聖杯戦争が終われば学校は平和そのものだ。
藤ねえは相変わらず騒がしいし、一成も相変わらず遠坂を悪女だと確信している。というのも、一成が遠坂は今日もサボリかと立場上気にしていて、遠坂が話題に浮上したからだ。確かに聖杯戦争が終わったというのに、遠坂は今日はどうしたのか。昼一緒に過ごした桜も知らないみたいだった。
「士郎!」
「え!?」
自分の名前が呼ばれて気付く。セイバーだ。竹刀を握りしめて構えていた。その真剣な表情と、自分の立ち位置で大体言いたいことは分かる。
「まだ私から一本も取っていないというのに、士郎はまだ余裕があるようですね」
てな具合に言うだろう。
お、当たった。
「あともう少し気付かないようであれば、問答無用で叩くつもりでした」
「無防備な人間には危険だぞ。下手すりゃ死ぬかもしれない」
「士郎なら大丈夫かと」
「いやいや。さすがにそれは無理だ。ん、今七時前か。そろそろ最後にしようかセイバー」
「そうですね。ちょうどお腹が空いてきた頃です。そろそろ……」
「セイバー?」
急に言葉を切ったセイバーは様子がおかしい。さっきまでとは違う。言うなれば、俺の稽古相手じゃなく、騎士王の姿に近い。
「すみません、士郎。何か妙な魔力を感じたもので」
「魔力? ひょっとして遠坂が宝石をつくってるんじゃないか」
「かもしれません。ただあまりにも強力なもので、しかも複数感じとれました。大半は一瞬だけですぐに消えましたが」
「確かに気になるな。明日にでも調べてみるか」
「そうですね。まだ何も分からない以上夜を出歩くのは得策ではありません。それでは、最後の一勝負といきましょうか」
「よし、行くぞ」
竹刀をしっかりと握り直し床を蹴る。先手必勝だ。たいていはセイバーに攻め込まれてやられてしまうのだから、こちらから一気に攻め込めば少しはいい勝負になるはずだ。
「士郎。これはおいしいです。また腕を上げたんじゃないですか」
「ああ……」
いやまぁそんなうまくいくわけもなく、結局は大差はなくて瞬殺された。早くご飯にありつきたかったのか、特に最後は容赦がなかったな、セイバー。
藤ねえは仕事が残ってるとかで、今はいない。朝食のときもいなかったし、次あたりには多めに献立を用意しないといけない。桜も今日は行けないと言っていたか。特に理由は聞かなかったが、何かしらやることがあった感じだった。
あれ?
つまり今はセイバーと二人きりか。
何か気付いてみれば緊張するな。
「士郎。おかわりをお願いします」
「お、おう……」
と、セイバーは三回目、いや四回目のおかわりを注文した。家計はけっこう厳しいんだぞセイバー。
「ほらセイバー」
「ありがとうございます。あと二杯はいけますね」
「……はは」
俺は乾いた笑いしか出せない。その時誰かが来たようで、呼び鈴が鳴った。
「桜か?」
腰を上げて玄関に向かっている間に、訪問客は早く出ろと呼び鈴を鳴らし続けた。俺の知る中ではこんなことをするのは一人しかいない。
「うわっ、はいはい」
これは早く出ないと期限が悪くなるなと、小走りで向かう。
「士郎! 離れてください」
「え?」
だが俺より先に鎧に換装したセイバーが先に出た。と同時にセイバーが不可視の剣を振り下ろした。
「ちょっ」
キンッと鉄がぶつかり合う音が響く。
「随分な挨拶だなセイバー」
セイバーのとった行動にも驚かされたが、それ以上に俺は、訪問客に驚く。
「なっ……!?」
それはやはりセイバーも同じだ。セイバーの剣を防いだのは、黒と白の対をなす双剣。名を干将・莫耶。そいつが最も得意とした代物だ。赤い外套。白い髪。紛れもない姿でそいつは君臨していた。
「アーチャー……」
何故……。やっとそれだけが頭を巡る。
「貴様も相変わらずのようだな。衛宮士郎」
「何故貴方がここに」
「それより先に剣を引っ込めてくれないかしら、セイバー。話があるのよ」
アーチャーの影から現れたのは俺が予測していたはずの人物だが、驚く結果になってしまった。
「遠坂」
「衛宮君も、いいわよね。あなた達にも関わる大事な話よ」
そう言って遠坂は手の甲を見せた。何で、それが刻まれているんだ。聖杯戦争は終わったはずだというのに。それは、紛れもない令呪に他ならなかった。