない青年ですらフリードに乗せられるように話し続けていく。

 傍から見ればなんでお前達は教会に居るんだと盛大にツッコミを入れたい気分になるだろう。

 だが、二人の会話は止まらない。青年は普段は話すことのできない神への不満を話すことのできる喜びから。

 フリードは久方ぶりに会えた面白そうな相手への喜びから。

 二人の会話はどこまでも続いていく。

 

「と、もうこんな時間か。すまないが今日はもう帰らせてもらおう」

「ありゃ、随分と話し込んでたわ。俺っちにも仕事があるの忘れてた」

 

 いつの間にか日が暮れはじめていたので青年がそう切り出すと、フリードの方も締まりのないニヤケ顔を少しだけ引き締めて仕事だと言う。

 そのまま言葉が無くなり、静寂が教会を包み込む。

 

「最後に聞きたいことがある。神を信じないのならお前の信じる物はなんだ?」

 

「んー、大層なもんはないけど。敢えて言うなら―――力ってやつ!」

 

 刹那、降り下ろされる光の剣。

 フリードが目にも止まらぬ速さで降り下ろしてきたそれを青年は二本の指で白羽取りにする。

 あっけにとられるフリードを尻目に青年は静かに告げる。

 

 

「奇遇だな―――俺もだ」

 

 

 青年はほんの少し力を込めることで光の剣をへし折る。

 フリードはそれにより気を取り戻し今度は懐から拳銃を取り出して発砲する。

 青年は微動だにせず見つめていたが、やがて右手を前にだし弾丸をわしづかみにしていく。

 あまりの光景にフリードは武器を下ろしあんぐりと口を開ける。

 そして、青年は何事もなかったように手を下ろし、口を開く。

 

「例の堕天使の手下なのか、お前は」

「やっぱり、糞ビッチのレイナーレを殺したのはちみなのね」

 

 お互いが頷き合い正体を確認しあう。

 フリードは神器(セイクリッドギア)を持った青年がここに来た時から殺すつもりだった。

 だが、それは別に忠誠心からではない。ただ単に言われたからそうしようとしただけだ。

 青年もドライグから注意するように言われていたので相手がどんな人物かもわかっていた。

 しかし、逃げることはなかった。なんとなしにフリードが気に入っていたからだ。

 

「いつまでもこんな下らないことをしているつもりなんだ、お前は」

「おいおい、言っちゃってくれるじゃあないですかぁ。それならそっちは何をしてるのよ」

 

 フリードの問いかけに口に手を当てて少し考え込むように目を閉じた後、軽く笑うように告げる。

 

「神を殴り飛ばすための準備だな」

「……あひゃひゃひゃっ! それまたクレイジーな目標なことで……え? マジで」

「マジだ。この上なくな」

 

 青年の目標に目から涙を流しながら爆笑するフリードだったが青年が至極まじめな顔でいるのを見て聞き返す。

 それに対して青年は厳粛な顔のまま返す。

 やがて、青年は手で拳銃の形を作りフリードの顔に突きつける。

 

「お前は俺の夢を笑うか?」

「……いいや、クールじゃないですかぁ」

 

 青年の問いに今度はクツクツと笑いながらフリードは答える。

 だが、その笑い声には相手を馬鹿にする響きは含まれてはおらずに、ただ面白くて仕方がないといった笑い声だった。

 フリードは青年のことが気に入った。

 自分達を見下すことでしか自信を持てないような堕天使の下にいるよりこの青年の目標を追う方がよほど楽しいのではないのかと考える。

 

「それで結局のところまだ戦うか? 今なら見逃してやるぞ」

「んじゃ、見逃してくださいや」

「……随分あっさりとしてるな」

「いや、あんな奴らのために捨てる程安い命じゃないのよ」

 

 フリードは自分の身が第一の男である。

 青年もそれが分かったのでそれ以上はなにも言わずに拳を下げる。

 久しぶりに話が楽しめる相手だったので明らかにおかしくても出来れば殺したくはなかったのだ。

 青年は最後に一言だけ「また、来る」と言い残して教会の外へと出て行く。

 だが、それを阻む者が現れる。全体的に黒い服装をした男と金髪の子供の様な女、そして青い髪をしたスタイルの良い女。

 堕天使だ。恐らくはレイナーレの仇を取りに来たのだろうと青年は考える。

 

「貴様か……仇は取らせてもらうぞ!」

「レイナーレ様をよくも…っ!」

 

 口々にそんなことを言いながら襲い掛かって来る堕天使に降伏するように言おうとする青年だったが相手が話も聞かずに光の槍を投擲してきたので軽く溜息を一つ吐いていつものように右腕をダラリと振り上げ構える。

 

「……フリード、俺の信じる力は、求める力はな―――」

 

 緩慢な動作で拳を振るうと光の槍は跡形もなく砕け散り周囲は嵐が通っているかのように風が吹き荒れる。

 

―――1撃。

 

 拳の一振りで目の前にあるもの全てを粉砕する光景は青年にとっては見慣れたものだ。

 だが、目の前の堕天使達と後ろに居るフリードからしてみればそれはこの世の光景だとは思えない。

 拳で直接砕いているのなら分かるだろう。だが、彼は拳圧だけで砕いてみせたのだ。

 

「―――この先にある力だ」

 

 青年の信じる力は自身が振るう暴力的な力ではない。

 もっと先にある真に価値ある自身が未だに掴めぬ力だ。

 それが何であるかは青年自身分からない。

 だが、虚しさしか生み出さないこの与えられた力ではないはずだと信じている。

 青年は信じている。

 人に神など必要ない。永遠に信じられる物があればそれでいいのだと。

 

 青年はどこまでもつまらなさそうな目のまま呆気にとられる堕天使の一人、金髪の少女へと少し速く、彼女からすれば突然目の前に現れたように動く。

 そして、恐怖で目を閉じる少女へと拳を突き出し―――当たる寸前で止める。

 風圧で少女の髪が大きくたなびき一迅の風が吹き抜ける。だが、彼女達はまだ生きていた。

 

「降伏勧告をしていなかったからな。今、手を引くなら見逃してやるぞ」

 

 少女は青年の言葉にコクコクと凄まじい速さで頷いて仲間と元に退いていく。

 青年は基本的には相手に降伏勧告を行う。巨大な力を無理やり持たされた以上それを無暗に使わないように気をつけていた。

 相手が退けば殺さない。だが、退かなければ容赦なく始末する。

 それが基本的なスタイルだ。

 青年は一つ溜息を吐くと堕天使達など最初からいなかったかのように一瞥もくれずにどこかしら虚しさを感じさせる背中で歩き去って行った。

 

「……狂ってる」

 

 フリードはその後ろ姿に目を捕らわれていた。

 圧倒的な力、暴虐的な力、全てを超越した力。

 自身が信じる力の極地にいるような存在が青年だった。

 だが、彼はその先の力を求めていると、信じていると言った。

 それが何かは分からない。しかし、自身の信じていたものの上を行くことだけは確かだ。

 思わず、口の端がつり上がってしまう。

 

 自身が今までしてきた行いは―――何と小さかったのか、何と愚かだったのか。

 悪魔をどれだけ残虐に殺そうと、女をいくら犯してみても得られなかった情熱がフリードの心を今は占めていた。

 力を得てもなお、その先にある力を求めていく姿。

 手に入れたものより手に入らないものを信じる矛盾。

 明らかに自分が異常であることを理解していながらも普通の人間であろうとするおかしさ。

 それをフリードは狂っていると思った。

 だが、そんな青年の姿は―――

 

 

「最高に―――クールじゃねえかよ」

 

 

 フリード・セルゼンという人間は青年との出会いにより大きく変わっていくことになる。

 

 




アーシアは次回か次々回にはちゃんと出ます。
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