気付けばミクは何処か分からない場所に来ていた。マスターといた憶えのある自然はなくなり、瓦礫の山と砂地が広がる。一目散に逃げてきたため、何処をどう、どれくらい走って来たかも分からない。
でも今更戻りづらいし仕方がないかと思う。
「はははははは……」
「……!?」
突如起こる笑い声にミクは驚いた。いったい何だろうと見回してみる。それはすぐに分かった。蒼い雷が走っていたためだ。
「ぐっ、く……」
シュウウゥゥと焼け焦げになった影がいくつかと、立ち据える影がいくつもあった。
「人間が粋がるなよ。なぁ?」
「……っ……」
人間とアンドロイドだ。焼け焦げにされた方がが人間で、殺されそうになっていた。
「もう一回言えるか?アンドロイド風情が何だって?」
「……っ……ぁ」
「今は休戦状態か知らねぇけどな。俺たちが虐げられたことは変わらねぇ。いつでも仕掛けてやるぞ。はははははは……」
軍隊のように数いる者は全てアンドロイドだった。盗賊まがいのことをやっている連中だ。ちょうど乗り物が破壊されてあるところを見ると、通りすがったところを狙われたのだろう。
「あ、シュプール様誰かいますよ」
「……っ」
瓦礫の影に隠れてうかがっていたミクが見付かった。トップらしきアンドロイド、シュプールは、蒼い雷を掌から撃って瓦礫を消し飛ばす。
「……んん? 何だアンドロイドか。別にコソコソする必要はないぞ。人間だったなら別だったがな」
「……」
シュプールは同じアンドロイドは敵とみなす気はない。それは部下の者にもその方針を義務付けている。つまり、ミクが襲われることはなかった。ミクが、人間たちの前に立たなかった限りは。
「んん? それはいったい何の真似だ?」
シュプールは不思議でならない。何故自分と同じアンドロイドがあそこに立っているのか。何故人間の前に立っているのか。まるで、自分たちに立ちはだかり、あろうことか人間を守るような位置に。
同時にミクにも不思議だった。何故私は此処に立ったのだろうか。気付けば体が動いていたのだ。
「それは俺たちに盾つくってことでいいのか?」
自分でもよく分からないミクは答えることが出来ない。
「おい貴様、質問に答えろ」
「くくく、まぁ待て待て。ちゃんと選択の余地は与える。それが俺たちのやり方だろうが」
宥めるようにシュプールが諭すと、部下はそれ以上何も言わない。
「さて、お前は俺たちの敵なのかどうか。答えろ。分かりやすくイエスかノーだ。無回答はイエスととる。さぁ、答えは?」
「……」
「だんまりか。悲しいねぇ。共食いは、あまり好きじゃないんだがな」
§
本当にこっちで合っているのか、俺は半信半疑になりつつあった。
「今度こそちゃんと合ってるんすか」
「え~と、ちょっと待ってね。何だか反応がいっぱいあって」
「はぁ?」
反応がいっぱいって。ミクがいっぱいなのか。ミクが増殖でもしたのだろうか。とりあえずこれしか当てがないのでスピードを上げていく。
「うおっ!」
突然、目の前の遥か向こうで爆発が起きたのでびっくりした。いったい何事なのか。もしかしたら急いだほうがいいのかもしれない。
「あ、バチ君。いたよミクちゃん」
電子ゴーグルをつけている俺には、エレナさんよりも早くミクを発見した。どうしてこんな展開になっているのか分からないが、早く着いたほうがいいのは確実だ。
俺たちが到着出来た頃、立っているのはミクと、蒼いたてがみをした長身のアンドロイドだ。
「……シュプール……様……」
「ハァ……ハァ……」
パンパンと手を叩き、アンドロイドはミクを賞賛した。
「いやいやお見事。うちの連中も中々な屈強揃いのはずなんだが、それを全部倒すとは」
シュプールが右手で頭を抱えるように抑える。バチッと何かが弾けた。蒼い雷だ。
「だがな、少し調子に乗りすぎだ」
「……!?」
一気に距離の差を縮めるシュプール。消えたようにも見えるスピードはバイクの速さを遥かに越える。それに対応するミクも、やはりアンドロイドだと思わせる。
「……凄い」
エレナさんがぽつりと漏らす。俺もそう思った。目で追うのがやっとだ。一連の動きを詳細に掴むのは難しかった。
「それで避けてるつもりかぁ!」
「っ……」
前と思えば右。左と思えば上。後ろと思えば左。両者は互いにフルスピードで駆け抜け、飛び上がり、立体的に動き回る。
「ふっ」
「ちっ……」
頭上をとったミクが両手でハンマーのように、シュプールの頭を打ち抜く。そのまま地上に叩きつけられる刹那、シュプールは受け身をとって瞬時返しに入る。
「ぐっ」
肘打ちを受けて怯んだ隙をついて、シュプールはオウム返しのように頭上をとって打ち抜いた。
「なっ」
「きゃ」
ミクが落下した衝撃が、俺たちにその攻防の凄まじさを教えた。