翠星のアイドル   作:神谷佑都

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10話

「そんな……馬鹿なことがあってたまるかー!」

 

 シュプールは展開する。先程と同じように蒼い雷を張り巡らせた。

 

「これで……そのネギでは届かない」

「……」

 

 ミクは攻め入るのを止めない。むしろ関係ないかのようにさらにスピードを上げた。それは玉砕じゃない。ミクの持つネギは帯電現象を起こしていた。

 

「ぐっ……」

 

 張り巡らせた蒼い雷も、次々とネギに纏い始める。シュプールの周りの雷はついにはなくなり、雷で攻撃力を高めたネギが目の前に迫った。

 

「……ぐっ、くそおぉぉぉぉ……!!?」

 

 

 

§

 

 

 

 あれから数日が経った。

 

「バチ君来たよ~!」

「あ、エレナさんどうも。あれ、ミクは?」

「ここにいます」

 

 ひょっこり顔だけ出して存在を主張するミクに俺は苦笑いするしかない。

 あれから俺は病院に担ぎこまれて即入院生活に入った。エレナさんは入院する必要はなかったらしい。理不尽だ。ミクはまぁボーカロイドだし言うまでもない。

 

「いやいや。よく生きてたもんね」

「エレナさん。それ此処に来るたびに言ってます」

「え、そうかな?」

 

 首を傾げるエレナさんだか、俺はしっかりコックリと頷いておいた。と、その時電話が鳴る。

 

「あ、ちょっとごめんね」

 

 エレナさんはそそくさと部屋を出ていってしまう。残されたのは俺とミク。正直、まだ気まずいまんまだったりする。

 

「……何か食べるか」

「いりません」

 

 はは……。やっぱ変わらないか。この調子だとうまくやっていけそうにはないかな。

 

「ミク。これからどうするんだ?」

「……分かりません。けど、ひとまずもう少し一緒にいようかと思います。……マスター」

「……!?」

 

 驚いた。まさかマスターって呼ばれるなんて。今はちゃんと認識してると思うんだけど。

 

「どうしたんだ急に」

「その……あんなに必死で助けてもらったし……私が意地を張るわけにも。……い、今だけですから。本当のマスターが見付かるまでの仮のマスターということで……ゴニョゴニョ」

 

 最後の方は顔は真っ赤だし、うつ向いてしまったからよく聞き取れなかったが、少しは認めてもらったらしい。

 

「それで十分だよ。にしても、ミクがあんなに強かったなんてな。英雄説は本当なのかも」

「英雄はちょっと、あんまり嬉しくない響きですね」

「そうか。ん~……じゃあアイドルだな」

「え?」

「英雄は皆からの人気者だぞ。アイドルだって人気者だ。それにミクは歌が巧いし。ミクの場合は英雄と書いてアイドルと読む。これに決まり」

 

 けっこう思い付きで言ってから、強引な感じがしたんだけど。ミク自身はどうだろうか。

 

「はい。私マスターだけのアイドルになりますね」

 

 お、おう。何か思ってた以上に笑顔で返ってきて驚いてしまう。逆にこっちが照れてしまいそうだ。ぽりぽりと頬を掻いていると、察したミクは再び顔を赤くさせた。

 

「……あ、えっと、その……ま、前のマスターって意味で、だから、その……モニョモニョ」

 

 さらにはうつ向いてしまったので、最後の方はよく聞き取れなかった。でも、それでも十分だと思う。

 ちょうどミクはうつ向いていたわけで、俺のすぐそばには小さくて可愛いらしい頭があった。綺麗な翠色の髪を傷めないように、優しく撫でてみることにした。

 

「……え、えへへ。マスタ~……」

「……っ!?」

 

 満面な笑顔だ。ちょっとヤバい。ミクが可愛すぎる。このまま抱きつきたいくらいだ。いやでも、せっかくここまで仲良く来れたのに、さすがに抱きつくわけにはいかない。

 あ~でも、あえて抱きつくことによってさらに仲良くなれたりするのかな。くそぅ、俺はいったいどうすれば……。

 

 永遠に迷ってしまいそうな葛藤に陥ると、さすがに怪しかったのか、ミクもマスター? と訊いてきた。

 

「あ、あぁ……。いやいや何でもないよ」

「……えへへ」

 

 また撫でてあげると喜んでくれていた。可愛いすぎる。

 

「ごめんね。ちょっと電話が長引いちゃって」

「……っ!?」

 

 と、そんな折いつも通り空気を読まないエレナさんが戻ってきた。ビクッと、ミクを撫でてた手をすぐに引っ込める。

 

「あれ? あれれ? もしかしてお邪魔しちゃったかな~?」

 

 何で今更空気読むんですか。

 

「な、何のことですか?」

 

 いやミクさん。瞬時で行うその変わり身はさすがだ。けど、顔がそれだけ真っ赤なままなのは未熟だぞ。

 

「ミクちゃん顔赤いよ~」

「うぅ……」

 

 ツンツンとエレナさんがミクのほっぺをつっついていた。ミクはそれを甘んじて受けている。いいな。俺もやったことないのに。

 

「なぁミク、俺もやっていいか?」

「え? な、何をですか?」

「おぉ柔らかいな」

 

 俺もエレナさんと同じようにつっついてみた。その時、一筋の影が生まれたことに気付く。ついやってしまったと思ったときには、ミクはもう振りかぶっていた。

 

「あ、ちょっ……待て待てミク。悪かったから。謝るから。それだけは駄目だ。ネギだけは……」

 

 病院中に聞こえるほどの威力だったことを後々知ったのだった。

 

 

 

 

 

「なぁミク、そろそろ許してくれよ」

「……マスターなんて嫌いです」

 

 頬を膨らませて顔を背ける仕草も可愛いんだが、言ったらまた怒られそうだな。




終わり
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