翠星のアイドル   作:神谷佑都

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5話

「ふわぁ……」

 

 目覚めたボーカロイドが第一に何をするのか気になったところ、それは欠伸だった。ズっこけそうになる。

 

「むにゃむにゃ……」

 

 英雄らしいボーカロイドは酷く眠そうだった。

 

「凄い凄い。バチ君。ボーカロイド起きたよ」

「あ、あぁ、そうすね」

 

 と、エレナさんは凄く目をキラキラさせて輝いていた。あ、ボーカロイドがこっちを見た。

 

「ま、マスター……?」

「え……?」

 

 どう見ても俺を見てる。ような気がする。試しに右に移動すると、視線が同じ様についてくる。左に移動しても、同じ様についてくる。

 

「……!?」

 

 目覚めたボーカロイドは突然消えたかと思うと、俺に抱きついてきた。

 

「マスター私です。ミクです」

「ん? えっと、おはよう?」

「あ~何ですかそれ。私、ず~っと待ってたんですから」

 

 少し頬を膨らませるものの、本当に嬉しそうに俺の体に頬擦りなんてしてる。何これ。めちゃくちゃ可愛い。

 

「エレナさん、どうなってんですか」

「さぁ?」

 

 さぁじゃねぇ!

 笑って肩を上げてジェスチャーしても許されると夢々思うなよ!

 

「ボス、何ですかあれは?」

「俺が知るか。よく分からん。だが察するにアンドロイドのようだ。そしてなんてプリチーなんだ」

「ぼ、ボス……!?」

「お前ら、俺の庭にあるものは誰のものか言ってみろ」

「そ、それはボスのものです!!」

「その通り。つまりあの麗しきアンドロイドも俺のもんだ。行けお前ら」

「オオォォオ!?」

 

 ボーカロイドは離そうとしてくれそうにない。とはいえ、こんなに嬉しそうにしているのに、無理矢理引き剥がすのは気が引ける。俺も離れたくない。そんな悩みに悩んでところ、マクロと名乗った奴とその連中が攻めて来た。

 

「ちょ……」

「バチ君どうかにして」

 

 どうにかと言われてもどうしようもない。第一ボーカロイドに抱きつかれてるし。

 

「ぐはっ!?」

 

 そんな折、我先にと向かってきた部下の一人が飛んだ。文字通り宙に浮いていたのだ。そいつは一番向こうの壁に叩きつけられて、倒れたまま動かなかった。

 

「え?」

 

 全員が動揺した。人一人が、何十メートルもの距離を飛んだのだ。それに加え、飛ばしたのは外見可愛らしい女の子であるボーカロイドだった。

 

「マスターを傷付けることは許さないから」

 

 目が据わってらっしゃる。可愛らしい外見の少女はその実かなり強い。さすがアンドロイド。いや、ボーカロイド。

 

「まだ来るというなら、みっくみくにしてあげるけど?」

「ぐっ……怯むな。行けお前ら」

「オォオォ!?」

 

 その多勢に無勢の様子だが、目の前の光景はその結果を覆した。男たちはレーザー銃やセイバーを武器に戦うのに対し、ボーカロイドは素手だった。

 

「くそっ!」

 

 セイバーをいくら振っても斬られることはなく、レーザー銃をいくら撃っても当たることはない。その研き抜かれたスピードが、敵を一人、また一人と倒してゆく。 その動きにまた見とれてしまう。舞うように避わし、華麗な足技を操り、パンチの威力は凄まじいほどに敵を沈める。いったい何処を批判出来るだろうか。あっという間に、その小さな戦場という名のステージに立つのは、ボーカロイド一人だけだった。

 

「ぐ……ぬっ」

「どうするの?」

 

 追い詰められたマクロは顔を歪めている。自分の選択すべき解答に悩んでいるようだ。

 

「……み」

 

 そして答えを弾き出す。

 

「……みっくみくにしてくださ~い……げぶぅっ!」

 

 最悪の解答だった。ボーカロイドは飛び付いてきたマクロの顔を踏ん付けて撃退した。

 

「あの、エレナさん?」

「何?」

「これはどういうコトですか?」

 

 俺とエレナさんは意外にも、何もされず無事だったバイクで帰ることにした。

 あのあと、急に倒れてしまったボーカロイドも一緒にだ。本来エレナさんが乗る側車にボーカロイドを寝かせて、俺の後ろにエレナさんが乗るという構図だ。

 

「だってね~、その娘がバチ君と一緒がいいみたいだし? 気を失ったともマスターって呟いてたしね」

「それ俺じゃないですよ。つかエレナさんも分かってるでしょ? 絶対この娘、誰かと勘違いしてる気が……」

「その時はその時よ」

 

 はぁ……。嫌な予感しかしない。そしてその予感は、思ったより早すぎるくらいに的中することになるのだった。

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