翠星のアイドル   作:神谷佑都

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4話

「まさか……ボーカ……ロイド……?」

「え?」

 

 俺と同じ様に見上げて驚いているエレナさんの口から、聞き慣れない言葉が発っせられた。

 

「ボーカ……何ですかそれ」

「私達人間と人造人間アンドロイドが戦争をしたのは知っているでしょ。両者のあまりに酷い被害のため、今は一時休戦ってことになってる。けど、本当は一人の英雄が戦争を止めたんじゃないかって私は仮説を立てた」

「一人……で……?」

「私の他にもその説の人は何人かいるわよ。もちろん数えるほどだけど。その一人でっていうのが、あまりにも非現実的だから馬鹿にされてる説なの」

「でもそのボー……何とかっての何の関係が?」

「ボーカロイド。だからそのボーカロイドがその英雄。そしてそれが今私達の上にいるのよ」

「なっ……!?」

「さすがにこうして見ると、やっぱりアンドロイドだったみたいだけどね」

 

 エレナさんの言ってることだし、んな馬鹿なと思いたい。しかしどちらにせよ、何故あのボーカロイドはこんな地下深くに眠らされているのだろうか。

 

「ってエレナさん! 何してんすか!」

「え? 何ってあのボーカロイドを起こそうかと」

 

 そんなことを言いながら、絡み付いている機械のコードのようなものを足場によじ登ろうとしている。

 

「駄目ですって! 明らかにこれ封印されてますよ。英雄かもしれませんけど、多分暴れんぼうだったから封印されたんですよ。起こしたら俺たちがやられます」

「違うもん。この子は昔、長かった戦争を止めた英雄よ。そんなはずないでしょ」

「じゃあ何で封印されてるのか説明してください」

「……う……んと」

「ほら分からない。あんまり首を突っ込むのは止めて帰りますよ。それでなくてももう危ない目に遭ってんだし」

「うぅ、分かったわよ。とりあえずこの場所が分かっただけでもよしとする」

 

 やっと諦めてくれた。地に降り立ったエレナさんの頭を撫でておく。

 

「えらいえらい」

「えへへ……って私もう子供じゃな~い!」

 

 っと。素直に撫でられてたのに、いきなり吠えるからびっくりした。とまぁ冗談はここまでにして早く帰ることにしよう。

 

 けれど、きびすを返すと同時に、入り口から複数の男たちが現れる。

 

「お前らか。俺の庭を荒らしてたってのは」

 

 降りてきた道を再び引き替えそうと思った。が、そこは既に何十人かの団体さんで塞がっていた。全員レーザー銃を持っていて、地下に降りる前に会った男と同じ格好をしていた。何なんだ今日は。厄日なのか。

 

「俺はマクロってもんだ。随分とお遊びが好きなようだな」

 

 一人、赤黒く肌が焼けていている丸禿げの男がズズイと前に出てきた。このマクロって男がどうやらこの団体さんのボスらしい。

 

「こんな地下室を見つけてきれたことには有り難いと思っている。だが、やはり俺は庭を荒らされるのが一番嫌いなんだ。礼はこれでいいか?」

 

 ぐっ……。何処が礼だ。全員が俺たちに銃口を向けている。何かの役に立つかと思ってレーザー銃を奪っておいたわけだが、一丁だけでは対抗しようがない。

 

「最後の遺書くらいは聞いてやるぞ。俺は寛大だからな。なぁお前ら」

「オオォオォ!」

 

 獣のように吠える一言で手下どもは肯定した。肯定すんな。何処が寛大なんだよ。

 

「バチ君ごめんね」

 

 と、俺の後ろでエレナさんが謝ってきた。何でこんなときに謝るんだ。ここで空気読まれたら、本当に終りみたいじゃないか。くそ、考えろ。考えろ。

 

「どうやら何もないようだな。それじゃあ……」

「待――」

 

 撃たれてしまう。そうなるわけにはいかず俺が制止を訴えたとき、奇妙なことが起きた。

 

「プログラム起動……」

 

 機械の声が部屋に響きわたる。

 

「マスターらしき人物を確認。適合します」

「ボス、上を見てくだせぇ」

 

 その場の全員が見上げていた。機械音声は英雄だというボーカロイドから聞こえてきたからだ。

 

「適合完了。マスター確認。アクセスします」

「なっ!」

「異常なし。シリアルナンバー001、初音ミク、起動します」

 

 綺麗な顔をしていたボーカロイドがその瞳を開いた。絡み付いた機械のコードは徐々に崩れていく。ボーカロイドはフワッと静かに台座に降り立つ。全く重力を感じさせなかった。

 

「動いた……動いたぞ」

「何だあいつは……」

 

 誰もが抑えきれない疑問をそれぞれ口にする。その中で、俺は何も言えずにいた。素直に驚いたのもある。だがそれ以上に見とれていたのだ。

 

 緑の長い髪を左右で縛っている。いわゆるツインテールだ。近くで見れば、綺麗に整った顔立ちがどれ程のものか分かる。緑をメインとした不思議な服を着込んでいる。ネクタイをしているのが珍しい。下は短いスカートを履き、ブーツを履いている。他に見ない格好だが彼女の成せる技なのか、着こなしてしまっていて似合っていた。

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