翠星のアイドル   作:神谷佑都

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7話

 マスターに届くかな。そんな風に思ったミクは、切株に座り、あの頃に戻ったように歌を唄う。

 

「綺麗な歌声だ。ぜひ皆にも聞かせてやるといい」

 

 またそう褒めてもらえるような気がして、ミクは一生懸命に歌い上げる。自分は此処にいると。マスターに気付いてほしいと願って。

 

「ふぅ」

 

 マスターと一緒に作った大好きな歌を唄い終える。マスターに届いただろうか。それは分からない。きっと届いたと。そう信じるしかなかった。

 

「歌、巧いんだな」

「……!?」

 

 心臓が飛び出るかと思った。いきなり背後から声をかけられた。しかもどうやら聞かれてしまったらしい。おそるおそる振り向くと、マスターの偽物がいた。不覚だ。一生の不覚だ。歌を聞かれた。恥ずかしい。顔が真っ赤なのが分かる。間違って抱きついちゃったと分かった時も恥ずかしかった。

 

「歌が巧いってのも憶えてるんじゃないか」

「……っ」

 

 何を考えたのか。偽物は隣に座ってきた。真っ赤になった顔を見られまいとミクは顔を背ける。

 

「あ~悪かった。その、騙す気はホントになかったんだ。だからまぁマスターとは違うけどさ。その、少しは仲良くしてくれないか」

「……!?」

 

 と、頭に優しく手が置かれるのをミクは感じた。

 

 

「ミクはミクだよ。誰でもないんだから」

 

 

 マスターと同じ。優しく撫でられる。不思議と心地ゆく感じた。

 

「や、止めてください」

 

 不覚にも少しの間、されるがままになっていた。こいつはマスターじゃないんだから。立ち上がって撫でられる手を振りほどいた。

 

「私に関わらないでください」

「ちょっと待てって」

 

 ガシッと腕を捕まれる。

 

「離してください」

「……ってぇ!」

 

 これでもかってくらい、拳を振るう。勢い余って偽マスターはけっこう飛んだ。その隙にミクはこの場を去った。

 

 

 

「……いったぁ!」

 

 顔がめり込んだかと思った。いや実際喰らった瞬間はめり込んだと思う。鼻血が出なかっただけよしとしよう。もう少し手加減してくれてもいいだろうに。随分嫌われたもんだ。せっかくこっちから謝ってるのに。

 やっぱり頭を撫でてみたのが悪かったのか。エレナさんならすぐに喜んで怒りが収まるだが。……もしかして女の子共通じゃなかったのかもしれない。

 そんなことを考えながら走って追い掛けるわけだが、ミクが速すぎる。もう見えなくなってしまった。

 

「ハァ、ハァ……ったく、さすがボーカロイドっとこか……」

 

 仕方なくラボに戻って待った。先に帰ってきたのはエレナさんだ。

 

「ってぇ!」

 

 ミクの所在を訊かれたので答えたところ、口を開く前に手が飛んできた。

 

「何処に行ったか分からない? 何で追い掛けなかったの」

「追い付けなかったんですよ。エレナさんがバイク乗っていくから」

「あ……」

 

 今気付いたな。今更てへってなんて笑っても遅い。こっちは殴られ損じゃないか。

 

「じゃあ探してきますから」

「待って私も行くから」

 

 行くからというから待ってたんだが、エレナさんはかなり準備に手間取っていた。探しに行くんだから早くしてもらいたいもんだ。 

 バイクに乗って走り出すと、エレナさんは訝しげに話す。

 

「バチ君。時間かかったから私のことお荷物だと思ってるでしょ」

「いやいや思ってませんから」

 

 さすがのエレナさんでも気付いてしまうらしい。

 

「ヒュ~、ヒュ~」

「バチ君バチ君、全然吹けてないから」

 

 口笛で誤魔化したかったんだが、まだまだ練習不足だったか。

 

「それよりね。ほらこれミクちゃん探知機~」

「……」

 

 横目で見てみるがあまり期待しない方が気がする。

 

「爆発で壊れてしまった探知機より少し劣るけどね。多分これでミクちゃんの居場所が分かるはずよ」

 

 本当ならそれは助かる。俺はさっそく指示を仰いだ。

 

「左斜め方向行って」

「了解です」

 

 アクセルを入れてスピードを上げた。

 ん? いやちょっと待てよ。

 

「エレナさん、こっち崖なんすけど」

「え? あれ~~? お、おかしいな。ちょっと待ってね」

「分かるまで適当に走っときますよ」

「あ、お願い。ちょっと待っててね」

 

 五分くらい経った後だろうか。やっとエレナさんが次の指示を出した。

 

「バチ君、回れ右」

「えぇ? 逆なんですか?」

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