運命の檻 作:我輩は猫ではない
季節は冬
街ではほんのり明るい街灯が暗い町を照らし、雪がちらほらと降り始めている今日この頃。町の大通りから少し離れた暗い道を一人の少女が歩いていた。
彼女__高宮律(タカミヤリツ)はもうすぐ大学受験を控える受験生だった。試験まで残り一ヶ月を切った彼女は、家でも塾でも勉強に励む毎日だった。
今日も長い塾での勉強を終えて家へと帰っていた。勉強をしている時は気がつかなかったが、辺りはもう真っ暗だ。まぁ、塾の時計を見て10時34分を指していたのでこんなものかと高宮は思った。
「……」
高宮はスマホで音楽を選びながら無言で着けているマフラーを口元まで上げた。
その時、ちらっと目の端で白っぽい何かを捉えた。顔を上げると雪が降っていた。高宮は手を差し出す。雪が高宮の手の上にふわっと落ちてきた。それを見て高宮はふっと微笑んだ。綺麗なものは好きだ。何故ならそれを見るだけで人間の心は穏やかな気持ちになる。そうだ、今度は雪をテーマにした作品を作ろう。
高宮はスマホを空に掲げ一枚、写真を撮った。撮れた写真は雪と星空が交わりそれを月の光が暖かく降り注いでいるような写真だ。まさかこんなに綺麗に撮れるとは思っていなかった。大事に保存しよう。
スマホをしまい、耳にイヤホンを当て、高宮は空を眺めた。綺麗な空だ。こんな空をずっと見ていたい。
体がぶるっと震えた。…寒い。体が冷えてきた。高宮はもう速く家に帰ろうと歩いていた速度を段々早めた。顔を完全にマフラーに埋れさせ、帰ることだけを優先していた。
だから、気がつかなかった。見えなかった。目の前に黒いコートを来た女性が歩いていた事に。
高宮の耳にヒール独特のコツコツっという音が入ってきた。顔を少し上げて女性を一瞥した。女性は黒の上品な帽子とコートを羽織っており、ふわっふわのマフラーにサングラスとマスクを着用していた。完全なる防寒対策だなっと高宮は思いながら顔をマフラーに埋れさせた。
高宮は気にせずそのまま歩いて行こうと、足を速めながら歩いた。高宮と女性がすれ違った。
一瞬の出来事だった
女性とすれ違った瞬間、高宮の体はそのまま地面に倒れていった。何が起こったのか、理解できなかった。
お腹が痛い。火傷のような熱を帯びているように、熱い。嫌、もしかしたら火傷より痛い。動けない。痛い。痛い。痛い。
痛いところを手で触った。触れたところはぬるっとしており、手のひらを見ると手が真っ赤に染まっていた。それを見た途端、理解出来た。自分は刺されたのだと
ヒールの音がタッタッタッ…と遠ざかっていく。逃がしたくない。なんで私は刺されたの?なんで刺したの?そもそも、私は誰に刺されたの?
葛藤していく中、高宮はなんとしても女性を見ようと体を動かす。
「ぐっぅ…!」
体を動かそうとしたが刺された所があまりにも痛く、悲鳴をあげているため動けない。
動けない中私の頭の中で、あまりにも残酷は事を理解してしまった。助けを呼ばなかったら、私は死ぬ。
死を理解した途端、私の体が急に震え出した。しにたくなぃ…!いやだぁっ…!
スマホに手を伸ばして救急車を呼ぼうとした。しかし、スマホは鞄の中に入れておりとてもじゃないけど鞄の中からスマホを出す力が残っていなかった。ちからが、入らない。
今度は大声を出して誰かを呼ぼうとした
「だっ…!?っうぅ…!!」
声を出した瞬間、傷口にズキンッ!と痛みが走った。大声は傷口に痛むとはよく言うが、まさにその通りだった。
そうこうしている内に、どんどんと私の体は痛みと寒気、眠気に襲われていく。なにかっ…!なにかほうほうは…!!
いくら考えてもいい考えは浮かばない。
どうしよう、私、死ぬんだ。
救急車も、こない。助けも、こない。血も、多分流しすぎた。…どうやっても、さっきの三つ以外で私が助かる術はない。あ、私。死ぬんだ…
そう理解が出来たら、心がスッと軽くなった。あ…私、諦めたんだ。
もう、どうでもいい。その言葉だけが頭の中に響く。
あーあ。折角こんなに勉強したのに、受験できない。もっといろんな作品、作りたかった…
そういえば、合格したら、家族みんなで美味しいバイキング行くんだった。食べたかった…
もし、大学に行けたら。私、色んな絵を書いて、バイトして、頑張って人見知りを出さないようにして、友達が作れたら、色んな場所に遊びに行ったり、したかった…
あとあの女…私を刺した女…。死んだら絶対に殺しに行ってやろうか。幽霊だったら、殺しても犯罪にならない。旅は道ずれだ、この野郎。でも、女を殺して、地獄に落ちたらやだなぁ…。やっぱり、やめた。そもそも、天国があるかも知らない、まぁ、死んだら流されるがままに、なろう。
後悔ばかりが頭の中で募る。諦めてたのに、後悔って…。笑ける。……眠い。もう、疲れた…。もう、寝よう
さようなら、私の人生
高宮はそっと目を閉じた。辺りには、静かに降る雪と静寂だけが漂っていた。
.
.
誰もいない、とある屋上の上。一人の少女__クローム髑髏、またの名を凪という少女がフェンスの上に立っていた。
屋上はあまりにも高く、一歩でも間違って落ちてしまえば、死んでしまう高さだった。少女…凪は下を覗き込む。
目に光はなく、その藍色の瞳にはなにも写していない。
最初は、みんな普通だった。
骸様は、私に纏っていた鎖を引きちぎってくれた。手を差し出してくれた。光をくれた。
ボスやみんなは仲間という居場所をつくってくれた。こんな私みたいな人と友達になってくれた。
なりより、二つの光は、私を必要としてくれた。嬉しいって感情じゃ足りなくって、心の中がただただ暖かい気持ちで満たされた。これからも、こんな日常が当たり前だと思っていた。
なのに
「お前なんか、仲間じゃねぇよ!」
なんで、嵐の人は私に怒声を浴びせるの?私は、悪くない、のに。よく見ると、周りの人達の目も、冷たい
「俺たちと金輪際関わらないで」
なんで、ボスは私を蔑む様な目で私を見るの?あのボスの暖かい瞳が嘘みたいに冷たい。お願い、そんな目でっ…!そんな目で私を見ないでっ…!!なんで信用してくれないのっ!?怖いっ…!怖いよぉ!!誰かっ…!誰か助けてっ!!骸様!!
骸様は信じてくれますよね!!だって、あなたは、ボンゴレが嫌いで、私はあなたで、あなたは私、ですよね…?きっと骸様は信じてくれる。そう、信じてたのにっ…!
「出て行きなさい、君は愚かな少女ですね」
信じて、た、のに…。なんで、なんで信じてくれないの!?私は悪くない!!なにも悪くない!!
「君の存在が風紀を乱す」
煩いっ!!これ以上なにも言うなっ!!私は悪くない!!悪くない!悪くないっ!!悪いのは…
「ボンゴレから出て行け」
あの女だ…!!あの女が私の全てを奪ったっ…!!信頼、居場所、優しさ、仲間を…!!なんでみんなはその女を信じるの!?なんでボスはあの女をしんじるの!?なんで、骸様は……あの女を、信じるのぉっ…!?お願い!私を信じてっ!!信じてよ!!
「ふふっ、ざまぁないですね?」
昔は、その笑顔に何度も救われた。嬉しかった。嬉しかった。私に手を差し出して、"親友"だと言ってくれる彼女が…
でも、今のあの女の、歪んだ笑顔が、憎い。ボス達が、憎い。骸様が、憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。
「ねぇ。いつになったら消えるの?」
その言葉は、スッと私の中に入って来た。…あぁ、やっとわかった
「酷いよっ…!!私、クロームちゃんを信じてたのに…」
…私達は、所詮、本当の仲間じゃなかったんだね。クロームはぎゅっと閉じていた目を開けた。もう、どうでもいいよ。もう、楽になりないよ。例えそれが…
「死んじゃえ」
あの女が望んでいた事、でも。だってもう、どうでもいいよ。私にはもう、なにも残ってないもん。
「じゃあね、クローム髑髏」
クロームは自ら身を投げ出した。命綱もなにもない、本当の浮遊感が体を襲う。あぁ、私…死ぬんだ…。
クロームはそっと目を開けた。クロームの視界を覆っていたのは美しい青空だった。綺麗な空…まるで昔のボスや骸様のように、綺麗で、美しい青空。
手を伸ばしたが、手は空を切って届かない。私の心にぽっかりと穴が空いたような気持ちだった。なんでだろう…。楽になれるのに。やっと、楽になれるのに…
なんで私は泣いているの?後悔ばかりが心の中に募っていくの?なんでこんなに…心が、痛いの?
心のどこかで、でも認めたくなくって、でも、でも、でも、でも、でも…
あぁ…。私、後悔しているんだ。最期の最期まで、私は信じてたんだ。あの人達の事。なんて滑稽なんだろう。滑稽を通り越して、もう笑えてくる…
さようなら、私の昔の仲間
さようなら、大好きだった人達
さようなら、今の私の仲間
さようなら、愚かな人達
さようなら、滑稽な私
さようなら、私の人生